副キャプテン 辰馬 作:匿名希望のぽっちゃり
翌朝。
まだ陽が高く昇りきらない時間、ハンブルグ郊外のクラブ練習施設に日本Jrユースの一行が姿を見せた。
バスの窓から見える景色は、緑の芝がどこまでも続く広大な敷地――十数面ものピッチが整然と並び、その一つひとつでユースやトップチームの選手たちがトレーニングを行っていた。
そのうちの一面が、今日の練習試合の会場だ。
観客席もスタンドもない。ただ、鉄柵で囲まれたフィールドの外に、数十人ほどの見学者と報道陣、そして日本から来たTVクルーが機材を設置していた。
マイクの音、カメラのレンズの調整音、スタッフの短い英語のやり取り――普段の練習場にはないざわめきが、少しずつ空気を緊張させていた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
カメラを抱えた日本のディレクターが見上監督に挨拶する。
「ええ、よろしく。遠路はるばるご苦労さんです」
監督は穏やかに答えるが、その目は既に試合モードに切り替わっている。
準備運動を終えた選手たちが、整列してグラウンドにやってくる。
「おはようございます!」
全員の声が練習場に響くと、ディレクターが少し驚いたように笑った。
見上監督が前に出て、選手たちに告げる。
「ちょうど良い。本日から日本のテレビクルーが、我々のヨーロッパ遠征に密着してドキュメンタリーを作ることになった。今日の試合も撮影して、日本に映像を送るそうだ」
「えっ!? 取材ですか!?」
思わずどよめく選手たち。中には目を輝かせる者もいれば、緊張して表情がこわばる者もいた。
「そうだよ!」
カメラマンの背後からディレクターが声を張る。
「今日の試合も全部カメラで撮る。日本のファンに君たちの勇姿を届けるんだから、思いっきりやってくれ!」
「は、はいっ!」
慣れない注目に浮き立つ若者たち。
その様子を見ながら、友坂辰馬は心の中で小さく息をついた。
(……負けると分かってる試合で、TV取材かよ。酷な話だぜ、監督)
彼だけが、見上の本当の狙い――“世界との壁”を彼らに体感させること――を察していた。
それでも仲間にはそんな素振りを見せない。ただ静かに、スパイクの紐を結び直した。
試合前の整列。
友坂の視線の先には、対戦相手・ハンブルグの選手たちが並んでいる。
青と白のユニフォーム。その中央には、トレードマークの帽子を被った若林源三の姿。
彼の姿を見た瞬間、日本の選手たちの間に再びざわめきが走る。
「……若林……!」
誰かがつぶやく。
若林は以前よりもはるかに大きく、逞しくなっていた。
ゴール前での存在感が圧倒的で、まるで要塞のようだ。
しかし、日本代表の視線が集まるのはもう一人――
ハンブルグの最前線に立つ金髪の青年。
カール・ハインツ・シュナイダー。
“西ドイツの若き皇帝”と呼ばれ、ヨーロッパ各国のユースチームから恐れられるストライカー。
その立ち姿だけで、周囲の空気を変える圧を持っている。
日向はじっと睨みつけるようにシュナイダーを見た。
「アイツが……ドイツのエースか」
隣で友坂が静かに言う。
「気を抜くなよ。あれは日向、お前と同じ“勝負の匂い”を持ってる」
「へっ、望むところだ」
風が少し強くなり、ピッチを渡って旗が揺れた。
小さな練習場の一角とは思えぬほどの熱気が、選手たちの間に高まっていく。
カメラがその瞬間を捉え、マイクが息遣いを拾う。
そして、ホイッスルの音が鳴る――。
日本ボールで試合開始。
日向小次郎(背番号9)はボールを受け取ると、友坂辰馬(背番号7)と並走しながら前線へ駆け出した。
日向「いくぜ!辰!」
友坂「おう、小次郎!」
直線的なドリブルでハンブルグのディフェンダーを軽く弾き飛ばす日向。背番号9とはいえ、日本Jrユースの攻撃の核として頼もしい存在感だ。友坂も日向の隣でピッチを支配するように走り、互いの呼吸を合わせながらワンツーの連携を試みる。
友坂(演技っぽいな…こいつら、手を抜いてやがる…)
視線を向けると、シュナイダーはグラウンドの端で周囲を気にすることなく動き、集中していない様子だ。西ドイツの若き皇帝と呼ばれるエースストライカーだというが、日向も警戒しつつワンツーで突破するも、シュナイダーは全く反応しない。
友坂(しかも…シュナイダー、演技すらしないのか…)
ペナルティエリア外で、日向はゴールが見える位置から迷わずタイガーショットを放つ。ボールは強烈なスピードでゴールポストに当たり、弾けるように跳ね返った。
観客たちが息を飲む。
「すごい威力だ!」
「シュナイダーのファイヤーショットに匹敵するぞ!」
しかし、若林源三は微動だにせず、まるでこれが日常かのように構えている。
友坂(ゴールポストに当たると読んでいたのか…今の若林は若島津より上の実力。そして、その若林からゴールを奪えるシュナイダーは日向より上か…)
日向は悔しそうに歯を食いしばり、次のチャンスを狙う。友坂は隣でその表情を見て、不審そうに眉をひそめる。
友坂(簡単には点は取れない相手だな、小次郎…)
自陣に戻る日向はシュナイダーに小声で一喝する。
日向「俺たちを舐めるな!」
ゴールキックから試合が再開されると、ハンブルグの選手がパスを回す。しかし、新田瞬が俊敏にパスカットし、日本Jrユースのボールとなる。
⸻
試合開始早々、日向小次郎のタイガーショットがゴールポストに当たり弾かれた瞬間、日本代表メンバーの間に張り詰めていた緊張が、まるで小さな雷鳴のように一気に解けていった。遠征で緊張し、海外のピッチに少し圧倒されていた彼らの表情に笑みが戻る。
右サイドへ駆け上がった松山光が巧みにパスを受け、瞬間的な判断で新田瞬にパス。新田はノートラップランニング隼ボレーをペナルティエリア外から放つ。しかし、若林源三は微動だにせず、難なくキャッチ。
友坂辰馬(…ふぅ、やはりそう簡単にはいかないか)不満げに眉をひそめる。
再びボールはハンブルグに渡り、中盤でのパスワークが続く。ハンブルグのパスをカットしたのは、鋭いカミソリファイター早田。彼のロングレンジ・カミソリシュートは鋭く右隅を狙って放たれるが、若林は予測してジャンピングキャッチ。
友坂(…くそ、こいつらいつまで遊んでやがる)さらに不満そうに拳を握る。
続いて松山がパスカットから放った地を這うロングシュート・イーグルショットも、低い軌道を若林が横っ飛びでキャッチ。試合開始から数分で、若林は連続してシュートを防ぎ、場の空気は完全に支配された。
早田「やはりペナルティエリア外からのゴールは無理なのか……」
松山「くそ、さすが若林…」
友坂「こいつら~!」怒りが爆発寸前だ。
見上監督(見事なゴールディフェンスだな…源三)と感心する一方で、「だが今日のハンブルグは動きが鈍いな…」と苦い表情。観客からも不満の声が上がる。
「なにやってるんだ、ハンブルグは!」
「やる気がないのか!」
その声がDF陣の気を緩ませたのか、お気楽な石崎をはじめとした日本代表DF陣は思わず笑いを漏らす。
石崎「若林以外は大したことないじゃないか」
次藤「DFがヒマたい」
立花兄弟「俺たちが先制点だ!」
立花兄弟が得意のスカイラブハリケーンを狙おうとしたその瞬間、怒気に満ちた声がピッチを震わせた。
友坂「よこせ!」
松山は動揺しながらも、反射的にセンターサークルにいる友坂へパスを出す。
松山「あ、ああ…」
立花兄弟「友坂…!」初めて見る友坂の本気の怒気に、思わず立ち止まる。
日向「辰?」
ボールを受け取った友坂は、一人で前線へドリブル突破を試みる。マルセイユルーレット、ファルカンフェイント、クライフターン。次々と華麗なテクニックを繰り出し、ハンブルグの選手たちを翻弄する。
ハンブルグの選手(上手い…だがそれ以上に速い!)
カルツ(こいつはドイツでもやっていけるかもしれん…)
シュナイダー(ほう…大空翼はいなくても面白い奴がいるな)
日本代表メンバー「さすが軍師・友坂辰馬だ!」「いけー!このままSGGK伝説を破るんだ!」
友坂辰馬(お祭り気分の奴らが多くて困る…)怒りを抑えきれない。
そのまま友坂はペナルティエリア内に侵入。
「友坂、ペナルティエリア内に入ったぞ!」
「飛龍は撃たないのか!?」
若林と対峙した友坂は、かつて日本で未だ破られたことのないダブルヒールでのヒールショットを放つ。
日本代表メンバー「出た!ダブルヒール!」歓喜に沸く。
若林「なにぃ!させん!」
通常のヒールショットと同時に、タイミングが少し遅れてきたボールは若林の後方に落ちる。しかし、若林は素早く手を伸ばし、ボールを弾き出そうとする。
友坂「お前なら届くだろうとは思ったよ」
上にに弾かれたボールに友坂はすかさずダイビングヘッドで押し込み、日本代表の初ゴール!1-0!
歓喜に沸く日本代表メンバー。しかし、友坂は冷静を装いながらも、ピッチ上の空気を引き締める。
友坂「若林、お前の考えも分かるが…俺も日本を背負ってるんだ。すまんが、ボールをくれ」
ハッとなった若林は少し考えた後、静かにボールを転がす。
日向や松山たちが笑顔で友坂に近づく。
松山「やったな、友坂!」
日向「どうせならペナルティエリア外から飛龍で決めればよかったのに」と笑いながら冗談を言う。
ブチッと友坂の怒りが限界を超え、腹に向かってボールを蹴りつける。
日向「うぅ…」一度うずくまるが、すぐに起き上がり怒る。
日向「何すんだ、辰!」
松山「おい、どうしたんだよ!?」
友坂「お前ら、いつまで観光気分でいるんだ!ペナルティエリア外から若林からゴールを奪うのが難しいことくらい、最初の1発で分かるだろうが!」
日向「うっ」松山「んー」
友坂「俺たちは胸に日の丸を掲げてるんだぞ!無様なプレーをして、同世代の日本人を侮辱させるつもりか!」
日本代表メンバーは顔を下げ、深く反省する。
友坂「言っとくが、あいつら手を抜いてるからな」
日本代表「えっ!?」
友坂「当たり前だろ!簡単にシュートできると思うな!相手はドイツだけじゃない、ヨーロッパのタイトルを数多く獲ったハンブルグJrユースだ!世界はそんなに甘くない!」
日向「辰…」
友坂「小次郎、バスの中で言っただろ。お前は日本代表のキャプテンだ。チームを第一に考えろと」
松山「友坂…」
友坂「松山、お前も副キャプテンとして、チームを引き締める責任があるはずだ」
日向・松山「……」
見上監督はベンチからピリリとした目で友坂を見つめる。
友坂は若林に向き直る。
友坂「若林!挨拶は終わった!本場のフットボールを俺たちに教えてくれ!」
若林「フッ、分かったぞ!友坂!俺たちハンブルグが徹底的に日本代表を潰す!」
ハンブルグの選手たちも目に戦意を宿し、戦う準備を整える。
友坂「生憎だが、日本人はしぶといんだよ!」日本代表メンバーに向けて声を張る。「相手は潰しに来るぞ!覚悟はいいな!?」
日本代表「おう!」
シュナイダー「顔つきが変わったな…若林、潰してもいいんだな」
若林「ああ、彼らも望んでいるんだ…」帽子を正しつつ答える。
シュナイダー「よしハンブルグ!日本代表にフットボールを教えてやれ!」
ハンブルグメンバー「おう!」
センターサークルに歩き出したシュナイダーは、立ち止まり若林に問いかける。
シュナイダー「若林、さっきの男の名前は?」
若林「友坂辰馬…日本で軍師と呼ばれる男で、日本No.3といったところさ」
シュナイダー「友坂辰馬、軍師か…日本No.3と言うが、あのストライカーよりはマシだな」親指で日向を指差す。
若林「見せてやれ…ヨーロッパNo.1ストライカーの実力をな」
シュナイダーは薄く笑い、再びセンターサークルへ向かう。
若林(ここからが正念場だぞ、友坂…)
⸻
ハンブルグボールで試合再開。日本Jrユースは再び緊張感を身にまとい、グラウンドに散らばる。だが、ボールがシュナイダーの足に触れた瞬間、これまでの空気が一変する。
「……速い!」
日向はシュナイダーのボールを奪おうと飛び出したが、ほんの一瞬で、まるで風に吹き飛ばされたかのように空中に舞った。観客も、味方の仲間も、誰一人としてその状況を完全には理解できなかった。ただ、日向の体がふわりと舞い上がるのを見て、異様な光景だと理解するしかなかった。
シュナイダーはそのまま一直線に駆け抜ける。ドリブルの軌跡はまるで稲妻のように速く、日本代表のDFたちは目を丸くするしかなかった。その速さは、あの大空翼を連想させるほどの圧倒的なものだった。
日本の巨漢DF、次藤と高杉は必死にシュートコースを塞ごうと立ちはだかる。しかしシュナイダーはスピードを緩めることなく、僅かな隙間を見つけて正確なバックパス。左サイドへ流れたボールを受けた仕事師・カルツは、一瞬シュートを打つかと思わせたが、冷静にシュナイダーに折り返す。
そしてシュナイダーは、空中姿勢を崩すことなく、ボールを叩きつけるようにハイジャンピングボレーを放つ。その威力は圧倒的で、ゴールキーパー・若島津は一歩たりとも動くことができず、ゴールネットはボールの衝撃で一本破れてしまった。
「うわっ……!」
観客席からは歓喜の声が上がり、まるで待ちわびていたかのように西ドイツ人サポーターが声を張り上げる。
「やった!」「さすがシュナイダーだ!」
日本Jrユースのメンバーは驚愕し、ただ立ち尽くすしかなかった。そのあまりの威力に、口を開けることすら忘れる。
友坂は少し顔をしかめ、しかし同時に感心した表情を浮かべた。
「西ドイツの若き皇帝か……やれやれ、世界は本当に広いな」
胸に熱を帯びる悔しさと、同時に得る感嘆の入り混じった複雑な表情。その視線はシュナイダーを追いながらも、次のプレイへの思考を巡らせていた。
スコアは1-1。わずか数十秒で世界の壁を見せつけられた日本Jrユースだったが、胸の奥に火が灯ったのも事実だった。今や目の前にあるのは、単なる相手チームではない。ヨーロッパの頂点を目指す強者たち、そして自分たちが挑むべき本物のサッカーの世界そのものだった。
友坂は歯を食いしばり、日向の方をちらりと見やる。小次郎もまた、わずかに息を整え、次のボールに向かって体を構えた。
「まだ始まったばかりだ……」友坂の目に光が宿る。
日本代表たちは、世界の力を肌で感じながらも、その壁に挑む覚悟を固めた。試合は、今まさに真剣勝負の幕を開けたばかりだった。
日本Jrユースボールで試合が再開されるや否や、ボールはあっという間にハンブルグに渡った。これまでの「手を抜いた」ように見せていた動きは嘘のように、彼らは信じられないほどの速さ、卓越したテクニック、そして圧倒的なパワーを兼ね備えたプレイでグラウンドを支配し始めた。
「本当にさっきまでは手を抜いていたのか!」
松山の叫びには、誰もが同じ思いを抱えていた。次藤は顔をしかめ、歯を食いしばる。
「うぅ……なんて攻撃タイムだ……」
早田は目を見開き、ボールの速さとパス回しの正確さに驚愕する。
「ボール回しも速い……」
日向は悔しげに歯を食いしばり、なかなかボールが自分のところまで届かない現実に苛立つ。
日本代表のメンバーはそれぞれ、ここまでの差を目の当たりにし、愕然としていた。ボールの支配は完全にハンブルグに渡り、日本代表は一気に劣勢を強いられる状況となった。
一旦下がって守りに入ろうとする日向に、友坂の声が鋭く響く。
「下がるな、小次郎!お前が下がればハンブルグはさらに攻撃の枚数を増やすぞ!俺たちが必ずお前にボールを回す。耐えろ!耐えるのもストライカーの宿命だ!」
松山も力強く頷きながら、日向を励ます。
「友坂の言う通りだ!俺たちを信じろ!」
日向は一度深く息をつき、意を決して前に踏みとどまる。
「……んっ」
若林は冷静な眼差しで日本代表の様子を見つめ、微かに笑みを浮かべる。
「ほぅ、分かっているな……友坂、松山……」
こぼれ球を拾った友坂のもとに、ハンブルグの選手二人が襲いかかる。だが友坂は体幹を駆使し、両腕で押し返しながらボールを巧みにキープ。
「こいつ、二人がかりでもバランスが崩れない!」
「筋力だけじゃない……上下左右、全てのバランスが完璧だ!」
カルツは冷静に観察し、筋力ではなくバランスこそが友坂の強さだと評価する。
シュナイダーはその様子を淡々と見つめ、挑発するような動きはせず、むしろ軽く鼻で笑う。
その瞬間、ライン際を疾走する影。
「こっちだ!」
早田誠、カミソリファイターが猛然と加速する。友坂は迷わずパスを送り、同時にハンブルグの選手たちの追従を防ぐため巧妙にライン際を利用。
「なにぃ!」
「邪魔しやがって!」
早田は一気にスピードを乗せてサイドアタックを仕掛けるが、鋭いスライディングタックルに阻まれ、ボールを奪われる。
「そんな……!」
しかし、こぼれ球を即座に拾う友坂。再びサイドから攻撃を組み立てる。ハンブルグの選手たちは驚き、息を飲む。
「こいつは他の奴らとは一味違う……!」
友坂の周囲には日向、新田、そして立花兄弟が攻め上がっており、次のチャンスを伺っていた。
「友坂ぁ!」
立花兄弟の声が響く。友坂は瞬時に状況を判断し、ペナルティエリア内で立花政夫が滑り込むように仰向けになり、上から立花和夫が跳び乗る。二人の足が合わさり、まるでロケットのように弾き出されるその動きは、誰も追いつけない圧巻のコンビネーション。
ヘディングシュートは上から下に鋭く叩きつけられるが、若林は微動だにせずキャッチ。
「くっ……!」
友坂は瞬時に判断し、自陣に戻る。若林はボールを前線へ送り、カルツ、シュナイダーとパスを回す。シュナイダーは冷静にシュート体勢を取り、放たれたファイヤーショットはゴールネットに豪快に突き刺さった。若島津はまたしても動くことすらできず、目の前でネットが揺れる。
日本Jrユースのメンバーは言葉を失い、ただ唖然と立ち尽くす。
「日向のタイガーショットだ……いや、あれ以上だ……」
石崎の声も震えていた。若島津も、キャプテンの日向のタイガーショットですら反応できなかった自分を思い出しつつ、シュナイダーの放ったボールには完全に圧倒されていた。
松山は目を見開き、ただ驚愕の声を漏らす。
シュナイダーは表情に変化を見せないが、心の奥では驚きと警戒が交錯していた。
「……あそこで友坂が戻るとは……そして俺のシュートを読むとは……」
試合は、1-2。ハンブルグの1点リード。
だが、日本Jrユースの胸の中には、確かな火が灯った。世界の壁を肌で感じたからこそ、次の一手にかける覚悟はより一層固まったのだった。