萃香からの決闘宣言の翌夜。
博麗神社の境内は、静かに緊張を孕んでいた。
虫の声すら遠く、風の音も弱い。
まるで――この夜を境に、何かが変わると知っているかのように。
将和は境内の縁側に腰を下ろし、アリスが仕立ててくれた新しい戦装束――鬼神服を身に纏っていた。
一見鎧のような見た目をしているが、この服は布製の戦装束がデザインとして施されているだけの軽装であり、肩と胸を覆う布は柔らかく、動きやすい仕様となっているのである。
しかし、将和は着慣れないせいか、どうにも落ち着かなかった。
「……なんか、ズレてる気がするんだよな」
胸元を引っ張っていると、背後から霊夢が歩いてきた。
「ちょっと貸しなさい」
霊夢は無造作に将和の胸元を掴み、布の位置を整えた。
「ほら、ここ。あんた、こういうの不器用なのね」
「助かるよ、霊夢」
霊夢はそっぽを向きながらも、どこか嬉しそうに口元を緩めた。
「……まあ、死なない程度に頑張りなさいよ。あんたが負けたら、萃香が飽きるまで幻想郷中で暴れるんだから」
「それは困るな」
将和は立ち上がり、腰の剣を確かめる。
霊夢はその姿を見つめ、ふと真剣な声で言った。
「……本当に行くのね」
「行くさ。萃香が本気で挑んできたんだ。逃げるわけにはいかない」
霊夢は小さく息を吐き、将和の袖を軽く引いた。
「……将和、無茶しないでよ」
将和は微笑む。
「心配してくれるのか?」
霊夢は顔を赤くし、慌てて手を離した。
「べ、別に!ただ……幻想郷が壊れたら困るだけよ!」
「はいはい」
将和は笑い、霊夢を伴って妖怪の山へ向かった。
満月が照らす山頂は、まるで戦いを待つ舞台のように静かだった。
そこには――すでに萃香が立っていた。
その隣には、紫色の隙間から現れた八雲紫。
萃香は将和を見ると、嬉しそうに手を振った。
「よっ、将和。来たねぇ」
将和は歩み寄り、萃香の隣に立つ紫へ軽く会釈した。
「紫。今日は立会人か?」
「ええ。あなたたち二人が見境なく暴れたら、大結界が壊れかけないからね」
紫は扇子を閉じ、萃香に視線を向けた。
「それで? ルールの確認をするんでしょう?」
萃香は頷き、紫に向き直った。
「紫。今回の勝負、弾幕だけじゃなく――肉弾戦も解禁してほしい」
紫は目を細めた。
「それは……弾幕ごっこの枠を外れるわよ?」
萃香は笑う。
「そいつの剣を“受けてみたい”んだよ。あの踏み込み、あの斬撃……弾幕だけじゃ物足りないぜ」
将和は一歩前に出た。
「俺は構わない。接近戦は望むところだ」
紫はしばらく考え、ため息をついた。
「……まったく。あなたたち、似た者同士ね。いいわ。特例として認めましょう」
将和は続けた。
「ただし、俺にはスペルカードという“必殺技”はない。代わりに、特殊アイテムを使わせてもらう」
紫は頷き、スキマへと消えた。
その瞬間――空気が変わった。
萃香が拳を握り、将和が剣を構える。
霊夢は近くで見守り、魔理沙、アリス、レミリア、美鈴、ロンメル、他天狗等の妖怪の山に住まう住人たちは少し離れた岩場から観戦していた。
さらに――
(……どうやら、この戦いを見ている“強者”は他にもいそうね)
山の上空から紫が見下ろし、その視線の先には別の影があった。
「おお……あれが“博霊の勇者”か。面白い……!」
「アレが早苗の言ってた剣士? 優男じゃん」
八坂神奈子が腕を組み興奮を隠さないのに対し、隣に座る洩矢諏訪子はお酒を飲みながら悪態をついていた。
「はい。神奈子様、諏訪子様……」
早苗は、将和を見つめていた。
それは何か惹かれるものがあったからである。
それが何なのか、今の彼女には分からない。
「……アレが博霊の禰宜かしら、鈴仙」
「はい。お師匠様……」
一方別の場所では八意永琳が鈴仙を伴いながら冷静に戦場を見つめていた。
彼女は鈴仙からの報告を元に自分の目で件の禰宜を自分の目で確認しに来ていたのである。
「あいつ、戦闘力は月の戦士並にはあると感じましたが、どう見えますか……?」
鈴仙が言うと、永琳は目を細めた。
「……さて、どうかしらね」
一方、別の場所では一人の少女が腕組みしながら呆れた表情を浮かべ見据えていた。
「はぁ――まったく、萃香は……節操のない」
彼女の名は茨木華扇。
妖怪の山に『茨華仙の屋敷』を構えて暮らしている仙人である。
山に住まう住人たちから旧交のある萃香が、最近新たに頭角を現してきた博霊の勇者に決闘を挑むと聞きつけ、視察に訪れていたのである。
ため息をつきながらも冷静に見つめるその目は鋭い。
彼女の中の“鬼”が、強者の戦いに反応していたのである。
各々の観戦者たちが見守る中、月光が将和と萃香の二人を照らし、風が止む。
霊夢は息を呑み、魔理沙は興奮し、美鈴は祈るように手を握りしめた。
紫は扇子を閉じ、静かに呟く。
「――始まるわよ」
萃香が地面を蹴り、将和が踏み込んだ。
鬼と勇者の戦いが、ついに幕を開けた。
萃香が最初に放ったのは、鬼の名を冠する強烈なスペル。
「スペルカード――『鬼符・ミッシングパワー』!!」
萃香の拳から放たれた衝撃波が、瞬く間に無数の弾幕へと変わり、赤、橙、紫の光が空を埋め尽くす。
まるで山そのものが怒り狂ったかのような圧。
観戦者たちが息を呑む中、将和は剣を構え、自らも弾幕を放った。
「――っ!」
将和の周囲から放たれた光弾が、萃香の弾幕へと飛び込み、次々と相殺していく。
萃香の弾幕の軌道を読み、的確に当て、相殺しきれなかった弾幕は剣で斬り払った。
「はっ!」
剣が光を弾き、弾幕が弾け飛ぶ。
足元の岩を蹴って跳躍すると、空中でさらに弾幕を斬り裂いてスペカを無力化した。
萃香は目を見開き――すぐに笑った。
「いいねぇ!ちゃんと“見えてる”じゃないか!」
将和は息を整えながら言う。
「お前の攻撃は……重いな」
「鬼の本気は、まだまだこんなもんじゃないよ!」
萃香は再び拳を構え、地面を踏みしめた。
「続けていくよ――『鬼気・濛々迷霧』!!」
萃香の周囲から濃い霧が噴き出し、瞬く間に戦場を覆い尽くす。
視界ゼロ。
音もほとんどしない。
ただ――空気の揺らぎだけが迫る危険を知らせてくる。
将和は剣を握りしめ、静かに呼吸を整えた。
「……見えないなら、すべて受けるしかない」
霧の中から、無数の弾幕が四方八方から迫る。
「てぇやあぁ――!!」
将和は剣を振り抜き、回転斬りで全て弾き返した。
そのうちの一つが、遠巻きに見ていた永琳と鈴仙の方向へ飛ぶ。
「きゃっ!?」
鈴仙が身を屈め、その脇を弾幕が通り抜ける。
鈴仙はこういった敵意が感じられず弾道がよみにくい予想外な攻撃や流れ弾には弱かった。
永琳は微動だにせず、冷静に言った。
「修行が足りませんよ、鈴仙」
鈴仙は涙目で震えた。
「ひ、ひどい……!」
霧が晴れると同時に、萃香は嬉しそうに拳を握りしめると、地面を蹴った。
「そうこなくっちゃな!! 続けていくよ――『萃符・戸隠山投げ』!!」
萃香は近くの巨大な岩を掴み、そのまま投げつけてきた。
「っ……!」
将和は横へ前転して回避すると、岩は背後の山肌に激突し、轟音を響かせる。
だが――正面から別のスペルが迫っていた。
「『酔夢・施餓鬼縛りの術』!!」
鎖が唸りを上げて襲いかかる。
将和は咄嗟に盾で受けるが、鎖に触れた瞬間、霊力が吸われるような感覚に襲われた。
「くっ……!」
体が痺れ、膝が沈む。
この攻撃はダメージを受けないが当たった瞬間に霊力を吸い取られるので、見た目以上に効果が大きいのである。
萃香は舌なめずりをすると、すかさず接近し、左手で殴りかかる。
将和は盾で受け止め、足で萃香を蹴り上げる。
しかし、萃香は空中で一転し、逆に蹴りを入れてくる。
「っ……!」
将和は背中に衝撃を受け、地面に膝をつく。
しかし、すぐにチェーンハンマーを取り出し、再び迫る萃香へと一撃を叩き込んだ。
「がはっ!」
萃香が弾き飛ばされる。
剣と拳の激しい攻防。
萃香は笑いながら立ち上がる。
「いいねぇ……!やっぱりあんた、面白いよ!!」
萃香は拳を握りしめ、地面を踏みしめた。
「じゃあ次はこれだ――『百万鬼夜行』!!」
視界を覆い尽くすほどの弾幕が将和へと迫る。
「うおおおお!!これ、マジでやばいって!!」
「密度が……桁違い。空間そのものが押し潰されてる……!」
観戦していた魔理沙は叫び、アリスが冷静に分析する。
しかし、将和は冷静に魔法収用袋から爆弾を10個程取り出すと、疾風のブーメランを構える。
「行けっ!!」
ブーメランが爆弾を空中に運び、一斉に爆発する。
「っ……」
爆煙が広がり、萃香の視界を塞ぐ。
その瞬間――煙の中から鎖に繋がれたアンカーが射出され、萃香の腕を掴んだ。
「なにっ……!?」
将和が使用した“クローショット”だった。
引き寄せられる鎖に踏ん張る萃香。
しかし、急に軽くなったかと思うと、ワイヤー移動の要領で引き寄せられるように接近してくる将和によって一閃を加えられる。
「がはっ……!!」
萃香が吹き飛ぶ。
しかし、将和は微妙な表情を浮かべた。
「手応えは……薄いな」
霧が晴れ、萃香は拳を下ろして笑った。
「やるじゃないか、将和。ここまで私の攻撃を切り抜けた人間なんて、そうはいないよ」
将和は剣を構え直す。
「まだ終わりじゃないんだろ?」
萃香はにやりと笑い、瓢箪を地面に置いた。
その動作だけで、山頂の空気が震えた。
霊夢が眉をひそめる。
「……来るわよ。萃香の“本気中の本気”」
紫は扇子を閉じ、興味深そうに目を細めた。
「さて、どこまでやるのかしら」
萃香は深く息を吸い込み、地面を踏みしめた。
「将和。あんたには……これを見せたかったんだよ」
そして――宣言する。
「最終スペル――『鬼神「ミッシングパープルパワー」』!!」
山頂全体が揺れた。
萃香の身体が巨大化し、鬼気が山を覆い尽くす。
観戦者たちが息を呑む。
まるで、古の鬼神が現世に降り立ったかのような圧であった。
「これが……鬼の四天王の本気……!」
「将和さん……!」
レミリアが今まで萃香が手加減していたことを察し、美鈴が心配する中、華扇は震える声で呟いた。
「萃香……本気でやるつもりですか……!」
紫は扇子を口元に当て、楽しげに目を細めた。
「ふふ……さあ、どうするのかしら。勇者さん?」
将和は剣を握りしめ、巨大な鬼の影を見上げた。
「……来い、萃香」
萃香は笑い、拳を構えると地面を蹴った。
その一歩だけで、山頂の岩が砕け散る。
「行くよ、将和!!」
巨大な拳が振り下ろされる。
将和は剣を構え、横へ跳躍――
しかし、拳から放たれる衝撃波が地面を抉り、将和の身体を吹き飛ばした。
「がはぁっ……!」
将和の体が岩壁に叩きつけられ沈む。
観戦者たちが「ああ…!」と叫んだ。
「勝負ありましたね……」
華扇は戦いの行方をそう分析する。
「まあ、あれは無理だよねぇ」
「人間にしてはよく頑張ったな……」
「…………」
諏訪子と神奈子、早苗は各々の反応を示す。
一方の永琳は背を向けた。
「……この程度ですか。恐れるに足りませんね。行きますよ、鈴仙」
「は、はい。お師匠様」
だが――
「……っ!?」
永琳は足を止めた。
山頂に、“別の圧”が満ちていたからである。
将和は沈んでいた岩壁からゆっくりと立ち上がった。
その身体から霊力が立ち昇る。
「咄嗟に霊力を纏って衝撃を和らげたか……」
萃香は嬉しそうに笑った。
「もっと見せておくれよ、将和!! あんたの“本気”を!!」
将和は息を整え、マスターソードを鞘へと納めるとニヤリと笑う。
「っ……萃香。どうやら、俺も切り札を使わせてもらわないといけないようだな」
将和は収納袋から“ある仮面”を取り出した。
将和はその面をゆっくりと見つめる。
(鬼神の仮面……俺に扱えるか……? いや――使いこなしてみせる……!)
そして、将和は仮面を自身の顔へと被った。
瞬間――
空気が震え、地面は軋み、山そのものが呻き声を上げているかのような圧が観戦している者達を圧倒した。
「こっ、これは……!?」
「……想定外ね!!」
観戦していた鈴仙と永琳は巨大な力の奔流が来たことに目を庇いながら睨み据える。
「おいおい……アレって……!」
「まさか、あの力は……!」
「神の……力……!?」
諏訪子と神奈子、早苗は息を飲む。
「まさか……鬼の力……!!」
華扇は今日一番の驚きに目を見開く。
「……フッフフフ……ハハハ………!!!」
萃香は驚き、 そして心の底から嬉しそうに笑った。
萃香の前で将和の身体が元の身長の2倍以上へと変貌を遂げると、背中からは鬼気が噴き出していた。
腕は太く、脚は岩のように重い。
その姿はまさに――“鬼神”
将和が“鬼神の大剣”を構えると、その影が“鬼(萃香)の影”と重なる。
それはまるで、古の神々が現世に降り立ち戦いあうような光景であった。
「まさか鬼の力とは……見せてくれるね、将和!!」
将和は静かに言う。
「萃香。お前は確かに強い。でも――俺はまだ折れない」
萃香は拳を握りしめ、歓喜の声を上げた。
「いいねぇ!!さあ、来い!!」
萃香が地面を蹴り、巨大な拳が迫る。
将和は踏み込み、大剣を振り抜いた。
衝撃波と衝撃波がぶつかり合い、山頂に爆風が巻き起こる。
萃香は拳を構え、嬉しそうに叫んだ。
「そうこなくっちゃ!!さあ、もっとやろう!!」
将和は大剣を構え、萃香の拳を受け止める。
拳と剣がぶつかり、地面が割れる。
妖怪の山の山頂は、もはや戦場というより“神域”だった。
萃香の最終スペル『鬼神「ミッシングパープルパワー」』によって巨大化した鬼の影が山を覆い、将和の鬼神覚醒によって吹き荒れる霊力が空気を震わせる。
観戦者たちは息を呑み、誰もが言葉を失っていた。
「すごい……!」
「……なんだよこれ……幻想郷の歴史に残る戦いじゃないか……!」
「二人とも……規格外すぎるわ……」
妖夢と魔理沙、アリスがそう言うと、美鈴は胸に手を当て、震える声で呟く。
「将和さん……どうか……!」
紫は扇子を閉じ、興味深そうに目を細めた。
「さて……ここからが本当の“決着”ね」
腕を巨大化させた萃香が拳を振り上げる。
「終わりにしようか、将和!!四天王奥義――『三歩必殺』!!」
一歩踏み込むたびに、山頂の岩が砕け、空気が震え、鬼気が爆発する。
二歩目で、観戦者たちの足元の岩が割れた。
三歩目――萃香の拳が、まるで山そのものを殴りつけるかのような圧で迫る。
「まずい……!あれは直撃したら死ぬぞ!!」
「将和!!」
「お願い……!」
ロンメル、霊夢、美鈴が見守る中、将和は大剣を構え、一歩踏み込んだ。
その瞬間――世界が静まり返った。
萃香の拳の軌道が、空気の流れが、地面の震えが――すべて“線”として将和には見えた。
「……見えた」
将和は低く呟くと、大剣が淡い光を帯びる。
それは魔力でも霊力でもない。
鬼神としての集中が極限まで研ぎ澄まされた証。
萃香が叫ぶ。
「来い、将和!!私の全力を――斬り抜けてみな!!」
将和は踏み込み、大剣を振り抜いた。
空気が裂け、萃香の鬼気が切り裂かれる。
巨大な衝撃波が二つに割れ、妖怪の山に風が吹き抜けた。
次の瞬間――萃香の身体が岩壁へ叩きつけられ元の体へと戻った。
観戦者たちは息を呑んだまま動けなかった。
「……決まったわね」
「すげぇ……本当にやりやがった……!」
「強者同士の戦い……最高ね」
霊夢と魔理沙、レミリアがそう言う中、華扇は包帯に包まれた右腕を押さえながら、震える声で呟いた。
「……あの萃香が……本気で……負けた……?」
永琳は苦々しい顔つきをしながら頭を抱える。
「……あれが“博霊の禰宜”……厄介な存在ね」
将和は大剣を下ろし、ゆっくりと萃香へ歩み寄った。
霊夢と紫が制止する。
「ストップよ、将和!」
「これ以上はスペルカードルールに違反するわ」
将和は頷き、鬼神の仮面を外した。
瞬間、彼の身体が元の姿へ戻る。
「……大丈夫か?」
萃香はしばらく動かなかったが、やがてゆっくりと上体を起こし、将和を見上げて笑った。
それは――悔しさでも怒りでもない。
“強者に敗れた誇り”の笑顔だった。
「……ははっ……負けたよ、将和。あんた、本当に強いねぇ……!」
将和は手を差し伸べる。
萃香はその手を掴み、立ち上がった。
「鬼として……こんなに楽しい戦いは久しぶりだよ」
将和は微笑む。
「俺もだ。萃香……ありがとう」
萃香は肩をすくめる。
「礼なんていらないよ。鬼はね――強者と戦うために生きてるんだ」
そして、将和の胸を軽く拳で叩いた。
「でもね……次は負けないよ?」
将和は笑う。
「望むところだ」
萃香は妖怪の山を見渡し、この戦いを見守っていた全ての者たちに向かって叫んだ。
「みんなぁ!! 今日は最高の夜だよ!!“博霊の勇者”が、鬼を倒したんだ!!」
観戦者たちは歓声をあげ、文やはたて等の天狗たちはシャッターを切りながら、興奮して飛び回る。
『おおおおお!!』
「これは一面確定ですね!!」
「スクープよスクープ!!」
その熱気の中――数名だけは、別の意味で静かに震えていた。
(……ああ……疼きが……収まらない……!)
華扇は包帯に包まれた右腕を押さえ、ぞくぞくと震えていた。
将和と萃香の激突。
鬼神と鬼神のぶつかり合い。
その“圧”が、彼女の中に眠る鬼の血を刺激していた。
(自分も……あの場に加わりたい……!)
その衝動を必死に抑えながら、ふと華扇は左手で自分の股に触れると――湿っていることに気づき、顔を真っ赤にした。
「……っ……修行が足りませんね。下着を変えなければ……うー……これも全部萃香のせいです!!///」
理不尽な逆恨みを口にしながらも、華扇の瞳は強く輝いていた。
(いつか……必ず。博霊の勇者に挑む……!)
決意を胸に、華扇は『茨華仙の屋敷』へと帰っていった。
その日、屋敷へと戻った彼女は、一夜を通して疼きを沈めることになったのである。
一方、守矢神社の三柱は――別の意味で興奮していた。
「鬼と神の力を扱うか……幻想郷にあのような強者が居たとは!ああ……戦うのが待ち遠しい!!」
神奈子は腕を組み、満面の笑みを浮かべる。
「こりゃ私も一肌脱ぐ必要があるか……このままじゃ、あっさり負けちゃうねぇ」
諏訪子は杯を置き、にやりと笑う。その姿は久しぶりに忘れていた昂りに目覚めた目をしていた。
その横で――
「…………」
早苗は顔を真っ赤にして固まっていたのである。
「早苗?」
神奈子が問い掛けるが、早苗からの反応はない。
「早苗!」
「…はっ、はいっ!? どうしました、神奈子様!」
諏訪子が再び問い掛けると、ようやく気が付く。
その反応を見た諏訪子は、悪戯っぽく笑った。
「はーん。これは惚れたね」
神奈子もニヤニヤしながら言う。
「そうか、早苗にも春が来たんだね」
「ち、違いますっ!!///」
早苗は真っ赤になって否定するが――その視線は、将和の背中に吸い寄せられていた。
「…………」
「…………」
しかし、各々が興奮と歓声に包まれる中、ただ一組だけ――“お通夜”のような空気をまとっていた者達がいた。
「……鈴仙」
「はい、お師匠様」
今まで沈黙していた永琳は鈴仙に対し静かに言った。
「……私の認識が間違ってたわ。今の私たちだけでは、博霊の禰宜を抑えることはできないでしょう」
「っっ……!?」
鈴仙は驚愕する。あの師匠が、何事にも動じること無く強気な姿勢の師が事実上勝ち目がないと言ったのである。
動揺する鈴仙を気にせずに永琳は続ける。
「異変を起こしても勝算はない。今の私たちだけでは必敗する未来しか見えないわ」
「そんな……」
震える鈴仙を尻目に永琳は目を細め、静かに決意を固めた。
「ですが――まだ策はあります」
「策……?」
しかし、永琳の言葉に鈴仙は希望を見出す。
「ええ。今の私たちでは戦力不足よ。故に私は――自分が持つ最大の手札……“ジョーカー”を切りましょう」
永琳は月を見上げ、静かに告げる。
それは本来の歴史ではあり得なかった決断。
将和の存在が、幻想郷の歴史を大きく変え始めている証であった。
こうして、幻想郷の強者たちがそれぞれの思惑を抱え動き始めていくのである。
「……まったく。あんな力を隠してたなんて、あんたって本当に底が知れないわね」
霊夢はため息をつきながらも、どこか誇らしげに笑い、将和を労う。
「ぶっつけ本番だったがな……萃香との戦いが、俺がこの力を扱えることを証明してくれた」
将和は苦笑しながら空を見上げた。
「……ああ、楽しかった。これだから幻想郷はやめられないねぇ」
萃香は満月を見上げ、静かに呟いた。
こうして――鬼の敗北と鬼の笑顔 をもって、宴会異変は静かに幕を閉じた。
しかし、この夜の戦いは後に語り継がれる。
“博霊の勇者”と“鬼の四天王”の激闘。
それは、幻想郷の新たな伝説の始まりだった。
将和、人間やめたら種族 鬼神かもしれない。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m