この回の為によっちゃんを召喚したんや
「対空電探に反応! 敵攻撃隊、距離60マイル! 更にその後方より複数の機影を確認!」
情報参謀・中島少佐の声が艦橋に響く。
加賀の13号電探が、ミッドウェー基地から飛び立った第二・第三・第四波の攻撃隊を捉えたのだ。
「来たか……!」
将和は双眼鏡を握りしめ、前方の空を見据える。
霊夢・紫・永琳・依姫も、緊張した面持ちでその場に立っていた。
先ほどまでの攻撃隊発艦の高揚感は完全に消え、艦橋は“戦場の空気”へと変わっていた。
「赤城・天城へ打電! 直掩戦闘機隊、発進急げ!」
「はっ!」
加賀・赤城・天城の甲板へ、格納庫で待機していた零戦隊が次々とエレベーターで上がってくる。
午前7時53分。
ミッドウェー基地から飛び立ったSB2Uヴィンディケーター、SBDドーントレス、B-17爆撃隊が三好機動部隊へ迫っていた。
それらは“偶然の連携”によって、複数方向からほぼ同時刻に来襲してきた。
無線封鎖・索敵の不備・迷走――それらが結果的に第二・第七直掩戦闘機隊の防空網をすり抜ける形となったのである。
「敵編隊、視認!」
見張り員の声と同時に、空の彼方から黒い点がいくつも現れた。
「……っ!」
肉眼で敵機を確認した霊夢は思わず息を呑む。
「……あれが、敵の飛行機……」
依姫は剣を握りしめる。
(この距離で、あれほどの速度……あと3分といったところかしら……)
永琳は冷静に分析していた。
「直掩機が間に合うかしら……」
紫は眉をひそめ、加賀の甲板上に上がった零戦を見つめる。
彼女の視線の先では、整備兵たちにより主翼が展開され、整列し終えた零戦隊が暖気運転を始めていた。
既に第二・第七航空戦隊所属の直掩機は他の空域に対応しているため、応援には間に合わない。
対処するなら、対空射撃か一航戦所属の直掩機しかなかった。
「搭乗員、発着甲板へ急げ!」
果たして、一航戦の戦闘機搭乗員は暖機運転する零戦へと乗り込みはじめる。
「ご武運を!」
「出ます!」
加賀・赤城・天城の各空母から計12機の零戦が敵機の来襲前に飛び上がる。
「零戦隊、敵編隊へ突入!」
一航戦から発進した零戦隊が、敵爆撃隊へと突っ込んでいく。
空中で白い航跡が交差し、機銃の曳光弾が線を描いた。
「命中! 敵機、炎上!」
「こちら加賀隊! 一機撃墜!」
「赤城隊、二機撃墜!」
加賀の乗組員達は歓声を上げる。
零戦隊は圧倒的な機動力で敵編隊を次々に切り裂いていった。
霊夢は肉眼で見えるその光景に目を奪われた。
「……すごい……まるで弾幕ごっこみたい……」
紫は首を振る。
「いいえ霊夢。これは“本物の戦争”よ。当たれば死ぬの。弾幕ごっことは違うわ」
「……っ」
霊夢は唇を噛んだ。“夢とは言え”目の前の光景は過去に実際に起きていたことだったのである。
「これが、空母の防空戦闘……」
「100年前を思い出すわ……」
依姫が息を呑み、永琳が嘆息する。
「ここからは、本当の勝負よ」
紫は静かに呟いた。
零戦隊の迎撃にもかかわらず、数機のドーントレスが突破してきた。
「敵急降下爆撃機、本艦へと突入してきます!」
依姫は剣を握りしめながら呟く。
「あの機体を斬れれば……援護できるのですが……」
「危険よ、依姫。ここは人間の戦場。あなたが飛び出せば、逆に混乱するわ」
永琳が制した。
「弾幕射撃、始めェ!!」
将和の号令と共に全艦艇の両用砲、対空機銃が射撃を開始した。将和が鍛えに鍛え上げた第一航空艦隊所属艦の弾幕射撃は米攻撃隊を寄せ付けなかった。
特に秋月・照月・涼月・初月・新月・若月・霜月・冬月の秋月型駆逐艦8隻の弾幕は圧巻だった。九十四式高射装置と連動した長10センチ高角砲と40ミリ機関砲によって、頑丈な米軍機に大穴を開け撃墜に成功したのである。
「鉄の暴風雨とは聞きましたが……これほどとは……」
永琳はその光景に目を見張った。
「敵急降下爆撃隊、全機撃墜!」
「味方機の被害なし!」
「……風が去ったか」
最後の敵機を撃墜し、空は静けさを取り戻した。
「風?」
ふと将和が呟いた言葉に霊夢が反応する。
「ん? あぁ聞こえてたか。たまに感じるんだ。嫌な風みたいなのがな」
「成る程。虫の知らせという訳ですか」
「それ、何となく分かるかも。異変を解決した後、憑き物が落ちたような気がするもの」
将和の説明に頷く紫と霊夢であった。
「……なんという戦闘なの……こんな……」
一方、近代海戦の圧倒的な破壊力を前に、依姫はただ愕然と立ち尽くしていた。
今の彼女は言うなれば、陸に上がった河童の――陸軍軍人が海軍軍人達の戦闘を経験したような感覚に近かったかもしれない。
(……これが……空母戦……私の力なんて……何も役に立たない……)
月の都で戦い続けてきた武人としての自負が、大海原の航空戦という未知の暴力の前に霧散していく。
「2番索敵線の彩雲より報告! 新たな敵空母二隻を発見! ミッドウェーより方位20度、240海里の海上です!」
通信参謀からの報告に艦橋がざわつく。
「敵の第二任務部隊か……!」
草鹿が低く呟く。それこそ探し求めていた空母『エンタープライズ』と『エセックス』を擁する第16任務部隊であった。
「遂に見つけたか……」
将和は双眼鏡を握りしめ、海の彼方を見据えた。
霊夢が血相を変えて尋ねる。
「将……もう二隻見つけたの?」
「ああ。艦隊から200海里先に居る」
「直ぐに攻撃隊を出しましょう!」
依姫が興奮して攻撃を具申する。
「残念だが、それはできない」
「何故ですか!? 空母戦は時間との勝負なのでしょう? ぐずぐずしてたら一方的に叩かれます!」
将和が首を振ったことに依姫は愕然とする。
まさかの攻撃をしないという判断に理由を尋ねた。
「攻撃隊を送り出したいのは山々だが……それより先にやるべきことがある」
「やるべきこと?」
将和の意味深発言に呼応するように、情報参謀・中島少佐が報告を入れてくる。
「対空電探に味方機の反応多数! 第一次攻撃隊が帰投してきました!」
「あっ……!」
中島少佐の報告に依姫は腑に落ちた表情を浮かべた。
「先ずは第一次攻撃隊の回収だ」
将和の声に呼応するように、東方の空から第一次攻撃隊の姿が見えてくる。
「…なんてタイミングの悪い」
「仕方が無いわ。これが空母運用のタイムラインなのよ」
「寧ろ第二次攻撃隊を先に出せただけ幸いでしたわ」
依姫の発言に永琳と紫がそう答える。
史実の流れを知っていれば、第二次攻撃隊を一次攻撃隊の帰投前に送り出せただけ、良しとすべきだったろう。
「着艦用意! 一航戦は引き続き防空を担当する」
午前8時37分。
将和の『着艦用意』号令を受けた第二・第七航空戦隊の蒼龍・飛龍・阿蘇・生駒の各空母は、風上に向け変針すると、第一次攻撃隊の収容を開始する。加賀の艦橋からも高度を落として1機、また1機と空母へ着艦する攻撃隊の姿が確認できた。
霊夢は不安そうに将和を見る。
「ねえ、将。ふと思ったんだけど、着艦って、こんな時にやって大丈夫なの……? 今、敵から攻撃を受けたら……」
「格好の標的だな。だが、それも踏まえてもやり遂げなければならない」
改めて言うが、霊夢は軍事の素人である。そんな彼女の素人目線から見ても、目の前の行動は危険では無いかと思えた。
そして“実際そのとおり”であった。
発艦作業でも言えることだが、空母は艦載機を着艦させるため、合成風速(自然の風+船のスピード)を一定以上にする必要があるため、風上に向かって“直線”で航行し続けなければならない。その間に万が一敵機が襲いかかってきた場合、急転舵(ジグザグに避ける運動)ができないため、進路を完全に予測され、爆雷撃に恰好の獲物となる。
また、対空砲火も制限される。自艦の対空砲や機銃が激しく火を噴くと、その爆煙や光、砲撃の衝撃(振動)で、着艦しようとしている味方パイロットの視界を遮り、操縦を乱してしまうので、敵が近づいていても、味方機が最終アプローチに入っている間は、対空撃ち方初めのタイミングが非常に難しく、防御火力が大幅に低下してしまうのである。
しかし、そんなリスクを冒しても敵機の攻撃を受け甲板が損傷してるでもない限り、味方機を海上に不時着させる訳にはいかない。やれる可能性があるなら、どこかのタイミングでやるしかないのである。
故に――
「まさに正念場といったところね」
紫が言った一言がすべてを表していた。
「ああ。俺が敵の指揮官なら必ず、この“隙”を狙う」
その言葉は、この場に居る全員に“嫌な予感”として響いた。
(まあ、これでも史実よりはマシなんだよな)
将和は加賀へと着艦・補給・再発艦していく直掩戦闘機を見て、そう思う。
史実では、直掩機の補給と第一次攻撃隊の収容が同時進行となり、各空母の甲板作業は地獄のような混乱に陥った。
今回は一航戦が直掩機の補給を担当しているため、第二・第七航空戦隊は第一次攻撃隊の収容に専念できる。
要領よく行けば1時間前後の作業時間で終えられるであろう。
「淵田中佐より電令!『敵機動部隊を発見! これより2隻の空母へ攻撃に移る!』とのことです!」
通信参謀が新たに報告を入れてくる。
「第二次攻撃隊は敵艦隊を捉えたか!」
草鹿は感極まる。淵田は第17任務部隊を捉えたのである。
「どうやら淵田は2隻の空母へ集中攻撃を選んだようですね」
「ン……」
源田の声に将和は唸る。
吉報ではあるが、依然として米空母艦載機から脅威と着艦作業という予断を許さない状況下であったため、複雑な心境が絡み合っていたのである。
そして、案の定第一航空艦隊は余談を許さなかった。
「東北方向から敵機大編隊が接近中! 距離100マイル!」
「東北からと言うことは――空母艦載機に違いない……!」
中島少佐の報告に草鹿が顔をしかめる。
それは空母ヨークタウンとワスプから飛び立った戦闘機隊・爆撃隊・雷撃隊の混成部隊だった。
将和は即座に決断した。
「本艦は前に出る。敵機の攻撃を此方に引き付ける。二航戦・七航戦は第一次攻撃隊の着艦を優先しろ!」
「りょ、了解!」
将和の命に帝国軍人達は即座に動き出す。まさに軍人の鑑であった。
しかし、この突然の判断に軍人では無い霊夢と永琳、依姫等は困惑したのである。
「将!?」
「自ら囮役になろうというの!?」
「危険すぎます!」
彼女達の発言は、艦橋の何人かが抱いた思いを代弁していた。
将和は振り返らず、静かに言った。
「今の一航戦の役目は着艦作業中の空母を守ることだ。その為に脅威は……俺たちが受ける」
その言葉は、艦橋の空気を一瞬で変えた。将和がやろうとしていることの意義を全員理解したのである。
(……どうして……どうしてこんなにも迷いなく前に出られるの……? 穢れが怖くないの……)
依姫は胸が締め付けられるような感覚を覚える。自分と彼等の違いは何なのだろう?そう比べてしまっていた。
(陣頭指揮――身を以て範を示そうとしている……この人は……本当に“将”の器を持っているのね……)
(予は常に諸子の先頭に在り――まさにそれね)
一方永琳と紫は、将和へ憧憬の念を抱いていた。
西洋合理主義に於いて、指揮官や参謀は不必要に最前線で危険に身を晒すことはない。
その理屈を超えて挑む姿勢に、心打たれるものを感じたのである。
将和の命を受け、一航戦所属の加賀・赤城・天城は二航戦と七航戦の前に踊り出る。
「迎撃の零戦隊が空戦を開始しました!」
39機の零戦隊が五月雨式に進撃してくる米攻撃隊を攻撃する。
「直掩戦闘機隊を高高度へ誘導!雷撃隊は此方で対処する。先にSBDを叩け!!」
「はっ!」
将和は先にSBDドーントレスを叩くよう命じる。
(急降下爆撃だけは侵入させる訳にはいかんからな)
それは前世で急降下爆撃によって空母を沈められた経験から下した判断だった。
「こちら加賀隊! 三機撃墜!」
「赤城隊、二機撃墜!」
零戦隊が急上昇し、敵爆撃隊へ突入。敵戦闘機隊とも交戦に入る。
その合間を縫って米雷撃隊は零戦隊の迎撃網を突破してくる。
「敵機、低高度にて接近中! 雷撃隊です!」
「三式弾、砲撃始めェ!!」
第三戦隊司令官・三川軍一中将の命令により、河内型戦艦――河内・因幡・岩代・薩摩の戦艦群が米雷撃隊に砲撃を開始する。41サンチ三連装砲から放たれる三式弾は凄まじく、瞬く間に10数機が撃墜された。
「弾幕射撃、始めェ!!」
将和の号令と共に全艦艇の両用砲、対空機銃も射撃を開始した。
空母加賀からも高角砲が火を噴き、黒い弾幕が空を覆う。
「命中! 敵雷撃機、炎上!」
しかし――雷撃隊はしぶとかった。
「敵雷撃機、加賀へ接近! 艦橋に向かって来ます!」
一機の雷撃機が炎を噴きながら艦橋へ迫る。
距離は――もう数十メートル。
その機体は、もはや帰還不能だった。
だからこそ――
「まさか!!」
「体当たりするつもり!?」
「じっ、自殺するつもりですか!?」
「嘘でしょ!?」
永琳と紫、依姫、霊夢が驚愕する。
彼女達の目の前で火を噴いた雷撃機が最後の一矢を報いようと“死を抱えて突っ込んできた”。
依姫はその瞬間、胸の奥が“凍りついた”。
(……これは……死の気配……こんな……こんなの……)
月の民にとって“死”は最大の穢れ。
依姫は数百年の戦いの中で、死を発生させない戦い方を徹底してきた。
殺さず、穢れを出さず、侵入者を排除するだけの“清浄な戦い”。
それが依姫の戦いのすべてだった。
だが今――目の前で“死にゆく者”が自分へ突っ込んでくる。
その穢れは、依姫の精神を直撃した。
(怖い……こんな……こんな戦い……私は知らない……!)
霊夢は震え、永琳は息を呑み、紫は目を見開く。
しかし依姫だけは――価値観そのものが崩れ落ちていた。
(……ここで……私は死ぬの……? 死は……穢れ……私は……穢れてしまう……?)
依姫の瞳が揺れた。
月の民としての誇りが、恐怖に押し潰されそうになっていた。
「艦長!」
「取舵一杯! 速度維持!」
将和の意を受けた岡田艦長は瞬時に操舵室へ繋がる伝声管に向かって叫んだ。
操艦手も瞬時に反応して加賀は取舵をする。
艦橋が大きく傾いた。
「うっ……」
「っ……」
永琳と紫は掴んでいた手すりで踏ん張る。
「わっ……!」
「きゃあ……!」
一方の霊夢と依姫は体勢を崩し、倒れかける。
その時――
「二人とも、踏ん張れ!」
将和が二人を抱き寄せた。
霊夢の肩を、依姫の腰を、強い腕がしっかりと支え、“庇うように”将和は敵機へ背中を向けた。
次の瞬間――雷撃機が艦橋の横をかすめ、背後の海面へ墜落した。
巨大な水柱が立ち上がる。
「加賀、無傷です!」
艦橋に安堵の声が広がる。
「大丈夫か?」
将和の声は、戦場の轟音の中でも不思議とよく響いた。
霊夢は震えながらも頷く。
「……うん……ありがとう……怖かった」
依姫は、しばらく言葉が出なかった。
(……助かった……私……死ぬと思った……)
依姫は月の民。
死を嫌悪し、穢れを避けてきたため、“死の気配”に触れたことはほとんどない。
だからこそ――今の体験は、彼女にとって“精神の崩壊”に近かった。
目の前で死が生まれ、自分も死に触れかけた。
その穢れは、依姫の心を深く傷つけた。
(こんな……こんな戦場……私は……耐えられない……)
震える依姫と霊夢の頭に、将和はそっと手を置くと、優しく、ゆっくりと撫で始める。
「敵雷撃隊、全機撃墜!」
「敵急降下爆撃隊、全機撃墜!」
「敵戦闘機隊、引き上げていきます!」
零戦隊が敵機を撃退し、空は静けさを取り戻した。
草鹿が胸を撫で下ろす。
「……よく凌いだな……」
源田も安堵の息を吐いた。
「冷や冷やしました」
ショックから立ち直り出した依姫は将和へ尋ねる。
「助かったんですか」
「ああ、敵機は引きあげた」
依姫は胸に手を当てる。
「あの時、庇ってくれたんですね」
「……まぁな」
依姫は拳を握りしめる。
「私……この場ではただのお荷物ですね」
依姫は、鉄の棺桶(艦艇)の中で、剣を振るうことすらままならず、ただ手をこまねいて震えているしかできない己の無力さに歯噛みする。
この“空母戦”という異質な戦場では、ただの少女同然だった。
「畑違いの戦場なんだ。依姫にできないことがあれば、依姫にしかできないこともあるだろう。だから、この戦場で得た経験を“君自身のために”どこかで活かしていけば良い。人生なんて、そういうもんだろう」
その言葉は――依姫の心に、静かに染み込んだ。
(……この人は……私の価値観を否定しない……穢れを抱えた私を……そのまま受け止めてくれる……)
胸の奥が熱くなる。
依姫は、初めて知った。
死の穢れに触れた自分を、優しく抱きしめてくれる存在がいるということを。
「落ち着いたか?」
「ん……………はッ!? だ、大丈夫ですから頭を撫で続けないで下さい!!///」
「将、もう少しこのまま……///」
霊夢は甘えるように身を寄せ、依姫は反射的に顔を赤らめて飛び退く。
(私としたことが……ただの少女のような反応を……でも……不思議と悪くなかった……)
依姫はチラリと振り返る。
霊夢を落ち着けた将和は、再び司令長官としての顔で采配を振るっていた。
胸の奥が熱くなる。
(……どうして……こんなにも……心が揺れるの……?)
自分でも気付いていない感情が、静かに芽を出していた。
「あらあら……面白くなってきたわね♪」
紫は扇子で口元を隠しながら微笑む。
(依姫……あなたがそんな顔をするのは何百年ぶりかしら)
永琳は依姫の変化を見つめ、静かに微笑んだ。
一方その頃、第二次攻撃隊は敵空母へ突入していた。
午前9時10分。
淵田中佐率いる第二次攻撃隊は、ミッドウェー北北東の海域で敵機動部隊を視認していた。
「隊長、敵ヨークタウン型空母、発見!その先に別の空母が見えます!」
「すわッ! ドンピシャや!」
淵田の眼下には、空母ヨークタウンとワスプが護衛艦に囲まれ洋上を進んでいる姿を認めた。
「前方上空に敵戦です!」
「戦闘機隊を向かわせるんや!」
敵の直掩グラマンF4F戦闘機と零戦隊がたちまち空戦に入る。
数十分続いた戦闘機同士の戦いは、零戦が空戦を制した。
(敵空母は四隻やと聞いとるが、いったい何処に居るんや……?)
淵田はなるべく周辺空域を捜索したが、発見するに至らなかった。
午前9時26分。
淵田は即座に攻撃隊へ指示を飛ばす。
「全軍、突撃! あの二隻に集中攻撃をかけるぞ。これ以上、時間をかけてたら帰りの燃料がなくなる…ッ!」
淵田は付近にいる他の米空母二隻の捜索を打ち切り、眼前の空母二隻を全力で叩く決断を下した。
「艦爆隊は先に甲板を叩け! 雷撃隊はその後に右舷から挟撃する!」
零戦隊が敵直掩機との空戦を制したため、攻撃隊を遮る障害は敵艦の対空砲火のみだった。
九九艦爆隊が急降下を開始する。
「投弾!」
爆弾が次々と敵空母の甲板へ吸い込まれ、巨大な火柱が上がった。
「命中! 敵空母ワスプ、炎上!」
「ヨークタウン型にも命中を確認!」
続いて九七艦攻隊が低空飛行で肉迫する。
「雷撃隊、投雷!」
九七艦攻が次々に魚雷を投下。
800キロの航空用魚雷が海面を走り、ワスプとヨークタウンの右舷へ命中した。
「命中! 敵空母ヨークタウン、航行不能!」
「空母ワスプ、沈みます!」
淵田が捉えた視界の先では、空母ワスプが横転。
ヨークタウンは右舷に大きく傾いて、停止していた。
幾ら米軍のダメコンが優れていようと、7~8本も片舷に当てられたら救いようが無いであろう。
淵田は叫ぶ。
「よし! 二隻とも撃沈確実や! 全機、帰投せよ!」
午前9時40分。
第一航空艦隊は第二次攻撃隊からの戦果報告を受信する。
「淵田隊長より報告! 敵空母二隻、撃沈確実とのことです!」
通信参謀の声に、加賀の艦橋が沸いた。
「やった……!」
「長官、第二次攻撃隊は大戦果です!」
草鹿が興奮気味に報告する。
「……すごい……将……」
「……本当に……沈めたのね……」
霊夢が感嘆とし、永琳は息を呑んだ。
(……この人は……本物の“戦士”だ……)
依姫は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「さすがね、将和」
紫は静かに微笑んだ。
「まだ終わりじゃない。敵はあと二隻いる」
将和は静かに呟いた。
「ここからが本番だ」
艦橋の空気が再び引き締まった。
よっちゃん、何でこんなメンタルで来たん?
いやだって、“所詮夢の世界”だったから「これなら(穢れを気にする)私でもこの場に居れる」と判断してたんよ。
ミッドウェー海戦って、艦載機がない瑞鶴が参加してたら役立ったとか言われるんですよね。
御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m