三好in東方Project(仮)   作:フォークロア

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第十八話 新たな参戦、新たな家族の形

 

「――ふぅ……」

 

八意永琳は月光を遮る結界の調整を終え、深く息を吐いた。

永遠亭の奥深くで、月光が静かに彼女の横顔を照らしている。

 

(……準備は整いつつある。あとは――)

 

彼女は机に向かうと、筆を取る。

宛先は、かつて永琳が“月の賢者”として在籍していた頃、唯一、心を許せた相手。

月の都にいる旧知の賢者――稀神サグメ。

永琳は静かに筆を走らせた。

 

幻想郷にて、剣士との意志の交差を望む。

綿月依姫殿に、剣による対話をお願いしたい。

直接の接触は叶わぬ故、貴殿より綿月姉妹へ伝達を願う。】

 

書き終えると、永琳は特殊な水晶を取り出した。

これは、“輝夜が月に帰りたいと願った時のため”に密かに残していた伝手のひとつ。

永琳は水晶に手をかざし、静かに呟いた。

 

「……サグメ。あなたに頼みたいことがあるの」

 

水晶が淡く光り、月の都へと文が送られた。

 

(依姫……豊姫……あなたたちを呼ぶのは、本来なら許されないこと。それでも――必要なの)

 

永琳は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

月の都、 静寂の宮殿の一室にて――

稀神サグメは、永琳からの文を受け取っていた。

 

(永琳から……? 千年ぶりね。これは……ただ事じゃないわ)

 

サグメは文を開き、内容を読み終えた後、静かに目を伏せた。

 

(……“剣による対話”。永琳……あなたがここまで言うのなら、よほどの理由があるのでしょうね)

 

サグメは言葉を発さず立ち上がると、綿月姉妹のもとへ向かった。

 

 

「依姫」

「サグメ様……!?」

 

綿月姉妹のもとを訪れたサグメは軽く一礼する。

綿月依姫は、その日は月の使者となる玉兎たちの戦術指南の仕事がお休みだったので、姉の豊姫と共に月の庭園で静かにお茶を飲みながら過ごしていた。

そんなところに、突然サグメが来訪してきたので驚いた。

彼女は『口に出すと事態を逆転させる程度の能力』を持つが故に、声に出して挨拶することもあまりないため、今日みたいに姿を認めるまで彼女だと気が付かないことは多い。

当然、綿月姉妹と頻繁に会話を交わす程親しい間柄でもないため、こうして屋敷に出向いてくること等滅多にない。

 

「まあ、珍しいわね。どうしたのですか?」

「…………」

 

豊姫が答えると、サグメは無言で手紙を差し出す。

 

「これは……八意様からの手紙……!」

「まあ! 八意様から文なんて千年ぶりかしら!」

「…………」

 

サグメは何も言わず頷くと、依姫と豊姫は顔を見合わせ封を切る。

内容を読み進めるにつれ、二人の表情が徐々に変わっていった。

 

「……剣による対話……?」

「八意様が……“剣士としての私”を求めている……?」

「でも……“剣士との意志の交差”って……どういう意味なのかしら」

「……地上に、八意様が“剣で語る価値がある”と認めた者がいる……そういうことですね」

「っ……」

 

依姫がサグメへ尋ねると、彼女は頷く。

 

「まあ……!そんな人間が地上に?」

 

豊姫は驚きと喜びが混じったように、両手を合わせて依姫を見る。

依姫は静かに頷き、立ち上がった。

 

「行きましょう、お姉様。八意様が私たちを呼ぶ真意――直接会って確かめてみましょう」

 

豊姫は嬉しそうに笑う。

 

「ええ。久しぶりに八意様に会えるのね。楽しみだわ」

「…………」

 

サグメは二人へ一礼すると、屋敷を後にする。

 

(気をつけて。永琳が動く時は、いつだって“世界が動く時”だから)

 

綿月姉妹が幻想郷へ向かうための準備を整え始めていくのを尻目にサグメは内心でそう思う。

 

こうして――

永琳の“静かなる決断”は、月の都をも動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鏡で見たのは正解だったな。おかげで自分の数値がよく分かる」

 

霊夢との想いを確かめ合い、萃香と健闘を称えあった日の翌朝。

博麗神社の静かな朝の光の中で、将和は英傑の服を身にまとい、鏡の前でじっと自分の姿を見つめていた。

鏡に映るのは、胸元に淡く浮かぶ“数値”。

 

「昨日は想定外な出来事の連続だった。先ずは一つずつ整理していこう」

 

将和は腕を組み、昨夜の出来事を思い返す。

 

萃香との決闘後、全身に打撲を負った将和は、“青いクスリ”を飲んで眠った。

 

――これで傷も治るだろう。

 

そう思っていた。

 

だが翌朝、傷はまったく治っていなかった。

 

これが霊夢から看病されての回復魔法の発見と、彼女との仲が深まることに繋がった一連の“きっかけ”となった出来事だった訳であり、将和にとって良い意味での誤算だった。

 

「このクスリたちは、傷を癒やすモノではないなら、どういった効果がある代物なんだ?」

 

将和は手元のクスリを手に取り見つめると、赤・緑・青のクスリたちを手元に並べ置き、外に出て、試しに小さな攻撃魔法を放つ。

そして、再び鏡で自身の数値を見ると、ほんのわずかに減っているのが確認できた。

 

「魔法を使うと体力が減る……この世界はゲームで言うところの“HPやMPが別々”じゃなく、全部ひっくるめて“体力”として扱ってるのか……いや、この服の仕様によるものとも考えれるが……」

 

将和は口元に手を当てて考え込むと、次に手元にあった青いクスリを飲んでみる。

すると、鏡に映る自身の数値が回復しているのに気が付いた。

 

「……なるほどな。この服が見せている体力の数値は“力の残量”で、クスリは体力を回復させるだけで“傷を治す訳ではない”ということか。幻想郷は『外の世界の物が幻想化する世界』だとか聞いた事があるが、『外来の魔法道具』も、幻想郷の法則に従って“変質”するモノとなっていたという訳か」

 

将和は深く頷き、当たりをつけた。

将和の導き出した結論はおおよそ的を得ていたと言える。

 

例えば、将和の着ている『英傑の服』。

ゼルダ世界では、敵のHPを数値化して見せる装備だが、幻想郷では、相手が持つ霊力・魔力・妖力・信仰力等の“戦闘活動力”をひとまとめに“体力”として数値化して見せていた。

 

また、赤・緑・青等のクスリは、ゼルダ世界ではハート・魔法力等のHP(生命力)を回復させるアイテムだが、幻想郷では傷を癒やすモノでなく、あくまで“体力”を回復させるだけのアイテムとなっていたのである。

 

だからといって、薬が傷を治すのにまったく役立たないという訳ではない。元々、幻想郷において病や傷は基本的には“医療”で治すものであり、“回復”の大元は『精神力・集中力』等であるため、霊力や魔力を回復させれば、怪我や病気を治す“自分の体に従来から備わっている自然治癒力の働きを助け、早期回復に繋がるから、現実世界とそんなに大差ないというだけの話であった。

 

(……クスリは体の回復を“補助するアイテム”だったわけか。早めに気づけたのは幸いだった。もしキズも癒やす代物だと勘違いして無茶な戦いをして大怪我を負ってたいたら、後遺症に繋がったかもしれない。それに・回復攻撃の魔法が使えることが判明したのは良い意味での誤算だったな。これで戦術の幅が広がる。……待てよ? 白と黒の魔法が使えるなら、間接魔法も使えるんじゃないか……)

 

将和は深い思考の海に入り込む。

 

その時――

 

「将、ごはん出来たわよ」

 

霊夢の声が台所から響いた。

 

「今行く」

 

霊夢からの呼びかけに将和は返事を返すと、鏡の前から離れ食卓へ向かった。

思いを伝えてからと言うもの、霊夢は将和のことを“将”と呼ぶようになった。

その呼び方は、将和にとってどこか照れくさく、どこか温かいものだった。

台所に入ると、霊夢がエプロンを外しながら振り返った。

 

「何かしてたの?」

「ン…自分の持ち物の特性を把握してた。いくら高性能でも、扱えなきゃ宝の持ち腐れだからな」

 

霊夢はクスッと笑う。

 

「将にも分からないことがあるのね」

「俺とて万能じゃない。まだまだ試行錯誤してる段階さ。それにこの世界も分からないことだらけだ」

 

将和は食卓へ着くと、味噌汁を啜る。

 

「……味噌汁の味どう?」

「ズズ……うん、ちょうどいい。それに揚げ出し豆腐とは、朝から凝ってるな霊夢」

「べ、別に……前に好きだって言ってたから、作ってみただけよ」

 

霊夢はそっぽを向くが、耳まで赤い。

将和は揚げ出し豆腐を一口食べ、噛みしめるように味わった。

 

「……うん、美味い。料理、上手くなったな霊夢」

「そう……良かったわ」

 

霊夢はご飯を口に運びながら、ちらりと将和を見る。

 

(……昨日は、あんなに悲しかったのに。今は……こんなにも安心してる)

 

霊夢は朝食を食べながら将和との何気ない食卓に幸せを噛み締める。

 

焼き魚、味噌汁、卵焼き、揚げ出し豆腐、漬物。

質素だが、温かい食卓。

 

箸が触れ合う音が、静かな神社に心地よく響いた。

 

「将」

「ん、なんだ?」

「……なんでもないわ」

「……なんだよ」

「……フフ」

「……ククク」

 

霊夢が微笑むと、将和もつられて笑った。

 

(……こういう時間が、心に沁みるな)

 

将和もまたこの食卓に幸せを噛み締めた。

 

 

温かい朝食を終えた後――

食器を片付けながら冷蔵庫を開けた将和は中身を確認すると眉をひそめた。

 

「食材、ほとんど残ってないな、霊夢……」

 

霊夢は洗った食器を拭きながら、肩をすくめる。

 

「そりゃそうよ。萃香との決闘前に宴会やったじゃない。それで将、あの時めちゃくちゃ作ってたでしょ」

「ああ……そうだったな」

 

将和は頭を掻く。

 

「今日の昼過ぎにでも、人里へ買い出しに行くか」

「そうね」

 

霊夢が頷いたその時――コンコン、と戸を叩く音がした。

 

「俺が出るよ」

 

将和が戸を開けると、そこには紅美鈴が立っていた。

 

「おはようございます、将和さん。あの……朝食でも作ろうかと思って来たんですが……」

 

将和の後ろから、霊夢がひょこっと顔を出す。

 

「もう食べちゃったわよ」

 

美鈴は一瞬だけ表情を曇らせた。

 

「そ、そうでしたか……では、私はこれで――」

「美鈴」

「はい。何でしょうか、霊夢さん?」

「ちょっと話があるの。将、今日は一人で買い物に行ってきてくれない」

 

帰ろうとする美鈴の背中を、霊夢が呼び止める。

 

「えっ、霊夢……?」

 

将和が霊夢へ振り返ると、彼女は微笑んでいだ。

その笑みは、昨日よりもずっと“大人びている”ように見えた。

 

「大丈夫よ。美鈴と話したいことがあるだけ」

 

将和は霊夢の表情を見て、何かを悟ったように頷いた。

 

「……分かった。じゃあ行ってくるよ」

 

将和が神社を後にすると、霊夢と美鈴が居間に向かい合って座る。

 

「…………」

「…………」

 

二人の間にはしばしの静寂が落ちる。

湯呑みから立ち上る湯気だけが、二人の間の緊張を和らげていた。

美鈴は落ち着かない様子で、膝の上で手をぎゅっと握りしめており、霊夢は深く息を吸いながら、寺子屋時代の授業を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『良いか、戦いとはいつも二手三手先を考えて行うものだ。何故なら敵が何をしたいかを理解すれば、勝利の半分は得たも同然だからだ』

『はい、先生! それって先手必勝ってことですか?』

「そうだ。最初の一手で布石を打つことが出来れば、その後の戦いで自分に有利な流れを作ることができるからな。“戦場は流れを読む”のではなく、“流れを作る”ものだ。目も耳も心も大きく見開いて自分が見える世界と向き合っていきなさい。そして、ここに居る皆が勝利という名の“幸せ”を掴めるよう私は願っているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(戦場は読むものではなく“操る”もの――ロンメル先生、私、今その教えを使うわ)

 

霊夢は美鈴をまっすぐ見つめると、静かに口を開いた。

 

「美鈴。私――昨日、将から告白されたわ」

 

美鈴の目が大きく見開かれた。

 

「……そう、ですか……」

 

霊夢は続ける。

 

「あなたも……将のこと、好きなんでしょう?」

 

美鈴は迷いなく答えた。

 

「……はい。好きです」

 

霊夢は微笑んだ。

 

「なら、美鈴。あなたはこれからどうしたいの?」

「どうしたい……」

 

美鈴は目線を泳がせる。

それは彼女の中でも、先送りにしていたことだから明確な答えはなかった。

そんな彼女の様子を気にすること無く、霊夢は淡々と続けた。

 

「このまま“通い妻”みたいに神社に来て、将の目が自分に向くのを待つのか。将のことを諦めるのか。それとも――私と将の仲を何らかの手段を用いて裂いて、私から将を奪うのか。考えれるのはそういったところかしら」

「それは……!」

 

霊夢は美鈴の狼狽を見て、ふっと笑った。

 

「私はね、美鈴。あなたがどうしたいのか、本音を聞かせて貰いたいの」

 

美鈴は拳を握りしめ、震える声で言った。

 

「……私は……将和さんの目が私にも向いてくれるなら、それでいい。でも霊夢さんとも、可能なら仲良くしていきたいです」

 

霊夢は頷いた。

 

「なら、美鈴。あの人と共に人生を歩み、死ぬる覚悟はあるのね?」

「はい。覚悟はあります」

「宜しい」

 

霊夢は笑みを浮かべ告げる。

 

「美鈴。あんた、これから“私たち”と一緒に暮らしなさい。それなら私はあなたを認めるわ」

「えっ……それは……いいんですか……!?」

「中途半端な愛人とか、必要な時だけ互いを求め合う都合のいい関係とかを求めるって言うんなら認めないけど、“家族になる覚悟”があるなら――私はあなたを家族として迎えるわ」

「……霊夢さんは……」

「ん?」

「霊夢さんは悔しくないのですか? 同じ人を好きになった“恋敵”なんですよ?」

「あら。ならあなたは今後将に近づかないように私に退治されたいのかしら?」

「……少なくともその権利は霊夢さんにはあると思ってます。私は妖怪、霊夢さんは巫女なんですから」

「無理矢理、将を奪おうとしたなら私もあなたを退治してたわよ」

「………っ」

 

 霊夢の言葉に美鈴は黙る。

 

「でもあなたはそうしなかった。むしろ私たちとどうしようか相談までした。それなら私は――あなたと将と一緒に生きるのも悪くないと思ったの」

 

クスクスと笑う霊夢に美鈴は安堵の息をついた。

 

「……霊夢さんには敵いませんね。この短い期間で、すごく“女として”魅力的になったように見えます」

 

霊夢は照れくさそうに笑う。

 

「あらそう? でも将のことよ。多分、今後も増えると思うわよ」

「ふぇっ!?ま、まだ増えるんですか!?」

「ええ。将は自覚ないだろうけど、もう何人か、彼に魅入ってるのがいると思うわ」

 

クスリと頬笑む霊夢に美鈴は呆然とした。

 

「さあ、美鈴。これから忙しくなるわよ。“家族”としてよろしくね」

「よろしくお願いします、霊夢さん」

 

深く頭を下げる美鈴に、霊夢は優しく微笑んだ。

 

こうして――

美鈴は正式に博麗神社の家族として迎え入れられた。

そしてこれが、将和を中心に広がる“新しい家族の形”の最初の一歩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

 

「よぉ、勇儀。ずいぶん上機嫌じゃないか」

「萃香か。久しぶりじゃないか、お前がここに来るなんて」

 

旧都にある鬼の酒場――

 

伊吹萃香がそこへと赴くと、巨大な盃を片手にした鬼が待っていた。

 

彼女の名は星熊勇儀。

 

萃香と並ぶ鬼の四天王の一人である。

 

萃香は勇儀の隣に腰を下ろすと、瓢箪を置いた。

 

「勇儀。あんたに会わせたい奴がいるんだよ」

 

勇儀は盃を傾けながら笑う。

 

「へぇ。萃香がそこまで言うなんて珍しいね。どんな奴だい?」

 

萃香は真剣な顔で言った。

 

「“三好将和”。博麗神社に住んでる人間だ。鬼神の力を扱う、近接戦闘で私を負かした男さ」

 

勇儀の目が細くなる。

 

「鬼の力を人間が……?」

「そう。しかも暴走しない。完全に制御してた」

 

勇儀は盃を置いた。

 

「……そりゃすごい。鬼の力を扱う人間か。お前を負かしたってんなら、よほど強いんだろうな」

 

萃香は続ける。

 

「それだけじゃない。あいつは“強いだけ”じゃないんだ。戦いの最中でも、相手を尊重してくれる。あんな戦い方をする人間、初めて見たよ」

 

勇儀は興味深そうに笑った。

 

「萃香がそこまで言うなんてね。そりゃ、会ってみたくなるじゃないか」

 

萃香は頷く。

 

「だろ? あんたなら気に入ると思ったんだ」

 

勇儀は立ち上がり、盃を肩に担いだ。

 

「よし。近いうちに博麗神社へ行ってみるよ。“強者”には挨拶しないとな」

 

萃香は満足げに笑った。

 

「楽しみにしてな。あいつは――“鬼が惚れる男”だよ」

「ほぉ……そりゃますます興味が湧くね」

 

旧都の酒場に、鬼たちの笑い声が響いた。

 

その笑いは、新たな強者の登場を歓迎する“鬼の誇り”そのものだった。

 




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