副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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ハンブルグ練習試合③ ー俺たちにも意地があるー

 

 

後半戦は再びハンブルグボールで開始された。スタジアムの空気は張り詰め、観客の視線は一瞬たりともプレーから逸れない。ボールは早々に日向の足元に渡る。彼は中央から相手二人を次々とかわし、新田へ正確なパスを送る。

 

新田はボールをトラップするが、すぐに目の前にはハンブルグの仕事師・カルツが立ちはだかり、ボールを奪取。カルツは素早いドリブルとフェイントで早田、次藤をかわしていく。しかし、後半から交代で投入された井沢が冷静に動き、カルツからボールを奪い返す。

 

井沢は瞬時に松山へパスを送る。松山はボールをキープし、相手の隙を窺いながら、日向へのロングボールを試みる。しかし、ボールはわずかに届かず、ハンブルグDFにカットされてサイドラインへと向かう。

 

その瞬間、立花政夫が弟・立花和夫を叱咤する。「いくぞ、和夫!」

和夫は躊躇する。「でも兄ちゃん、もう二度もスカイラブを…」

政夫は強い口調で返す。「いいから飛ぶんだ!俺たちは何としても後一点を取って同点にするって誓っただろう!攻めのリズムを崩すな!」

和夫は渋々頷き、二人は三度目のスカイラブハリケーンを低空で放つ。ボールはサイドラインを割る前に追いつかれ、見事に折り返される。

 

自陣から全力で戻る友坂。彼の目には立花兄弟の必死のプレーが映る。「よくやった、立花兄弟!」

折り返されたボールを新田が追いかけ、再びゴール前へと送る。ペナルティエリア内には日向が待ち構えている。

 

日向は鋭い目でゴールを見据え、タイガーショットの構えを取る。だが、前に立ちはだかるハンブルグDF二人がシュートコースを塞ぐ。観客席からはどよめきが上がる。「前半で見せたシュナイダーのファイヤーショットと同じだ!」

 

日向は心の中で叫ぶ。

(みんなが繋いだんだ…必ず決める!俺のタイガーショットは、ほんのわずかなスキでも決められるんだ!)

 

彼はDFのわずかな隙間を見つけ、全力でシュートを放つ。しかし、ハンブルグGK若林は反応し、見事にキャッチ。

 

その瞬間、友坂が接触寸前の距離まで迫っていた。若林は一瞬目を見開く。

(こぼれ球を狙っていたか…友坂)

友坂は冷静に思う。

(コースを読んだか、流石だな…)

 

両者の視線が鋭く交わり、友坂は来た時と同じスピードで自陣に戻る。日向の横を通る際、短く声をかける。「分かってたはずだ、切り替えろ」

日向は悔しそうに頷き、素早くポジションを修正する。

 

友坂は立花兄弟を気にかける。「無理すんなぁ!休んでろ!」 二人は足を押さえつつも小さく手を上げ、意思を示す。

 

一方、若林は友坂の動きを頼もしく思いながら、即座にカウンターを指示。ロングキックでシュナイダーへボールを送り出す。

 

「いけぇ!カウンターアタックだぁ!」若林の叫びとともに、シュナイダーが一気に前線へ。日本Jrユースの選手たちは思わず声をあげる。「なにぃ!」

 

観客席からは、シュナイダーの実妹マリーの声援が響く。「お兄ちゃん!がんばって!」その声にシュナイダーは少し笑みを浮かべ、動きがさらに鋭くなる。

 

彼は圧倒的なスピードとテクニックで日本JrユースのDF陣を次々に抜き去る。ハンブルグの選手たちは息を呑む。

「シュナイダーの完璧なプレイだ!」

「天才シュナイダーの本領発揮だぁ!」

 

やがてシュナイダーはGK若島津と一対一になる。若島津は迷わず飛び出し、シュートコースを塞ぐ。カルツは後方から猛追する友坂の動きを見て叫ぶ。「シュナイダー!後ろから7番が来てるぞぉー!」

 

友坂は斜め後方からスライディングタックルを仕掛ける。シュナイダーは瞬時に飛びながらボレーシュートを放つ。

(この短時間で追いついたか…だが、決める!)

 

若島津は懸命に右手を伸ばすが、シュナイダーのボレーは弾ききれず、ゴールネットに突き刺さる。シュナイダー、見事にハットトリックを達成。

 

スコアは1-3。ハンブルグが二点のリードを広げる。日本Jrユースは一瞬沈黙するが、日向は拳を握り、仲間に視線を送る。まだ、逆転の可能性は残されている。

 

 

シュナイダーのハットトリックを確認した瞬間、友坂は自陣に向かって歩きながらも視線を落としていた。その背筋は微かに震えながらも、瞳には冷たい炎のような戦意が宿っていた。ハットトリックを達成した天才シュナイダーの背後で、その友坂を一瞥する。

 

シュナイダーの思考の中で、わずかな迷いが走る。

(日本のDF…もう少し粘るか、カルツの声がなければあのスライディングタックルはボールに行っていたかもしれんな…)

 

その一瞬、日本Jrユースは失点のショックでしばし沈黙する。息を整える暇もなく、全員の視線は仲間たちの顔やボールへと戻る。

 

友坂は素早く若島津に近づき、声をかけた。

「若島津…お前、右手は大丈夫なのか?」

若島津はかすかに頷く。「はい、大丈夫です。すみません、3点目を入れられてしまいました…」

 

友坂はその右手を軽く握る。

若島津「ぐぅ!」

顔を青ざめさせながら友坂は断言する。「無理だ、やめておけ。」

若島津は思わず眉をひそめる。「そんな!辰馬さん!」

 

その瞬間、フィールドプレイヤーたちの声がベンチから騒がしく響く。振り向くと、日本ベンチに背番号10の大空翼が立っていた。石崎や井沢、次藤、早田が翼の元に集まる。

 

友坂の心中は微妙に揺れる。

(翼、来たんだな…戦力としては頼もしい。しかし…このタイミングで来るとは気に入らん)

 

翼は無邪気な笑顔で言った。「早くみんなとプレイしたくて来ちゃった。もう居ても立っても居られないよ」

石崎が即座に返す。「なら今すぐ出ろよ!」

井沢も続く。「そうだ、早く!」

周囲のメンバーも翼の出場を歓迎している様子だ。しかし、立花兄弟は三度のスカイラブハリケーンで足が限界を迎えていた。

 

若林は鋭い目で翼を見据える。「来たか!翼!」

翼は笑顔で応える。「若林くん!」

二人は三年ぶりの再会に、過去の思い出が走馬灯のように頭をよぎる。

若林の瞳は輝き、翼の顔を見つめながら言う。「待ってたぞ!俺はお前と試合が出来る日を楽しみにしてたんだ!」

翼も頷く。「うん!若林くん…」

 

だが、その瞬間、日向が翼の前に立ちはだかる。「ちょっと待てよ!俺は翼が試合に出るのを認めないぜ!」

翼は驚き、目を見開く。「えっ」

日本Jrユースのメンバーも驚愕する。「何だって日向!」

翼の名前を呼ぶ。「日向くん…」

 

日向は怒りを込めて叫ぶ。「たしかに背番号10は翼に譲った。しかしこの試合に出る権利はない!」

日本Jrユースの仲間たちはざわめく。「なにぃ!」

松山も冷静に賛同する。「俺も日向に賛成だ」

チーム内の意思は完全に一致していないが、キャプテンと副キャプテンの判断は揺るがない。

 

メンバーたちの抗議の声が上がる。「何で翼に出る権利がないって言うんだ!」「もう2点も負けてるんだぞ!」「若林と渡り合えるのは翼しかいない!」

井沢は友坂に視線を送り、問いかける。「友坂!どう思うんだよ!」

 

友坂は落ち着いた声で答える。「ハンブルグとやり合うなら翼は必要だ。しかし、二人に賛成だ。…それに、来たからと言ってすぐ試合に出られると思っている翼も気に入らん」

翼はその言葉に目を見開く。「えっ!」

チームメンバーは少し沈黙し、翼の肩越しにざわめく。彼の胸にショックが走る瞬間だった。

 

日向は拳を強く握り締め、決意を示す。「まだ負けちゃいない!翼の助けはいらない!もし勝てなければ俺は責任を持ってキャプテンを降りる!」

全員が日向を見つめる。その瞳に宿る闘志は誰も疑えない。

 

見上監督は翼に告げる。「残念ながらチーム全員の承諾がなければ出場させる訳にはいかん」

翼は少し目を伏せて応じる。「はい…」

チームの雰囲気は沈みつつも、翼は笑顔で気持ちを切り替える。「さあ試合だよ!日向くんの言う通り、試合はまだ終わってない!」

 

立花兄弟の代わりに反町と佐野が投入される予定だったが、友坂が割って入る。「あと森崎も」

見上監督は驚き、後ろを見ると若島津を連れてきていた。

 

友坂は状況を説明する。「若島津の右手は限界です。これ以上は選手生命に影響が出かねません」

見上監督は若島津の右手を確認し、慌てて指示を出す。「すぐに若島津を病院に連れて行き精密検査を!」

住友コーチが慌てて応じる。「は、はい!」

片桐コーチがさらに補足。「私が連れて行きます。住友コーチは試合に…」

見上監督は頷き、手配を任せる。

 

日向は右手を交代で下げた若島津に少し気落ちしつつも、友坂を見上げる。「辰、勝てると思うか…」

友坂は静かに応える。「この試合は勝ち負けじゃない…意地を通すか通せないかだ」

日向の瞳が光を帯びる。「辰…」

友坂は小さく頷き、二人の視線が鋭く交わる。「通そうぜ、小次郎」

日向の胸に再び、熱い戦意の炎が燃え上がった。

 

シュナイダーのハットトリックによる3点リードの余韻がまだ残るピッチで、日本Jrユースは後半を開始していた。しかし背番号10、大空翼の登場は許されず、ベンチ横で翼は俯いたまま静かに見守っていた。

 

シュナイダーの目に、出場しない翼の姿が映る。

(出ないのか、大空翼…)

 

若林は眉をひそめ、翼の不在を憤るように声を張った。

「なぜ、翼が出ない!翼がいなければ100パーセント勝ち目はないと言ったはずだぞ!」

 

しかし日本Jrユースは、日向を中心に攻めのリズムを崩さず前に出る。全員の瞳にはまだ諦めの影はない。

 

フィールドの外で、翼は自分を責める。

「おれ、馬鹿だよね。日向くん、松山くん、友坂くんの言う通りだよ。おれは来れば試合に出られると思ってたんだから…友坂くんが怒るのも仕方ないよ」

自虐的な言葉をつぶやく翼を、サブメンバーやコーチの三杉淳は優しく見守る。

 

その時、反町へのパスがシュナイダーにカットされ、再びシュナイダーが攻め上がる。翼はその動きを目の当たりにして息を呑む。

三杉淳が耳元で囁く。

「これがドイツの皇帝、シュナイダーだ…世界にはこんな実力者がごまんといるんだよ」

 

翼は再び目を見開き、シュナイダーの華麗なプレイを凝視する。

(すごい…この世界には、こんな選手が…)

 

ピッチ上では、シュナイダーがドリブルを開始すると、友坂がすかさずマークにつく。二人は一瞬の間を置き、互いの瞳を見据えた。まるで、静かな戦闘の前触れのように。

 

三杉淳が翼に囁く。「今の日本でシュナイダーと渡り合えるのは友坂くんだけだよ…そして君もね」

翼は目を輝かせ、頷く。「友坂くん…」

 

シュナイダーは笑みを浮かべる。「ふん、先程より集中が増しているな…」

友坂は心を落ち着ける。「小次郎のパワーを持った翼だと思えばいい…やれないことはない」

 

その瞬間、カルツがシュナイダーの隣で息を潜める。ハンブルグの仲間たちも驚愕していた。

カルツ(あの男…シュナイダーについていけてる…だと)

若林(そこまでになったか…友坂)

 

観戦している黒い杖を持つ白髪混じりの銀灰色の髪の男も目を細める。

「前半よりも慣れたのか…集中しているな。いいぞ、日本の少年よ…ドイツの皇帝相手にどこまでやれるかだ…私は何を考えてるんだ、日本の少年に…」

 

シュナイダーのドリブルとシュートに警戒を集中している友坂は、パスへの注意が薄くなっていることを瞬時に察知する。

 

シュナイダーは冷静に判断した。

「カルツ!このGKならどこでも狙えるぞ!」

カルツはトラップしながら応じる。「おう!」

 

若島津の後を継いだGK森崎の実力を見抜くシュナイダーとカルツ。

ゴール前でボールを受けたカルツは、ミドルシュートの体勢に入る。森崎は手を伸ばすが、ボールは届かずゴールネットに突き刺さった。

 

日本Jrユースのスコアは1-4。

後半の早々、またしても点差を広げられ、日本の選手たちは深く落胆する。翼は手を握り締め、悔しさと無力感に唇を噛む。

 

それでも、翼は自分の心に誓う。

(負けてたまるか…まだ、ここからだ…)

 

友坂は森崎に視線を向け、冷静に指示を送る。「小次郎、守備を固めるぞ。無理せず、チャンスを待つんだ」

日向も深呼吸し、チームを鼓舞する。「まだ諦めるな!あと1点、2点だって奪える!」

 

ピッチ上の選手たちも、再び戦意を取り戻す。その中に、戦場を俯瞰して見守る翼の視線があった。彼は心の奥で決意していた。次のチャンス、必ず自分も力になるんだと。

 

ハンブルグの圧倒的な技術と力の前で、1-4という点差は絶望に見えた。しかし、そこに光るのは、諦めない者たちの熱い心だった。友坂、日向、翼――そして仲間たちの結束。

 

観客席のざわめきの中、翼は心の中でつぶやく。

(ここからだ…まだ、俺たちの戦いは終わっちゃいない…!)

 

 

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