紅霧異変が終息してから数週間。春の気配が近づく幻想郷には穏やかな日々が戻っていた。
博麗神社では、霊夢が縁側で茶を啜り、その上空では、将和と霧雨魔理沙が向かい合っていた。
「約束通り、勝負だぜ! 弾幕の美しさと火力、両方見せてやる!」
魔理沙は箒に跨り、帽子を押さえながら笑う。
将和は空を飛ぶ程度の能力を使い、風を纏って空中に浮かぶ。
「こっちは剣一本だが、打ち返すのは得意だ。遠慮なく来い」
魔理沙はスペルカードを掲げる。
「恋符『マスタースパーク』!」
巨大な光のレーザーが空を裂き、将和に向かって放たれる。
将和はマスターソードを構え、剣先でレーザーの軌道を逸らす。
「おおっ!? 本当に弾いた…!」
魔理沙は驚きながらも、次々と星型の弾幕を展開する。
将和は剣を振るい、弾幕を打ち返しながら空中を舞う。
「剣で弾幕を返すなんて、幻想郷じゃ聞いたことないぜ!」
「俺の世界じゃ、盾で魔法を跳ね返すのは基本だ」
魔理沙は箒を操りながら、空中を縦横無尽に飛び回る。
「でもな、動き回ってたら、当たらないんだぜ!」
その言葉通り、魔理沙は弾幕を避けながら、将和の攻撃をかわしていた。
だが――将和は静かに、腰のポーチから風符を取り出す。
「なら、動きを止めるまでだ――疾風のブーメラン!」
風を纏った回転刃が、空中を駆ける。
魔理沙は余裕の笑みを浮かべていたが、ブーメランが箒の下をすり抜けた瞬間――
「うわっ!? バランスが…!」
箒が揺れ、魔理沙の体が傾く。
(思ったとおりだな)
魔理沙は魔法使いであり、箒に乗って飛んでいることから、魔法 によって飛行していると将和は踏んでいた。
霊夢のように、元来の能力で自由自在に飛んでいる訳でない。
そうであるなら――元飛行機パイロットの将和には操縦する機体がバランスを崩したときの困難がよく分かっていた。
魔理沙が空中で体勢を崩し、落下しかけたその瞬間――将和はもう一つの武器を取り出していた。
「…パチンコ?」
霊夢が地上から呆れたように見上げる中、将和は霊力を込めた小さな弾をパチンコに装填する。
「簡易弾幕ってやつだ。狙いは…そこだ!」
放たれた霊力弾が、魔理沙の帽子に命中し、落下する。
「きゃっ…! ちょっと、反則じゃないの!?」
魔理沙は空中でくるりと回転し、箒にしがみつきながら着地する。
将和は境内の上空を旋回してから、静かに空から降りてきて、剣を納めた。
「勝負あり、だな」
魔理沙は帽子を直しながら、悔しそうに笑う。
「くぅ…まさかパチンコで決められるとは。あんた、面白すぎるぜ」
霊夢は湯呑を片手に、じと目で将和を見ていた。
「…弾幕勝負って、そういうものだったかしら」
将和は肩をすくめて笑う。
「勝てば正義、だろ?」
魔理沙は箒に乗り直し、空へと舞い上がる。
「次はもっと本気でいくぜ! 異変が起きたら、また一緒に戦おうな!」
将和は手を振りながら、霊夢の隣に腰を下ろす。
「だいぶ慣れてきたわね、空中戦」
「おかげさまで。霊夢の能力、共有できてるってのはありがたい」
そんな平穏の中、異変の兆しは静かに訪れる。
春の訪れとともに、幻想郷では異常な寒波が続き、桜が咲かず、雪が舞い続けていた。
「春なのに…雪?」
「桜が咲かない春なんて、幻想郷らしくないな」
妖怪の山でも、妖精たちが震え、里では農作物の芽が出ず、住民たちが不安を募らせていた。
そして、白玉楼から届いた一通の文。
「西行妖が目覚めかけている。幽々子の様子が…おかしい」
差出人は、魂魄妖夢。
その文を読んだ霊夢は、すぐに将和と共に白玉楼へ向かう決意をする。
白玉楼へ向かう途中、将和と霊夢は妖怪の山のふもとで足を止め辺りを見回した。
空には春の雪が舞い、地面には凍った花の蕾が並んでいる。
「見事に一面、雪に覆われているな」
「この辺り、妖精たちがよく集まる場所よ」
霊夢がそう言った直後、雪の中から元気な声が響いた。
「おーい!そこの巫女と剣の人ー!」
現れたのは、青いリボンに水色のワンピースを着た氷の妖精――チルノであった。
その後ろには、穏やかな微笑みを浮かべた大妖精が控えていた。
「また異変?最近、寒すぎるんだよ!春なのに雪って、あたいのせいじゃないからね!」
「チルノちゃん、落ち着いて…」
将和は剣を背に、チルノの前に立つ。
「君が氷の妖精ってやつか。春雪異変の原因を探ってるんだ。協力してくれるか?」
チルノは胸を張って答える。
「もちろん!あたいは幻想郷最強だからね!異変なんて、バシッと凍らせてやるよ!」
大妖精は苦笑しながら、将和に耳打ちする。
「チルノちゃんは元気だけど、ちょっと無鉄砲なんです。見守ってあげてくださいね」
霊夢は札を整えながら、ふと将和に目を向ける。
「…妖精たちも異変を感じてる。今回は、幻想郷全体が揺れてるわ」
その時、空から雪のような弾幕が降り注いだ。
白玉楼からの霊気が漏れ出し、周囲の妖精たちが混乱し始める。
「うわっ、なんか来たー!」
チルノは氷の弾幕を展開し、雪弾を凍らせて防御する。
将和も剣を抜き、霊夢と連携して弾幕から後ろにいる妖精たちを守る。
「大ちゃん、後ろは任せた!」
「任せてー!」
大妖精は空を舞いながら、周囲の妖精たちを避難誘導していた。
その姿は、まるで妖精たちの守り手のようだった。
やがて弾幕が収まり、空が静けさを取り戻す。
「ふぅ…あたい、頑張ったよね?」
体力を使い切ったチルノへ、将和は笑いそっと彼女の頭を撫でた。
「最強だったな。助かったよ」
チルノは満面の笑みを浮かべ、大妖精も労った。
「よかったね、チルノちゃん」
霊夢は空を見上げながら、静かに呟いた。
「…春が来るには、まだ遠いわね。でも、こうして少しずつ進んでいくのよ」
将和は剣を納め、霊夢の隣に立つ。
「次は白玉楼だ。幽々子と西行妖の謎を解きに行こう」
チルノは手を振りながら叫んだ。
「がんばれー!あたいも応援してるからね!」
大妖精も微笑みながら、静かに見送った。
空を飛びながら、将和は霊夢に問いかける。
「西行妖って…桜の木なんだろ?それが目覚めるって、どういうことなんだ?」
「それが分からないから、行くのよ。幽々子の力は、死を司るもの。春の命の流れと相反するの」
幻想郷の空には、雪と桜が交じり合うように舞っていた。
その美しさの裏に、死と再生の力が蠢いていることを、二人はまだ知らなかった。
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