副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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前話でスタメン12人じゃない?って感想がありました…だよね、そう思うよね。
立花兄弟入れ辰馬入れると多くね?って思いました。
でも立花兄弟のスカイラブツインシュートないとね……という原作に準じたというかやりたかったとういうか…どうしようと思った結果…うん、3バックということにしよ。と投げました…すいません。


貴公子の帰還

 

前半終了の笛が鳴り、選手たちが引き上げると、日本ベンチは一気に活気づいた。

タオルやドリンクが飛び交い、肩を叩き合う音と興奮した声が交錯する。

 

「良くやったぞ!」

「アルゼンチン相手に一点リードだ!」

「このまま押し切れるぞ!」

 

強豪アルゼンチンに対し、堂々とした戦いぶり。

それもただの守り切りではない、真正面から殴り合った上でのリード。

日本ベンチの空気は、確かに明るかった。

 

だが、その空気に一瞬、影が差す。

 

担架に腰を下ろし、肩を押さえる二人の少年――

立花政夫と和夫。

前半終了間際、身体を張って放ったスカイラブ・ツインシュートの代償だった。

 

見上監督が静かに、しかしはっきりと告げる。

 

「立花兄弟は下げる。

 医務室へ行き、ドクターに診てもらいなさい」

 

二人は一瞬だけ視線を交わし、悔しさを噛み殺すように唇を結んだ。

 

「……はい」

 

短い返事。

だが、その背中は誇らしかった。

二人はコーチに肩を支えられながら、ゆっくりとベンチを後にする。

 

(やりきった……)

(点は取った……)

 

その事実が、彼らを前へ進ませていた。

 

◆ ◆ ◆

 

見上監督は、選手全員を見渡す位置に立った。

その目は穏やかだが、芯はぶれていない。

 

「みんな、前半は本当によくやってくれた」

 

その一言で、ざわついていた空気が一気に引き締まる。

 

「だが――忘れるな。後半はアルゼンチンボールからのスタートだ。

 向こうは必ず、最初から攻勢に出てくる」

 

監督の声に、全員が無意識に背筋を伸ばす。

 

「ディアス、パスカル。

 あの二人の動きには、今以上に注意しろ。

 一瞬の油断が、試合をひっくり返す」

 

「はい!」

 

日本代表メンバーの声が揃う。

その響きには、前半の戦いを経た確かな自信が宿っていた。

 

◆ ◆ ◆

 

ドリンクを受け取りながら、友坂辰馬が翼に歩み寄る。

 

「翼。

 ディアスの動き……南米のリズムには合ってきたか?」

 

翼は額の汗を拭いながら、小さく笑った。

 

「うん……。

 でも、自分でやるのと、相手をマークするのとじゃ、やっぱり違うね。

 南米の選手は、一瞬の“遊び”が読みにくい」

 

その会話に、静かに三杉が加わる。

 

「それでも、上手く抑えられているよ。

 翼くんがディアスを見てくれているから、

 攻撃も守備も、全体が動きやすかった」

 

翼は一瞬、驚いたように三杉を見る。

 

「三杉くん……」

 

だが、すぐに首を振る。

 

「でも、それは友坂くんがパスカルを抑えてくれてたからだよ。

 ディアスも、明らかに選択肢が減ってた」

 

その名前を聞き、友坂は肩をすくめる。

 

「後半は、ディアスはもっと個人技で押してくるだろうな。

 パスカルの動きにも注意はするが……

 必要なら、ディアスのカバーにもすぐ行けるようにする」

 

翼と三杉が、同時に頷く。

 

そこには、言葉以上の信頼があった。

 

◆ ◆ ◆

 

再びピッチへ向かう選手たち。

芝の感触、スタジアムのざわめき、照明の眩しさ。

すべてが後半戦へのスイッチを入れていく。

 

各ポジションへ戻る途中、友坂辰馬はふと足を止め、センターサークルを見た。

 

そこには――

ディアスとパスカルが並んで立っている。

 

無言。

だが、視線は雄弁だった。

 

ディアスは、まっすぐに翼を睨んでいる。

先ほどの合体技、前半の主導権争い――

すべてが、その瞳に燃料を注いでいた。

 

パスカルは、友坂辰馬を見据える。

その視線には、苛立ちと闘志が入り混じっている。

 

(邪魔な男……)

(後半は、必ず仕留める)

 

友坂は、その視線を正面から受け止め、薄く笑った。

 

(来るな……)

(だが、来るなら受けて立つ)

 

日本とアルゼンチン。

才能と才能が正面からぶつかる戦いは、

ここからが――本番だった。

 

 

後半、アルゼンチンボールで試合が再開されると同時に、空気が一段階張りつめた。

その中心にいたのは、やはりこの二人だった。

 

翼は、キックオフの瞬間から一直線にディアスへ寄せる。

距離を詰める速さ、踏み込みの角度、そのすべてが迷いを捨てたものだった。

 

ディアス「……来るか」

 

左右に小刻みな揺さぶり。

フェイント、ボディシフト、南米特有のリズム。

だが――翼は離れない。

 

翼(逃がさない……今度は、絶対に!)

 

スピード勝負に持ち込もうとディアスが一気に加速する。

しかし翼は正面から受けて立ち、身体を寄せ、進路を切る。

 

次の瞬間――

ボールを挟んで、二人の足が激しく衝突した。

 

鈍い音。

ボールは真上へと高く跳ね上がる。

 

観客の視線が、一斉に宙へ向く。

 

翼とディアスは、ほぼ同時に跳んだ。

今度はヘディングで激突。

額と額がぶつかり、互いに空中で体勢を崩す。

 

それでも――二人は止まらない。

 

落下しながら、ほぼ同時に身体を反転。

オーバーヘッドキック。

 

空中で交錯する二つのシュートモーション。

だが、これも互角。

 

二人はほぼ同時にピッチへと叩きつけられ、芝が舞う。

 

(なんて意地の張り合いだ……)

 

スタジアムが息を呑む中、こぼれたボールに最初に反応したのは――友坂辰馬だった。

 

友坂「もらうぞ!」

 

鋭い一歩でボールを拾うと、間髪入れずにドリブル。

一人、二人と抜き去り、そのまま前を向く。

 

友坂(パスカルは松山に任せてきた……今は攻撃参加だ!)

 

全力で前線へ走り込む友坂。

岬がボールを受け取り、右サイドを駆け上がる。

 

岬の足元に吸いつくようなボールコントロール。

アルゼンチンDFを一人、また一人と翻弄していく。

 

岬はゴール前を一瞬だけ見た。

翼と友坂が走り込んでいる。

だが――翼の背後には、ぴったりとディアスが張りついている。

 

岬(ここは……辰馬か……?)

 

一瞬の迷い。

だが、その時――翼の目が、岬を射抜いた。

 

真っ直ぐで、迷いのない目。

 

岬(……わかったよ、翼くん!)

 

選択は決まった。

 

友坂(翼で行くんだな……よし、俺はフォローだ)

 

翼はディアスを背負ったまま、DFガルバンへと突っ込んでいく。

まるで、二人をぶつけるつもりかのように。

 

ガルバン(来る……!)

 

だが――

翼は衝突寸前で、側転。

 

そのままバク転。

さらにバク宙へと繋げ、空中で身体を反らす。

 

狙いは――オーバーヘッドキック。

 

ディアスも一瞬遅れて反応する。

一点目の友坂と同じように、ガルバンの股下をスライディングで抜け、翼を追う。

 

岬の右足から、完璧なピンポイントクロス。

 

ディアスは横から飛び、ボレーでブロックを狙う。

 

友坂(こぼれろ……!こぼれたら、俺が――)

 

だが、空中戦の結果、ボールはディアスの足に当たり、GKへのバックパスとなった。

 

友坂「なにぃ!?」

 

すぐさま守備へ切り替えようとするが、ディアスの声がピッチに響く。

 

ディアス「さあ攻めろ!今度は俺たちアルゼンチンの番だ!」

 

アルゼンチン「おう!!」

 

GKの大きなパントキック。

一気に前線へ運ばれるボール。

 

前日にイタリアを粉砕した、アルゼンチンの個人技とパスワークが牙を剥く。

だが、日本DF陣も一歩も引かない。

 

次藤が身体を張ってガルバンのシュートを防ぐ。

パスカルが狙い澄ました一撃を放とうとするが、友坂が間合いを詰めて許さない。

 

ディアスも何度もゴールを狙う。

だが――

 

若島津「来い……!」

 

気迫のセービング。

拳で、身体で、魂で止める。

 

観客席からどよめきが起こる。

 

こぼれ球は、再び友坂の元へ。

 

友坂は四人のアルゼンチン選手を引きつけ、一瞬の隙を作る。

 

友坂「翼!」

 

翼へ通るパス。

翼と岬のコンビプレイで一気に前進――だが、ディアスが再び翼に食らいつく。

 

岬は即座に判断を変えた。

 

岬「日向くん!」

 

日向はダイレクトで撃とうとする。

だが、パスカルが体を投げ出してブロック。

 

日向は倒れながらも、歯を食いしばる。

 

日向(まだだ……!)

 

執念で、翼へとラストパス。

 

翼は叫ぶ。

 

翼(絶対に……決める!)

 

無理な体勢。

それでも、身体を反転させ――オーバーヘッドキック!

 

だが、ディアスがまたもブロック。

 

翼の耳に、声が届く。

 

「翼くん!」

 

岬だ。

翼とディアスの横を、空中で並走している。

 

翼は、空中姿勢のまま足を振り抜く。

シュートではない――パス。

 

岬はそのまま――

 

ジャンピングボレーシュート!!

 

乾いた音。

ボールは一直線にゴールへ突き刺さった。

 

スタジアムが爆発する。

 

友坂「岬!!さすがだぜ!!」

 

翼「岬くん!ナイスシュート!!」

 

スコアボードが書き換わる。

 

日本 4 ― 2 アルゼンチン

後半15分。

点差は2点。

 

偵察に訪れていた各国代表の選手たちが、ざわめく。

 

「日本が……ここまでとは……」

「本物だ……」

 

だが、アルゼンチンも折れてはいない。

 

ディアスは拳を握りしめ、前を向く。

 

ディアス「残り15分……2点だ。延長に持ち込める」

 

パスカルが頷く。

 

パスカル「やろう、ディアス!」

 

天才と天才。

誇りと誇り。

 

この試合は、まだ終わらない。

 

 

日本とアルゼンチン、互いの意地と誇りがぶつかり合う死闘の只中――

ついに、その男が牙を剥いた。

 

ディアスは仲間たちの巧みなサポートを受けながら、中央でボールを受け取る。

一瞬、ピッチ全体が静止したかのように見えた。

 

(来る……)

 

日本代表の誰もが直感する。

それは、ただの攻撃ではない。

 

ディアスは一歩踏み出すと同時に、身体を宙に預けるようなアクロバティックなドリブルを開始した。

重心を殺し、リズムをずらし、常識を裏切る軌道でボールを操る。

 

新田が飛び込む――かわされる。

佐野が寄せる――一瞬で置き去り。

石崎、次藤、早田、松山――次々と翻弄され、誰一人として止められない。

 

「止めろぉぉぉ!!」

 

最後に立ちはだかったのは、GK若島津と――友坂辰馬だった。

 

ディアスと友坂。

この試合、幾度となく警戒してきた二人が、初めて真正面から向き合う。

 

ディアス(こいつ……まだ来るか)

 

友坂は一歩も引かず、間合いを詰める。

読み、予測、反応――すべてを極限まで研ぎ澄ませる。

 

しかし――

ディアスは、そのさらに一段上を行った。

 

限界まで引きつけ、体勢を崩しながらも、紙一重でボールを外側へ流す。

友坂のスライディングを、本当にギリギリでかわした。

 

友坂(……くっ!)

 

ディアスはそのまま振り抜く。

 

シュート。

 

轟音のようなインパクトと共に、ボールはゴールネットを揺らした。

 

――ゴール。

 

スタジアムが割れんばかりの歓声に包まれる。

 

スコアボードが更新される。

 

日本 4 ― 3 アルゼンチン

残り時間、10分。

 

ディアスのハットトリック。

一点差。

 

空気が、一気に変わった。

 

残り7分。

同点。

リーグ敗退。

 

その二文字が、日本代表の脳裏をよぎる。

 

GK若島津は無意識に拳を握り締め、

副キャプテン松山は歯を食いしばり、

ストライカー日向でさえ、一瞬だけ「負け」を想像した。

 

――不安。

――恐怖。

 

それが、確実にチームの空気を侵食し始める。

 

その空気を、切り裂いたのは――友坂辰馬だった。

 

友坂「……お前たち、このままなら負けるぞ」

 

あまりにも冷酷で、あまりにも現実的な一言。

 

日本メンバー「……っ」

 

誰も反論できない。

目を閉じ、耐える者もいた。

 

翼「友坂くん……!」

 

友坂は翼を見据える。

 

友坂「お前も分かってるはずだ。このままじゃ危険だ」

 

翼「それは……」

 

否定は、できなかった。

 

日向「……点を取れってことだな」

 

松山「点を……取る……」

 

友坂「そうだ」

 

不敵な笑みを浮かべる。

 

友坂「この時間で一点差なら、アルゼンチンは絶対に諦めない。だからこそ――俺たちがもう一点取るんだ」

 

静かに、しかし確信をもって言い切る。

 

友坂「攻撃こそが、最大の防御だ」

 

翼は強く頷いた。

 

翼「うん……もう一点取って、引き離そう。そして勝とう!」

 

日本メンバー「ああ!!」

 

友坂(さっきの借りは……必ず返す)

 

隣で日向がニヤリと笑う。

 

日向(辰も、完全に火がついたな……)

 

一方、スタジアム全体は――

ディアスが5点目を奪い、2試合連続5得点で試合を決める。

そんな“流れ”を確信し始めていた。

 

ウルグアイ代表・ビクトリーノ

「これは……ディアスがやる流れだな」

 

フランス代表・ナポレオン

「勢いはアルゼンチンだ」

 

同じくピエール

「同点にされたら……日本は耐えられないかもしれない」

 

西ドイツ代表・シェスター

「そして引き分けでもグループリーグ突破は得失点差でアルゼンチンだ。」

 

同じくシュナイダー

「だが……」

 

カルツ

「ああ。あの10番と7番が、それを許すとは思えん」

 

確信にも似た言葉。

 

日本ボールで再開された試合は、センターサークル付近で激しい主導権争いとなる。

 

アルゼンチンは守備を固め、

日向や新田へ安易にパスを出せば即座に潰される布陣。

 

ディアス「どうした10番……そろそろ勝負しに来いよ!」

 

翼「……その手には乗らないよ」

 

翼は迷わず、友坂へバックパス。

 

ボールを受けた友坂は、マークしていたパスカルをファルカンフェイントであっさりとかわす。

 

さらに――

寄せてきたディアスを、ダブルヒール。

 

観客がどよめく。

 

友坂(今だ!)

 

ペナルティエリア外から放たれた――

暴龍ボレーシュート。

 

強無回転。

不規則に、凶暴に揺れる軌道。

 

GKもDFも反応できない。

 

(入った――)

 

誰もがそう思った瞬間。

 

――ガンッ!!

 

ボールはゴールポストを叩き、サイドラインを割った。

 

日本、悔恨。

アルゼンチン、安堵。

 

ディアス「……一点を守る気じゃねえな、こいつら」

 

ガルバン「舐めてやがる……」

 

パスカル「違う。日本は……勝つために取りに来てる」

 

友坂(くそ……読めない変化だ……)

 

翼「どんまいだよ、次も狙おう」

 

日向「まだ時間はあるぜ」

 

その時――

日本ベンチが動いた。

 

翼「ああ……とうとう、彼が」

 

見上「準備はいいか、三杉」

 

三杉「はい」

 

フィールドの貴公子――三杉淳。

ついに、日本Jr.ユースとしてピッチに立つ。

 

 

 

新田がベンチへ下がり、ピッチに足を踏み入れたその男を見て、

日本代表の空気が、わずかに――しかし確実に変わった。

 

白いユニフォームに、落ち着いた足取り。

長い前髪の奥に、研ぎ澄まされた知性の光を宿した男。

 

三杉淳。

 

松山が真っ先に駆け寄る。

「三杉!」

 

その声に呼応するように、周囲の仲間たちも集まってくる。

荒い息、汗に濡れた額。

終盤、疲労は誰の身体にも重くのしかかっていた。

 

だが――

三杉はその輪の中心で、静かに口を開いた。

 

「みんな……試合も終盤だ。疲れもピークだろう」

一拍、間を置く。

「でも、残り5分。集中してプレイしていこう」

 

その声は決して大きくない。

だが、不思議なほどよく通った。

 

仲間たちの背筋が、すっと伸びる。

言葉以上に、存在そのものが士気を引き上げていた。

 

少し離れた位置から、その様子を見ていた友坂辰馬が、

ゆっくりと近づく。

 

「三杉……いけんだな?」

 

それは確認だった。

戦術ではない。

覚悟の問いだ。

 

三杉は、迷いなく友坂を見返す。

その瞳には、退路も不安もなかった。

 

「ああ。任してくれ」

 

短い言葉。

だが、すべてが詰まっていた。

 

それを理解した友坂は、何も言わずに頷く。

日向、翼、岬――

日本の中枢を成す男たちも、視線を交わし、同じく頷いた。

 

(行ける)

 

それだけで、十分だった。

 

 

アルゼンチンのスローインから試合が再開される。

 

ボールは素早くパスカルへ。

ディアスには翼がぴたりと張り付き、自由を奪っている。

 

(ディアスには10番……)

(7番も、今は俺から離れてる……)

 

パスカルの脳裏に、確信が走る。

 

(――俺が、作る!)

 

ドリブルで前へ。

一気に局面を打開しようと、加速した瞬間だった。

 

背後――

いや、横から。

 

音もなく忍び寄る、黒い影。

 

「だから……何度も言ったろうが……」

 

低く、冷たい声。

 

「えっ――!?」

 

次の瞬間、

閃光のようなスライディングタックルが、パスカルの足元を薙ぎ払った。

 

「好きにはさせないってな!」

 

ボールは完璧に刈り取られ、

パスカルは為す術なく芝生に倒れる。

 

影の正体――

日本の7番、友坂辰馬。

 

「さすが友坂!」

石崎が叫ぶ。

 

「おれのカミソリタックルを超えてるぜ!」

早田が歯を見せて笑う。

 

実況席も沸騰する。

 

「友坂くん! パスカルくんからボールを奪取!」

「この試合、友坂くんはアルゼンチンのパスカルくんを完璧に封じています!」

「これではアルゼンチンは100%の実力を発揮しているとは言い難い!」

「見事なプレイ! 日本No.1ボランチ、軍師・友坂辰馬は世界でも通用しているぞ!」

 

芝生に伏したパスカルは、

悔しさに地面を叩く。

 

「くそぉ……!」

 

その姿を一瞥しながら、友坂はボールを足元に収める。

 

(このまま行ってもいいが……)

(久々の試合だ。――魅せてみろ)

 

次の瞬間、

友坂の蹴ったボールは、一直線に三杉淳の元へ。

 

(いけ! 三杉!)

 

「見せてくれ……フィールドの貴公子の実力を!」

松山が叫ぶ。

 

(久しぶりだな……)

(君のサッカーを見るのは)

岬が静かに見守る。

 

「頼むぜ!」

「三杉!」

「ぶちかませ!」

 

声が、想いが、

一斉に三杉へと注がれる。

 

三杉は、胸の奥でそれを受け止め、

微笑むように呟いた。

 

「……友坂くん。みんな、ありがとう」

 

ボールを受けた瞬間、

三杉淳は舞った。

 

蝶が舞い、

蜂が刺す。

 

華麗で、鋭く、そして知的なドリブル。

アルゼンチンの選手たちを、次々と置き去りにしていく。

 

(ボクは……)

(ベンチにいても、戦っていた)

(君たちアルゼンチンと)

 

(動きはすべて、研究済みだ)

 

「なんだ、こいつは!?」

「10番と遜色ないぞ!?」

 

動揺が広がる。

 

観客席の西ドイツ代表が、目を見張る。

「日本には……まだ、これほどの男がいたのか!?」

 

フランス代表もざわつく。

「あのドリブル……ピエールとそっくりだ!」

 

友坂は、その光景を見て、内心で頷く。

 

(アルゼンチンには天才は一人……ディアスのみ)

(だが、日本には二人いる)

 

(大空翼と……三杉淳だ)

 

ボールは流れる。

三杉から翼へ。

翼から三杉へ。

三杉から岬、日向を経由し、再び三杉へ。

 

左には翼。

右には、友坂自身が走り込む。

 

だが――

翼の近くに、ディアスがいる。

 

一瞬の判断。

三杉は、右を選んだ。

 

友坂辰馬へ。

 

シュートかと思われた、その瞬間――

 

(代表戦出場祝いだ)

(決めろよ、三杉!)

 

高く、優しいリターン。

 

「ありがとう……」

「決めるよ!」

 

三杉淳、跳ぶ。

 

宙で身体を反転させ、

放たれたオーバーヘッドシュートは、

アルゼンチンゴール右隅へ――突き刺さった。

 

5―3。

 

実況が絶叫する。

 

「決まったぁぁぁ!!」

「日本、5点目!」

「価値あるダメ押しの追加点!」

「残り2分での致命的な失点です!」

 

アルゼンチンの選手たちは、愕然と立ち尽くす。

諦めの色が、ピッチに広がる。

 

(……よし)

(心は、折れたな)

 

そう確信した友坂だったが――

 

「……ん?」

 

ディアスは、ボールを抱え、センターサークルへ向かっていた。

 

「ディアス?」

パスカルが声をかける。

 

「残り2分……いや、ロスタイム込みで3分弱ってとこか」

「最後まで、諦めないぜ」

 

振り返ったディアスの瞳には、

一点の迷いもなかった。

 

その姿に、アルゼンチンの士気が、再び持ち直す。

 

(……やはり、天才だ)

(キャプテンとしても、非凡)

 

友坂は、すぐに気持ちを切り替える。

 

(だが――勝つのは日本だ)

 

翼が叫ぶ。

「気を抜くな!」

 

「その通りだ!」

友坂も声を張る。

「一瞬の油断が命取りになる! 絶対に気を抜くな!」

 

「おう!!」

 

松山はDFラインをまとめ、

翼、友坂と最終確認を交わす。

 

(アルゼンチンにはディアスという太い柱がある)

(だが、日本には……)

 

(キャプテン大空翼という太い柱と)

(それを支える、副キャプテン)

(松山光と友坂辰馬――二本の柱がある)

 

最後の猛攻を、

日本は冷静に、そして粘り強く耐え切った。

 

――試合終了。

 

ホイッスルと同時に、

日本代表の喜びが爆発する。

 

「やったな、三杉!」

「ほんと、すごかったぜ!」

 

「ありがとう!」

三杉が笑う。

「友坂くん、アシストありがとう!」

 

「天才・三杉淳の代表デビューだからな」

 

その中心で、翼とディアスが言葉を交わし、

互いの健闘を称え合い、

ユニフォームを交換する。

 

10番と10番。

 

そして――

パスカルが、友坂の前に立った。

 

「7番……お前の名前は?」

 

「友坂辰馬だよ」

 

「そうか……今回は完敗だ」

「俺は……何も出来なかった」

 

「まあ、今回はな」

友坂は笑う。

「リベンジなら、いつでもいいぜ」

 

「……これから先」

「ユースでも、オリンピックでも、ワールドカップでも」

「そして……プロになっても、か」

 

「だろうな」

 

「なぁ辰馬……ユニフォーム、交換しないか?」

 

「いいね」

「お前とは、何度も戦う予感がするよ…パスカル」

 

二人はユニフォームを交換し、

固く、熱い握手を交わした。

 

 

後年、

この試合は「世界が日本を本気で警戒し始めた試合」として語られる。

 

そして、パスカルは友坂辰馬と

国際大会、プロリーグで幾度となく激突する宿命のライバル一人となり、

 

大空翼とディアスは、

世界最高峰の舞台で再び相まみえることになる。

 

だが、それは――

まだ、少し先の物語。

 

 

 

 

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