――宴会から3日後の夜。
博麗神社の台所には、夜更けにもかかわらず、湯気と出汁の香りが満ちていた。
将和は巨大な鍋を前に、黙々と包丁を動かしている。
霊夢は眠そうな目をこすりながら台所を覗いた。
「……あんた、こんな時間に何してるのよ」
将和は振り返らずに答える。
「煮物だよ。前の宴会でおでんが好評だったからな。今度は別のものを作ってみようと思って」
霊夢は鍋を見て、眉をひそめた。
「……にしては量が多くない? 二人で食べる量じゃないでしょ」
将和は少しだけ手を止め、鍋の中を見つめながら言った。
「まあ、このぐらい必要になると思うから……」
霊夢はその言葉の意味を察し、ため息をつく。
「また宴会が起こるってわけね」
「たぶんな。萃香の気配が……なんとなく、な」
霊夢は肩をすくめた。
「ほんと、あの鬼は……」
将和は笑いながら鍋をかき混ぜた。
「まあ、準備しておいて損はないだろ」
霊夢はその横顔を見つめ、どこか安心したように呟いた。
「……あんたって、本当に面倒見がいいわね」
こうして一夜明けた翌日。
「おはようございます!!」
朝日が差し込む紅魔館では、美鈴が勢いよく廊下を歩いていた。
「おはよう……えっ?」
すれ違った咲夜は、その声に思わず振り返った。
美鈴が元気に通り過ぎていく。
咲夜は目を瞬かせた。
「美鈴……あなた……」
後ろから小悪魔が顔を出す。
「美鈴さんが……」
さらにパチュリーが本を閉じて呟く。
「起きてる……!」
紅魔館の住民たちは一斉にざわついた。
美鈴は中華鍋を背負い、笑顔で玄関へ向かう。
「今日は博麗神社に行ってきます! 約束した中華料理、作りに行きますので!」
パチュリーはため息をつきながらも、どこか微笑ましそうに呟いた。
「……愛の力ね」
咲夜は肩をすくめる。
「日頃もそのぐらいしてて欲しいけど……」
美鈴は元気よく門を飛び出した。
一方の博麗神社では、将和と霊夢は朝食の準備に取りかかっていた。
縁側の前に置かれたちゃぶ台には、昨夜の煮物が湯気を立てて並べられている。
霊夢は一口食べ、目を丸くした。
「……美味しい」
将和は湯呑みを手にしながら微笑む。
「そりゃ良かった。味が染みるように一晩置いたからな」
霊夢はもう一口食べ、少しだけ頬を緩めた。
「こういうの、毎朝出てきたら最高なんだけどね」
将和は苦笑する。
「毎朝は無理だが……気が向いたらな」
霊夢はそっぽを向きながらも、どこか嬉しそうだった。
「……別に期待してないけど」
将和は笑った。
静かで、穏やかな朝だった。
時が巳の刻から午の刻へと移ろうかと言う時。
境内の階段を上がる足音が聞こえた。
「こんにちは、霊夢さん、将和さん!」
将和と霊夢は、縁側でのんびりとお茶を飲んでいたところ――元気な声とともに、美鈴が中華鍋を背負って現れた。
霊夢は驚き、将和は笑う。
「美鈴、早いな」
「はい! 約束した中華料理、作りに来ました!」
霊夢は呆れたように言う。
「……あんた、ふつうに起きれたのね」
美鈴は胸を張る。
「はい。今日はちゃんと早起きしましたから!」
将和は笑いながら立ち上がった。
「じゃあ、せっかくだし……何か作ってもらおうか」
美鈴は嬉しそうに頷いた。
「はいっ! 材料はありますか?」
将和は収容袋から、見慣れない食材を取り出した。
「ツルギガニ、ヨロイガニ、ガンバリガニ……それと、トリのタマゴ。これでどうだ?」
美鈴は目を丸くし、ぱっと顔を明るくした。
「わぁ……すごい。このカニ、殻が硬いのに身がぎっしり詰まってますね。では、カニ玉チャーハンを作ってみましょうか。この材料ならカニ玉がおすすめです!」
霊夢が首をかしげる。
「カニ玉に……チャーハン? 別々に作るんじゃ無くてあわせるの?」
「はい!カニの旨味と卵のふわふわ感、そしてチャーハンの香ばしさを合わせれば最高の一品に仕上げられます!」
将和は興味深そうに頷いた。
「それは楽しみだな」
美鈴は中華鍋を境内のかまどに置き、火を強める。
「では、始めますね!」
まずはカニの殻を素早く割り、身を丁寧にほぐす。
霊夢が感心したように言う。
「手際がいいわね……」
「門番は体力だけじゃ務まりませんから。料理も鍛えてるんですよ」
美鈴は笑いながら、卵を割り、ふわりと混ぜる。
そして――鍋に油をひき、卵を流し込む。
「ふわっと……そして素早く!」
卵が黄金色に膨らみ、香りが境内に広がる。
続いて、ほぐしたカニを投入。
「ここでカニの旨味を閉じ込めます!」
卵とカニが絡み合い、ふわふわのカニ玉が完成した。
次に、チャーハン。
美鈴は鍋を振り上げ、ご飯を放り投げる。
その瞬間――ご飯が空中で炎の上を通り抜け、一粒一粒が直に火にあぶられる。
余分な油が飛び、香ばしい香りが立ち上る。
将和は思わず唾を飲み込んだ。
「すげぇ美味そう……よだれが出そうだ……」
霊夢も目を丸くする。
「これが……プロの技って奴なのかしら……」
美鈴は笑顔で鍋を振り続け、最後にカニ玉を乗せて――
「完成です!カニ玉チャーハン!」
美鈴が作った料理をちゃぶ台へと並べると、将和と霊夢は美鈴と共に三人で台を囲んで手を合わせる。
「「「いただきます」」」
将和は一口食べ、目を見開いた。
「……うまい!カニの旨味がよく出てる……!」
霊夢も頬を緩める。
「卵がふわふわ……チャーハンも香ばしい……美鈴、これお店で出せるレベルよ」
美鈴は照れながら笑った。
「ありがとうございます。将和さんの食材のおかげですよ」
将和は首を振る。
「いや、美鈴の腕だよ。俺の用意した食材をここまで活かせるのは、キミくらいだ」
「そ、そうですか。えへへ……」
美鈴は嬉しそうに頬を染め、ちゃぶ台に並べてある小鉢の煮物を取り、一口食べる。
その瞬間――目を丸くし、箸を止めた。
「……っ!? な、なんですかこれ……!」
「えっ……俺が作った煮物だが、口に合わなかったか……?」
「えっ、これ将和さんが作ったんですか……!? 凄く美味しいです! こんな料理、食べたことありませんよ」
霊夢がくすっと笑う。
「そう言えば紅魔館って洋食が中心だったわね」
将和は安堵の息を吐く。
「昨日の夜から煮込んでおいたやつだが、口に合ったみたいで良かった」
美鈴は勢いよく頷いた。
「ええ……すごく優しい味で……具材の旨味が全部染み込んでて……ほろほろで……これ、絶対に一晩じゃ出せない味ですよ!」
将和は照れくさそうに頭を掻いた。
「まあ、味が染みるように火加減を調整しながら煮込んだからな」
美鈴は感動したように、もう一口食べる。
「……はぁ……美味しい……チャーハン作りに来たのに、私の方がご馳走になってる気分です……」
霊夢はお茶を飲みながら、ぽつりと呟く。
「……こういう時間、悪くないわね」
将和は笑う。
「たまにはな」
美鈴も嬉しそうに頷いた。
「はい。なんだか……家族みたいで」
霊夢は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐにそっぽを向いて言った。
「……まあ、悪くはないけど」
将和は苦笑しつつ、煮物を美鈴の小鉢にもう一度よそった。
「ほら、美鈴。まだあるぞ」
「ありがとうございます!」
三人はしばらく、カニ玉チャーハンと煮物を交互に食べながら、穏やかな昼食の時間を楽しんだ。
境内には、昼下がりの柔らかな風が吹き抜けていく。
そして、食事を終えると、霊夢が立ち上がった。
「さて……そろそろ準備しないとね」
将和も頷く。
「今日も人が集まりそうだしな」
美鈴は中華鍋を抱えながら笑った。
「私も手伝います!」
三人は境内の掃除や準備を始めた。
そして――夕方になる頃には、すでに神社の周囲に“人の気配”が漂い始めていた。
「さあ、今日も飲むぜー! 乾杯ー!!」
『乾杯ー!!』
日が沈み、提灯に灯りがともる頃。
魔理沙が酒瓶を片手に、乾杯の音頭を取ると、境内は一気に賑やかになり、宴会は自然発生的に始まった。
その周りには白玉楼組、紅魔館組、アリス、チルノ、大妖精等々の顔ぶれが、まるで“吸い寄せられるように”集まっていた。
霊夢はため息をつく。
「……やっぱりこうなった。準備も片付けもこっちがするんだから神社での宴会は程々にして欲しいわ」
将和は苦笑しつつ、美鈴の料理を並べる手伝いをしていた。
「まあ、せっかくだし楽しもうぜ」
美鈴は中華鍋を振りながら笑う。
「はい、できました。海鮮チャーハンです」
将和は湯気の立つ皿を受け取り、一口食べる。
「……うまい! 美鈴、本当に店で出せるレベルだぞ」
美鈴は照れたように笑う。
「将和さんが良い食材をくれたおかげですよ。この“マックスサザエ”のおかげで、すごく良い出汁が出たんです」
「ツルギダイとヨロイダイもな。食材を生かすも殺すも料理人の腕次第だ。また、今度何か作ってくれないか美鈴? キミの料理をもっと食べてみたい」
美鈴は嬉しそうに頷いた。
「はい。また腕によりをかけて作りますよ」
そんな会話をしていると、境内の階段を上がってくる三つの影があった。
ロンメル、慧音、そしてミスティアの三人が手に料理や酒を持ってやってきたのである。
将和は手を振った。
「お、ロンメル。慧音さんにミスティアまで。来てくれたのか?」
ロンメルが笑う。
「ミスティアが“なんとなく神社に行きたくなった”と言うのでね。私たちもつい付き合っただけだよ」
慧音は苦笑しながら頷く。
「気づいたら足が向いていたんだよ。……不思議なものだ」
ミスティアは両手に料理を抱えながら言った。
「せっかくだから差し入れ持ってきたわ。今日は賑やかになりそうね」
将和は三人を見て、ふと呟いた。
「こうして見ると……親子みたいだな」
慧音がぴたりと固まり、顔を赤くする。
「なっ……!」
ミスティアは目を丸くした。
「えっ……私、ロンメル先生と慧音先生の子どもに見えますか?」
ロンメルは苦笑しながら肩をすくめた。
「言い得て妙だな。確かにミスティアは、私と慧音の“教え子”ではあるが」
慧音はさらに赤くなる。
「そ、そういう意味じゃ……!」
将和は笑いながら手を振った。
「悪い悪い。でも、なんか微笑ましい光景だなって思ってさ」
ミスティアは照れながらも嬉しそうだった。
「……まあ、嫌じゃないですけどね」
三人が参加すると美鈴の料理を絶賛し、将和の差し入れの煮物やミスティアが持って来た焼き物等も食べあいながら宴会が盛り上がり始めた頃、ロンメルは将和と酒を酌み交わしながら言う。
「将和、人里でも宴会騒ぎだよ。十中八九、萃香の仕業だろう」
将和は頷いた。
「だろうな。でも……なんで俺に決闘を申し込んでおいて、幻想郷中に宴会を起こしてるんだ?」
ロンメルは杯を置き、真剣な顔になる。
「本震の前の前震……いや、火山の地鳴りのようなものだ。鬼が本気になる前の“準備運動”なのかもしれん」
将和が返事をしようとしたその時――
境内の空気が、ふっと揺れた。
「ごきげんよう、皆さん」
紫色の隙間が開き、八雲紫が姿を現した。
その後ろには、藍と橙の姿もある。
「珍しいわね、紫がこんな宴に顔を出すなんて」
「紫~、こっちこっち。おいしいものいっぱいよ~」
レミリアもワイングラスを揺らしながら言い、幽々子は嬉しそうに手を振る。
霊夢は特に驚くこともなく、「来たわね」と言わんばかりに飲んでいた手を止め、将和は軽く会釈する。
「よう、紫。藍と橙も久しぶりだな」
紫は扇子を口元に当てて微笑んだ。
「ええ。たまには外の空気も吸わないとね」
ミスティアと慧音、ロンメルは目を丸くした。
「えっ……あの紫さんが……?」
「……博霊神社に?」
「これは……大物が来たな」
ロンメルは背筋を伸ばし、無意識に警戒の色を見せた。
紫はそんなロンメルに気づき、微笑んだ。
「こんばんは、エルヴィン。またお会いしましたわね」
ロンメルは一瞬だけ表情を引き締めたが、隣の慧音に肩を掴まれた。
「宴会の席よ。警戒しないで」
ロンメルは苦笑し、警戒を解いた。
「……了解したよ、慧音」
紫はその様子を見て、楽しげに目を細めた。
(何があったんだ、この二人……?)
将和はロンメルと紫の姿を見て、色々と憶測を立てたが、信条的に相容れない部分があったのかもしれないなと、あまり詮索はしないようにした。
そんな紫は幽々子の隣に腰を下ろすと、レミリアが興味深そうに近づいてくる。
「紫、聞いてちょうだい。三日前の宴会でね――“博霊の勇者”が誕生したのよ」
幽々子が言うと、レミリアも頷く。
「そう。この幻想郷の護り手に相応しき新たな“称号”。なかなか良いネーミングだと思わない」
紫は扇子を閉じ、将和の方へ視線を向けた。
「“博霊の勇者”……ふふ、良い響きね。確かに、彼にはその異名が似合うわ」
幽々子が笑う。
「でしょう? 霊夢も気に入ってるみたいよ」
霊夢は酒を飲みながらそっぽを向いた。
「別に気に入ってるわけじゃないわよ」
紫はその反応にクスリと笑った。
「これは……!」
「美味しい……!」
藍と橙は美鈴の料理を食べて目を輝かせる。
「紫様、このチャーハン、とても美味しいですよ」
「これ、すごく好き!」
藍と橙が皿を紫へと持ってくると、紫も一口食べて、目を細める。
「本当に美味しいわ、美鈴。あなた、料理の腕があるのね」
美鈴は顔を赤くして俯いた。
「そ、そんな……恐縮です……」
しかし紫は皿を食べ終えると、すぐに水を口に含み、そっと口元を拭った。
将和はその様子に気づき、声をかける。
「……もしかして、辛いの苦手だったのか?」
紫は少し照れたように微笑んだ。
「ええ、少しね。美味しいんだけれど、舌が追いつかなくて」
「なら、これならどうだ?」
将和は煮物をよそい差し出した。
紫は一口食べ、目を見開いた。
「……これ、あなたが作ったの?」
将和は頷く。
「まあな。辛くはないし、紫の口に合えば良いが」
紫はもう一口食べ、満足げに微笑んだ。
「……美味しいわ。将和、私のために毎日味噌汁を作ってくれないかしら?」
周囲がざわつく。
「えっ、告白……?」
「紫が……?」
「大胆すぎる……!」
霊夢が真っ先に声を上げた。
「ちょっと紫!あんた何言ってんのよ!」
美鈴も慌てて続く。
「そ、そうですよ! 将和さんは、えーと……兎に角だめです!」
紫は肩をすくめ、悪戯っぽく笑った。
「ざーんねん。霊夢にも春が来たってわけね」
霊夢は真っ赤になった。
「ち、違うわよ!」
紫はさらに爆弾を投下する。
「ところで将和。今世では結婚を考えているのかしら? 前世では複数人と結婚して、子どももいたんでしょう?」
境内が静まり返る。
将和が前世で人としての生を一度終えたというのは知っていたが、結婚して子を設けていたことまでは誰も考えが及んでいなかったのである。ましてや複数人と。
「そうだな……」
将和は清酒を一口飲み、月を見上げながら静かに言った。
「……俺は今でも、前世の妻や子どもたちを愛してはいるよ」
霊夢と美鈴の表情が曇る。
しかし将和は続けた。
「でも、あいつらは言うだろうな。“今世で心から愛した相手がいるなら、その人を大切にしなさい”って」
将和は皆を見渡し、特に霊夢と美鈴の方へ視線を向けた。
「だから俺は、今世で心に決めた相手ができたら……その人と幸せな関係を築きたい。ロンメルを見てると、そう思うよ」
慧音は驚き、ロンメルを見る。
ロンメルは静かに頷いた。
「……そういうことだ」
将和の言葉に、他の者達は温かい眼差しを向けた。
霊夢は小さく呟く。
「……将和……」
美鈴も頬を赤らめながら言う。
「将和さん……」
紫は扇子で口元を隠しながら悪戯っぽく笑った。
「ふふ。なら私にもチャンスがあるというわけね」
霊夢と美鈴が同時に噛みつく。
「ないわよ!」
「ありません!」
紫は楽しそうに扇子を広げた。
「霊夢~。誰が誰を好きになろうが、誰がいつ告白しようが自由よ?早い者勝ちなんだから♪」
霊夢と紫が言い合いを始め、周囲は笑いに包まれる。
宴会の夜はさらに賑やかさを増していった。
そんな折、ふと将和は境内の空気に違和感を覚える。
「……なんだ、この感じ」
霊夢が振り返る。
「どうしたの?」
「いや……なんか、空気が重いというか……」
将和が言い終える前に、境内の灯りがふっと揺れた。
風は吹いていない。
それなのに、空気が“集まる”ような圧がある。
慧音が眉をひそめる。
「……これは、まさか」
ロンメルが杯を置き、静かに立ち上がった。
「来るぞ。この気配……萃香だ」
その瞬間――境内の鳥居の上に、小柄な影が腰を下ろしていた。
瓢箪を肩に担ぎ、月明かりを背にして笑う少女。
伊吹萃香の姿がそこにあった。
霊夢は静かに息を漏らす。
「やっぱり来たわね」
紫は扇子を閉じ、興味深そうに目を細める。
「ふふ……ようやく“本命”の登場ね」
将和は一歩前に出た。
「萃香。宴会を起こして回ってたのは、お前だな」
萃香は鳥居の上から軽く手を振った。
「そうだよ。あんたと戦う前に、ちょっと体を温めてただけさ」
ロンメルが呟く。
「……やはり“準備運動”か」
萃香は鳥居から飛び降り、将和の目の前に着地した。
その瞳は、以前の酔いどれ鬼のものではない。
強者を見据える、“鬼の四天王”の眼だった。
「将和。あんた、面白い男だよ」
将和は静かに構える。
「そうかよ。でも、宴会を巻き込むのはやめてくれ」
萃香は笑った。
「悪かったね。でも……あんたと戦うって思ったら、どうしても“集まっちゃう”んだよ。私の力がさ」
霊夢が腕を組む。
「つまり、あんたの能力の暴走ってわけね」
「暴走じゃないよ。“本気になる前の準備”ってやつさ」
萃香は将和の胸を指で軽く突いた。
「三好将和。“博霊の勇者”。あんたに――正式に挑みに来た」
境内が静まり返る。
美鈴が息を呑む。
「……将和さん……」
レミリアは興奮気味に笑う。
「面白くなってきたわね」
紫は扇子を口元に当て、楽しげに目を細めた。
「さあ、どうするのかしら。勇者さん?」
将和は萃香を見つめ返し、ゆっくりと頷いた。
「……分かった。受けて立とう」
萃香の笑みが深くなる。
「そうこなくっちゃ!」
境内の空気が一気に“濃く”なる。
まるで世界が萃められたかのように、空気が震え、灯りが揺れた。
萃香は宣言する。
「明日の夜。妖怪の山で決着をつけよう。鬼と勇者――どっちが上か、はっきりさせようじゃないか!」
将和は剣の柄に手を置き、静かに答えた。
「望むところだ」
萃香は満足げに笑い、ふっと姿を消した。
残されたのは、ざわめく仲間たちと、静かに燃える将和の瞳。
紫が扇子を閉じて言う。
「……さて。いよいよ面白くなってきたわね」
霊夢はため息をつきながらも、どこか誇らしげに笑った。
「ほんと、あんた……面倒な相手に気に入られたわね」
将和は苦笑しながら空を見上げた。
「まあ……悪い気はしないさ」
こうして――鬼の宣言は成され、博霊の勇者との決闘が正式に決まった。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m