Re:ありふれた破壊者と魔王は世界最強   作:マサヒロ (旧名デイブレイク)

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やっぱやります。


EP 0010 奈落の底

 

 

 

ザァーと水の流れる音がする。

冷たい微風が頬を撫で、冷え切った体が身震いする。

僕は、頬に当たる硬い感触と下半身の刺すような寒さに目を覚ました。

 

「うっ…ここは……?」

 

ズキズキと痛む全身に眉根を寄せながら両腕に力を入れて僕は体を起こした。

ふらつく頭を片手で押さえながら、記憶を辿りつつ辺りを見回す。

 

「僕は、確か…」

 

周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどじゃあなかった。

視線の先には幅五メートル程の川があり、僕の下半身が浸かっている。

上半身が突き出た川辺の岩に引っかかって乗り上げたみたいだ。

 

「そうだ…あの時誰かに吹き飛ばされて、そのまま……ッ!香織!」

 

僕は体を起こして周りを見渡すと僕の直ぐ近くに横たわっていた。

直ぐに駆け寄ると香織の胸は上下に動いていて生きてると分かり一安心して、香織を岸まで引き上げた。

僕は香織を川から少し離れたに移して、そこを大体の中心にして錬成を行使する。

錬成で簡易的な壁と扉を作るとポーチから火打石とマガジンを取り出す。

マガジンから弾丸を全て取り出すとその弾丸に込められていた燃焼石を取り出すと、火打石で燃焼石に火花を飛ばして火を起こした。

そして起きた拳大の火に石炭モドキを放り投げて、火を燃え続けるようにする。

 

「あれっ、ライドウォッチが無い!」

 

僕は服を乾かすために、服を脱いでジクウドライバーを外した時にライドウォッチが無いことにようやく気が付いた。

多分、あの時変身解除されたときに落としたのだろう。

 

「どうしよう…ジオウに変身出来なきゃ僕はただの一般人だし…」

 

ショックと恐怖を感じながらも香織の服を一瞬躊躇したけれど下着以外を脱がせて、火の近くにその体を移動させる。

 

「ん…こ、こは?」

 

「よかった…香織、目を覚まして」

 

火に当たってから暫くして体が温まったのか香織が目を覚ました。

 

「ここは…どこ?」

 

香織は混乱した表情で周囲を見回す。

まだ夢うつつといった感じで、体を起こすのも辛そうだ。

 

「分からない…だけど、確実に僕達が居た65層よりは下の層だと思う…でも、何とかなるよ!」

 

香織の質問にできる限り明るい声で答えた。

だけどこれは僕の強がりで香織にもそれは伝わっていると思う。

だけど香織は何を聞くでもなく「そっか」とだけ言うと横にきて僕に寄りかかってきた。

僕には彼女の髪を撫でる位しかできなかった。

 

 

 

「やっぱり無い…」

 

服も乾いて体も暖まった後に、僕はライドウォッチを探すためにこの場所に流れ着いた川に来ていたが見当たらなかった。

だけど見つかった物はある。

それは士君が使おうとして叩き落とされたゼロワンのライダーカードだけだった。

 

「士君……いや、ダメだな今ここに士君はいない。何とか二人で地上に戻るんだ」

 

「そうだね、ここが私たちのいた所から更に下なら上に戻る階段もあるかも」

 

僕達は切り替えて慎重に慎重を重ねて奥へと続く巨大な通路に歩を進めた。

僕達が進んでいる通路は正しく洞窟といった感じだった。

低層の四角い通路ではなく岩や壁があちこちからせり出し通路自体も複雑にうねっている。

ただ、僕達が隠れる場所もかなりあり物陰から物陰に隠れながら進んでいった。

僕がそろそろ疲れを感じ始めた頃、遂に初めての分かれ道にたどり着いた。

香織も疲れ始めたのか少し息が荒い。

四つの分かれ道のどの道か悩んでいると正面の道に一匹の魔物が視界に入った。

慌てて岩陰に隠れて様子を窺うと、僕達のいる通路から直進方向の道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。

 

「あれは…ウサギ?」

 

長い耳もある、見た目はまんまウサギだった。

だけど足が異様に発達しており、何よりも気持ち悪いラインが全身に走っていてドクドクと心臓のように脈打っていた。

 

「あっちにしよう…」

 

「う、うん…」

 

僕達はウサギのような魔物の居た方とは別の道に進もうとした。

その瞬間、ウサギがピクッと反応したかと思うとスッと背筋を伸ばし立ち上がった。

警戒するように耳が忙しなくあちこちに向いている。

 

「も…もしかして見つかったかな!?」

 

「だ…大丈夫だよ。多分…」

 

僕達は岩陰に張り付くように身を潜めながらバクバクと脈打つ心臓を必死に抑える。

あの鋭敏そうな耳に自分の鼓動が聞かれそうな気がして、僕は冷や汗を流す。

 

「キュウ!」

 

ただ、現実は非情でウサギは可愛らしい鳴き声を上げてまるで砲弾のような威力の蹴りをこちらに放ってきた。

 

「うわぁあっ!」

 

「きゃあっ!」

 

咄嗟に香織を突き飛ばす形で蹴りは回避できたが一瞬前まで香織が居た所には大きな穴が開いていて僕達は思わず後退りをした。

僕は追撃に備えて錬成で石壁を作り香織も障壁を張るがそれらを全て貫通して前に居た僕に襲い掛かる。

咄嗟に両腕をクロスして防御するも両腕につけた籠手は完全に砕け散り、前に出していた僕の右腕の骨も砕け散った。

僕の両腕に途轍もない激痛が走る。

ウサギは殺れると思った相手を殺れなかったのか憤怒の色が見えた。

そして、止まった。

よく見ると、ウサギの足が震えていた。

 

「どういう事?」

 

「…何かに怯えてるのかな?」

 

と香織が呟ぶやくと同時に何か(・・)がウサギの首を鷲掴みにするとそのままその鋭い爪でウサギを突き刺しバリッボリッグチャと音を立てながら喰らってゆく。

僕達は動けなかった。

あまりの連続した恐怖に、そしてウサギだったものを咀嚼しながらも鋭い瞳で僕達を見ている爪熊の視線に射すくめられて。

爪熊は三口ほどで蹴りウサギを全て腹に収めると、グルッと唸りながら僕達の方へ体を向けた。

その視線が雄弁に語る、次の食料はお前達だと。

そして爪熊が腕を香織目掛けて振り上げた時、僕の中で何か()が弾けた。

 

 

「香織ぃ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

香織side

 

 

私、死ぬのかな…

爪熊が私に向けて腕を振り上げた時、私は恐怖で固まり目をギュッと瞑った。

その時

 

「香織ぃ!!」

 

「えっ?」

 

ハジメ君の叫び声が響いたとき私の体は空気を切っていた。

背中から叩き付けられて恐る恐る目を開けると

 

「よかった…香織…」

 

目の前にハジメ君の顔があった。

だけどハジメ君は脂汗をかいていて、そして瞳のハイライトは消えて、私のお腹のあたりが少し暖かかった。

 

 

 

香織sideend

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

痛い。物凄くお腹が痛い。

でも、これがただの腹痛じゃないのは理解しているし、出血してるのも分かる。

種が割れた後から見えるようになった魔力が風になり爪から伸びて僕の脇腹を切り裂いたのが僕にはゆっくりな世界ではっきり見えた

 

「大丈夫!?ハジメ君!」

 

香織は回復魔法で傷を治そうとしてくれている。

だけど、このままだと確実に二人とも死ぬ、だけど香織を死なせたくない。

一緒に生きたい。

 

「うわぁああーー!!」

 

だからこそ、少しの望みをかけて香織の手を握り爪熊とは反対の方向へ走り出した。

だけど、この階層の魔物が逃げられないのなら僕達が逃げられるはずもなくゴウッと風がうなる音が聞こえると同時に強烈な衝撃が僕達の左側面を襲った。

咄嗟に横に跳ぶことで衝撃は緩和されたと思うけど、そのまま壁に叩きつけられる。

 

「がはっ!」

 

「きゃあっ!?」

 

咄嗟に香織を庇った事で僕の肺の空気が衝撃により抜け、咳き込みながら壁をズルズルと滑り崩れ落ちる僕達。

僕の左腕が妙に軽い。

 

「あ…あれ?」

 

恐る恐る左腕をみると肘から先がスッパリと切り裂かれていた。

 

「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」

 

「いやぁああああああああああっ!?!?」

 

僕の絶叫と香織の悲鳴が迷宮に響き渡る。

香織が僕の腕を止血しようと回復魔法の事を忘れ服の裾をちぎって傷口を縛ろうとする。

爪熊が眼前に迫りゆっくりと僕に前足を伸ばす。

その爪で切り裂かないということは生きたまま食うつもりなのかもしれない。

 

「れ、錬成ぃ!」

 

僕は背後の壁に穴を開けると香織の手を掴んで穴に押し込み僕自身も穴の中に入った。

目の前で獲物を逃したのかに怒りをあらわにする爪熊。

 

「グゥルアアア!!」

 

咆哮を上げながら固有魔法を発動し、僕達が潜り込んだ穴目掛けて爪を振るう。

凄まじい破壊音を響かせながら壁がガリガリと削られていく。

 

「いやあああ!死にたくない!」

 

「香織!〝錬成〟!〝錬成〟!〝錬成ぇ〟!」

 

香織は爪熊の咆哮と壁が削られる破壊音に半ばパニックになりながら少しでもあの化け物から離れようと僕の錬成のスピードよりも速く、どんどん奥へ進んでいこうとする。

僕も恐怖に駆られながらどんどん錬成していく。

 

 

 

 

 

どれほどの時間が経ったのか。

魔物の声も聞こえないほど奥に潜り、僕の魔力が底を尽きた。

そして魔力切れと失血で意識が朦朧としていたが、体が温もりに包まれた。

パニックから回復した香織が僕を抱きしめていて、僕に泣いて謝ってきた。

 

「ごめんなさい・・・私が、もう少し戦える力があったなら、もっと、強かったら・・・」

 

香織なりの贖罪なのか、切断された左腕や脇腹の出血は止まっている。

だけど、香織がどれだけ優秀だろうと失った血を戻すことはできない。

僕はもう自分の命が燃え尽きかけているのを理解した。

 

「ううん…香織、香織は何も悪くないよ…僕があの時油断しなければこんな風に、君を悲しませる事を、迷惑をかけることなんてなかったんだ…」

 

「違う…違うよ!私、ハジメ君が迷惑かけたなんて一度も思ったことない!」

 

香織は感覚の消えかけている右手を両手で優しく包み込む。

 

「ねぇ、香織…」

 

「なあに…?」

 

僕は彼女にちゃんと伝えようと思った。

 

「僕の事…こんなオタクである僕の事…愛してくれてありがとう…」

 

そして僕の意識は闇に呑まれていった。

 

「ハジメ君?、ねえ、ハジメ君!」

 

感覚が少しずつ消えていく。

そして最後に、最愛の彼女の涙が頬を濡らした気がした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴちょん…ぴちょん…

水滴が頬に当たり口の中に流れ込む感触に、僕は意識が徐々に覚醒していくのを感じた。

そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。

 

(…生きてる?…助かったの?)

 

疑問に思いながらグッと体を起こそうとして低い天井にガツッと頭をぶつけた。

 

「あぐっ!?」

 

自分の作った穴は縦幅が50センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、僕は、錬成して縦幅を広げるために天井に手を伸ばした。

視界に入る腕が一本しかないことに気がつく。

呆然とした僕だったが、やがて自分が左腕を失ったことを思い出す。

その瞬間、無いはずの左腕に激痛を感じた。

幻肢痛というやつだろう。

そして、表情を苦悶に歪めながら反射的に左腕を押さえて気がつく。

切断された断面の肉が盛り上がって傷が塞がっていることに。

しかも、切り裂かれたはずの脇腹までもが完治している。

 

「な、なんで? ……それに血もたくさん…」

 

「…えっ、ハジメ…君…?」

 

香織が突然動き出した僕に驚き不安そうに見て頬に手を添える。

 

「冷たくない…ハジメ君…生きてるよね…いきてるんだよね…」

 

香織は泣きながら笑顔を浮かべていた。

 

「うん…よくわからないけど生きてるよ、香織」

 

「よかったハジメ君…でもあんな事は二度と言わないでね、次に言ったら嫌いになっちゃうからね…」

 

どうやら、気絶する前に言った事でかなり怒らせたらしい、当たり前か。

香織が僕に向かって

 

ガツン!

 

「痛っ!?」

 

何度でも言うが穴の高さは50センチ程度、香織は頭をぶつけてちょっと涙目になっている。

その時、青色に輝く水滴が僕の口元に落ちてきてそれが口に入った瞬間体に活力が戻った気がした。

 

「もしかしてこれが?…ねぇハジメ君この液体、壁みたいなもので広がらないようにしてくれる?」

 

「うん」

 

僕は地面を少し大きめの深皿みたいな形に錬成して更に零れないように壁を作る。

 

「こんな感じでいい?」

 

「うん、ありがとう…水質鑑定」

 

香織が水質鑑定で液体のをしている間に液体の水脈を探すついでに僕たちのいる穴の拡張作業をし始めた。

 

「ハジメ君、これ凄い水だよ…『神水』って言って、どんな怪我も魔力枯渇も状態異常も回復するみたい…」

 

僕達の飲んだ水、実はとんでもなくヤバかった件。

そんな事を考えながら穴が小さな部屋ぐらいになった頃、神水の流れる量がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた。

更に進んだところで、僕は遂に水源にたどり着いた。

そこには、バスケットボール位の大きさの青白く、まるで神水が鉱石化みたいに発光する鉱石があった。

僕達は一瞬、自分達の置かれた現状を忘れて見蕩れてしまった。

 

「うおっ…この鉱石『神結晶』って呼ばれる伝説の鉱石だ…」

 

鉱物鑑定で出た驚きの結果に思わず声が出た。

 

「そんなにスゴイの?」

 

「うん、神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したもので、直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出すみたい」

 

それを聞いて香織がハッとしたような表情で聞いてきた。

 

「その液体ってこの『神水』の事なの?」

 

「多分、そうだと思う」

 

僕は香織の問いを肯定しつつこの地獄から脱出する方法を考え始めた時、香織がおもむろに服を脱ぎ始めた。

 

「あのー香織さん?何をしてるのですか?」

 

「ハジメ君は少し前まで辛い思いばかりしてきたから…これからはいい思いをしなきゃだめだよ…」

 

香織がジリジリと近づく。

 

「ちょっと、まって、あっ、アッーーーーー!!!」

 

今日僕は初めて絞られるって事を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いきなり襲ってごめんなさい…」

 

香織が羞恥心で顔を真っ赤にして謝ってきた。

 

「いや大丈夫だよ…でもどうやって此処から脱出しよう…ジオウの力は無いし…食料もないし・・・」

 

そう、目下の問題は食料。

今回の訓練は野営する事は無いと聞かされていてから非常食は全くと言っていいほど持ってきていない。

 

「魔物の肉は食べたら体が崩壊して死んじゃうって話だし…」

 

そう、魔物の肉が美味という設定は創作物ではそれほど珍しいものではないが、この世界の魔物肉にはその設定は当てはまらない。

魔石という特殊な体内器官を持つ魔物は、魔力を直接体に巡らせることで驚異的な身体能力を発揮する。変質した魔力が肉や骨に浸透することで頑丈になる。

だけどこの変質した魔力が人間にとって致命的で、人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していく。

一口で人を崩壊させ殺す猛毒、それがこの世界の魔物肉だ。

 

「……」

 

「何か閃いたの?ハジメ君?」

 

魔物肉の事を考えながらここから抜け出せる可能性を見つけたけど、正直最悪の可能性が頭によぎって言い出せない。

そんな事を考えていると女性の声が衝撃的な事を僕達に話しかけてきた。

 

「我が魔王、香織殿。この本によれば、前回の我が魔王は魔物の肉を食べることで、この真のオルクス大迷宮を生き延びたとされています」

 

いやあああ!お化けぇぇええ!…ってちょっとウォズさん!?いきなり出てきて、いきなりしゃべらないで!!心臓止まるかと思った!!」

 

「落ち着いて、香織!ってウォズ!?どうしてここに!?」

 

いきなりウォズが完全に閉ざしたこの部屋(仮)に現れて香織が絶叫し、僕もびっくりした。

 

「…え? でも、魔物の肉って…」

 

「そう。私のような例外を除けば、食べた瞬間に体の崩壊が始まる」

 

「だがその『神結晶』から出る『神水』を使えば魔物肉をドーピングアイテムにする事できる。だが…」

 

そう説明するウォズは物凄く嫌そうな表情を浮かべていた。

未来の僕にそれで何があったのか知らないからウォズがそんな表情を浮かべている理由はわからなかった。

 

「でも、それって崩壊と再生を繰り返すことになるんじゃ…」

 

「お察しの通り、最初の一回は文字通り死ぬほどの苦痛を味わうことになる。二度目からはそれほどでもないが、力のある魔物の肉を食べるとやはり体が痛むことになる。…最初の時ほどではないけどね」

 

香織の問いをウォズは隠すことなく肯定した。

でもここで何故詳しく知っているのか疑問に思ったので

 

「妙に実感が籠もってる気がしますけど、もしかして…」

 

「勿論、経験済みだよ。元々力を得るため少々無茶をした事はあるが、それでも足りないと感じたからね」

 

思わず戦慄の表情を浮かべる僕達。

何も理解せずに挑戦したのではなく、前例がどれほど苦しんだのか知っての上でウォズは魔物肉を食べるという愚行を犯したのだ。

 

「あの…どうしてウォズは魔物肉を食べたんですか?それに何で僕を『我が魔王』と呼び、仕えようとするんですか?ただ、僕がジオウの力を手にしたからではないですよね?」

 

 

 

長い沈黙の後ポツポツとウォズが語りだした。

 

「私は…我が魔王を最高最善の未来へと導くのが使命。だが、前の我が魔王には道を示すどころか、結果的に最低最悪の未来を選ばせ、暴走させ、暴走を止められずに殺してしまうという愚行を犯した。私はその最低最悪の未来を覆すために魔物肉を喰らい、過去へと飛び、こうして我が魔王の前に居るのです…」

 

……思ったより重かった。

それに最低最悪の未来はそうでもしないと覆せないと何となく分かり、未来に待ち受ける困難の大きさにウンザリとした気分になる。

でも、

 

「分かったよウォズ。僕は魔物肉を食べる。状況は違うかもしれないけど未来の僕だって耐えたんだ、今の僕だって耐えて見せる」

 

「分かりました、我が魔王。…香織殿はどうします?」

 

ウォズは僕の決意を聞くと香織の方に向き直り問いかけた。

 

「私も食べます。私は…ハジメ君の隣に立っていたいですし、ハジメ君だけが苦しんで私はただ見ているっていうのは嫌ですから」

 

「分かりました。では今からこの階層の魔物の二尾狼の調理をしていくので少々お待ちください」

 

ウォズはそういうと虚空からオーブン一体型のガスコンロみたいな調理器具を取り出し、二尾狼の肉を焼き始めた。

 

 

 

 

 

 

「完成しました。肉を食べるときは神水を常に一緒に飲んでください」

 

ジュージューと鉄板の上で美味しそうな音を立てる二尾狼のステーキと神水が並々と注がれたコップが目の前に出されたが、僕は食べるのを躊躇した。

ウォズが調理した二尾狼のステーキは、見た目だけなら美味しそうな料理に見えるのだけど、その実一口食べただけで体を崩壊させる毒料理だ。

食べなければ強くはなれない。

それは理解していても、元々痛みには弱い日本人である僕が自殺紛いの行為を躊躇いなくできるはずもない。

 

「我が魔王?…」

 

「「…いただきます!」」

 

ただ、見た目と鼻孔を擽る香りは良く僕は目の前の料理を絶品料理と思い込み一思いに食べ始めた。

硬い筋ばかりの肉を、油を滴らせながら噛み千切り必死に飲み込んでいく。

胡椒等の香辛料を使っても隠し切れない強烈な獣臭に涙目になりながら、それを無視して必死に食べ続ける。

 

どれくらいそうやって食べていたのか、神水を飲み物代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながら腹が膨れ始めた頃、僕達の体に異変が起こり始めた。

 

「ん? ――ッ!? アガァ!!!」

 

「え?な、何!?――ギャァッ!!!」

 

突如全身を激しい痛みが襲った。

まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。

その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!か、香織、神水を!」

 

「ハ、ハジメく、うぎゃぁあああっ!」

 

耐え難い痛み。自分を侵食していく何かに僕達は地面をのたうち回る。

だけど、僕達の頭上に黒い球体が出現すると同時に動けなくなった。

たぶんウォズが魔法で僕達の体を抑えつけているんだろう。

今尚、僕達は自身の肉体が崩壊する痛みと戦っている。

震える手で宙を彷徨う香織の手を掴み、もう片方の手で神水の入ったコップを掴み取ると香織に飲ませ、僕も残りを飲み干す。

神水の効果で直ぐに痛みが引くが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

「ひぃぐがぁぁ!!あがぁぁ!」

 

「二人とも頑張って耐えるんだ!」

 

僕達の体が痛みに合わせて脈動を始めた。

ドクンッ! ドクンッ! と体全体が脈打ち、至る所から、ミシッ! メキッ! という何かが歪むような音が聞こえてきた。

しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。

修復が終わると再び激痛。

そして修復。

僕達の体で破壊と再生が繰り返された。

絶叫を上げながら終わりの見えない地獄を味わい続ける。

魔法によって体を固定するウォズがいなければ、僕達は地面をのたうち回った果に幾度となく体を壁に打ち付けていたと思う。

それでも、僕は諦めない。

 

 

 

 

 

 

 

暫くして痛みが引いたのを感じるとゆっくりと目を開けた。

焦点の定まらない瞳をウォズに向ける。

彼女の目の端には大粒の涙が浮かんでいた。

安心させるように微笑みを浮かべると、僕はゆっくりと起き上がった。

 

「…本当に死ぬほど痛いね、これ」

 

「…ハ、ハジメ君?生きてるの?」

 

香織の無事が分かると香織のの変わり果てた姿に驚愕した。

まず、香織の髪色が日本人特有の黒髪から白くなっている。

今までも十分魅力的な体型だったけど、出るところは出て、引き締まる所は引き締まる、更に魅力的な身体に変化していた。

そして、瞳の色が赤色になり体に赤黒い線が走っていた。

 

「「う、うそーー」」

 

「えっ、僕も?」

 

「うん。ハジメ君凄くかっこよくなってるよ」

 

香織に言われ自分の体を見てみると、香織と同じように髪が白くなっていた。

更に、腕や腹を見ると明らかに筋肉が発達している。

身長も伸びていて、前の僕の身長は百六十五センチだったが、現在は更に十センチ以上高くなっている気がする。

僕の体にも赤黒い線が走っている。

 

「私達の体はどうなっちゃたの? なんか変な感覚まであるし…」

 

体の変化だけでなく僕は体内にも違和感を覚えていた。

温かいような冷たいような、どちらとも言える奇妙な感覚。

意識を集中してみると腕に薄らと赤黒い線が浮かび上がった。

 

「な、なにコレ…なんか、魔物にでもなったような気分だよ…」

 

「『なったような』ではなく実際になったのです。人の身を持つ魔物へと」

 

「「…へっ?」」

 

「ステータスプレートをご覧下さい」

 

ウォズの言葉の意味を知るためにもステータスプレートを探してポケットを探る。

そして、現在のステータスを確認した。

 

==================================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:20

 

天職:錬成師 時の王者

 

筋力:350

 

体力:450

 

耐性:270

 

敏捷:280

 

魔力:400

 

魔耐:320

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・歴史継承・歴史移植・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

 

==================================

 

==================================

 

白崎香織 17歳 女 レベル:20

 

天職:治癒師 時王の妃

 

筋力:150 

 

体力:200 

 

耐性:300 

 

敏捷:200 

 

魔力:600 

 

魔耐:600

 

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+複数同時発動][+水質鑑定]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇]・高速魔力回復[+瞑想]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

 

==================================

 

 

「…なんでやねん」

 

「…なぁにこれぇ」

 

驚愕のあまり思わず関西弁でツッコミを入れる。

ステータスが軒並み急増していて、技能が五つも増えていて、隠れていたもう一つの天職が出てきた。

香織も同じような感じで技能が三つ増えていた。

 

「魔力操作?」

 

「文字通り、魔力の直接操作を可能とする技能です。魔力の直接操作はできないのが原則ですが、魔物の肉を食べることでその特性を簒奪することができるです」

 

「…なるほど。それは確かに人の身を持つ魔物って表現がピッタリだよ」

 

そう言いながらもしかしてさっきから感じている奇妙な感覚は魔力なのかな?と考えた僕は、先程と同じく集中して“魔力操作”を試してみる。

僕が集中し始めると、赤黒い線が再び薄らと浮かび上がった。

そして体全体に感じる感覚を右手に集束するイメージを思い描く。

すると、ゆっくりとぎこちないながらも奇妙な感覚、もとい魔力が移動を始めた。

そのまま錬成を試してしてみると、するとあっさり地面が盛り上がった。

それを見た香織が同じ様に魔力を右手に移動させ、無詠唱で魔法を発動した。

 

「なるほど、こういう感じかぁ~。けど、慣れるまでには時間がかかりそうかな」

 

「うん。慣れるためにも暫くは訓練が必須かな?」

 

「はい。その方がよろしいかと思います」

 

「みたいだね。…はぁ~、道程は長いなぁ」

 

だけど、僕の胸の中では未来への希望が宿っていた。

 

 

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