春の終わりを告げる風が吹く頃、将和と霊夢は白玉楼の門前に立っていた。
空には桜が舞い、地面には霊気が漂う。だが、春の温もりはどこか冷たく、張り詰めた空気が漂っていた。
「…この空気、ただ春を集めているだけじゃなさそうね」
霊夢が呟くと、門の奥から一人の少女が現れた。
銀髪に緑の袴、背には二振りの刀。半霊を伴うその姿は、幻想郷の中でも特異な存在感を放っていた。
「久しぶりね、妖夢」
「霊夢さん…来てくださったんですね」
少女――魂魄妖夢は、霊夢に向かって一礼する。
その動作は礼儀正しく、そしてどこか緊張を含んでいた。
霊夢は将和の方を振り返り、軽く手を差し出す。
「紹介するわ。こちらは三好将和。最近、博麗神社で私と一緒に異変解決をしてるの。剣士で、ちょっと変わった能力持ち」
将和は一歩前に出て、妖夢に向かって軽く頭を下げた。
「三好将和だ。君が白玉楼の剣士か。噂は聞いてる」
妖夢は少し驚いたように目を見開き、そして慌てて一礼を返す。
「魂魄妖夢です。幽々子様の護衛を務めています。…噂、ですか?」
「霊夢から聞いた。剣の腕も、忠義も一級品だって」
妖夢は頬をわずかに赤らめながら、半霊をふわりと揺らす。
「…恐縮です。でも、今はそれどころじゃなくて…幽々子様の様子が、少しおかしいんです」
霊夢が表情を引き締める。
「西行妖が目覚めかけてるの?」
「はい。幽々子様は、桜の下で何かを“待っている”ような気配がして…私には、それが怖いんです」
将和は庭の桜を見上げる。
その花びらは、風に舞いながらも、どこか“止まっている”ように感じられた。
「なら、俺たちで確かめよう。君の剣と、俺の剣。二つあれば、幽々子の“ゆがみ”を断ち切れるかもしれない」
妖夢は一瞬、戸惑いながらも、静かに頷いた。
「…はい。よろしくお願いします、将和さん」
その時、白玉楼の奥から、幽々子の声が響いた。
「ふふ…春は、命の境界を曖昧にするのよ。あなたたち、どこまで踏み込むつもり?」
幽々子は桜の下に佇み、扇を揺らしながら微笑んでいた。
だが、その瞳の奥には、どこか“空虚”なものが宿っていた。
「幽々子様…!」
妖夢が駆け寄ろうとした瞬間、桜の花が一斉に舞い上がり、空が淡い霊気に包まれた。
「西行妖は、まだ眠っている。でも、私の中にある“何か”が…目覚めようとしているの」
将和は一歩前に出て、幽々子を見据えた。
「その“何か”が、幻想郷を揺るがすなら――俺は、君のゆがみを断ち切る」
幽々子は微笑みながら、扇を閉じた。
「…なら、見せてちょうだい。あなたの剣が、私の“死”を超えられるかどうか」
桜が舞い、白玉楼の空が揺れ、庭に幽々子の霊気が満ちていく。
桜の花びらが宙に舞い、空間そのものが“境界”のように揺らぎ始めていた。
「さあ、始めましょう。春の終わりにふさわしい舞を」
幽々子が扇を広げると、無数の蝶のような弾幕が空を覆った。
その一つ一つが、死と再生の境を象徴するかのように、妖しく輝いていた。
「来るよ、将和さん!」
妖夢が叫ぶと同時に、二人は左右に分かれて駆け出す。
将和は背中の刀を抜き、妖夢は楼観剣を構える。
幽々子の弾幕が二人を包み込むように迫る――
妖夢は迷いなく斬り込んだ。
弾幕を“斬る”ことで進路を切り開く、彼女の剣はまさに魂の延長だった。
将和は弾幕の一つに刀を添え、瞬間、刃の角度を変えて“弾き返した”。
まるで弾幕の軌道を読み、力の流れを逆転させるように――
妖夢の目が見開かれる。
「え…弾幕を、返した…?」
将和は次々と弾幕を打ち返し、幽々子の周囲に“逆流”を生み出していく。
その技は、斬るのではなく、受けて返す。まるで剣術と弾幕術の融合だった。
「君は斬ることに長けている。でも、俺は“流れ”を読む。力の向きと、意志の揺らぎを」
妖夢はその言葉に、剣士としての直感が“未知”を見出していた。
「…すごい。そんな戦い方、見たことない…!」
彼女は将和の背に並び、弾幕の隙間を斬り開く。
将和はその隙に打ち返しを重ね、幽々子の防御を崩していく。
二人の剣が、まるで呼吸を合わせるように交錯する。
妖夢の斬撃が“道”を作り、将和の返しが“流れ”を変える。
幽々子は微笑みながら、扇を閉じた。
「ふふ…見事な連携ね。まるで、春と冬が手を取り合って舞っているみたい」
だが、その笑みの奥に、わずかな“哀しみ”が宿っていた。
「でも、私はもう…この桜の下で、眠りたいの」
その言葉とともに、幽々子の霊気が一層強まり、桜が咲き乱れる。
西行妖の力が、彼女の中で目覚めようとしていた。
そして――霊夢が動いた。
彼女は空中に舞い上がり、札を展開しながら幽々子の霊気を見据える。
「将和!」
その一声に、将和は瞬時に目を向けた。
霊夢の瞳が、わずかに合図を送る。将和は頷き、剣を構える。
「夢符――『夢想封印』!!」
霊夢が放った無数の霊力弾が、空を舞いながら幽々子へと向かう。
だが、幽々子は扇を広げ、自らも弾幕を当てて対抗する。
そして、落としきれない弾幕を体を反らすことで躱した。
「惜しかったわね」
「それはどうかな?」
「っ!!?」
その瞬間――将和が動いた。
彼は霊夢の弾幕の一つに剣を添え、角度を変えて打ち返す。
霊力弾は軌道を変え、幽々子の死角から突き刺さるように飛来した。
「…っ!」
幽々子の扇が間に合わず、霊力弾が彼女の霊気を貫いた。
桜が一斉に舞い上がり、霊気が収束していく。
幽々子は空中で静かに降り立ち、扇を閉じた。
「…見事ね。剣と札、そして信頼。春の終わりにふさわしい一撃だったわ」
霊夢は空から降りて将和の隣に立ち、静かに札をしまう。
将和は剣を納め、幽々子を見つめた。
「君の“迷い”は、俺たちで断ち切った。幻想郷の春は、まだ終わらせない」
幽々子は微笑みながら、桜の木の下に腰を下ろした。
「…ありがとう。少しだけ、春を延ばせた気がするわ」
妖夢は刀を納めると将和に駆け寄る。
「まさかやり方があるなんて。将和さん…あなたの剣、もっと知りたいです」
妖夢の瞳には、剣士としての純粋な興味と、どこか“憧れ”のような光が宿っていた。
将和は少し驚いたように笑い、頷いた。
「なら、また一緒に斬ろう。幻想郷の“ゆがみ”を」
桜の花びらが、四人の肩に舞い降りる。
その夜、幻想郷には静かな春が戻っていた。
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