副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

45 / 60
カテナチオをぶち壊せ!

 

 

フランス国際Jrユース大会・開幕戦

 

パリの青空の下、熱狂と期待に包まれながら大会が幕を開けた。

観客席には世界各国のメディア、各国のJrユースチーム、そしてスカウトたちの視線が集まっている。

オープニングゲーム――日本Jrユース 対 イタリアJrユース。

 

試合前、静まり返ったロッカールームに見上監督の声が響く。

 

「キャプテンマークは、松山から翼に譲渡する」

 

その言葉に一瞬、室内の空気が震えた。

松山は立ち上がると、静かにマークを外し、翼の左腕へと巻きつけた。

 

「頼むぞ、翼。お前がこのチームの心臓だ。」

「うん、ありがとう松山くん。」

 

拍手が起こる。

次の瞬間、見上監督がもう一つの発表をする。

 

「それと――今日から、コーチ登録だった三杉淳を選手登録とする。」

 

驚きと歓声が混ざる中、三杉は照れくさそうに笑って一礼した。

「頼りないけど、またピッチでみんなと戦えるのは嬉しいよ。」

その言葉に仲間たちは自然と拍手を送った。

 

 

スターティングメンバー

 

FW:日向・新田

MF:翼・友坂・立花兄弟

DF:松山・次藤・早田・石崎

GK:若島津

 

そして――控えには、若林源三と岬太郎。

岬は監督に呼ばれ、静かに頷いた。

 

「チームに合流してまだ日が浅い。今日は動きを見ておけ。後半、チャンスがあれば行くぞ。」

「はい、監督。」

 

その目に迷いはなかった。岬は心の中で誓っていた。

(翼くんとまたピッチで繋がる時は、完璧な状態で…)

 

 

キックオフ前

 

若林が静かに若島津に歩み寄る。

「ゴールを頼んだぜ、若島津。」

「……若林?」

思わず目を見開く若島津。

その表情には、いつもの闘志ではなく、確かな信頼が宿っていた。

 

 

試合開始

 

笛が鳴り響く。イタリアボールでゲームが動き出す。

 

イタリアは序盤から中盤の速いパスワークで主導権を握り、右サイドを崩してクロス。

中央のFWがヘディングで叩くが、若島津が飛び込みキャッチ!

 

その瞬間、流れが一気に日本へ傾く。

若島津のスローが翼へ――!

 

だが、イタリアの選手たちはすでに翼へ殺到していた。

かつて彼らが翼一人に翻弄され、屈辱のゴールを奪われた記憶が蘇る。

「今度こそ止める!」

翼は華麗に抜き去るが、複数の選手がファウル覚悟で挟みに来た。

 

「翼、一人で行きすぎだ! 一旦下げろ!」

後方の友坂の声が鋭く響く。

「うん、わかった!」

 

翼が友坂にボールを預ける。

だが、すぐにイタリアの二人が飛び込んだ。

「10番じゃなければ怖くない!」

「日本人に好きにさせるか!」

 

「……翼以外は眼中にないってか!」

友坂の瞳が燃える。次の瞬間、彼は二人を一瞬で抜き去った。

 

「速い!」「さっきの10番と同じ速さだ!」

観客がどよめく。

西ドイツのベンチではシュナイダーが笑みを浮かべる。

「そうだ、あの7番――友坂は厄介な男だ。」

 

友坂はゴール前へ突進しながら日向に視線を送る。

「小次郎、行けぇ!」

「おう!」

 

縦のコンビプレーが炸裂。

日向が豪快なドリブルでDFを弾き飛ばす!

波のトレーニング、重いブラックボール――全ての成果が足腰に宿る。

そして、あと一人!というところで、イタリアDFがスライディングタックル!

 

「ファウル!」笛が鳴る。

 

「大丈夫か、小次郎!」

「くそっ、あと少しで決められたのに…!」

 

翼が駆け寄ると、友坂が肩を押さえて笑う。

「問題ないさ。翼、さっきのまま突っ込んでたらお前もやられてたぞ。リスク管理も勝負のうちだ。」

「うん、ありがとう友坂くん。」

 

 

ゴール正面。観客は翼のドライブシュートを期待して息を呑む。

だが――蹴ったのは松山!

地を這うイーグルショットがゴールへ一直線!

しかしヘルナンデスは冷静にキャッチ。

 

すぐさまボールを翼に投げる。挑発だ。

(打ってこい――ドライブでな)

 

翼は迷わずドライブシュートを放つ。

だがヘルナンデスは、片手で軌道を読み、もう片手で押さえ込み――

ゴールラインすれすれでキャッチ。

 

「止めた!?」「あのドライブを!?」

観客が総立ち。翼の代名詞が、初めて完全に止められた瞬間だった。

 

 

前半終了

 

その後も、日本は立花兄弟のスカイラブ、次藤のタックル、新田や早田の強烈なシュートで攻め続ける。

しかしヘルナンデスの壁は厚く、無失点のまま前半終了。

 

ベンチに戻る日本チームは明るい表情。

「これなら後半点が取れる!」

だが翼の目だけは鋭かった。

(おかしい…攻められてたのに、あの余裕。後半、必ず何か仕掛けてくる。)

 

友坂が翼の肩を叩く。

「わかってるよ。後半はイタリアボールだ。俺が守りの指揮をとる。」

「友坂くん…頼んだよ。」

 

 

ハーフタイム・ロッカールーム

 

「みんな、油断するな!」翼の声が響く。

見上監督も続ける。「イタリアは優勝候補だぞ。」

 

「そうだな。」友坂が立ち上がる。

「ただ撃てば入る相手じゃない。工夫していこう。」

 

「ハンブルグ戦の時みたいにか?」日向が笑う。

「そうだ。若林から2点取った時のな。」

 

若林がむっとする。

「おい友坂、言い方ってもんがあるだろ!」

「何って、事実だろ?翼もそう言ってたぜ。」

翼は苦笑い。「ははは…」

 

ロッカールームが笑いに包まれる中、友坂の声が急に低くなった。

「若林――ヘルナンデスはお前より上か?」

 

沈黙。

若林は帽子の鍔を指で押さえ、静かに言った。

「俺の方が上だ。」

 

その一言に、空気が震えた。

 

友坂はニヤリと笑い、振り返って叫ぶ。

「聞いたかみんな!若林の方が上だってよ!若林から2点取った俺たちなら、怖いもんなしだ!」

 

その言葉に、

 

「友坂ぁ〜!」と苦笑いする若林。

だがチームは笑い、拳を突き上げた。

 

「おう!!」

 

 

笑いと闘志が混じる中、日本Jrユースは再び立ち上がった。

黄金の歯車――その噛み合う音が、確かに鳴り始めていた。

 

 

 

 

 

観客席は息を呑み、世界各国のスカウトや選手たちが注視する中、後半戦が始まろうとしていた。

 

ロッカールームを出る日本Jrユース。

松山の背に、友坂が声をかける。

 

「松山、後半……イタリアは確実にギアを上げてくる。何としても守って、カウンターに繋げよう。」

「ああ。DFラインは俺がまとめる。」

 

二人は短く頷き合い、その視線の先には、すでに戦場のようなピッチが広がっていた。

 

 

後半開始

 

笛が鳴り、イタリアボールでキックオフ。

前半同様、速く、正確で、機械のようなパス回し。

それがイタリアの武器だった。

 

早田が鋭く読み、カミソリタックル!

ボールがこぼれ、次藤がフォローして日本ボールに変わる。

「よし、行くたい!」

早田と次藤が同時に攻撃参加。

 

だが――イタリアの選手たちは自陣に戻らず、妙に落ち着いていた。

松山が眉をひそめる。

(こいつら……なんで戻らない……?)

 

友坂はすでに読み切っていた。

(つまり狙いは――カウンターだな。)

 

次藤が縦へロングパスを放つ。

日向と翼が猛然と走り込む。

 

日向が高く跳び上がる!

その瞬間、空中でぶつかるようにヘルナンデスが飛び出し、ワンハンドキャッチ!

だが勢い余って、体がペナルティエリアの外へ――

 

(まずい、このまま出たら反則だ!)

 

空中で、ヘルナンデスは一瞬の判断でボールを手放し、足で強く蹴り返す。

翼が飛び込むより一瞬早く、ボールは日本陣内へと高く弧を描いた。

 

上がっていた早田と次藤が戻りきれない。

そこを逃さず、イタリアが素早いパス回しで逆襲を仕掛ける!

 

 

観客席の上段――

偵察に来ていたドイツJrユースのメンバーが唸る。

 

「イタリアお得意のカウンターの形だな。」

「日本は対応できまい。」

 

だがカルツが腕を組んで、静かに笑った。

「……それはどうかな。」

 

「カルツ? 何を言ってる?」

「お前らは知らないだろうが……日本には一人、切れ者がいる。」

 

 

ピッチでは日本が必死に守る。

「戻れ!急げ!」

「守りきるぞ!」

 

しかし松山と石崎だけでは足りない。

イタリアの攻撃が右から左へ、波のように揺さぶってくる。

若島津が前に出る――!

 

横パス。完全にフリーのイタリアFWがシュート体勢に入った瞬間。

 

「させないっ!」

 

間一髪で飛び込んだのは――友坂辰馬!

渾身のスライディングでシュートブロック!

ボールはサイドラインを割って、危機は脱した。

 

観客が一斉に沸き立つ。

 

 

ドイツの席。

カルツが口角を上げた。

 

「そう、この男こそ――日本の“軍師”・友坂辰馬だ。」

 

シュナイダーが微笑む。

「ずいぶん買ってるな、カルツ。」

「マッチアップして分かったんだよ、あいつの強さを。お前もだろ?」

「……そうかもな。」

 

周りのドイツメンバーが目を丸くする。

 

 

ピッチでは、日本が安堵の息をつく。

 

「助かったぁ!」

「すまんたい!」

 

前線の翼は胸の奥で呟いた。

(友坂くんがいて、ほんとによかった……)

 

隣の日向が口を開く。

「翼、何としても点を取らねぇとな。」

「うん……!」

 

 

ベンチ横では岬がアップを始めていた。

見上監督が腕を組み、頷く。

「行けるか、岬。」

「はい。」

 

しかしピッチ上の誰も、まだその動きに気づいていなかった。

ただ一人――友坂を除いて。

 

「おい、みんな! 落ち着け!」

「えっ?」

 

友坂がベンチ方向を指差す。

「ほら見ろ、太郎が出る準備してるぞ!」

「ホントだ!」

 

翼の目に、懐かしい相棒の姿が映った。

「岬くん……」

 

友坂が笑う。

「ベンチの動きも見えなくなってる。落ち着け、周りを見ようぜ。」

 

日本Jrユースの選手たちは頷き合い、再び冷静さを取り戻す。

 

 

「イタリアは俺たちを攻め上がらせて、ヘルナンデスのセービングからのカウンターを狙ってる。わざわざ誘いに乗ることはない。」

 

松山が続ける。

「そうだな、それぞれが役割を全うしよう。」

 

「よし、いいぞ。だが、守りながらも攻めの意識は忘れるな!」

「おう!」

 

ベンチの見上監督がほっと息をつく。

「よく落ち着けてくれたな、友坂。」

 

 

ピッチでは、友坂が翼の肩に手を置く。

「翼、ドライブシュートを止められたからってムキになるなよ。」

「えっ……」

「ただ撃つだけじゃ、世界じゃ通用しねぇ。分かってるだろ?」

翼は一瞬、目を伏せ、そして力強く頷いた。

「ああ。」

 

 

ボールがサイドラインを割り、転がった先に――岬太郎の足元。

 

観客席がざわめいた。

(岬だ……岬が出る!)

 

スローインから受け取った岬が、スッと加速。

華麗に三人をかわして進む。

その滑らかさは、3年前のまま。

 

友坂は心の中で微笑んだ。

(久しぶりの公式戦でこの動き……大したもんだよ、太郎。)

 

岬が前を向き、大きく蹴り出す。

そのパスの先には、ただ一人――翼。

 

「行こう、岬くん!」

「うん、翼くん!」

 

二人の連続パスワークが始まる。

まるで音楽のようにリズムが生まれ、ボールが舞う。

観客が総立ちになる。

 

「ゴールデンコンビが帰ってきた!」

 

 

イタリアは慌てて二人に二人ずつマークをつける。

だが翼はドリブルで二人を抜き去る。

スライディングを受け、体勢を崩す――

「翼くん!」岬が叫ぶ。

 

倒れ込みながらも翼がパスを折り返す。

岬がダイビングヘッドで飛び込む――と見せて、再び翼へパスを返す!

 

翼が走り込みながら、身体を投げ出して――

ダイビングヘッド!!

 

ネットが、大きく揺れた。

 

スタジアムが爆発した。

「ゴオオオオオオオル!!!」

 

日本、先制。

1-0。

 

 

 

焦るイタリア。

「このスコアは逆のはずだ!」

「負けるわけにはいかない!」

 

彼らの攻撃の隙を、友坂が見逃さなかった。

ボールをカット。

 

「いいぞ!」

「こっちも!」翼と岬が声を上げる。

 

イタリアの選手たちはすぐさま10番と11番をマーク。

だが――

 

友坂の前が、空いていた。

 

「今だ……!」

 

友坂は一気にスピードを上げ、ゴールへ突き進む。

「なんて速さだ!?」

「止めろっ!」

 

DFをクライフターンで抜き去る。

あっという間に、GKヘルナンデスと一対一。

ダブルヒールの動きの最中、友坂辰馬の中に電光のような直感が走った。

「違う…これじゃ読まれる!」

体が考えるより早く、もう一つの動きを選んでいた。

 

ヘルナンデスが飛び出した瞬間――

「……なら!」

 

友坂は、空中で三度、ヒールを交錯させた。

トリプルヒール。

 

ボールがヘルナンデスの頭上を越え、ゴールネットへ吸い込まれていく。

 

スタジアムは地鳴りのような歓声に包まれた。

 

「すごい! トリプルヒールだ!! 神業だ!!」

 

友坂は小さく息を吐き、呟いた。

(危ねぇ……あと一瞬でダブルで行くとこだった……)

 

 

ドイツ陣営。

「ヘルナンデス、ダブルヒールを知ってたな。」

「俺たちとの試合を見てたんだろうな…だがそれを超えるトリプルを即座に選択した友坂は……やはり恐ろしい。」

カルツの言葉に、ドイツJr.ユースの仲間たちはただ唖然としていた。

 

 

日本ベンチ。

若林が笑う。

「トリプルヒールとはな……やるじゃねぇか。」

井沢がニヤリ。

「若林さんはダブルでやられましたもんね。」

「うるせぇ!」

笑いが弾けた。

 

 

2-0。

完全に流れは日本。

 

イタリアはプライドをかけて反撃に出るが、松山と友坂を中心に守備は崩れない。

石崎が叫ぶ。

「試合断られた恨み、ここで返すんだ!」

次藤「おうたい!」

早田「こんなもんじゃねぇぞ、日本の守りは!」

 

イタリアFWが焦りのシュート――

若島津はキャッチせず、すぐに蹴り返す。

一瞬のカウンター!

 

友坂が叫ぶ。

「借りは三倍返しだ!」

翼が頷く。

「よし、もう一点行こう!」

 

 

ヘルナンデスの脳裏には焦りが走っていた。

(俺が三失点……あり得ない!)

 

だが現実は非情。

翼と岬の黄金連携が炸裂する。

服を引かれても、翼は止まらない。

破れたユニフォームの袖が風に舞う。

 

ヒールリフト、オーバーヘッド、弾かれたこぼれ球――

日向が吼える。

 

「うおおおっ!!!」

ネオ・タイガーショット!!

 

雷鳴のような音が鳴り響き、

ボールは黄金の右腕を弾き飛ばしてゴールへ突き刺さった。

 

ホイッスルが鳴る。試合終了。

 

 

スコア:日本 3 - 0 イタリア。

完勝。

 

 

歓喜に沸く日本ベンチ。

翼、岬、友坂、松山が日向のもとへ駆け寄る。

 

「ナイスシュート! 小次郎!」

「やったな!」

「すごいよ!」

 

日向は汗まみれの顔で笑い、静かに口を開いた。

「翼、俺はずっとお前に勝ちたい一心でここまで来た。でも――覚悟を決めた。」

「覚悟?」

「俺は、9番のストライカーとして、世界一のストライカーを目指す。」

 

翼が目を見開く。

友坂が微笑む。

「じゃあ俺も宣言だ。俺は――世界一のスーパーボランチになる。」

 

「……!」翼が拳を握る。

「うん! いつか俺たちで日本をワールドカップで優勝させよう!」

 

三人が肩を組む。

その姿に仲間たちが笑顔で集まった。

 

石崎「まずはこの大会の優勝だぜ!」

「おう!!!」

 

 

ヘルナンデスが歩み寄ってきた。

「まるで別のチームだったよ、日本。俺が三失点なんて、初めてだ。完敗だ。」

翼に右手を差し出す――いや、左手。

彼の黄金の右腕は、日向のシュートで痛めつけられ、包帯に覆われていた。

 

「ナイスシュート、そしてナイスゲーム。ボイコットしたこと、許してくれ。」

 

翼は笑って手を握る。

「もちろんだよ。」

 

「チャオ、日本!」

ヘルナンデスは泣き崩れる仲間を支え、去っていった。

 

 

試合後、観客席には「ニッポン!」のコールが響き渡った。

見上監督が呟く。

「これが、世界に挑むチームだ……」

 

そして友坂は空を見上げ、静かに拳を握った。

(目指すは……世界の頂だ。)

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。