三好in東方Project(仮)   作:フォークロア

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三好inならではの回。


第九話 拳と剣、砂漠の狐との再会

紅魔館の門前。

朝露がまだ石畳に残る時間、美鈴はいつもより早く門に立っていた。

将和との初めての模擬戦――それが今日だった。

 

「お待たせ、美鈴」

 

将和が現れると、美鈴は自然と背筋を伸ばした。

彼の姿を見るだけで、胸の奥が少しだけ熱くなる。

 

「いえ、こちらこそ。準備はできています」

 

二人は距離を取り、構えを取る。

将和は木刀を手に、美鈴は拳を握る。

──静寂。

そして、風が吹いた瞬間、二人は動いた。

美鈴の拳が鋭く突き出される。

将和はそれを紙一重で避け、木刀の柄で牽制する。

 

「速いな…さすが門番だ」

「あなたも…反応が鋭い。妖夢さんに鍛えられているのですね」

 

拳と剣が交差する。

美鈴の蹴りを将和が受け流し、木刀の背で軽く肩を叩く。

 

「一本」

 

美鈴は悔しそうに笑った。

 

「くぅ…油断しました」

 

稽古は何度も続いた。

互いに汗を流しながら、技を交わす。

だが、美鈴の心は、技以上に揺れていた。

 

(将和さんの目…真剣で、でも優しくて。なんでだろう…私、こんなに胸が高鳴ってる…)

 

稽古の合間、二人は門の影で水を飲んでいた。

 

「美鈴、ありがとう。君と稽古できて、本当に良かった。拳の重みが、言葉よりも伝わる気がする」

 

美鈴は少しだけ俯いた。

 

「…私も、嬉しいです。あなたと拳を交えると、心まで触れられているようで…不思議ですね」

 

将和は驚いたように彼女を見たが、すぐに柔らかく笑った。

 

「それ、すごく美鈴らしい言葉だな。拳で語るって、君の生き方そのものだ」

 

その言葉に、美鈴の胸がまた熱くなる。

 

(ああ…やっぱり、私…この人のこと、少しずつ…)

 

風が吹く。

紅魔館の門が軋む音が、静かに響いた。

美鈴は拳を握り直した。

次の稽古が待ち遠しい――そんな気持ちが、胸の奥に灯っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴との模擬戦を終えた将和は、汗を拭いながら博麗神社へ戻った。

霊夢が縁側で麦茶を飲んでいたのを見て、声をかける。

 

「霊夢、買い出し行くって言ってたよな。俺も付き合うよ」

「助かるわ。神社の米が底をつきそうなの。あと味噌も」

 

二人は連れ立って人里へ向かう。

午後の陽射しは柔らかく、道端には子供たちの笑い声が響いていた。

その時、霊夢がふと足を止める。

 

「あら、久しぶりね。慧音」

 

上白沢慧音が、書物を抱えて歩いていた。

霊夢とは寺子屋時代に教師と生徒の関係だった。

 

「霊夢か。元気そうだな」

「ええ、まあね。…あ、紹介するわ。こっちは三好将和。幻想郷に来てから、いろいろと異変を解決してるの」

 

慧音は将和を見て、静かに頷いた。

 

「なるほど。剣士か。よろしく頼む」

 

将和も軽く頭を下げる。

 

「こちらこそ。寺子屋の先生なんですね」

 

霊夢はふと首を傾げる。

 

「でも、今日は真っ昼間に外出?寺子屋はお休みかしら?」

 

慧音は少し笑って答えた。

 

「いや。今日はロンメル先生が生徒達を見てくれていてな。私は非番だ」

「ロンメル先生ね。元気にしてる?」

(ロンメル…???)

 

将和の脳裏に、一瞬だけ砂漠のキツネ――エルヴィン・ロンメルの姿がよぎった。

だが、まさかと思い直す。

霊夢は懐かしそうに言った。

 

「久しぶりに顔を見たいわ。将和、ちょっと寺子屋寄ってもいい?」

「もちろん。俺も興味ある」

 

──そして、二人は寺子屋へ向かった。

木造の校舎の中、子供たちの声が響く。

教壇に立つ一人の男が、地図を指しながら語っていた。

 

「戦略とは、地形と意志の交差点にある。敵の動きを読むには、まず風を読むことだ」

 

将和はその声に、足を止めた。

その男が振り返った瞬間――

 

「エルヴィン・ロンメル……!」

「まさか……アドミラル・ミヨシ!?」

 

教室が静まり返る。

子供たちはぽかんと口を開け、霊夢は目を見開いた。

──それは、時空を超えた邂逅だった。

一方は太平洋で海軍軍人として名を馳せた海軍長官、三好将和。

一方はヨーロッパで陸軍軍人として名を馳せた陸軍将軍、エルヴィン・ロンメル。

互いに武勇伝を通じてその名を知っていた二人は、幻想郷という異世界で初めて相見えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか、こんな形で会うとはな。ロンメル将軍」

 

寺子屋での衝撃的な邂逅から数時間後。

将和とロンメルは、慧音、霊夢と共に人間の里の居酒屋『鯢呑亭』へ足を運んでいた。

店内は灯籠の光が揺れ、奥野田美宵が忙しなく料理を運んでいる。

 

「それは此方のセリフだ。アドミラル・ミヨシ」

 

ロンメルは杯を持ち上げ、将和に向かって微笑んだ。

その表情には、戦場では見せなかった穏やかさが宿っていた。

 

「君に一度会ってみたかった。太平洋の海を駆けた男が、今では博霊の禰宜とは…人生とは、面白いものだな」

 

将和は苦笑しながら、酒を口に含んだ。

 

「俺も、まさか陸の将と幻想郷で酒を酌み交わすとは思わなかったよ。…ロンメル、聞いてもいいか?どうして君がこの世界に?」

 

ロンメルはしばらく黙っていた。

杯を見つめ、酒の表面に揺れる灯りを見ながら、静かに語り始めた。

 

「私は…死んだ。祖国を守れず、無念の最期だった。だが、神に愛されていたらしい。死後、私を推していた神が現れ、こう言った。“二度目の生で、幸せを掴め”と」

 

霊夢が眉をひそめる。

 

「転生…ってこと?」

「そう言えば聞こえは良い。だが、私にとってそれは救いではなく、ただの延命だった」

 

慧音が静かに杯を置く。

ロンメルは続けた。

 

「記憶を保持したまま“生きながらえた”私は、幻想郷の生活を生き地獄と感じていた。救えなかった祖国。犯してきた罪。苦しみと後悔。地獄に落ちるべきだと思っていた。なのに――『自分だけが救われた』」

 

将和は言葉を失っていた。

自身とロンメルの立ち位置は似ていた。

それでも二人の違いをあげるとするなら、祖国の破滅を防げたか、防げなかったか、だろう。

ロンメルの語る“生き延びた者の罪”は、重く、深かった。

 

「何の為に記憶を持ったまま転生したのか。自分はいったい何者なのか。どうして自分だけが救われてしまったのか……」

 

慧音はその時のことを思い出し、静かに言った。

 

「彼は、誰にも踏み込ませなかった。距離を保ち、孤独の中にいた」

 

将和は杯を置き、ロンメルを見つめた。

 

「…それでも、今こうして話してくれてる。何かが変わったんだな」

 

ロンメルは目を伏せ、慧音の方へ視線を向けた。

 

「そうだ。…そんな時に彼女と出会って、私は…変わった」

 

ロンメルの声は、どこか遠くを見つめるように静かだった。

慧音は少し照れたように、杯を手元でくるくると回している。

 

「寺子屋の前で、子供たちに歴史を語っていた彼女の姿を見て、私は…吸い寄せられるように話しかけた。そして、己の罪を語った。祖国を救えなかったこと。命令に従い、幾多の命を奪ったこと。私は、彼女に赦しを乞うたわけではない。ただ、誰かに聞いてほしかった」

 

慧音は、当時のことを思い出しながら、ぽつりと呟いた。

 

「…あの時のあなたは、まるで自分を罰するために生きているようだった。だから、私は言ったの。“事実は事実ではあるが、それを歴史としてしまっているのはお前自身だ”と」

 

将和と霊夢が息を呑む。

慧音の言葉は、まるで魂を揺さぶる鐘のようだった。

 

「“お前の行いにより、苦しんでも生き続けた人達にとって、支えになったろう。お前の行いは決して正しかったとは言わない。だが、間違っていたとも言えない。それを未来に繋げていけるのは他ならないお前次第。どうしても無かったことにしたいなら手伝ってやろう。そして、これから創っていけ。お前自身が誇れる歴史を”」

 

ロンメルはその時、慧音の渾身の頭突きを食らったという。

 

「唖然としたよ。痛みよりも、心が震えた。…泣いた。ありがとう、と」

 

慧音は顔を赤らめ、霊夢が「先生が泣いたって…想像できない」と笑う。

将和は、慧音の左手に目をやり、薬指に光る指輪に気づいた。

 

「…アンビリバボーだな。お前、慧音先生と…」

 

ロンメルは照れくさそうに笑った。

 

「彼女に惚れて、寺子屋の先生になった。子供たちに歴史を教えながら、彼女と共に生きている。そして、彼女も私の想いを受け入れてくれた。婚約している。近々、結婚を考えているんだ」

 

将和は杯を掲げた。

 

「おめでとう、ロンメル。…本当に、おめでとう」

 

慧音は顔を真っ赤にしながらも、微笑んだ。

鯢呑亭の灯りは、夜の深まりと共に柔らかくなっていく。

杯の数は増え、語られた言葉は静かに心に染み渡っていた。

将和は、ふと外の闇に目を向けながら呟いた。

 

「…不思議なもんだな。俺たち、あの戦争の果てに、こんな場所で再会するなんて」

 

ロンメルは頷きながら、慧音の手をそっと握る。

 

「戦場では、敵だった。だが今は、同じ里を守る者として、こうして語り合える。それだけで、転生の意味があったのかもしれないと思えるようになった」

 

霊夢は、少し酔った様子で笑いながら言った。

 

「でもさ、ロンメル先生がいなかったら、私は巫女になってなかったかも。あの頃、寺子屋で“歴史とは生きる者の責任だ”って言われて、なんか…心に火がついたの」

 

慧音は微笑みながら、霊夢の肩に手を置いた。

 

「君が巫女になったのは、君自身の力だよ。でも、ロンメルの言葉がその背中を押したのなら…それもまた、彼の“歴史”だ」

「君は、私が教えた中でも特別だった。潜在的な力があった。だから、巫女としての道を選んだと聞いた時、誇らしかったよ」

 

将和は、静かに立ち上がった。

店の奥にある神棚に向かって、ひとつ礼をする。

 

「最後に聞きたい、ロンメル。お前は今もドイツ軍人か?それとも…」

 

ロンメルは立ち上がり、将和の隣に並ぶ。

その瞳には、迷いも悔いもなかった。

 

「今の私にとって祖国は幻想郷であり、慧音と共に人間の里を守る騎士であり、先生だよ。子供たちに“生きる術”を伝えるのが、今の俺の任務だ」

 

将和は満足げに頷き、杯を掲げた。

 

「…いい答えだ。なら、俺も博霊の禰宜として、巫女を支える盾であり続けよう」

 

霊夢は照れくさそうに笑いながら、二人の杯に自分の杯を重ねた。

 

「じゃあ、私も巫女として、幻想郷を守る矢にならなきゃね」

 

慧音は、静かに言葉を添えた。

 

「歴史は、こうして紡がれていく。誰かの罪も、誰かの誇りも、誰かの涙も――未来へと繋がる糸になる」

 

その言葉に、誰もが黙って頷いた。

鯢呑亭の夜は、静かに更けていく。

外では虫の音が響き、月が幻想郷を優しく照らしていた。

そして、四人の英雄たちは、それぞれの“今”を胸に、未来へと歩みを進めていく。

 

──それは、赦しと誓いの夜。

 

そして、幻想郷に生きる者たちが、過去を越えて繋がった夜だった。




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