副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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乱闘の果ての再出発

 

午後の陽射しが傾き始めていた。

練習場の空は青く澄み、しかしピッチの空気には重い疲労と怒気の余韻が漂っていた。

試合は終わった。スコアは5-2。

ハンブルグJrユースの勝利に、観客たちは拍手もそこそこに立ち上がり、ぞろぞろと出口へ向かっていく。

 

「いやぁ、すごかったな、最後の乱闘……」

「まさか友坂って子があそこまでやるとはな……」

「日本、荒れてるねぇ。」

 

そんな囁きがあちこちで交わされる。

その群れの中を、二人の若きアルゼンチン人が歩いていた。

アルゼンチンJrユースの司令塔、ファン・ディアスと、その右腕パスカル・アルメイダである。

 

「……ドイツの皇帝、あれがシュナイダーか。」

ディアスはサングラスを指で持ち上げ、淡々と呟く。

「やっぱり噂は本当だった。あのシュートの威力、あれはもはや少年の域じゃない。」

 

パスカルが肩をすくめる。

「同感だ。でもさ、俺はそれよりハンブルグの日本人キーパーが気になった。あいつ、反応がやたら速い。」

「若林源三、だったな。」

「そう、それだ。日本のGKにしては規格外だよ。」

 

そんな会話をしていると、背後から低い声がかかった。

 

「――どうだった、試合は?」

 

二人が振り返ると、長身でスーツ姿の男が立っていた。

口元にはうっすらと髭、目はサングラス越しでも知性の光を放っている。

アルゼンチンJrユース監督、バルバスだ。

 

ディアスが微笑みを浮かべる。

「監督。お疲れ様です。いやぁ、あのドイツの皇帝、やっぱりモノが違いましたよ。あとは……ハンブルグの日本人GKもかなり良かったです。」

バルバスは腕を組み、穏やかに頷いた。

「そうか。……ところで、“日本の10番”――大空翼はどうだった?」

 

その名が出た瞬間、二人の顔に驚きが浮かんだ。

バルバスは続ける。

「知り合いから聞いたんだ。『彼がいる限り、日本は近い将来、南米サッカーの脅威になる』とまで言われていた。」

 

ディアスとパスカルは顔を見合わせた。

パスカルが首を傾げながら答える。

「10番……いや、今日は出てなかったですよ。代わりに……7番の選手が目立ってましたね。たしか――友坂辰馬とか言いましたか。」

「友坂?」

バルバスの眉がわずかに動く。

 

パスカルは続ける。

「ええ、あの乱闘の中心にいた奴です。でもプレーは素晴らしかった。運動量も判断も良かった。唯一、シュナイダーと正面から渡り合ってました。」

 

ディアスが苦笑を浮かべる。

「最後は派手に殴ってたけどな。……でも確かに、動きは悪くなかった。もっとも――」

目を細め、少しだけ笑みを浮かべる。

「俺たち程じゃない。」

 

パスカルも同じように笑った。

「だな。」

 

そのやり取りに、バルバスはふっと微笑を浮かべた。

「お前たちがそう言うなら、間違いない。……日本の7番、友坂辰馬、か。覚えておこう。」

 

その瞬間、柔らかな日差しが三人の影を長く伸ばした。

彼らの胸に芽生えたのは、ライバルを見つけた喜び――そして、世界が広がっていく予感だった。

 

 

その頃、観客たちが去り、静まり返った練習場の外れ。

杖をついた一人の男が、ゆっくりと通路を歩いていた。

黒い帽子を目深にかぶり、長いコートの裾を風が揺らしている。

 

(最後に乱闘とはな……)

心の中で呟く。

 

(もっと落ち着いた選手だと思っていたが……いや、あの眼は違った。あれは闘争心――勝者になる者の眼だ。)

 

男は歩みを止め、グラウンドの方へ視線を向ける。

芝の上では、撤収作業をするスタッフの声だけが響いていた。

 

(大会には出るんだろう……。ならば、もっと強くなれ。強くなれば――必ずチャンスは訪れる。)

 

ゆっくりと杖を握る手に力をこめた。

(チャンスを掴めるかどうかは……君次第だぞ、7番。)

 

一拍置いて、はっとしたように額を叩く。

「あっ……見上に挨拶するのを忘れていた。」

苦笑いを浮かべ、肩をすくめる。

「まぁ、またの機会でいいか。彼もこれから忙しくなるだろうし。」

 

男は再び歩き出した。

その背中を陽射しが照らす。

杖の先がコツン、コツンと響くたび、何か大きな物語の始まりを予感させるようだった。

 

その姿が角を曲がって消える。

残された風が、わずかに揺れる。

――やがて、その男が誰であったかを知る者は、数少ない。

 

だが、この日を境に。

世界の舞台に、一人の“日本の7番”――友坂辰馬の名が、静かに刻まれ始めていた。

 

午後の陽射しが差し込むハンブルグ・スタジアムの医務室は、外の熱気とは裏腹に静まり返っていた。

窓際には淡いカーテンが揺れ、氷嚢を押し当てる音だけが、乾いた空気を切るように響いている。

 

若林源三はベッドの縁に腰をかけ、右頬に冷たい氷嚢を押しつけていた。

鏡に映る自分の顔は、見事に赤紫色に腫れ上がっている。

「……パンチ、重てぇな、あいつ……」

小さく息を吐き、苦笑する。

皮膚の下にじんじんと残る痛みよりも、胸の奥のどこかが熱を帯びていた。

 

扉が静かに開き、白髪交じりのスーツ姿が入ってくる。

見上辰夫――日本Jrユース監督。

その表情には、少しの苦笑と、少しの後悔と、そしてほんのわずかな満足が混ざっていた。

 

「だいぶやられたな……。大丈夫か、源三。」

 

若林は振り向き、氷嚢を押さえたまま笑った。

「見上さん。日向に殴られる覚悟はしてましたけど……まさか友坂が暴れるとは思ってませんでしたよ。

あいつのパンチ、半端じゃないっすよ。まるでシュナイダーのハイボレー並みです。」

 

「はは……たとえがサッカー選手らしいな。」

見上はベッドのそばに立ち、軽くため息をついた。

「すまんな、源三。お前には“憎まれ役”をやってもらった。わざと挑発して、火をつけさせるように。」

 

若林は肩をすくめる。

「いえ、言われた通りですよ。でも、いいんですか? 一つにまとまりかけたチームを……あんな風に壊して。」

 

「構わん。」

見上の声は低かった。

「一度壊れて、バラバラになるようなチームなら、そこまでのものだ。……ただ、まさか乱闘になるとは思わなかったがな。」

 

その口調には、策士としての苦笑が混ざっていた。

若林は氷嚢を膝の上に置き、少し空を見上げる。

窓の外では、遠くにハンブルグの街並みが広がっていた。

「でも……成長してますよ。日向も、友坂も。」

「ほう?」

「日向は、あんな点差の中で“一点を取るために動いた”んです。昔なら、勝てない試合では途中で無茶して潰れてました。

でも今日は違った。自分の役割を考えて、味方を信じて動いてた。」

 

見上は目を細めて頷く。

「……確かに、成長したな。」

 

「それに、友坂。あいつ、今すぐにでもヨーロッパで通用しますよ。

フィジカルも、テクニックも、メンタルも。あいつのサッカーは、もう“日本のサッカー”じゃない。

あれは……“世界”です。」

 

若林の口調は静かだったが、確かな敬意が滲んでいた。

見上は腕を組み、しばらく黙っていた。

やがて、ぽつりと呟く。

「……そうだな。これからが楽しみだ。」

 

短い沈黙。

氷嚢から滴る水の音が、静かな室内に落ちる。

若林がふと、いたずらっぽく笑った。

 

「そういえば、見上さん。昨日の時点で、友坂はもう気づいてましたよ。」

「ん? 何をだ?」

「俺の挑発が、見上さんの指示だってことに。」

 

見上の目が大きく開かれる。

「ほ、本当か!? あいつが!?」

「ええ。だから、余計に怒ったのかもしれません。『お前ら大人は汚ぇ』って顔してましたよ。」

 

見上は頭をかきながら苦笑する。

「……困ったな。まさか気づくとは。」

「まぁ、俺も途中でやりすぎたんですけどね。

でも……見上さん、気をつけた方がいいですよ。」

 

見上「な、何をだ?」

若林はにやりと笑う。

「友坂のパンチです。俺、ドイツでケンカも経験ありますけど……あいつのは別格です。正面から食らったら、マジで倒れますよ。」

 

見上は思わず一歩引いた。

「お、おいおい、脅すなよ。」

「ははは。」

笑う若林の声が医務室に響き、氷の冷たさが少し和らいだ。

 

だがその笑いの奥で、二人とも理解していた。

あの乱闘は、ただの衝突ではない。

“燃え尽きるほどの情熱”をぶつけ合った、未来への通過儀礼。

 

窓の外では、ハンブルグの青空が静かに広がっている。

その下で、若林は氷嚢を外し、腫れた頬を軽く叩いた。

「見上さん……日本、面白くなりますよ。」

 

見上は小さく頷いた。

「……ああ。あの7番がいる限りな。」

 

二人の間に沈む午後の陽。

氷が解け、水滴が机を伝い落ちていった。

その一滴が光にきらめいた時――

それはまるで、新しい日本サッカーの夜明けを告げるようでもあった。

 

 

 

アトランティックホテル ― 全日本Jrユース宿舎

 

試合が終わって数時間。

夕暮れが街を淡く染め、港町ハンブルクに夜の匂いが満ち始めていた。

選手たちはそれぞれの部屋に戻ったものの、誰ひとり眠れる気配はなかった。

 

――そして、気づけば全員がロビーに集まっていた。

 

私服に着替えた少年たちは、まだ試合の汗が抜けきらない表情をしている。

ソファに腰かけていた井沢が、落ち着かない様子で言った。

 

「どこ行っちまったんだ、日向も友坂も……」

 

その声に松山が腕を組んで応じる。

 

「友坂から、日向と若島津の方に行くって話があったからな。心配すんな。アイツらのことだ、ちゃんと戻ってくるさ。」

 

それでもロビーの空気は重かった。

敗戦の余韻が、まだ少年たちの胸の奥に燻っている。

 

反町がふと呟くように言った。

 

「……しかし完敗だったな。何も出来なかった。」

 

森崎が項垂れたまま、苦笑いのような声で続ける。

 

「ああ、友坂がいたからこそ、あのシュナイダーのシュートも何本かは減ったけど……正直、あの一撃を止められる気はしなかったよ。」

 

「ヨーロッパの壁を感じたね……」と政夫が言えば、和夫も小さく頷く。

 

「俺たち、このままじゃ勝てるのかな……」

 

その言葉に、沈黙が落ちる。

誰も否定できなかった。

その現実が悔しくて、石崎が拳を握る。

 

「このままじゃ……俺たち、この先も……」

 

“負ける”という言葉を、最後まで口にできなかった。

 

だが、その空気を断ち切ったのは――松山の怒鳴り声だった。

 

「一度負けたくらいで騒ぐんじゃねぇ!俺たちはヨーロッパサッカーの本当の強さを知ったんだ。それが分かっただけでも収穫だろ!――だったら、一からやり直すしかねぇ!」

 

その力強い声が、ロビーの空気を変えた。

そして、その隣で柔らかく笑った翼が、まっすぐに言葉を重ねた。

 

「松山くんの言うとおりだよ。次の試合で取り返せばいいんだ。負けっぱなしで終わらせなきゃ、それでいい。」

 

翼のその一言に、場の空気が少しずつほどけていく。

みんなの顔に笑顔が戻り、ロビーに小さな笑い声が広がった。

 

――その笑顔の中で、松山は静かに心の中で思う。

 

(やっぱり……翼がチームの中心に相応しいんだな。

 だが今はまだ、俺たちが支えなきゃならない。

 待っててくれよ、翼。)

 

すると石崎が、ぽんと手を叩いて話題を変えた。

 

「そういやぁ、友坂って喧嘩も強ぇんだな。あのパンチ、マジで痛そうだったぞ。」

 

「ああ、ホントにな……」と井沢が頷き、思い出し笑いをする。

 

「ワシも色んな奴と喧嘩したが、友坂には勝てそうにないタイ」と次藤。

「一試合やった後であのパワーとスタミナ、信じられねぇよ」と早田。

反町も苦笑しながら言う。

 

「東邦の頃はクールで大人びてたけどな。あんな暴れる奴だとは思わなかったぜ。」

 

そのとき、沢田タケシがぽつりと口を開いた。

 

「でも辰馬さん、小さい頃は相当ヤンチャだったらしいですよ。」

 

一斉に視線が沢田に向く。

 

「どういうことだ?」と石崎。

「はい。明和FCに入る前、うちの小学校だけじゃなく、近隣の小学校でも有名で……。

ヤンチャな子たちが中学生を助っ人に呼んだんですけど、辰馬さんが10人くらいを返り討ちにしたって。」

 

「な、なんだそりゃ!?」と井沢が目を丸くする。

「明和入る前って、三年とかだろ!?どんな小学生だよ!」

 

「ホントに喧嘩の強か男だったのか?」と次藤が感心するようにうなる。

沢田は小さく笑って続けた。

 

「ホントですよ。明和に入ってサッカー始めてから丸くなったけど……日向さんも“辰馬とは喧嘩したくない”って言ってました。」

 

その一言に、ロビーの全員が沈黙する。

やがて誰からともなく、ハハハ……と空笑いが起きた。

しかしその笑いには、少しの尊敬と、少しの不安、そして――仲間としての誇りが混じっていた。

 

松山がぽつりと呟く。

 

「ホントに……大した男だよな。友坂は。」

 

ロビーの窓の外では、ハンブルクの夜風が静かに吹き抜けていた。

その風が、戦いを終えた少年たちの心を少しだけ癒していく。

 

――やがて彼らはまた、戦うために立ち上がる。

新たな舞台、日本代表として。

 

 

 

午後の陽が傾き始め、白亜の病院の壁が橙色に染まっていた。

街のざわめきが遠くで聞こえる。風に混じるのは、まだ試合の余韻を語る観客の声。

その玄関口から、包帯を巻いた若島津健が片桐強化部長と並んで姿を現した。

 

「キャプテン! 辰馬さん!」

 

病院前に停められたタクシーの傍で、日向小次郎と友坂辰馬が立っていた。

ふたりはまだ、ユニフォーム姿のままだった。

日向のシャツは汗と土で汚れ、友坂の肩には試合の疲労が残っている。

しかし、その瞳にはまだ火が宿っていた。

 

友坂が軽く顎を上げる。

「よう、無事だったか。」

 

「ええ。キャプテン、辰馬さん。」

若島津が笑う。

「検査も治療も終わりました。しばらく安静にしていれば大丈夫です。」

 

その言葉に、日向の険しい顔がわずかに緩んだ。

「そうか。……よかった。」

 

友坂も短く頷くと、目を細めて言った。

「無茶したな。けど、お前らしいよ。」

 

若島津はその言葉に少し照れたように頭をかく。

「試合中ですから。」

 

片桐が促すように手を上げた。

「ホテルに戻ろう。ここで長居しても仕方ない。」

 

4人はタクシーに乗り込んだ。

エンジン音が静かに鳴り、車はハンブルクの街を滑るように走り出す。

 

 

タクシー車内

 

街並みを照らす陽光が、窓越しに彼らの顔を撫でる。

まだ日中。だが、街の喧騒はどこか落ち着きを帯びていた。

車内には、しばらく静寂が流れていた。

 

沈黙を破ったのは若島津だった。

 

「……5対2、ですか。キャプテンも追加点を取ったんですね。」

 

日向がわずかに目を伏せた。

「……ああ。でも、あれは――若林の言う通り“プレゼント”だったかもしれねぇ。」

 

友坂は窓の外を見たまま、何も言わない。

ハンブルクの石畳が、車輪の音とともに流れていく。

 

しばらくして、日向が真っすぐ前を見つめたまま問いかけた。

 

「なぁ、若島津。

正直に答えてくれ。……オレのタイガーショットと、

シュナイダーのファイヤーショット――どっちが上だった?」

 

助手席の片桐が一瞬だけ振り返る。

後部座席で、友坂は窓の外を見つめながら微かに息を吐いた。

(よく聞いたな……小次郎。)

 

若島津は一拍置き、正面を見据えて言った。

 

「……シュナイダーのファイヤーショットの方が、上でした。

伸びも威力も……ボールが空気を裂いてくるようでした。」

 

日向は黙ったまま、その言葉をしっかりと受け止めた。

そして――静かに笑った。

 

「……そうか。なら、それを越える。

伸びも威力も、全部だ。あいつに追いつき、追い越す。」

 

若島津がほっとしたように微笑む。

「キャプテン……」

 

友坂がその会話に割って入る。

「良い答えだ。……小次郎らしい。」

 

若島津が嬉しそうに笑い、日向が横目で友坂を見やる。

「辰、お前はどうだ?」

 

「オレか?」

友坂はゆっくりと息を吐いた。

「オレも“パワーアップ”するさ。」

 

「飛龍のことか?」日向が問う。

 

友坂はまっすぐ前を見据えた。

「……撃っても止められると思った。だから撃たなかった。東邦を優勝させるために編み出した技だけど、今はもっと上を目指す時だ。……そして飛龍も、もっと強く、もっと速く、そして不規則になる予定だ。」

 

その言葉に若島津が目を見開いた。

「辰馬さん……」

 

友坂は静かに拳を握った。

「“軍師”なんて呼ばれても、負けたら意味がない。

チームを勝たせる。それが俺の仕事だ。」

 

日向の目に闘志の炎が灯る。

「なら、もうやるしかねぇな。フランスで、借りを返す。」

 

友坂が頷く。「ああ。」

 

3人の間に交わされる視線は、敗北の悔しさではなく、未来への誓いだった。

 

やがて友坂がふと笑う。

「……それにしても、若島津の怪我が軽くてよかったな。」

 

若島津も微笑んで返す。

「ええ。医者が言ってました。あと少し遅ければ重症で、選手生命も危なかったと。

辰馬さんが止めてくれなかったら、どうなってたか……感謝してます。」

 

友坂は静かに首を振った。

「いや、シュナイダーに何度も撃たせた俺たちの責任だ。

守備の連携が甘かった。……負担をかけた、すまん。」

 

「気にしないでください。」若島津は笑って言う。

「数日は練習禁止ですが、大会には万全で戻ります。」

 

日向も笑みを浮かべ、拳を軽く突き出した。

「頼りにしてるぜ。」

 

片桐は助手席で、そのやりとりを静かに見つめていた。

彼の心の中に、温かいものが広がる。

 

(良い選手たちだ。

この3人がいれば――いや、翼も含めて4人がひとつになれば……

日本は必ず、世界を驚かせる。)

 

ハンブルクの街を抜け、タクシーはホテルへと向かっていく。

窓の外には、日差しに照らされた赤レンガの屋根と、遠く光るエルベ川。

彼らの未来のように、どこまでも広がっていた。

 

 

 

 

余談 ― 病院裏と医務室

 

「……え? 辰馬さん、若林と乱闘したんですか!?」

若島津が目を丸くする。

 

日向は笑いながら答える。

「ああ。オレが殴りかかろうとしたのを、辰が止めてな。

『オレが先に殴るんだよ!』って言って、若林ぶん殴って暴れたんだ。

松山や次藤、早田で羽交い締めにして止めたんだぜ。」

 

友坂は苦笑して頭をかく。

「……悪かった。」

 

若島津は思い出したように目を細める。

(辰馬さん……昔、兄貴が“友坂とはやり合うな”って言ってたな。

ボロボロになって帰ってきた兄貴を思い出す……。

若林、ご愁傷様。)

 

同じ頃、ハンブルク医務室では――

 

若林源三が、アイシングを当てながら盛大なくしゃみをした。

「へっくしょいっ! ……いってぇぇぇ!!」

 

顔の腫れを押さえながら呻く。

「くそ〜っ、友坂……覚えてろよ……! マジで痛ぇ……!」

 

その声が静かな病室に響き、外では夕陽がゆっくりと沈んでいった。

 

 

 

 

 

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