三好in東方Project(仮)   作:フォークロア

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第二十四話 ゆっくりミッドウェー海戦――第二次攻撃隊、発艦す

「三好将和長官、バンザイ!」

 

『万歳ー!! 万歳ー!! 万歳ー!!』

 

壮士の音頭に合わせ、民衆は歓喜の声を上げた。

 新聞に載った将和の写真へお神酒を供え、深々と頭を下げる者までいる。

 

「三好将和長官。新年明けましておめでとうございます。今年も快進撃よろしくお願いします」

「よかったね。これで今年は景気よくなるね!」

 

居酒屋では民間企業勤めの者たちが酒を酌み交わし、戦果に沸く日本の未来を語り合っていた。

 

「こんな清々しい正月、何年ぶりだ!?」

「まったく。聯合艦隊万歳。三好長官万歳だよ。三好長官こそ東郷長官の再来だ!」

「バーカ。東郷長官の後継者が三好長官なんだよ」

「そうであるなら、三好長官は軍神様だ」

「陛下と三好長官。日本には二人の神様が居着いておられる」

「天は我が国に二物を与えた。まさに神国日本だな。この戦争は必勝間違いなしだ」

 

昭和17年初頭。

三好将和は一躍“時の人”となっていた。

 

ハワイ作戦の戦果が正確に報道され、アメリカの経済制裁に鬱屈していた国内は、盆と正月がいっぺんに来たような騒ぎとなった。

 

そんな民衆の熱狂を尻目に、将和は真珠湾攻撃から帰国後、戦友と料亭で静かに酒を酌み交わしていた。

 

「……真珠湾は失敗だったな」

「ああ。不完勝だ」

 

長谷川清海軍大将が、お猪口を飲み干す。

彼は将和と共に戦艦三笠に乗艦し、共に日本海海戦を戦い抜いた気心の知れた戦友であった。

 

「空母は討てず。国民は有頂天になっとる。貴様はもう神様扱いだ」

「……俺が神様なら、はなから戦なんぞ始めねえよ」

「必要以上のことを求められねえか心配してんさ。人は自分が望むものを信じるもんだからな」

「俺はやれることをやるだけだよ、清」

 

その呟きは、市井の熱狂へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員、帽振れー!」

 

ミッドウェー現地時間6月4日午前4時30分。

三好大将率いる第一航空艦隊はミッドウェー島爆撃のため、零戦36機 九九艦爆36機 九七艦攻36機――計108機を発艦させた。※

 

蒼龍・飛龍・阿蘇・生駒の甲板から次々と艦載機が飛び立ち、各艦艇では帽振れで攻撃隊を見送る。

 

(MI作戦……遂に始まったわね)

 

永琳は胸の奥が熱くなるのを感じていた。

人類史を見てきた彼女でさえ、“近代海戦の現場”を見るのは初めてだった。

 

それは兎も角、第一次攻撃隊が飛び立った後、一航戦の加賀・赤城・天城では戦闘機とは別の機体――濃緑色の偵察機が甲板に並べられていたのである。

 

「あの飛行機は? さっき飛んだのと違う作りに見えますが?」

 

依姫が尋ねる。

軍事知識があるのは永琳と紫であり、依姫と霊夢はほぼ素人だった。

 

「これは彩雲。敵艦隊を探すための偵察機だよ」

 

「この段階で彩雲を?」

 

紫が驚く。

史実ではもっと後に登場する機体だからだ。

 

「早くから開発に着手しててな。空母戦では必ず必要だと思ったから、無理して作り上げたんだ」

 

「長官のアイデアを基に中島飛行機が開発に着手されましてな。誉エンジンをものにして、開戦前には完成させてくださった中島には本当に脱帽するしかありません」

 

源田の補足に紫が感嘆とした。

どうやら将和の変えた日本は“技術力も”史実より2,3年早く進んでいるようであった。

 

「あの飛行機……将みたいね」

 

霊夢は彩雲を見て、ふとそう言葉を漏らす。

 

「俺が彩雲みたい? はじめて言われたな。そう見えるか」

 

霊夢の言葉に将和は照れたように笑う。

 

「うん。だってあの機体、緑色だから、将っぽいなと思って」

 

霊夢の言うとおり、艦載機の大半が全面銀色か明灰白色の中にあって、彩雲だけは全機濃緑色をしていた。

零戦をはじめとした日本海軍の艦載機が一般的に知られている緑色カラーへと変化していくのは大戦中期になってからである。これは主戦場が南方のジャングルや島へと移っていく過程で、上から見つかりにくくしていくためだった。

だから霊夢は彩雲が、ふだん見慣れた将和の緑服のイメージカラーみたいだと捉えたのである。

 

「なら、霊夢のイメージに近いのは零戦だな」

 

「零戦ってどれ?」

 

「あの機体だ」

 

将和が直掩機として甲板に上がっている零戦を指さす。

 

「あの美しく洗練された形状で、空を縦横無尽に飛び回り戦いを制するところが、如何にも霊夢っぽい」

 

「……そう。ありがとう」

 

霊夢は少し頬を赤らめた。

 

因みに個人的には“空飛ぶ写真屋さん”こと彩雲のイメージに近いのは“射命丸文”ではないかと考える。圧倒的速さと長い航続距離を持ち、敵に見つからずに写真を撮って情報を持ち帰るところが、如何にもよく似ているので(笑)

 

「索敵機、発艦!」

 

加賀・赤城・天城から彩雲が、

重巡利根・筑摩から零式水偵が、

戦艦因幡から九五式水偵がそれぞれ発進した。※1

 

 

いよいよミッドウェー海戦の火ぶたが切って落とされたのである。

 

 

「索敵機の発艦、すべて完了です!」

 

午前5時00分を回る頃には、第一航空艦隊は偵察機を全て発艦し終える。

 

「よし。続けて第二次攻撃隊の“飛行準備”にかかれ!」

 

将和は上空へ消えていく彩雲を見つめると、そう命じて艦橋へと戻る。

 

「もう発進準備に取りかかるの?」

 

歩きながら八雲紫が尋ねる。

 

「敵空母を発見次第、直ちに出撃できるようにしておかないとな。此方が後手に回っている以上、敵の攻撃を受けてから揚兵作業じゃ遅すぎる」

 

霊夢が首を傾げる。

 

「どういうこと?」

 

紫が説明する。

 

「この戦いは日本がアメリカの空母を誘き出して叩こうと仕掛けている戦いなのよ。そして、空母戦は先に見つけた方が勝つというのが原則なの」

 

永琳が頷き補足する。

 

「そう。相手が島なら動かない飛行場を狙えばいい。戦艦や巡洋艦なら動いても直ぐに攻撃を仕掛けてくることはない。でも、空母は数百キロ離れた場所から艦載機を送り込み、1,2時間で攻撃して来る。先に発見した側は30分から1時間の一方的な時間を手に入れるのに対し、攻撃される側はまだ敵の姿すら見ていないことがあり、一方的な戦闘になってしまう。そして、空母は飛行機や爆弾、ガソリン等を満載した巨大な火薬庫。爆弾が一つでも当たれば誘爆して終わりなの」

 

「「…………っ!!」」

 

永琳の説明に霊夢と依姫が青ざめる。

 

「そして、おそらく相手は此方の動きをよんで用意周到に待ち構えている。でしょ?」

「そうだ」

 

将和は頷いた。

 

「ミッドウェー島へ攻撃をかけた今、艦隊の位置を掴まれるのも時間の問題だろう。今頃、敵空母は艦載機の発艦準備を行なってるはずだ」

 

「それって不味いんじゃ……」

 

現状を理解した霊夢が不安な表情で将和に尋ねる。

 

「不味いな」

 

将和は平然とした顔で答える。

 

「こうなることを予想してたのに、敢えて挑んだの?」

 

紫が将和に真意を尋ねる。

それは――このまま挑んだら史実同様に負ける――と暗に状況が示しているからだ。

しかし、未来を知っている筈の将和が“敢えて史実と同じような行動”を取っている所が紫には不思議だった。

 

「元々、この作戦は俺たちにとっても予想外だったんだ。なんせ一航艦にミッドウェー作戦を知らされたのは作戦開始の一ヶ月前だったんだからな」

 

紫が驚き、源田と草鹿を見る。

二人は苦い顔で頷いた。

 

「本来はFS作戦――フィジー・サモア方面への進攻を想定していました。その為の研究も内々に行なってたのです。ところが突然、軍令部がミッドウェー攻略を命じてきたのです」

 

「おかげで碌な段取りが行えず、ミ島を攻略するのに最適な6月7日にあわせ、艦隊を行動させるしかなかった。艦隊を分けて陽動する作戦も検討したが、それでは結局兵力の分散となり、各個撃破されるリスクが大きかった為、兵力を集中運用して挑むことにしたのだ」

 

源田と草鹿は悔しげに語る。

彼等にとって、MI作戦は不本意だったし、実際反対した。

しかし、反三好派が海軍中央のポストについて既成事実として大海令第18号を裁可してしまったことにより、彼等は一軍人として上層部からの命令に従わざるを得なかったのである。

 

「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方……ね」

 

紫が呟く。

 

「勝てる算段はあるのかしら? このままだと歴史の二の舞よ。」

 

永琳が尋ねる。

 

「もちろんある」

 

将和は即答した。

 

「要は敵からの攻撃を凌ぎつつ、攻撃隊と直掩機が離着艦を同時に行えれば良いんだ。その為の艦隊行動を既に取っている」

 

「それはいったいどういう…」

 

「それについては私の方からご説明致します」

 

尋ねた紫へ源田が説明する。

 

「今回の作戦では一航戦と二・七航戦が交互に防空と攻撃を担当します。直掩機の補給中は攻撃隊を並べられません。だから3隻と4隻の空母で役割を交互に回すのです」

 

史実で日本海軍が“戦術的に負けた”のは、兵装転換命令以上に、来襲してくる敵機への対処に4隻の空母が忙殺され、直掩機の補給を行なっている間、飛行甲板に艦攻や艦爆を並べることができなかったことにある。※2

しかし、今回は総計7隻の空母が3隻と4隻で相互に補完しあいながら挑むので、史実の戦力+3隻のキャパが活きてくることとなる。

 

「一航戦が攻撃隊の準備をしている間、二・七航戦が防空を担う。第一次攻撃隊が帰投してくる時は、防空を一攻戦が担い、以降は状況に応じて交互に役割を担う。これで死角はなくなるという訳だ」

 

「なるほど」

「空母が7隻も居るのは心強いわね」

 

源田と将和の説明に紫と永琳は感心した。

 

(まあ、事がそう簡単に運べば良いがな)

 

しかし将和は、これでも厳しい戦いになると考えていた。

何故なら戦争は机上の想定どおりに事が運ばないものなのだから、指揮官の手腕にかかっているのも確かであった。

 

将和の『飛行準備』の号令に、第一航空戦隊の加賀・赤城・天城の兵装待機していた攻撃隊が次々に、エレベーターに載せれ、飛行甲板へと上がって行くと、甲板要員たちによって艦載機が整列していく。

 

この時、第一航空艦隊には一航戦の航空隊に二航戦と七航戦の約半数(零戦90機 九九式艦爆90機 九七式艦攻96機)、そしてミッドウェー島占領後に配備予定の第六航空隊(零戦21機)が残っていた。

 

「南東方向に機影発見。距離80海里。こちらに向かって来ます!」

 

「ミッドウェーから飛来したな。総員配置につけ! 対空戦闘!」

 

午前5時15分。

情報参謀・中島親孝少佐からの報告に、加賀艦橋の空気が一瞬で張り詰めた。※3

 

加賀艦内にラッパが鳴り響き、乗組員たちが一斉に持ち場へ走り出す。

高角砲が旋回し、機銃が構えられ、零戦隊が次々と発進していった。

 

「敵機はPBYカタリナと推定!」

 

「直掩隊、迎撃に向かわせろ!」

 

「はっ!」

 

霊夢はその慌ただしさに息を呑んだ。

 

「……すごい……将の指示どおりに皆動いてる……」

 

依姫は静かに言う。

 

「これが……人間の戦争……月の都とはまるで違う……」

 

ふと紫は中島少佐の前に搭載されていた淡く光る“13号電探”の表示器を見て目を細める。

 

「……まさか電探? この時の日本海軍には、まだ大和しか搭載されていなかったはずでは?」

 

将和は双眼鏡を下げたまま答える。

 

「史実ではな。だが、この世界では早い時期から八木アンテナを基礎に10年以上かけて開発を進めていったおかげで、開戦前には150キロ以上手前から敵機を探知出来るレベルのを実用化できたんだ」

 

永琳が感嘆の息を漏らす。

 

「未来の知識を持っていたとはいえ、ここまで到達するとは……」

 

「日本の技術力は元々高かったんだ。俺はただ“正しい方向性”を示しただけさ」

 

紫はその言葉に静かに頷いた。

 

(自ら道を示し、人を動かした……やはりこの男は“将”の器を持っている)

 

 

「敵索敵機、撃墜を確認!」

 

敵影を探知してから数分後――報告が艦橋に響く。

 

しかし、通信参謀からの報告に将和は眉を寄せていた。

 

「……撃墜前に、ミッドウェー基地へ平文の緊急電を送っていたらしい。無線傍受で確認した」

 

草鹿が低く呟く。

 

「つまり……我が艦隊の位置は敵に知られたということですな」

 

「そうだ。まもなく敵機が襲いかかってくるだろう」

 

艦橋の空気がさらに重くなる。

 

霊夢たちはその緊張感に思わず息を飲んだ。

 

しかし――敵機来襲は予想より遅れ、その後一時間半は静寂が続いたのである。

 

その間に、主計科の兵たちが艦橋へやってきた。

 

「皆様、朝食をお持ちしました!」

 

竹の皮に包まれた大きめの握り飯は、それぞれ甘辛く煮た牛肉入り、梅干し入り、味噌漬け入り等々――戦場とは思えないほど食欲がそそられる香りであった。

 

霊夢は目を輝かせる。

 

「わぁ……美味しそう!」

 

永琳と依姫も丁寧に受け取る。

 

「ありがとうございます」

「いただきます」

 

紫は扇子を閉じて微笑む。

 

「こういう心遣いは嬉しいわね」

 

一方、帝国軍人たちは緊張で顔が強張ったまま、ほとんど味わう余裕もなく握り飯を口に運んでいた。

 

依姫が小声で言う。

 

「……重苦しい雰囲気ですね」

 

永琳が頷く。

 

「無理もないわ。いつ攻撃を受けてもおかしくないのだから」

 

そんな状況下にあって、二人の空間は違っていた。

霊夢は握り飯を頬張りながら将和に言う。

 

「このおにぎり、美味しいわね、将」

 

「だろ? 加賀の烹炊兵は一級品だ。時間があるなら洋食のフルコースも食べてくれ」

 

話を聞いていた紫が興味津々で身を乗り出す。

 

「あら、それは興味深いですわね。私もご相伴にあずかりたいわ」

 

「いいぞ。厨房に冷房機能もつけてあるから、大和に引けを取らない料理を出せるぞ」

 

将和達はサイダーを飲みながら笑った。

依姫たちと帝国軍人たちはそのやり取りを見て、少しだけ緊張が和らいだ。

 

「あの人たち、場の空気を変えるのが上手いですね」

 

「敢えてやってるのか、素でやっているか……いえ、こういう時だからこそ落ち着くのが大事なんでしょうけど」

 

依姫と永琳は彼女達の“場慣れした振る舞い”に感心した。

 

「まあ、長官ですから」

 

草鹿の発言に永琳たちは互いに顔を見合わせると、くすりと笑った。

 

そんな束の間の癒やしの時間が過ぎると―― 一航戦の加賀・赤城・天城の甲板には、第二次攻撃隊が整列し終えていた。

 

「飛行準備、完了しました!」

 

将和は源田から渡された攻撃隊編制のリストを読み上げる。

 

 

 第二次攻撃隊

 

 『加賀』

 零戦9機 九七式艦攻30機

 『赤城』

 零戦9機 九九式艦爆21機 九七式艦攻9機

 『天城』

 零戦9機 九九式艦爆21機 九七式艦攻9機

 『蒼龍』

 零戦9機

 『飛龍』

 零戦9機

 

とあった。

 

「計135機か」

 

「はい。一航戦だけだと戦闘機の数が心許ないので、二航戦から追加で零戦18機を飛ばして貰います。戦闘機隊のみの発艦なら、そんなに時間も取りませんので」

 

こうして第二次攻撃隊の飛行準備は整った。

 

一航戦に残る兵力は、

航空母艦:加賀(零戦二一型×7機、九九艦爆一一型×21機)

航空母艦:赤城(零戦二一型×7機、九七式艦攻一二型×12機)

航空母艦:天城(零戦二一型×7機、九七式艦攻一二型×12機)

であった。

 

 

「そろそろだな……」

 

将和は腕時計を確認する。

時計の針は午前7時を指していた。

予定どおりなら、第一次攻撃隊がミッドウェーを攻撃している頃合いだった。

 

「第一次攻撃隊より入電!『爆撃効果不十分。ミッドウェー島への再攻撃の要ありと認む』地上撃破した敵機は皆無とのことです!」

 

通信兵が報告を入れてくる。

 

「再攻撃の必要がありだと!?」

 

草鹿が訝しむ。

今回の攻撃では、艦攻にはすべて800キロ爆弾を積ませ出撃させていたので、敵基地を無力化できなかったのか疑問だったのである。

 

「敵が待ち構えていたのなら、対空砲火は熾烈だったはずです。友永が再攻撃の必要があると考えても無理からぬものでしょう」

 

源田が現場パイロットの視点から物事を考え、冷静に分析する。

 

それはある程度当たっていた。現に第一次攻撃隊は、この攻撃で6機近くが撃墜されており、攻撃隊長を務める友永大尉は、ミッドウェー基地、特に敵機が駐機していない飛行場をそれなりに八〇番で叩いたが、おそらく午後には再び使用可能になるに違いないと予測し、ミッドウェー島を攻略する上でもう一度、ミッドウェー飛行場を叩く必要がある! それには第二撃を仕掛けるしかない! と考え、機動部隊司令部へ第二次攻撃を打診してきたのである。

 

「…………」

 

「長官、どうされますか?」

 

草鹿の問いに、将和は静かに判断を下した。

 

「当初の予定どおり、偵察機からの報告を待つ。対空戦闘に備え上空警戒を厳とせよ」

 

「はっ!」

 

(兵装転換をしない……これは……)

 

(見物ですわね。どうなることやら……!)

 

永琳と紫は歴史の“もしも”に立ち会っている興奮を覚えた。

 

そうこうしているうちにミッドウェー島から発進した第一波攻撃隊が来襲してきたのである。

 

「敵編隊を探知!距離74マイル!南東方向から接近中!」

 

「来たか。二航戦と七航戦に打電。護衛戦闘機隊発進。迎撃の用意をせよ!」

 

「はっ!」

 

午前7時5分。

ミッドウェー基地から飛び立ったTBF6機、B-26 4機が来襲。

零戦隊が迎撃し、全機撃墜した。

 

この時より、第一航空艦隊は40機近くの零戦が、艦隊の手前・約35海里の上空でローテーションで防空に当たる。

 

そして午前7時28分。

待望の報告が司令部へ届く。

 

「第4番索敵線を担当してました彩雲より緊急電! 敵艦隊を発見、空母2隻を伴うとのことです!発見位置はミッドウェーの北北東・約180海里!」

 

通信参謀からの報告に司令部はざわつく。

それは空母『ワスプ』と『ヨークタウン』を擁する第17任務部隊であった。

彩雲は快速を活かして、敵護衛機の追撃を振り切り、正確な艦隊陣容・空母の存在を把握し、報告を入れてきたのである。

 

「やはりいたか……」

「敵は空母を2隻投じてきていたのか…」

 

「いや、4隻は居るはずだ」

 

将和が訂正する。

 

「アメリカ軍は二つの任務部隊に2隻ずつ空母を加えている。今はその片方を見つけただけだ」

 

「何故そう言い切れるのですか?」

 

将和の前世での経験を知らない草鹿たちは疑問を呈する。

 

「詳しいことは後で伝える。今は俺を信じてくれ」

 

「……長官がそう言われるなら」

 

参謀達は深く追及せず、将和を信じた。

 

(深く追及せずに信じた……!)

(よほど信頼されているのですね……)

 

永琳と依姫は感嘆した。

 

“仲間意識”

 

それは異変に身を投じた永琳や依姫だからこそ、尊く感じられる得がたい絆であった。

 

「ではもう2隻発見するまで出撃を見合わせますか? それとも」

 

「敵は我が方より北へ230海里地点に居ます。長官……!」

 

草鹿と源田が将和へ判断を仰ぐ。

 

「直ちに攻撃隊を発艦準備だ。先に2隻を仕留める。山口にも伝えろ!」

 

将和は直ぐ様決断を下すと、攻撃隊長の淵田美津雄中佐を呼んだ。

彼は今世界では体調は良好であったのである。

 

「敵空母を発見したんですか?」

 

「ああ。2隻見つけた。だが、もう2隻は10~20海里離れた位置に居るはずだ」

 

「可能なら付近を捜索して仕留めろと?」

 

淵田は将和が言わんとするのがそれだと当たりをつける。

 

「可能ならばだ。その時の判断はお前に任せる。伝えたいのは“2隻しかいないという先入観”を持つなということだ」

 

(これは……意思疎通によって状況把握をさせているのですね)

 

紫は感心した。

 

軍隊に於いて階級は絶対的なルールである。

将和は大将。淵田は中佐であり、明確に階級差がある。

それが“階級の壁を越えて”意見交換を交わしているところに、将和の人となりを感じたのである。※4

それはそうと、将和が今回淵田を呼んだのは、通信状況が良くない環境において、一旦飛び立った攻撃隊指揮官がそれぞれ勝手な目標を定めて攻撃し効果が上がらないという事態を防ぐためであった。

 

「艦爆だけは均等に分けて構わないが、雷撃は2隻に絞れ。甲板を叩くのと“沈める”では意味が違う。攻撃範囲を広げて戦果不十分は避けたい」

 

「了解しました。まあ、2隻は確実に沈めてきますよ、長官」

 

意図を理解した淵田の瞳に闘志が宿る。

 

「ああ。頼むぞ、淵田」

 

(前世ではこの一回の攻撃で、米空母は一隻も沈めれなかった……今度は確実に2隻を沈める)

 

将和は静かに拳を握った。

 

前世で将和は米空母4隻へと均等に第二次攻撃を割り振る決断を下した。その結果、敵空母にそれぞれ爆弾もしくは魚雷を2~3発程当てることで“一時的に”戦闘不能に追い込むことには成功した。

しかし、予想外だったのが米空母の驚異的なダメージコントロールであった。

沈んでいない空母は、わずか2時間弱で火災を消し止め、破れた甲板を塞ぎ、時速20ノット以上で走らせるまで戦闘能力を回復させてきたのである。

その為、海戦は夕方頃まで続き、一進一退の攻防の末に敵空母を3隻は沈めることに成功したが、自軍は空母2隻を喪失する羽目となったのである。※5

だからこそ、今回は確実を喫するため空母2隻へ的を絞ったのである。

 

一航戦・二航戦の空母はそれぞれ艦速30ノットへ増速。

合成風を作り出し、甲板の艦載機が一斉にエンジンを始動する。

 

「総飛行機発動ォ!!」

 

「発艦準備、よろし!」

 

「全機発艦!! 始めェ!!」

 

 待機していた攻撃隊(零戦45機 九九式艦爆42機 九七式艦攻48機)――総計135機が飛び立ち、一路敵機動部隊へ向かった。

 

「頼むぞ、皆…」

 

「対空電探に反応! 敵攻撃隊来ます!」

 

「…さあ、弾幕勝負といこうか」

 

空かさず敵機襲来の報に、将和は静かに呟いた。

 

「弾幕勝負?」

 

霊夢が聞き返す。

それは聞き慣れた言葉だったからだ。

将和は苦笑する。

 

「相手の弾幕を躱して、此方の弾幕を当てる戦いだからな。ここからが――本番だ」

 

艦橋の空気が張り詰めた。

 

戦いは、遂に正念場を迎えた。

※:
以後はすべてミッドウェー時間で統一する

※1:
また、攻撃隊を発艦させた蒼龍・飛龍・阿蘇・生駒の各空母からも、彩雲が甲板へと並べられると、一航戦に遅れる形でそれぞれの彩雲をそれぞれ発艦させたのである。

※2:
また、三空母被弾まで艦隊防衛についていた直掩機は、第二次攻撃隊用の零戦でもあった。日本機動部隊には、攻撃隊を準備し、護衛戦闘機の頭数を揃える余裕はなかったのである。

※3:
海軍が電探を運用し始めたことにあわせ、電探を担当する新たな役職『情報参謀』職を制式に設けられていた。その為、レーダーで捉えた情報はすべて情報参謀から伝えられるようになっていたのである。

※4:
ただし、これは紫の勘違いであった。旧日本海軍では作戦を空中指揮する大佐~少佐クラスの搭乗員は、戦況を左右する極めて重要な存在で、前線の生の情報を持つパイロットの意見は、将官にとって極めて貴重だったため、階級の壁を越えて意見交換を交わすというのは、同じ艦で運命共同体で暮らす上で階級の壁を越えてコミュニケーションを取る文化はふつうにあったのであり、将和だけが特別な訳ではなかった。しかし、将和は下士官や一兵卒クラスとも同じようにコミュニケーションを図っていたりするので、そういう意味では確かに“特別”だった。

※5:
自沈処分含む




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