「こっちだ」
甲板での戦闘が終わり、加賀の艦内はようやく静けさを取り戻していた。
将和は霊夢・紫・永琳・依姫を伴い、艦内の通路を進んでいく。
加賀は日本海軍でも最大級の空母であり、内部は複雑な構造をしている。
初めて訪れる者にとっては迷路のようなものだ。
霊夢たちは将和の背中を追いながら、きょろきょろと周囲を見渡していた。
「広いわね……これ全部、船の中なの?」
「ええ。空母は“海に浮かぶ基地”みたいなものですから」
霊夢が感心したように呟き、紫は静かに頷いた。
永琳と依姫は無言で歩きながらも、周囲の構造を観察している。
やがて将和が扉を開ける。
「ここだ。入ってくれ」
長官室は旧日本海軍らしく、質素ながらも整然としていた。
机を挟む形でソファが置かれ、応接室としての機能を果たしている。
「座ってくれ。お互いに誤解しあっている部分があると思う。先ずは“お互いを知る”ために話し合おう」
将和の言葉に、四人はそれぞれ席についた。
紫と霊夢が並ぶ形で座り、対面に永琳と依姫が座る。
永琳は静かに息を整え、依姫は背筋を伸ばしていた。
戦闘の余韻がまだ残る空気の中――しかし、どこか不思議な“安心感”が漂っていたのである。
「……つまり、アンタたちは幻想郷ができる前からずっと居たってわけね」
霊夢が永琳の説明をまとめるように言った。
永琳は静かに頷く。
「ええ。私たちが幻想郷と敵対する理由は――姫様を守るためです」
永琳は淡々と語り始めた。
輝夜を連れ戻そうとする月の使者。
幻想郷の勢力との衝突。
その両方に対処するため、永琳は“偽の月”を造り、異変を起こした。
「力を誇示することで、永遠亭の立場を確立し、輝夜の身の安全を保証しようとしたのです」
「っ……」
依姫は何かを言おうとして、しかし口をつぐむ。
永琳の話しを最後まで聞こうとしたのである。
永琳は苦しげに目を伏せた。
「そして予想外だったのが三好将和――あなたの存在です」
永琳の視線が将和へ向く。将和は席には居らず、黙々とコーヒー豆を挽いていた。
「あなたが私たちにとって、最大の脅威になると判断しました。だから依姫を喚び、対処しようとしたのです」
依姫は驚き、永琳を見つめた。
「八意様……」
「…………」
将和は黙々とコーヒーを淹れていた。
挽いた豆をフィルターにセットし、ゆっくりとお湯を注ぐと香りが部屋中に広がっていく。
「ごめんなさい、依姫」
一通り話し終わった永琳は、真っ先に依姫へ謝罪の言葉を口にした。
その声は、戦闘中の鋭さとは違い、どこか弱々しい。
「私は私的な理由であなたを召喚し、博霊の禰宜と戦うよう自尊心を焚き付けた。あなたから非難されても仕方ないでしょう」
「八意様……」
依姫は何も言えず、永琳を見つめる。
「本当は、あなたが戦う必要などなかったのです。私は……焦っていた。輝夜を守るために、力を誇示しなければならないと、思い込んでいた」
「取り越し苦労ですわね」
紫が静かに告げる。
「幻想郷はそもそも大結界で覆われているのですよ」
「えっ…?」
「内と外とを反転させ、外の世界で力が失われるほど、内では力が強くなる。忘れられた妖怪たちの楽園・幻想郷をかたちづくる結界。私たちの最高傑作よ。月からの追っ手のような力ある存在は、外からは決して入ってこれないわ」
永琳は目を見開く横で、紫は依姫へと目線を向ける。
(もっとも、それも“例外”ができてしまいましたが)
途方に暮れた永琳の肩が落ちる。
「…私は、密室の中に密室を作ろうとしていたと…?」
将和はそっとコーヒーを差し出した。
「永琳、これを飲んでくれ。体が冷えるだろう」
「えっ……ええ……ありがとう」
「依姫も」
「あっ……ありがとうございます」
「あなたは……私たちを恨んではいないのですか?」
戸惑いながらコーヒーを受け取った永琳は、将和に問い掛ける。
「別に。幻想郷じゃよくある話だ。そもそもそういったことを仲裁・解決するのが俺や霊夢の仕事だしな」
「…そうね」
霊夢も頷く。
呆然とする永琳達を余所に将和はあっけらかんとしながら、霊夢と紫にもカップを差し出した。
「霊夢と紫も、良かったら飲んでくれ。味が濃かったらミルクもあるから」
「ありがとう、将」
「ありがとう、将和。気が利くのね」
「二人もコーヒー、冷めない内に飲んだ方が美味いぞ」
四人はそれぞれコーヒーを口にする。
「え?」
「む……」
「これは……」
「あら、良いじゃない」
四者四様の反応に、将和は苦笑した。
「口に合ったかな」
「美味しいわ、将和。料理だけでなくコーヒーの腕前も優れてるのね」
「ハイカラが海軍の文化だからな。俺の保管してた一級品の豆まで再現されてて良かったよ」
ニカッと笑う将和に、紫は頬を赤らめた。
(味が出てて、なかなかに男前ですわね……///)
年を取った将和の容姿は、紫の好みにヒットしていたようであった。
「……本当に美味しいわ。夢の世界なのに、ちゃんと味が感じられるなんて……」
永琳が呟く。夢の世界なら味はしないんじゃないか?と思っていたので、実際に口に運んでみると味を感じたことに驚いたのである。
「俺も味見してみたら、味の方まで再現されてたのには驚いたよ」
「実は私たち、夢を見てるんじゃなく、肉体を別の場所に移動させられて幻惑を見さされているのでは?先程の戦闘でも痛みや寒さ、疲れを感じましたし、能力だって普通に使えました」
依姫はこの状況に一つの仮説を立てる。そう訝しむのも夢の世界にしては“精密すぎる”からである。
五感も感じられ、現実と大差ない。夢を見るとき、こんな“はっきり”としてはいない。
ましてやこの場に居る5人が同じ夢を共有しているのだから“そう錯覚している”のではないかと、考えたのである。
「いいえ、この世界は夢の世界で間違いありませんわ」
紫の発言に皆の視線が集る。彼女は事情を知ってそうだった。
「何故そう言えるのです?」
永琳が問う。こんな現実と大差ない“精密な夢”は本来あり得ないからだ。
紫は虚空を見つめる。
「一人だけこんな芸当ができる人物に心当たりがあるのよ。夢の世界の支配者――ドレミー・スイート」
「ドレミー……? 確かに彼女なら……でも何故こんなことを?」
永琳が眉を寄せる。ドレミーについては彼女も知っていた。確かに、ドレミーなら夢を都合よく操作し、現実と大差ない世界を再現することは可能であるし、辻褄もあう。しかし、それをわざわざ自分達にする“意図”が分からなかった。
「それは分からないわ。でも――この世界が精密なのは“誰かの記憶”を再現しているからでしょう。この場に居る全員が、その人の体験した過去の夢を見ている。その時点で何者かの意志が働いているのは確かだわ」
紫の視線が、ゆっくりと将和へ向けられる。
「将和。ここは……あなたの過去なのでしょう?」
皆の視線が将和へと集る。
将和は、静かに頷いた。
「ああ。この世界は俺が体験した戦争――ミッドウェー海戦の再現だ」
永琳と依姫は目を見開く。
霊夢は驚きに口を開いたまま固まった。
将和は永琳達へと視線を向ける。
「俺は昔、過去へ渡り、日本海軍の軍人として生きた。対米戦争に敗北する歴史を変え、日米講和に持ち込んだ世界線の“元将官”だったんだよ」
「……あなたが……歴史を……?」
永琳が震える声で問う。
過去改変――それは長い時を生きた永琳でさえ確証を得たことがない“奇跡の身技”であった。
「そうだ。その過程で機動部隊の司令長官として、ミッドウェー海戦を経験した。今見ているこの艦隊は――俺が率いた“機動部隊”だ」
依姫は唖然とし、紫と霊夢はただただ将和を見つめていた。
(……本当に軍人だったんだ。しかも、こんな大艦隊の長官……)
霊夢は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……ここが、あなたが戦った世界……」
依姫は将和を見据える。
(……ただの剣士じゃなかった……この人は“将”の器を併せ持つ人だったんだ……)
「将和“殿”」
「ん? どうしたんだ、改まって…」
依姫が敬意を込めて殿付けで呼んだことに、将和はこそばゆさを覚えた。
「この夢が将和殿の体験したとおりになるとは限らないでしょう。夢とは曖昧さを含むものですから。将和殿はこれからどうするのですか?」
依姫の質問に将和は彼女の目を見据えて返答する。
「この世界が“あの時”の再現なら、その役目を全うするだけさ」
「ならば――あなたの戦いを見届けさせては頂けませんか」
依姫は一度目を瞑り、開けるとそう懇願する。
彼女の発言に皆が驚き、将和は目を細める。
「何故?」
「“将軍”としてのあなたを姿をぜひとも拝見したいと思うからです。あなたに興味を抱きました」
お願いします、と頭を下げる依姫。
その光景に紫は微笑み静かに口を開く。
「私もよろしいかしら? この夢の行く末をあなたの側で見届けてみたいですわ」
「私も見てみたいわ、将」
「私も良いかしら。夢とは言え、貴方が変えた戦いに興味があるの」
紫に続き、霊夢、そして永琳も胸に手を当てて将和の戦かった海戦を見たいと言って来た。
将和は少し考え、ため息を吐くと真剣に告げる。
「そうか。分かった。だが――覚悟して見てくれ。ここから先は、気持ちの良い光景ばかりじゃない」
四人は真剣に頷いた。
「長官!」
将和が艦橋へ戻ると、草鹿龍之介少将をはじめとする参謀たちが一斉に敬礼した。
「話し合いは終わりましたか?」
「ああ。色々あったが無事に和解したよ。それで……ぬらりひょんさんたちには艦隊司令部で観戦してもらうから、そのつもりでいてくれ」
参謀たちが「ぬらりひょんたち?」と首を傾げていると、将和の後ろから紫・霊夢・永琳・依姫の“妖怪さんご一行”が並んで入ってきた。※
「そうですか。それにしても……巫女に、剣士に、弓士に、大妖怪とは……なんとも異色な光景ですな」
「それは言ってやるなよ、草鹿」
将和と草鹿は苦笑いし、霊夢達は恥ずかしそうに肩をすくめた。
軍服の男たちの中に、違った服を着て混じっているのだから、場違い感は否めない。
そこへ、航空参謀の源田が前へ出た。
心なしか嬉しそうである。
「自己紹介が未だでしたな。私は航空参謀の源田実大佐です。妖怪さん方に我が軍が興味を抱かれたことを感慨深く思います。ぬらりひょん殿、妖怪の世界でも我が軍の活躍ぶりが轟いておられるのですか?」
どうやら源田は妖怪の世界でも帝国海軍の名が轟いていると思っているらしい。
そんな源田の発言に紫は扇子を閉じる。
その表情は――明らかに“面白くなさそう”だった。
「……源田参謀、私にもちゃんと名前がありますの。私のことは“八雲紫”とお呼び下さらないかしら?」
「八雲紫……日本人っぽいお名前ですな」
源田は困惑した。
紫はどう見ても西欧系の美貌をしているからだ。
「一応、皆さんにもそれぞれ名前がありますのよ」
紫に促され、他の三人も名乗る。
「私は博霊霊夢よ」
「八意永琳です」
「綿月依姫です。同じ“防人”の身として、今回は皆様の戦い振りを拝見させて頂きたいと思います」
そして紫は胸を張り、堂々と宣言した。
「それで私は正確には“ぬらりひょん”ではありませんの。寧ろ“ぬらりひょん”よりも格上の――“素敵な妖怪の賢者”八雲紫です。是非、帝国軍人の皆様にはお見知り置き下さいな」
「妖怪の……賢者……?」
「す・て・き・な♪ ですわ!」
「ア,ハイ」
ニッコリと微笑む紫に、寒気を感じた源田は素直に頷いた。
「なんか……ごめん、紫」
将和は紫へと謝罪すると、改めて周りへと彼女について説明し直す。
「此方の八雲紫さんは、幻想郷という妖怪達の住まう世界を裏から支える、“ぬらりひょんよりも格上”の妖怪お姉さんだ。彼女がその気になれば、一人でアメリカを屈服させられるぐらいの力を持っている。ずっと昔から日本の神様や妖怪達を守ってきた“素敵な妖怪の賢者”さんだ。敬意を払うように」
その後、将和は二、三言葉を交わしながら、帝国軍人達へ八雲紫の存在を可能な限り説明した。
「フフフ……ありがとう。三好長官♪」
八雲紫は笑みを浮かべた。
かくして帝国軍人の間に『八雲紫』=“素敵な妖怪の賢者”という通り名が普及することになったのである。
一通りやり取りが終わると、草鹿は少し困ったような表情で将和へ問いかけた。
「長官、観戦は別に構わないのですが……八雲さんと八意さんは兎も角、あとの“子ども二人”をここに置いておくのは如何なものでしょうか?」
草鹿が視線を依姫と霊夢へ向ける。
それは草鹿なりの“子どもは巻き込みたくない”という思いやりだった。
「「子ども……!?」」
霊夢と依姫が同時に声を上げた。
心外だと言わんばかりの表情である。
「失礼ですね。私はこう見えて、あなたより長い年月を生きております!」
依姫は腕組み、ふて腐れた。
「私は……確かにあんたたちから見たら子どもかもしれないけど――“将と生涯を共にする仲”として、この場に同伴させてもらうわ!」
霊夢が顔を赤く染めてそう宣言すると、艦橋が一瞬で騒然となる。
「なっ……!?」
「三好長官の……愛人、いや恋人……?」
「家の娘ほどの年齢に見えるが……?」
「流石は長官だ……」
永琳と依姫も目を丸くする。
彼女達も『そういう関係だったの?』という顔をしていた。
将和が“幻想郷で若いときの姿で過ごして居る”のを知らない草鹿も驚愕し、将和へ視線を向けた。
「長官……?」
将和は静かに頷いた。
「草鹿……愛に年の差は関係ないだろ」
将和は少し遠い目をして事実であることを認める。
その言葉に、草鹿は何かを悟ったような表情になった。
源田が草鹿の肩へ手を置く。
「まあ、長官ですから。参謀長」
魔法の一言は、それだけで軍人達を納得させた。
なお草鹿は将和が“複数人の女性と所帯を持っている”のを知っていた為、柔軟に受け入れていた。
「それもそうだな。これは失礼しました。まさか“未来の三好夫人”であられたとは。ご不便をおかけしますが、何かありましたら私共にお声をおかけ下さい。第一航空艦隊一同、霊夢様のご乗艦を心からお歓迎致します」
草鹿に続き、源田、岡田艦長等の軍人達が一斉に霊夢へと頭を下げた。
霊夢は困惑しながらも、「よろしくお願いするわ……」と返した。
なお、草鹿は図らずも“的を得た”発言をしていたのである。
その後、霊夢は艦橋の一角にある椅子へ案内され、当直士官たちが飲み物や軽食を次々と運んでくる。
「霊夢様、冷えるでしょう。こちら温かいお茶でございます」
「霊夢様、果物の盛り合わせをどうぞ」
「霊夢様、膝掛けを……寒くありませんか?」
霊夢は完全に“司令長官夫人”扱いだった。
「……なんだか至れり尽くせりって感じね」
甘い果汁が口に広がり、霊夢は思わず頬を緩めた。
「これが大和だったら、軍楽隊による演奏でもついてたかもな。いや、今は総員戦闘配置中だから、どっちにしろ難しいが……」
将和がそんな冗談を言う。
そう思えるぐらい、霊夢は“お姫様”のように扱われていた。
将和が近くに来ると、霊夢は手に持った果物を差し出す。
「はい、将。あーん」
「お、おい霊夢……艦橋でそれは……」
「いいじゃない。食べてよ」
将和は苦笑しながらも口を開け、霊夢の指先から果物を受け取った。
その瞬間――参謀たちがニヤニヤし始めた。
「参謀長、あれは……」
「長官、完全に尻に敷かれてるな」
「いや、あれは“夫婦の形”というやつでは……」
草鹿と源田が妙に楽しそうに囁き合う。
将和と霊夢は気づいていないが、観戦してたのは帝国軍人達の方だった。
一方蚊帳の外の置かれた永琳・依姫・紫は――立ったまま、ぽかんとその光景を見ていた。
(なんだか帝国軍人のイメージが変わるわね……)
(司令長官ともなれば、伴侶の扱いもこんなに変わるのですね……)
(意外と愉快な人達ですわね。それにしても……霊夢、完全に玉の輿ですわね……羨ましいとは言わないけれど……言わないけれど……)
紫たちは、さっきまで自分たちが一番存在感を放っていたのに、今では霊夢が完全に主役になってしまっている状況に、“司令長官の妻”という立場の重さを実感していた。
将和は腕時計を確認する。
(午前1時30分。そろそろ夜明けだな)
ミッドウェー海域の現地時間は4時30分になろうとしていた。
「霊夢。皆。そろそろ日の出の時刻になる。外に出てみてくれ」
将和が霊夢たちを促し、艦橋の外へと赴くと、
「…うっ」
甲板に出た瞬間――艦速30ノットの風が吹き抜け、霊夢は思わず目を閉じた。
「霊夢、見てみろ」
将和に促され、霊夢がゆっくりと目を開くと――そこには、水平線から昇り始めた太陽が大海原の姿を照らしていた。
「……わぁ……」
霊夢は息を呑み、将和が“してやったり”という表情を浮かべる。
それは彼女が生まれて初めて見る“外の海”だった。
幻想郷には海がなく、霊夢はずっと幻想郷で過ごしてきた為、夢とは言えこの光景は生涯忘れることのない情景となるものであったろう。
「その顔が見たかった。これが海だよ」
「これが海……はじめて見た。こんなにきれいな景色だったなんて……」
依姫もまた、目を奪われていた。
「これが……地上から見える海……」
依姫は海面を見つめながら、静かに息を吐く。
「広い……果てが見えない……月の海とはまるで違う景色ですね」
「これが“暁の水平線”という奴だよ」
将和の声は、どこか誇らしげだった。
晴れ渡る海原。
黄金色に染まる水平線。
その上に広がる、第一航空艦隊の巨大な艦隊陣形。
霊夢と依姫がただただ感動していた横で、紫と永琳は目を見張る。
朝日が昇ると同時に、艦隊の全貌が露わになった。
空母『加賀』を中心に、『天城』『赤城』『蒼龍』『飛龍』『阿蘇』『生駒』――計7隻の航空母艦。
それを守るように四方へと『河内』『因幡』『岩代』『薩摩』の戦艦4隻。
重巡4、軽巡3、駆逐艦24――総勢42隻の艦艇が輪形陣を組んで、太平洋上を進んでいた。
「これほどの規模の艦隊を従えるとは……」
永琳は、朝日に照らされる将和の横顔を見て感嘆とした。
(本当に、海軍長官だったのね。ただ者ではないとは思っていましたが、まさか“将”としての器を秘めていたとは……)
紫は視線の先に見える空母群を将和に尋ねる。
「彼方に見える空母は『赤城』『蒼龍』『飛龍』ですか?」
紫は史実のミッドウェー海戦に参加した四空母を知っていたので、当たりをつける。※1
将和は苦笑しながら答える。
「惜しいな。その三隻は反対側だ。向こうに見える空母は、手前が一航艦所属の『天城』。奥に見えるのが七航戦所属の『阿蘇』『生駒』だ」
紫は目を丸くする。
「『天城』を就役させていましたか。震災で廃艦になったと思っておりましたわ。『阿蘇』『生駒』とは?」
「俺の世界では『天城』は標的艦として呉に回航されて被災を免れてな。そのまま空母として就役できたんだ。『阿蘇』『生駒』は対米決戦用に増産した“雲龍型空母”の5番艦と6番艦だよ」
永琳が驚愕する。
「雲龍型……アレを早期に就役させたのですか」
草鹿が誇らしげに笑う。
「三好長官が我が帝国海軍に空母艦隊のドクトリンを構築してくれたからこその賜物だよ」
源田も続ける。
「おかげで海軍は航空母艦の有用性を理解し、大量建造へ踏み切りましたからな。開戦前に正規空母14隻を揃えて挑むことができたのも、三好長官のテコ入れのおかげです」
『…………』
永琳と紫は呆気にとられた。
それだけの規模の艦船を作り、運用しているということは、それ相応の国力があることの証明だった。
「史実の日本海軍とは……まるで別物ですわね……」
(話が確かなら日本の国力は史実の3倍近くあったことになる……本当に“歴史を変えた”のね……輝夜を守るために戦う私とは違う。この男は――国家を背負って戦った“本物の将軍”……)
紫と永琳が尊敬の眼差しを将和へ向けている中、蒼龍、飛龍、阿蘇、生駒の甲板に並んだ攻撃隊の発進準備が整う。
「総飛行機発動ォ!!」
「チョーク外せェ!!」
零戦、九九艦爆、九七艦攻――日本海軍の主力機が、朝日に照らされて輝く中、エンジン音を唸り上げる。
いよいよその時がきた。
「攻撃隊発艦せよ!」
その号令とともに――エンジン音が甲板を震わせた。
零戦36機
九九式艦爆36機
九七式艦攻36機
計108機の攻撃隊が、ミッドウェー島へ向けて飛び立つ。
時に日本時間6月5日午前1時30分 (04:30)であった。
霊夢は息を呑んだ。
「……すごい……」
依姫もまた、目を奪われていた。
「これが……地上の戦争……」
永琳は静かに呟く。
「歴史の瞬間を……目撃しているのですね」
紫は将和へ視線を向ける。
「あなたは……この戦いをどう終わらせるのかしら」
将和は、甲板へと並んだ彩雲を見つめながら静かに言った。
「――ここからが本番だ」
かくして帝国海軍機動部隊のいちばん長い日がはじまった。
御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m