三好in東方Project(仮)   作:フォークロア

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第十九話 勇者の知名度、伝説の聖剣

「ねえ、あの人って……」

「間違いないわ。本物よ……!」

 

人里の朝は、いつもより少しだけざわついていた。

 

(何か里の人達から視線を感じるのは気のせいか……?)

 

霊夢達と別れ、買い出しのため人里へ入った将和は行き交う人達からの視線に違和感を覚えつつ、八百屋の店先で並べられた魚を眺めていた。

海のない幻想郷で海の魚が並ぶ光景は、何度見ても彼にとっては不思議だった。

 

「活きの良いのが入ってるよ、勇者様!」

 

店主の声に、将和は苦笑する。

 

(勇者って……人里でも通り名になってんのな)

 

魚介類はひょっとしたら紫がスキマで卸しているのかもしれないと当たりをつけながら、アオリイカ、メバル、チヌなど季節の魚を買い込む。

幻想郷には電気は通っていないため、当然冷蔵庫等はない。しかし、魔法収容袋に入れれば鮮度は保たれるため、こうして生ものは買いだめしてたりする。

ゼルダ世界のアイテムは、こういう日常でも役に立つので、将和は有効活用させて貰っていた。

 

そんな時――

 

「あなたは……!」

「勇者様!?」

 

「んっ?」

 

振り向くと、二人の少女が駆け寄ってきた。

 

「あの、サイン頂けませんか!」

「私もお願いします!」

 

将和は一瞬固まった。

 

(……なんで?)

 

だが少女たちは目を輝かせている。

 

「君たちは……どこかで見た覚えがあるな。良かったら名前を教えてくれないか」

 

二人はキョトンとした後、自己紹介した。

 

「稗田阿求と申します」

「本居小鈴です!」

 

(ああ……人間枠でこんな娘たち居たな。うろ覚えだけど、覚えてるぞ)

 

将和は色紙を受け取り、丁寧にサインを書く。

 

「わあっ――良かったね、小鈴ちゃん」

「うん!」

 

二人は嬉しそうに跳ねるように喜んだ。

 

だが――

 

『勇者様ーーー!!!』

 

複数の声が響いた。

 

見ると、女性を中心にした大勢の人々がこちらへ迫ってくる。

 

(うわっ……!?)

 

将和は阿求と小鈴に軽く会釈すると、そのまま全力で逃げ出した。

追っかけの群れを振り切ろうと走る将和。

その途中で、白い帽子の女性と目が合った。

 

「将和! こっちだッ!」

「慧音さん……ッ!」

 

慧音だった。

 

彼女は状況を一瞬で理解し、将和の手首を掴むと路地裏へと引き込んだ。

 

「こっちへ!」

 

二人は駆け抜け、人里の追っかけ騒動から逃げ込むようにして、古道具屋「香霖堂」の戸をくぐった。

店内は薄暗く、外の喧騒とは無縁の静けさが漂っていた。

 

「おやおや、これは珍しい組み合わせだね」

 

カウンターの奥から現れたのは、半妖の店主――森近霖之助だった。

淡々とした口調だが、その目はどこか楽しげだった。

 

「寺子屋の先生に勇者とは、なかなか見ない取り合わせだ」

 

霖之助が穏やかに笑う。

将和は息を整えながら頭を下げた。

 

「助かった……ありがとう、慧音さん」

「どういたしましてだ。しかし……君も大変だな」

 

慧音は苦笑し、霖之助は興味深そうに将和を見つめる。

 

「で、どうして俺はアイドルみたいに追っかけられてるんだ?」

「それは……これが原因だね」

 

将和が困惑して尋ねると、霖之助が一枚の新聞を差し出した。

 

それは射命丸文が書く『文々。新聞』

 

見出しには――『博霊の勇者、鬼の四天王・伊吹萃香を撃破!』

 

納得いった将和は額に手を当てた。

 

(……これか)

 

慧音が補足する。

 

「人里では君の話題で持ちきりだ。鬼を倒した勇者として、皆が君に心惹かれているんだ」

 

霖之助も頷く。

 

「ゴシップに飢えている人々にとって、舞い込んできた武勇伝は格好の話題だからね。というわけで、僕もサイン、良いかな?」

「…………」

 

色紙を差し出され、将和はガックリと肩を落とした。

だが受け取ると、達筆なサインを書いて返した。

霖之助はそれを店内の壁に飾る。

 

「これで勇者もこの店を訪れたという箔が付くな」

 

慧音は将和のサインを見て感心する。

 

「ずいぶん達筆だな。こういうのは慣れているのか?」

「まあ、昔そういった経験があったので」

 

将和は前世で、帝国海軍大将としてサインを求められた日々を思い出していた。

 

「この店、結構使えそうな物を置いてるじゃないか」

 

将和は香霖堂の商品を眺めながら呟く。

爆弾。弓矢。盾。空き瓶。釣り道具等、ゼルダ世界のようなアイテムが古道具に混じって、並んでいた。

 

「いつから香霖堂は武器屋さんになったんだ、霖之助?」

 

少し呆れたように慧音が尋ねると、霖之助は肩をすくめる。

 

「外の世界から流れ着いたものでね。捨てるのも勿体ないから、置かせて貰ったんだ。勇者君ならお眼鏡にかなうんじゃないかい?」

「そうだな、いくつか買おう」

 

将和は苦笑しつつ、弓矢や爆弾、空き瓶と釣り道具等を購入した。

 

「毎度あり」

 

霖之助は満足げに頷いた。

 

「さて、これからどうする?」

「……どうしようか」

 

慧音の問いに将和は思い悩む。

萃香との決闘が予想以上に世間で反響を呼んでしまったことで、これから先、人里へ出向いてくる時に一苦労するのは目に見えていた。

そして、この問題は今回に限った話ではなかった。

 

「人の噂も七十五日というけど、君の場合、妖怪退治をすればまた新たな噂が生まれるから、噂に耐えないね」

「そうだよな……」

 

霖之助が言ったことがすべてを表していた。

根本的な問題を解決しないことには、また同じような状況が起きかねないのである。

将和は額に手を当て、どうしたものかと唸る。

 

「これだから“英雄信仰”は困る。俺は万能な神じゃなく、負けることもあれば油断もする。みんなと変わらない人間だと言うのにな……」

 

慧音は指先で口元を軽く押さえると、ふむ……、と考え込む。

 

「なら、そういった“ありのままの姿”を見せれば良い。そうすれば皆、誤解せずに君を理解してくれるはずだ」

「それは……そうかもしれないが良い方法が思いつかない」

「なら、私に良い考えがある」

「良い考え、とは?」

 

慧音はニヤリと笑った。

 

「それはな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが……自警団の練兵場か」

 

香霖堂を出た将和は、慧音に案内されて人里の外れへ向かった。

広い土の広場。周囲には木製の柵が巡らされており、

その中央では――

 

「ゆうきのグランと……」

「ちえのリオン!!」

 

二人の小さな妖怪が向かい合い、手をかざしていた。

 

「「コンフュ〜ジョ〜ン!!」」

 

光が弾け、二人の身体が重なりあった瞬間――

 

ズシンッ!!

 

巨大な影が地面に立った。

 

 

「な、なんだ……!?」

 

将和は思わず後ずさる。

 

そこに現れたのは、人間の三倍はある巨体の妖怪。

 

角のような突起、獣のような脚、そして子どもたちの声が重なったような不思議な響き。

 

「訓練開始!!」

 

鋭い号令が響いた。

 

声の主は――ロンメルであった。

軍帽を模した帽子をかぶり、鋭い眼光で自警団員たちを見渡している。

 

『うおおおお!!』

 

自警団の大人たちが、巨大妖怪“グランとリオン”へと突撃していく。

 

剣、槍、弾幕。

それぞれが必死に攻撃を仕掛けるが、巨体はびくともしない。

 

時折、グランとリオンが腕を振るうと、竜巻のような風圧が起こり、数人が吹き飛ばされる。

 

それでも――誰一人、逃げない。

 

将和は息を呑んだ。

 

「……実戦さながらじゃないか」

 

慧音が誇らしげに言う。

 

「幻想郷の人間は、弱くない。妖怪と共に生きるために、こうして鍛えているんだ」

 

将和は静かに頷いた。

 

(……強い。俺が思っていた以上に、この世界の人間は“戦える”んだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練終了、そこまで――!!」

 

訓練が一段落した頃、ロンメルがこちらへ歩いてきた。

 

「慧音! それに……将和!来ていたのか」

 

汗を拭いながらも、その表情はどこか嬉しそうだった。

 

「ロンメル。戦術指南役として自警団を鍛えてるとは聞いてたが、名将として資質は健在なんだな」

「ああ、私はこういった人を束ねて指導するのが性に合っているらしい。ところで一体どうしてここへ?」

「それは私から説明するよ。実は――」

 

ロンメルは慧音からおおよその経緯を聞き頷いた。

 

「……なるほど。それで自警団で訓練している私の所へ出向いてきた訳か」

 

将和は頷いた。

 

「そういうことだ。ロンメル、以前約束した弾幕勝負を今此処でしてくれないか」

 

ロンメルは笑った。

 

「良いだろう。しかし、君を相手とするなら剣が必要だな――グラン、リオン!」

「はーい」

「どうしたの、ロンメル」

 

ロンメルが呼ぶと、子ども姿へと戻っていた二人の妖怪が駆け寄ってくる。

 

「彼と今から勝負をする。剣が必要だから準備、、してくれ」

「やった! 久しぶりに剣になれるね、グラン兄ちゃん!」

「行くぞ、リオン!」

 

二人の子どもが再び光に包まれ、今度は一本の剣へと変化した。

 

将和は目を見開く。

 

「……思い出したぞ。それ、聖剣グランドリオンか!?」

 

将和は嘗て幼少期にプレイしたとあるゲームの知識を思い起こす。

 

それは基となった世界に於いて、古代ジール王国で作られた “赤きナイフ” が、ラヴォスエネルギーを吸収して長剣へと変化した最強の武器であった。

剣には精霊『グラン』と『リオン』が宿り、伝説の勇者サイラスの親友であるグレンカエルの手に渡り、彼の武器として活躍する伝説の聖剣――

 

ロンメルは満足げに頷いた。

 

「うむ。龍神様が私に授けてくれたのだ。といっても意思をもっていたから、普段は精霊の姿で過ごして貰ってて、時々は化身として自警団の訓練相手をして貰ったりしているのだ」

「物として扱うのは心が痛むからって。彼、人間や妖怪の子たちと同じように接しているの」

 

慧音の補足にロンメルは軽く肩をすくめて、「大したことじゃないさ」と返す。

 

「この幻想郷では、外の世界の道具が入ってくると“妖怪化”して動くことがあるから、特段珍しい行いじゃない」

「そうか。だが、グランドリオンが自らの意思で剣になってるところを見ると、ロンメルはふさわしい持ち主だと認められてるようだな」

 

謙虚なロンメルを、将和は正しく捉える。

 

古代の技術と精霊が宿る“意志ある聖剣”だけに、グランドリオンは持ち主の勇気に呼応して真価を発揮する代物である。

それがたたり別世界に於いては、負の感情を吸収し続けた結果、持ち主を狂わせ、親友すら斬らせてしまう危険な“魔剣”へと変貌してしまうのだから、まさに“この剣をしてこの人あり”であった。

 

(ロンメルと相性が良さそうだな。グランドリオン)

 

将和はマスターソードを握り締めると笑みを零す。

 

「やろうか、ロンメル」

「望むところだ、将和!」

 

こうして――

将和はロンメルとの弾幕勝負の約束を果たすことになったのである。




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