副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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ハンブルグ練習試合② ー負けない心ー

 

 

ゴール前での激闘から数秒も経たないうちに、友坂辰馬は若島津の元へ駆け寄った。

 

「若島津、気にすんな。あれは取れんよ」

 

ハッと我に返る若島津。息を整えながらもまだ動揺が残る。

 

「で、ですが辰馬さん……取らないと負けますよ」

 

友坂は落ち着いた表情で首を横に振る。

 

「構わん。俺たちは今、シュナイダーのシュートを止めることは出来ない。無理に取りにいったら怪我人が出るだろう?なら、無理して取らなくていい。」

 

その言葉に若島津は一瞬言葉を失い、狼狽した表情を浮かべる。

 

「そ、そんな……」

 

「責任は俺が取る」友坂は断言する。「シュナイダーにシュートを打たせないこと。それが今できる唯一の方法だ」

 

若島津の反応を待たず、友坂は振り返りポジションへと戻る。

 

「松山!シュナイダーは俺がマークにつく!オフェンス時のゲームメイクは松山中心だ。俺も周りを見て攻め上がる!」

 

「お、おう!」松山は力強く頷く。

 

「立花兄弟は中盤で連携できるように動け!FWは小次郎と新田のツートップだ。新田は少し下り目で中盤を厚くしてくれ」

 

FW、MFたちは一斉に声を揃えて答える。

 

「わ、わかった!」

 

「DF陣はシュートコースを塞ぐなりして、少しでも楽に打たせるな!若島津に負担をかけるな!」

 

DFたちも力強く返す。

 

「お、おう!」

 

「相手はヨーロッパNo.1と言われるハンブルグJrユースだ!強いのも強すぎるのもわかっていたはずだ!ここでどこまで粘れるかで、この先が変わるぞ!気合い入れろぉ!」

 

日本Jrユースは拳を突き上げ、心を一つにして応える。

 

「おう!」

 

シュナイダーはその様子を少し離れた位置から観察していた。口元にわずかに笑みを浮かべる。

 

「軍師・友坂か……面白い奴だな。ハンブルグ、潰すぞ!」

 

ハンブルグのメンバーも目を輝かせ、気合いを込める。

 

「おう!」

 

日本ボールで再び試合が再開されるが、ボールはすぐにハンブルグの支配下に渡る。中盤のパス回し、鋭いドリブル、精密な連携、そして圧倒的なパワー──。これまでの彼らの動きとは別次元のスピードで、試合の主導権は瞬く間にハンブルグに移った。

 

友坂辰馬は必死にシュナイダーにマンマークを続ける。だが、それによって仕事師・カルツが自由に動ける状況を生み、中盤の支配権は完全にハンブルグに握られてしまう。

 

三杉淳は息を呑む。

 

「速い……パスもドリブルも、日本の上を行く……これがヨーロッパサッカーの実力か……」

 

友坂は冷静に状況を分析する。

 

(カルツか……中盤を厚くして抑えれば少しは楽になるはずだが、シュナイダーを自由にさせれば大怪我が出るかもしれん……よし、今は我慢するしかない)

 

カルツは素早いフェイントで高杉を抜き、センタリングを上げる。友坂はシュナイダーを自由に動かせず、ボールは石崎の上に飛ぶ。だがそこに合わせてヘディングシュートを放つも、若島津はダイビングキャッチで阻む。

 

「ナイスキャッチ!」

 

立花兄弟は肩で息を整え、ボールを見つめる。

 

若島津もふぅ、と息を吐き出しながら笑みを浮かべる。

 

シュナイダーも軽く笑う。「ナイスキャッチ……」

 

試合は再び緊張感を帯び、ハンブルグ選手たちの顔にもわずかな焦りが見え隠れする。

 

「惜しかったな……もっと点が入るかと思ったのに、友坂って男は面白いな。でも俺たちを倒すほどじゃないぜ」

 

「そりゃそうだ、日本に負けたなんてことになったら明日から街を歩けないぜ」

 

ハハハ、と笑う彼らの声に、怒りで顔を紅潮させる日本Jrユース。

 

「舐めやがって……!」

 

「試合中にヘラヘラしやがって……!」

 

「一点差で余裕のつもりか……!」

 

日向も拳を握り、目を輝かせる。

 

「俺たち日本Jrユースは、このままじゃ終わらないぜ!」

 

その言葉にチーム全体の空気が引き締まり、誰もが集中力を最大限に高める。

 

戦いは再び、新たな局面を迎えようとしていた。

 

前半残り5分。スタンド席もなく、練習場の一角で繰り広げられるこの試合は、まさに息をのむ攻防が続いていた。

 

若島津はゴール前で深呼吸し、力強く腕を振ってロングスローを放つ。ボールは空高く弧を描き、松山の足元へと吸い込まれるように落ちた。

 

松山はボールを受け取ると瞬時に状況を確認する。周囲には三人のハンブルグ選手が立ちはだかるが、松山は怯むことなくボールをキープする。

 

(とられてたまるかってんだ!)

 

友坂が横目でその様子を見て、心の中で呟く。

 

(松山のボールキープはやはり日本一だぜ……)

 

「こっちだ!松山!」日向が声を張り上げる。

 

「おう!任せるぜ、日向!」松山は素早くパスを送る。

 

ボールを受け取った日向は中央フィールドから一気に加速する。久々に自分の手でゲームを動かせる状況に、エースとしての誇りが胸を突き上げる。

 

日向の直線的ドリブルは破格のスピードを誇り、ハンブルグの選手たちも対応に苦しむ。正面にカルツが立ちはだかるが、日向は一瞬の横フェイントでかわし、視線は次に友坂とのワンツーへ。

 

しかし、ハンブルグも読みは鋭い。パスは寸でのところでカットされる。

 

こぼれ球に反応した立花兄弟が低空スカイラブハリケーンで追いつき、ゴールを狙うかと思われた瞬間、若林が難なくブロック。シュートは即座に困難と判断され、日向にパスが戻る。

 

日向は再びペナルティエリア内からタイガーショットを放とうとした瞬間、背後からシュナイダーの鋭いキックが飛んでくる。腹部に直撃した日向はそのまま倒れ、こぼれたボールを若林がキャッチ。

 

友坂は目を細め、イラつきを隠せない。

 

「ずいぶんと荒いプレイだな……」

 

チームメイトは慌てて日向の元へ駆け寄るが、日向は立ち上がると、悔しさを胸に拳を握り締める。そのままシュナイダーに立ち向かおうとするが、若林の声が響いた。

 

「サッカーは格闘技のはずだぜ!俺がいない三年間で随分と丸くなったじゃないか!」

 

日向は拳をさらに強く握りしめ、深く息を吐いてから黙ってポジションに戻る。

 

「絶対に勝つぞ、みんな!こんな奴らに負けてたまるか!」

 

日本Jrユースは一斉に反応する。

 

「おう、日向!」「その通りだ!日本からわざわざ負けるために来たわけじゃないんだ!」

 

その声にハンブルグも耳を傾ける。日本語は理解できなくとも、その戦意の高さは明確に伝わった。

 

シュナイダーは若林に何やら確認すると、フッと笑みを浮かべ、ボールを受ける。自軍ゴール前付近から意表をつくロングシュートを放った。

 

「ここからか……!」友坂が驚きの声を上げる。

 

ボールは猛スピードで飛び、まさにファイヤーショットそのもの。しかし、若島津は右手を鋭く振り、手刀のようなディフェンスで弾き返す。

 

「なめるなァ!」

 

シュナイダーも、ハンブルグの選手たちも、目を見張る。日本のゴールキーパーが、あの距離からの超高速シュートを防ぐとは思わなかったのだ。

 

若島津は右手へのダメージを感じながらも、ゴールを死守する覚悟を固める。

 

「勝とうぜ!みんな!日向キャプテン!」

 

「お、おう!」日本Jrユースは全力で応える。息を整え、次の攻撃に備える姿は揃って一丸となっていた。

 

そして、笛が鳴り響く。前半終了。スコアは1-2、ハンブルグリード。

 

「一点差がなんだ!」友坂が叫ぶ。

 

「後半、覚えてろよ!」日本Jrユースも声を合わせる。

 

ハンブルグはその意味を理解できなくとも、日本チームの戦意の高さを肌で感じ取る。

 

友坂は眉をひそめる。

 

(あの距離であの威力か……まともに食らったら大怪我だ……)

 

前半最後の緊迫感は、チーム全員の心に深く刻まれた。後半戦、勝負の行方はまだ誰にも読めない――。

 

 

ハーフタイム。試合が一時中断され、練習場に静寂が訪れる。スタンド席はないが、わずかな観戦スペースに詰めかけた人々の間では、前半の興奮がまだ冷めやらぬままだった。

 

同年代の二人組が、少し離れた場所で前半戦の分析をしている。アルゼンチンJrユースのディアスとパスカルだ。

 

「ドイツの皇帝は噂通りだな…」ディアスが目を細める。

「うん、本気じゃないのにあのシュートだ。俺たちのGKで止められるかな?」パスカルは少し眉をひそめた。

 

ディアスは肩をすくめる。「関係ないさ。ドイツより点を多く取ればいいんだ。俺たちなら出来る。」

「そうだな。俺たちアルゼンチンならな。」パスカルも頷く。

 

隣では、イタリアの誇る天才GK、通称「黄金の右腕」を持つジノ・ヘルナンデスが前半の映像を振り返る。

(シュナイダーのファイヤーショットか…一年前は決められたが、試合になれば今度こそ俺が止めてみせる)

 

さらに遠く、黒い杖を持ち、銀灰色の髪が混じる七十代の男が静かに観戦している。目の奥には光る観察力。

「ハンブルグの皇帝とGKを見にきたが…中々どうして、日本のあの7番も悪くないな。年齢的にフィジカル面で劣る部分はあるが、身体のバランスは抜群だ。スプリントも悪くない、頭も良い……チームに喝を入れたメンタルも素晴らしい。ウチに来たら面白いかもしれんが…まぁ、現実的には難しいか……」

 

練習場の一角では、日本Jrユースがハーフタイムのミーティングを行っていた。見上監督が静かに口を開く。

 

「まずは一点だ。一点取って同点に追いつく。今日の若林からは何点も奪うのは難しい。」

 

「よし!勝つぞ!」チーム全員の声が一斉に上がる。

 

友坂が落ち着いた口調で問いかける。「みんな、前半戦を振り返ってどうだった?」

 

松山が口を開く。「速いな。パスもドリブルも全部速い。」

石崎も頷く。「競り合いも強かったぜ。」

立花政夫が言う。「フィジカルの差も感じたよな。」

立花和夫も小さく頷く。

新田は少し悔しそうに。「悔しいですが、若林さんからゴールを奪うのはかなり難しいですね……」

 

友坂は深く頷く。「そうだな。ハンブルグというよりはヨーロッパのサッカー自体が日本より速い。まずは、パスもドリブルもワンテンポ速くしよう。」

 

松山が疑いの眼差しを向ける。「ワンテンポで大丈夫か?」

 

友坂は静かに微笑む。「まずはな……一つ一つの判断をワンテンポ速くして、それを続けていけば、ツーテンポ先を読めるようになる。可能なら、一つ一つをさらに速くしていこう。焦らなくていい、少しずつだ。」

 

松山も頷く。「そうだな。」

早田も応じる。「ああ。」

 

友坂はさらに続ける。「それと、若林からゴールを奪うためには、ペナルティエリア内で左右に揺さぶり、ポジショニングを崩すことが重要だ。簡単にゴールを奪える相手じゃないことは、俺たちが一番よく知っているはずだ。」

 

日向も小さく頷く。

 

「チャンスがあれば何度でも試す。若林に身体的にも精神的にもプレッシャーをかけ続けるんだ。」

 

「はい!」日本Jrユースのメンバーたちは、拳を握りしめ気合いを入れた。

 

練習場には静かな緊張感が漂い、選手たちの心は一致団結していた。外の観戦者たちも、選手たちの真剣な表情を見て、次の攻防に期待を膨らませる。

 

ハーフタイムの短い休息が終わると、再び試合開始の笛が鳴る。

 

日本Jrユースは肩を組むように軽く頷き合い、それぞれが後半戦に向けて心を整える。

「ここからだ。ヨーロッパの強豪に、一歩も引かずに挑むぞ!」

 

友坂、日向、松山を中心に、チーム全体の気合と緊張感は最高潮に達していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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