副キャプテン 辰馬   作:匿名希望のぽっちゃり

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前話に立花兄弟またいたね…なんで彼らは出ているんだろう?
そして誰が変わったのか…反町と…うーんと、うーんと……うん、見なかった事にしよう。
いつか直す事もあるだろう。


原作見ながら描いたからおかしな事になってしまった
すでに何話か描いてるけど…このままいこう。
がんばれ俺!


軍師曰く「……あの時は…若かったんだよ」

 

日本チームの控え室には、外の喧騒とは切り離された、重く張りつめた空気が漂っていた。

壁に掛けられた時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえる。

 

早田誠は、ベンチに腰を下ろしたまま俯いていた。

濡れたユニフォームのまま戻ってくる仲間の姿を、何度も想像しては打ち消す。

 

(……一点リードされてから、何の知らせも来ない)

 

もう試合は終わっていてもおかしくない時間だ。

それなのに、誰も戻ってこない。

 

(もしかして……負けちまったのか)

 

胸の奥が、じわりと冷えていく。

歯を食いしばり、拳を握ったその時――

 

ガチャッ、と乾いた音がして、控え室のドアが開いた。

 

早田は、はっと顔を上げる。

 

そこに立っていたのは、自分より二つ年下の少年――

沢田タケシだった。

 

雨に濡れた髪を軽く振りながら、タケシは満面の笑みで飛び込んでくる。

 

「早田さん!」

 

その声に、早田の心臓が跳ねる。

 

「終了間際に、翼さんと岬さんが攻めた末に……辰馬さんが押し込んで、同点です! 延長戦ですよ!」

 

一瞬、言葉の意味を理解できなかった。

だが次の瞬間、胸いっぱいに息が流れ込む。

 

「……そうか」

 

力が抜けたように、早田は小さく笑った。

 

「みんなは?」

 

「休憩時間がほとんどないので、ベンチの前でそのまま休んでます!」

 

早田は、ゆっくりと頷く。

 

「そうか……」

 

そう答えながらも、心の奥では別の思いが渦巻いていた。

 

(延長戦……しかも、一人少ない状態で十分ハーフ……)

 

勝てるのか。

本当に、勝ち切れるのか。

 

不安は、どうしても拭えなかった。

 

早田の表情が曇ったことに、タケシはすぐ気づいた。

少年は一歩近づき、努めて明るい声で言う。

 

「大丈夫ですよ、早田さん」

 

「辰馬さん、言ってたじゃないですか」

 

――借りは、倍にして返す。

 

その言葉に、早田は顔を上げる。

 

「……ああ、言ってたな」

 

あの時は、自分を励ますための言葉だと思っていた。

勢いで言った、強がりなのかもしれない、と。

 

タケシは少し照れたように笑い、視線を遠くに向けた。

 

「昔の話なんですけど……」

 

 

――タケシの語りは、そこでふっと色を変えた。

まるで、雨のスタジアムから一気に時間を巻き戻すように。

 

 

それは、タケシがまだランドセルを背負っていた頃の話だった。

 

放課後。

夕方前の少し傾いた陽射しの中、タケシは駄菓子屋の袋を大事そうに抱えて歩いていた。

中には、貯めに貯めた小遣いでようやく買えた小さなおもちゃ。

胸の奥が、くすぐったくなるくらい嬉しかった。

 

――その時だった。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

背後から、やけに図体の大きい影が落ちる。

 

振り返ると、そこには六年生が五人。

全員、腕組みをして、いかにも“よろしくない”笑いを浮かべていた。

 

「へえ、いいもん持ってるじゃん」

 

「一年か? 二年か?」

 

次の瞬間、袋はひったくられていた。

 

「あっ……!」

 

タケシは反射的に手を伸ばしたが、届かない。

 

「返して……ください」

 

声は、震えていた。

目尻には、もう涙が滲んでいる。

 

「お願いです……それ、僕の……」

 

だが六年生たちは、鼻で笑うだけだった。

 

「うるせーな」

 

「ガキが」

 

半泣きで訴えるタケシを、完全に楽しんでいる。

 

――そこへ。

 

「ちょっと!」

 

凛とした、しかし幼さの残る声が割って入った。

 

六年生たちが振り返ると、そこに立っていたのは一人の少女。

宗像尚美。

大きなリボンを髪につけ、どこかお嬢様めいた雰囲気をまとった女の子だった。

 

「あなたたち! この子が可哀想でしょ! 返してあげなさいよ!」

 

一瞬、場が静まる。

 

次の瞬間――

 

「は?」

 

リーダー格で、一番体の大きい六年生Aが眉をひそめた。

 

「なんだお前、関係ねえだろ」

 

「そうだそうだ!」

六年生Bが囃し立てる。

 

だが、尚美は引かなかった。

 

「関係あるわよ! あんたたちが悪いんでしょう!」

 

「先生に言うからね!」

 

その言葉に、空気が一変する。

 

「ふざけんなよ!」

六年生Cが一歩踏み出す。

 

「言ったら、ただじゃおかねえぞ!」

 

「可愛いリボンつけて、出しゃばるんじゃねえよ」

 

六年生Dが、尚美の髪に手を伸ばし――

次の瞬間、リボンを乱暴に引き抜いた。

 

「あっ!」

 

「やめて! 返して!」

 

尚美は涙目になり、両手を伸ばす。

 

「それ、ママに買ってもらったのなの!」

 

だが、六年生Dはリボンを高く掲げて、意地悪く笑った。

 

「やーだよ」

 

「出しゃばるのが悪いんだろ?」

 

さらに――

 

「邪魔だ、どけ!」

 

六年生Eが尚美を突き飛ばした。

 

「きゃっ!」

 

ドスッ、という鈍い音。

 

尚美は塀にぶつかり、そのまま尻餅をついた。

制服は汚れ、袖の一部が破れている。

 

「……いたい……」

 

服を見下ろした瞬間、尚美の顔が歪んだ。

 

「……ええーん!」

 

「お気に入りの服だったのに~!」

 

六年生たちは、まるで反省もせず言い放つ。

 

「だから言っただろ、突っかかってくるからだ」

 

「もう行こうぜ」

 

そう言って、彼らはタケシのおもちゃと尚美のリボンを持ったまま、去っていった。

 

残されたのは――

泣きじゃくるタケシと尚美。

 

 

「……どうした?」

 

その時だった。

 

背後から、低く、しかし妙に落ち着いた声がした。

 

二人が顔を上げると、そこに立っていたのは少年――

友坂辰馬。

 

当時から、喧嘩上等。

相手が年上だろうが人数が多かろうが、一歩も引かない悪童。

町ではすでに有名な存在だった。

 

タケシは、その迫力にビビりながらも事情を説明した。

 

「じ、実は……」

 

一通り聞き終えると、辰馬は短く言った。

 

「……そうか」

 

次の瞬間、辰馬は自分の黒いジャージを脱ぐと、尚美の肩にそっとかけた。

 

「頑張ったな、宗像」

 

尚美が、はっと顔を上げる。

 

「……え?」

 

辰馬は、静かに続けた。

 

「安心しろ」

 

「借りは、倍にして返してやるから」

 

その言葉に、尚美はぽかんとし、

タケシは「倍?」と小さく呟いた。

 

「お前ら、そこの駄菓子屋で少し休んでろ」

 

「俺、すぐ戻るから」

 

そう言い残すと、辰馬は六年生たちが消えた方向へ走り出した。

 

 

それから――

三十分も経たないうちに。

 

「おー」

 

ひょい、と現れた辰馬の手には――

 

タケシが奪われたおもちゃ。

それに加えて、なぜか携帯ゲーム機の本体とソフトが数本。

 

「取り返してきたぞ」

 

「……えっ?」

 

「えっ!?」

 

タケシは目を丸くする。

 

「な、なんでゲームまで……?」

 

辰馬は、あっけらんと答えた。

 

「言ったろ?」

 

「倍にして返すって」

 

さらに。

 

「ほい。服はなかったから代わりな」

 

そう言って尚美に渡されたのは――

大量のズボン。

 

どう見ても、五人分どころではない。

 

尚美は一瞬きょとんとし、すぐに首を横に振った。

 

「いらないわ」

 

そして駄菓子屋のおばあさんに頼み、

その場でゴミとして処分してもらった。

 

 

少し落ち着いた頃。

 

尚美が、じっと辰馬を見つめて言った。

 

「ねえ、友坂くん」

 

「ズボン……どう見ても五人分じゃなかったわよね?」

 

「倍どころじゃなかった気がするんだけど」

 

辰馬は、あっさり答える。

 

「ああ。空き地にいた」

 

「なんか十人くらい、仲間と一緒に」

 

「誰がやったか分かんなかったから、まとめて殴って奪っといた」

 

タケシと尚美、同時に絶句。

 

(雑すぎる……)

 

だが、尚美はふっと笑った。

 

「……ありがと、辰馬」

 

その瞬間から、

「友坂くん」は「辰馬」になった。

 

「ありがとうございます、辰馬さん」

 

タケシも自然とそう呼んでいた。

 

そして――

 

尚美は、少し頬を赤らめると、辰馬に近づき、

そっと頬にキスをした。

 

「……ホントに、ありがと」

 

「……!」

 

辰馬は、理解するのに一拍遅れ、

次の瞬間、耳まで真っ赤になる。

 

タケシはというと――

顔を赤らめつつも、目をキラキラさせていた。

 

(すげえ……)

 

 

――その頃。

 

空き地では。

 

六年生の悪ガキたち十人ほどが、無惨な姿で転がっていた。

全員、ズボンを奪われ、下半身は下着姿。

 

「痛えよ~!」

 

「なんで俺たちまで~!」

 

「ゲームまで取られた~!」

 

「それよりズボンだろぉ!?」

 

「倍にして返すって何だよ!」

 

中でも、五人組のリーダー格は悲惨だった。

両目に青タン、鼻血、髪も一部抜かれている。

 

「……くそ……覚えてろよ」

 

だが、その言葉に周囲は冷たい。

 

「やめとけって……」

 

「友坂辰馬と揉めるなって言われてるだろ……」

 

それでもリーダーは吠えた。

 

「絶対許さねえ!」

 

「どんな手使っても泣かしてやる!」

 

――だが。

 

この小さな逆恨みが、

後に若堂流空手の後継者・若島津真、

ひびきの市ときらめき市という二つの街を束ねる男・一文字薫との因縁へと繋がっていくことを、

この時、誰も知らなかった。

 

それは――

まだ、ずっと先の話。

 

 

 

タケシは最後に胸を張り、力強く言い切った。

 

「てな事があって、辰馬さんは借りは必ず倍にして返しますから! 安心してください、早田さん!」

 

その言葉に、早田は一瞬きょとんとし――

すぐに苦笑を浮かべた。

 

「お、おお……そうだな」

 

(……いや、倍ってそういう意味だったか?

 なんか色々おかしい気もするが……)

 

だが、タケシの必死さ、そして辰馬を信じ切っているその目を見て、

早田はそれ以上ツッコむのをやめた。

 

(話、だいぶ盛ってるだろうしな……

 けど、俺を励まそうとしてくれてるのは間違いない)

 

その事実だけで、胸の奥に溜まっていた重たいものが、少しだけ軽くなった。

 

早田は立ち上がり、控え室の壁に掛けられた時計を見る。

針はすでに、延長戦開始の時刻を示そうとしていた。

 

「それよりタケシ」

 

早田は、いつもの兄貴分らしい口調で言った。

 

「お前、戻らなくていいのか?」

 

「もうすぐ延長戦が始まるぞ」

 

その一言で、タケシは目を見開いた。

 

「……あっ!!」

 

完全に忘れていた、という顔だ。

 

「そ、そうだった!」

 

慌てて踵を返し、ドアに向かって走り出す。

だが、途中でぴたりと止まり、振り返った。

 

「早田さん!」

 

「みんな、絶対やってくれます!」

 

「辰馬さんも、日向さんも、翼さんも……」

 

「だから、信じましょう!」

 

そう言って、満面の笑みを浮かべる。

 

早田は、その笑顔に一瞬目を細め、

静かに、しかし確かな声で答えた。

 

「ああ……信じてるさ」

 

「アイツらは、そんな簡単に終わる連中じゃない」

 

タケシは深く頷くと、勢いよくドアを開けた。

 

「それじゃあ早田さん、また!」

 

「行ってきます!」

 

バタン、とドアが閉まる。

 

控え室に残された早田は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 

――延長戦。

一人少ない状況。

相手はフランス。

 

決して楽な条件じゃない。

 

それでも。

 

(……借りは倍にして返す、か)

 

早田は、ふっと笑う。

 

「まったく……」

 

「物騒な励まし方しやがって」

 

だが、その顔に浮かんでいたのは、不安ではなく――

確かな期待だった。

 

(辰馬……)

 

(お前、本当にその言葉通りの男だからな)

 

ピッチの向こうでは、雨の中、選手たちが集まり始めている。

ホイッスルが鳴れば、すべては再び動き出す。

 

早田は、静かに拳を握りしめた。

 

「……頼む、お前ら」

 

その声は、誰に聞かれるでもなく、

しかし確かに――

雨のスタジアムへと溶けていった。

 

そして、運命の延長戦が、

今まさに幕を開けようとしていた。

 

 

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