副キャプテン 辰馬 作:匿名希望のぽっちゃり
全国大会の熱戦からしばらく経ち、日向、辰馬、若島津、そしてタケシは地元に戻っていた。
放課後の専用グラウンドは、かつて明和小で練習していた特別な思い出の場所とは違い、今や整備された芝生と白線が引かれた立派な練習場になっている。木陰や観客席もあり、かつての小さな校庭での練習がまるで昔話のように思える。
日向は汗だくのユニフォームを脱ぎ、ベンチに腰を下ろす。全国大会での若林との戦いや決勝戦の記憶がまだ鮮明に残っており、額に浮かんだ汗を手で拭いながら、少し悔しそうに口をつぐむ。
「辰、あのSGGK伝説な……俺、結局破れなかったな」
彼は遠くを見上げ、ペナルティエリア外からゴールを決められなかった悔しさを噛みしめる。若林の守備は本当に鉄壁で、ペナルティエリア外からはほとんど決められないという記録を更新されてしまったのだ。
「小次郎、まだ悔しそうだな」
辰馬が横に座り、軽く笑みを浮かべる。
「まぁ、でも今度は東邦学園でまた戦える。あいつに負けないなら、俺たちはもっと強くなれる」
「そうだな……次は絶対リベンジだ」
小次郎も拳を握り、闘志を再び胸に宿す。
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その隣で若島津は拳を握り、肩を揺らしながら言った。
「俺も空手で鍛えてるけど、やっぱりサッカーはまた別の力を要求されるな」
若堂流の空手を受け継ぐ彼は、実家の道場で後継者としての自覚も持っている。家業の伝統を背負いつつ、サッカーでも自らを試す日々。顔には疲れもあるが、目は力強く輝いていた。
「タケシはまだ明和FCで練習続けるんだろ?」
辰馬が下級生のタケシに声をかける。
「はい! 先輩たちに負けないように、推薦もらえるように頑張ります!」
タケシは元気よく答える。その瞳には真剣さが宿り、先輩たちに追いつこうとする意志が見える。
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校庭の隅、木陰に座る四人は、かつての思い出話に花を咲かせる。
「覚えてるか? 明和小での特別練習……あのときの芝生、ほんとに狭くてさ」
辰馬が笑いながら言う。あの小さな校庭で、彼らは全力で走り、汗と涙を流したのだった。
「そうだったな……あの狭さだからこそ、連携や瞬発力を鍛えられたんだろうな」
小次郎も微笑む。思い返せば、無限のように続く練習時間と仲間との競り合いが、今の自分たちを作っている。
「若林のSGGK伝説も、あの頃の小さな努力の延長線上にあったんだろうな」
辰馬が感慨深く呟く。ペナルティエリア外からゴールを許さない若林の守備に、日向は悔しさを隠せなかった。
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「小次郎、そういえばバイトはどうなんだ?」
辰馬が質問する。小次郎はおでん屋でのバイトのことを思い出し、笑みを浮かべる。
「忙しいけど、まあ楽しいよ。東邦学園に行けば奨学金も出るし、少しは楽になるかな」
日向の声には、少し安心したような響きがあった。
「辰馬は?」
若島津が静かに尋ねる。
「俺は……彼女と一緒に帰るよ」
辰馬はにっこり笑った。地元で、幼馴染の彼女のことを思いながら、穏やかな時間を過ごす。
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ふと、話題は再び試合のことに戻る。
「無回転シュート……あの瞬間は今でも信じられない」
辰馬が指でボールの軌道を描きながら言う。
「俺だって翼に負けずに戦ったつもりだけど、あれは完全に辰馬のプレイだった」
小次郎も笑いながら答える。
若島津も少し顔を赤らめて、
「辰馬さん、ほんとに凄かったです……あのゴールは忘れられません」
タケシも元気よく声を上げる。
「辰馬先輩、格が違います!」
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夕焼けが校庭を染め、木陰の四人の影を長く伸ばす。
風がそよぎ、穏やかな音を運んでくる。
放課後の静けさの中で、彼らは未来のことを語り合う。
「小次郎、俺たちこれから東邦でまた戦うんだな」
辰馬が言うと、小次郎は力強く頷く。
「もちろんだ。次は絶対に勝つ」
若島津も頷き、タケシも元気よく応える。
四人の背中には、過去の熱戦の記憶も、これからの夢も、すべて詰まっていた。
――放課後の専用グラウンドで、木陰に座る四人。
試合は終わったが、サッカーと夢の物語はまだ続いている。