Re:ありふれた破壊者と魔王は世界最強   作:マサヒロ (旧名デイブレイク)

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佐賀らしんさん今回も誤字報告ありがとうございます!
それではどうぞ

追記 七話と統合しました


六話 大迷宮とトラップ

 

 

 

雫が自分の感情をさらけ出した次の日。

士達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

士としては薄暗い陰気な入口を想像していたのだがまるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。

制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

なんでも、此処でステータスプレートをチェックすることで死者数を正確に把握するのだとか。

戦争を控え多大な死者を出さない措置だろう。

入り口付近の広場には所狭しと屋台や露店が並んでいて、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。

まるでお祭り騒ぎだ。

その大きな理由として魔物の魔石がある。

魔石は地球で言う電池や燃料のような扱いが出来るもので、資源であり消耗品だ。

それを目当てに冒険者達が集まり、その周りにもその冒険者達を狙った武器防具屋、道具屋、宿屋などが集まるのだ。

興味深げに周囲をキョロキョロと見回す姿はお上りさんそのもの。

メルド団長の後をカルガモのヒナのように付いて行くクラスメイト達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ターゲット確認。これよりイレギュラー二体の排除を開始します」

 

ヒナを狙う白銀の隼が上空から見ているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮内に入ると、外の騒がしさとは無縁の静かさだった。

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。

緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく【オルクス大迷宮】はこの巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。

しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。

ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で動き出す。

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。

その名に相応しく外見はネズミに似ている。

が、二足歩行で上半身がムキムキだ。

しかも、まるで見せびらかすかのように腹筋と胸筋の部分だけ毛がない。

完全に、筋肉モリモリマッチョマンの変態だった。

正面に立つ天之河達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。

やはり、筋肉モリモリラットマンの変態は生理的に受け入れ難いものなのだろう。

間合いに入ったラットマンを天之河、雫、龍太郎の三人が迎撃する。

その間で香織とメガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始して、魔法を発動する準備に入る。

訓練通りの堅実なフォーメーション、定石中の定石に沿った戦術を取った。

特に天之河が普段の訓練より積極的に動いてる。

先日の敗北が効いたのか、少しでも強くなろうと足搔いているように見える。

天之河の様子に内心で苦笑を浮かべつつ、雫は刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の容量で抜き放ち、一体ずつ確実に敵を切り裂いていく。

その動きは洗練されたものであり、騎士団員をして感嘆させるほどのものだ。

クラスメイト達が天之河達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――“螺炎”」」」

 

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を呑み込む。

「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながら、火葬にされてパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果てる。

気が付けば、広間のラットマンは全滅していた。

他のクラスメイト達の出番はない。

どうやら、一階層の魔物は召喚組には弱すぎるようだ。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

クラスメイトの優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。

しかし、クラスメイト達は初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。

頬が緩むクラスメイト達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな…今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルド団長の言葉に魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめた。

それから何度かの戦闘を経て、メルド団長がハジメの名前を呼んだ。

ハジメの格好は他のクラスメイト達と同じ様な動きやすい服の上から赤色のフード付きロングコートを羽織っていて、金属製の鎧の類は装備していない。

そして、その腰には錬成に必要な様々な鉱物と銃のマガジンが入れられたポーチと、自ら作り上げた銃の入った革製のホルスターが装着されている。

また、その両腕にはダブルオースカイのスカイブレイサーの形状を模した籠手を装備している。

クラスメイトの殆どがどんな戦い方をするのかと、嫌な視線を向けてきた。

だがハジメは嫌な視線を無視して前に進み出る。

ハジメが香織の横を通るとき、香織が「頑張ってね」とハジメにだけ聞こえる声量で応援する。

その時、ものすごいスピードで黒色の毛玉が壁の向こう側から飛び出してきた。

それはまるで、狼の身体とイノシシの頭を合体させたような見た目の魔物だ。

黒い魔物は唸りを上げながら飛びかかり、鋭い牙がハジメに迫る。

ハジメは咄嗟に両手を地面に突き、素早く詠唱した。

 

「錬成!」

 

空色の魔力が迸った次の瞬間、床の岩盤が隆起し、厚さ30センチほどの分厚い岩の壁がハジメの前に形成された。

ガキィィィン!という鈍い金属音と共に、黒い魔物の鋭い牙が岩壁に食い込む。

その勢いで壁はヒビ割れたが、完全に砕けることはなかった。

 

「ほう…」

 

メルド団長の低い声が漏れる。

周囲からは驚きの声が上がった。

一方士は、クラスメイト達の最後方で笑みを浮かべた。

ハジメの判断力と技術の成長を認めながらも、次はどう攻撃に転じるのか注目していた。

黒い魔物が驚異的な顎の力と牙の鋭さで壁を噛み砕く。

しかしハジメは、バックステップで黒い魔物の攻撃を避けホルスターから銃を引き抜く。

ハジメの手に握られていたのは士のベレッタよりもはるかに貫通力の高い『FNファイブセブン』

ハジメは不安定な空中で正確に狙いを定め、引き金を絞る。

ダンッ!という短い銃声が迷宮に響き渡り、5.7mm径の弾丸は黒い魔物の額を正確に射貫いた。

驚くほど簡単に。

「ギャイン!?」という短い悲鳴を上げて、魔物が地面に崩れ落ちる。

ハジメがガンスピンでファイブセブンから出る硝煙を排出して、ホルスターに収める。

周囲は一瞬の静寂に包まれた後、驚きの声で満たされた。

 

「何だ今の…?」

 

「あれって、銃だよな…?」

 

メルド団長も未知の兵器の破壊力に驚きを隠せない。

 

「なんでそんな危険なものを持っているんだ! 今すぐ捨てろ!」

 

天之河の声が迷宮の冷たい空気を切り裂き、天之河の怒りに満ちた瞳は銃を持つハジメを射抜いている。

クラスメイト達の視線が一斉にハジメに集中した。

特に檜山率いる小悪党組が顔を真っ青にしながら騒ぎ始める。

 

「そ、そうだ!そんな危ないモン今すぐ捨てろ!南雲!お前何考えてんだ!」

 

香織が不安そうにハジメに駆け寄ろうとしたが、天之河に遮られ近づくことができない。

だがハジメは一歩も引かなかった。

 

「これは僕が僕と僕の大切な人の命を守るために作った道具だ」

 

ハジメの言葉が静かな洞窟に響き渡ると、クラス全体が息を呑んだ。

これまでの温厚なハジメからは想像できない強い意志が込められていた。

天之河はハジメの言葉を聞いた瞬間、歯を食いしばるようにして踏み込んできた。

 

「命を守るためだって!? そんな危険なものを持っている事が許されるわけないだろ!」

 

天之河がハジメの襟首を掴みかかろうとしたその時、物凄い風が巻き上がり天之河の首に刃が付き付けられる。

刃を突き付けたのは士だった。

彼の目は冷徹そのもので、天之河の首筋に触れる程度までアニールブレードを押し当てる。

 

「な…何だ!?」

 

天之河の声が震える。

周囲のクラスメイトたちも息を飲む中、士が低い声で話し始めた。

 

「お前のご都合主義的な正義感で物を語るのはいいがな、お前の持つ聖剣も同類だって事は分かるよな」

 

「…何だと?」

 

士の言葉に、天之河の拳が微かに震えた。

首筋に感じるアニールブレードの冷たい感触よりも、その指摘の方が痛かった。

 

「お前の聖剣も同じだろ? 人間を容易に切り裂ける道具だ。違いはなんだ? 作り手か? 正統性か?」

 

士の声は静かだが、刃のように鋭い。

周囲の空気が凍りつく。

 

「俺のは勇者として選ばれた証だ!南雲の持つ銃とh」

 

「違わないだろ」

 

士がぴしゃりと遮る。

 

「お前がその聖剣をどう使うかが問題だ。今みたいに感情任せに突っかかる相手に向けるならな」

 

天之河の喉が乾いた音を立てた。

天之河はさらに何か言いたそうだったが、メルド団長が二人の間に割って入る。

 

「そこまでだ!!」

 

メルド団長の雷のような叱責に場の緊張が解ける。

士は静かにアニールブレードを背中の鞘に収めたが、天之河に対する冷ややかな視線は変わらなかった。

天之河も唇を噛みしめたまま睨み返していた。

 

「光輝!勇者としての責任を持つなら、感情だけで動くな!」

 

メルド団長の声は洞窟に響き渡る。

 

「坊主の武器についても、もう少し冷静に判断しろ!坊主は自分で考えて戦い方を選んだんだ」

 

クラスメイト達は固唾を飲んで見守っている。

小悪党組はまだ苛立ちを見せていたが、他の者たちの目つきが変わっていくのを感じた。

香織が静かにハジメに歩み寄ってくる。

 

「ハジメ君…大丈夫?」

 

ハジメは少し肩を落として微笑んだ。

 

「うん…でもこの銃を理解してもらうのは簡単じゃないね…」

 

士が励ますようにハジメの肩を叩くと同時にメルド団長が咳払いして話し始める。

 

「さて…気を取り直して先に進むぞ。坊主も含めて全員、自分の装備や能力を最大限に活用して戦うことを忘れずに」

 

メルド団長はそう言って次の階層への階段へ向かって歩き始める。

訓練はまだ終わらない。

 

 

 

 

士と天之河の衝突から暫くたち、士達は今日の訓練の目標である二十階層を探索する。

迷宮の各階層は数キロ四方に及ぶ。

未知の階層では、全てを探索してマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

現在、四十七階層までマッピングが済んでいる。

トラップの位置も『フェアスコープ』と呼ばれるトラップ探知機を用いて調査されており、トラップに引っかかる心配も無いはずだった。

二十階層の一番奥の部屋は鍾乳洞のように氷柱状の壁がせり出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていて、その先に二十一階層への階段がある。

そこまで言ったら今回の実戦訓練はそこで終わり。

地上へと逆戻りすることになる。

神代の転移魔法のような便利なものは現在では逸失している。

ウォズは転移魔法と思わしき現象を引き起こしたが、それは例外中の例外と言っても過言ではない。

実際問題、襲撃の報告を受けたメルド団長は半信半疑の様子だった。

天之河達の傷付いた姿を見なければ、簡単には信じてもらえなかったかもしれない。

目的地まで到着した後は地道に帰る必要がある。

先の衝突で緊張した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

すると、先頭を行く天之河達やメルド団長が立ち止まる。

訝しそうなクラスメイト達を尻目に戦闘態勢に入る。

どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛んだ直後、前方でせり出していた壁が変色しながら起き上がる。

壁と同化していた体は褐色となり、人間のような二本足で立ち上がる。

胸を叩きドラミングする姿はまさにゴリラそのもの。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の警告が響く。

天之河達が相手にするようだ。

飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。

光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

龍太郎の肉壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

直後、部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられる。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。

ロックマウントの固有魔法『威圧の咆哮』は魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

まんまと喰らってしまった天之河達前衛組は一瞬の硬直を強いられる。

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。

見事な砲丸投げのフォームだ。

咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

更にロックマウントはだめ押しだと言わんばかりに、再び岩を投げつける。

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。

しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず顔を真っ青にし硬直してしまう。

 

「悪いな!肩借りるぞ!」

 

「ごめん!肩借りるよ!」

 

そう言って士とハジメが前に居たクラスメイトの肩を利用して跳び上がる。

 

「「お、俺達を踏み台にしたぁ!?!?」」

 

肩を蹴られたクラスメイトは混乱で叫ぶ。

だがよく見ると、投げられた岩もロックマウントだったのだ。

二体のロックマウントが空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。

 

「「「ひぃっ!?」」」

 

しかも、二体とも妙に目が血走り鼻息が荒い。

完全に性犯罪者のそれである。

思わず悲鳴を上げてしまい、魔法の発動が中断してしまう。

 

「僕のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!」

 

「アバン流刀殺法…!」

 

空中に跳び上がったハジメが力強く詠唱をすると、手袋と籠手が空色と黄緑色に輝き始める。

同じく跳んだ士も静かに、だか力強く詠唱する。

背中の鞘から風を纏ったアニールブレードを引き抜いて柄を両手で握り、上段に構える。

空中に跳び上がった二人をそこに居た全員が注目する。

龍太郎はキラキラとした目でハジメを見る。

香織はハジメの右手に纏い輝く魔力を、雫は士の緑色に輝くアニールブレードを見て「「綺麗…」」とうっとりした表情で呟く。

ハジメがロックマウントの頭を掴み、士のアニールブレードがもう一体のロックマウントの眉間に喰い込んだ時二人は最後の詠唱をする。

 

「必ィ殺ッ!シャイニング!フィンガァァァァァ!!」

 

「疾風大地斬!!」

 

ロックマウントの絶叫が洞窟内に響き渡る。

士のアニールブレードから発生した風の奔流が、ロックマウントの額を抉り裂く。

アニールブレードの鋭さで一気に縦に切り裂き、発生させた風でその巨躯を粉々に粉砕する。

もう一体のロックマウントもハジメの掌から迸る空色の光が頭を貫く。

ロックマウントの身体がビクンッと震えた直後、体中から血を噴き出し動かなくなった。士の疾風大地斬の風で抉れた部屋の壁がパラパラと破片が落ちる。

着地したハジメは肩で息をしながらも勝利を噛み締めていて、隣に着地した士もアニールブレードを鞘に収めて深呼吸する。

二人は顔を見合わせると、笑顔でハイタッチをする。

その時、疾風大地斬で抉れた奥の壁が崩落した。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていて、まるでインディコライトが内包された水晶のようだ。

女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になる。

 

「あれはグランツ鉱石だね。確か魔法的な効果はないけれど、貴族の間でプロポーズするときに使われる貴重な宝石の原石だよ」

 

「素敵…」

 

香織がハジメの簡単な解説に頬を染めながら更にうっとりとする。

そして、香織がチラリとハジメの方を向くと、ハジメとバッチリと目が合う

ハジメは優しく微笑みながらゆっくりと頷くと、香織は一気に顔を真っ赤にしてコクリと頷く。

そんなイチャラブに士と雫は若干苦笑いになる。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。

グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。

それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをしてとうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

慌ててメルド団長が檜山を止めようと追いかける。

同時に、ハジメが鉱物鑑定を使って鉱石とその周りを確認して………青ざめた。

 

「皆!!トラップだ!!今すぐ逃げて!!」

 

だけど、警告は一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップ。

美味い話には裏がある――この世の常だ。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。

まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが…間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、士達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

空気が変わる。

ドスンと音を立てて地面に叩き付けられた。

士とハジメは尻の痛みに呻き声を上げながら、立ち上がって辺りを見渡す。

クラスメイトの殆どが尻餅をついているが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がり周囲を警戒している。

景色は先程とは一変している。

先の魔法陣は転移させるものだったようで、転移した先は巨大な石造りの橋の上。

長さは百メートル程、天井も高く二十メートルはあるだろう。

橋の下には川などなく、何も見えない深淵の如き闇だけが広がっている。

――奈落の底。落ちれば命はないだろう。

 

橋の横幅も十メートルくらいはあるが、手摺どころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。

その巨大な橋の中間に、士達の姿はある。

橋の両サイドには、それぞれ奥に続く通路と上階への階段が見える。

それらを確認したメルド団長が険しい表情のまま指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと慌てて動き出すクラスメイト達。

しかし迷宮のトラップがこの程度なはずが無く、撤退はかなわない。

階段側の橋の入口に魔法陣が出現し、大量の骸骨型の魔物が這い出してくる。

更には、通路側にも魔法陣が出現する。

その内から一体の巨大な魔物が出現する。

 

「まさか…」

 

その魔物を目にした瞬間、メルド団長は呆然とした表情を浮かべた。

そして、彼の呻くような呟きがやけに明瞭に響き渡った。

 

「ベヒモス、なのか…」

 

 

 

 

 

 

「……いや、違う!!」

 

この中で一番座学にも力を入れていたハジメが否定する。

その言葉に正気に戻ったのか、メルド団長がよく魔物の身体を観察する。

メルド団長の知るベヒモスは体長十メートル級の四足で頭部に兜のようなものを取り付けた魔物。

既存の生物で例えるならば、トリケラトプスだろう。

瞳から赤黒い光を放ち、頭部の兜から生えた角は炎を纏っているはずだ。

だが出現した魔物には角は生えてはいるが、炎を纏っていない。

ただ、その身体には蔓のような植物が生えていて、まるで触手のようにウネウネと動き回っている。

後方の魔物もメルド団長が見たことのない奴だ。

それでも、状況的には最悪なのは確実で、メルド団長は矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてあのガイコツモドキを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も…」

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモス、もしくはソイツの進化系なら今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、『最強』と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むものの、天之河は持ち前の正義感から踏み止まる。

どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河に語りかける。

 

「ジャァァァァァァァアア!!!!」

 

その瞬間、ベヒモスモドキが咆哮を上げながら突進してきた。

このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙と最高品質の魔石を用いて描かれた魔法陣。

四節からなる詠唱を人類最高クラスの実力者が三人同時に発動する。

一回だけ、一分だけの防御であるが、何者にも破らせない絶対の護りが顕現する。

純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生しベヒモスモドキの足元が粉砕される。

石造りにもかかわらず橋全体が大きく揺れる。

撤退中の生徒達が悲鳴を上げ、転倒する者が相次ぐ。

階段側の魔物を知る騎士団員はいない。

だが、ハジメと士、香織は知っていた、此処にいるはずがない怪物であることも。

 

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