葬送のフリーレンRPG 称号「一流魔法戦士」獲得RTA   作:早走のフリーラン

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戦士の遠い記憶

 なぁフェルン、そんなにあいつのことが気になるなら、もう俺じゃなくて本人に聞いてくれよ。知らないところで話すって陰口みたいで良くないぜ。

 それに前に来歴は話したじゃん。同郷で一緒に師匠のとこで修業したんだよ。……魔法については俺は分かんないって。

 

 子ども時代をもっと正確に?そう言われても……出会いも何もなんとなくいつのまにか友達だったよ。同じ村の子どもなんてそんなんだろ。

 

 ……あぁ、でも、そうだな……あの日のことは良く覚えてる。……師匠に拾われた日。あの日も俺の後ろに付いてきてたっけな。その時の話でいいならするよ。

 息遣いのタイミングも思い出せるほど細かくって……無理だよ!俺はエルフじゃないんだから!

 

 

 

 

 

 あの日は、何てことの無い一日だと思った。

 

 親父と兄貴はいつも通り魔物の討伐遠征に出ていて、帰りは夕飯時になることになっていた。

 だから俺は一人で修練場に行って剣を振っていた。ちょっとでも強くなって家族に認められたかったからな。

 

「……()ぃ、シュタ()ぃ!」

 

 俺がしばらく素振りをしていると、茶髪ショートの地味目な女の子が背中をつんつんとつついてきた。声を掛けてくれてたみたいだけど、今はそうでもないとはいえ俺は集中すると周りが見えなくなる悪癖があるから……。

 

「シュタ兄ぃ、今大丈夫……?」

 

「ん……?何だよ、ホヨ。今修行中だから、また後でな」

 

 その女の子──ホヨは、この戦士の村で年の近い子どもの中でも、やたら俺に懐いていた。

 ……今思えば、シンパシーを感じていたのかもしれない。俺が小っちゃかったこともあって、よその家の事情なんて分からなかったけど、後になってホヨも家族から冷遇されてたって話を師匠との会話でちょっと聞いた。

 

「……そうだよね、邪魔してごめん……」

 

 俺の素気無い返事を聞いて、ホヨは露骨にしょんぼりした。俺は自分の都合で人を傷つけたかもしれないってことにどうにもいたたまれなくなって、ちょっと胸が痛んだ。村では数少ない自分を好きな存在だったから、失望されるのが嫌だったんだ。

 それに、その日は朝からずっと剣を振っていたこともあって、ちょっと疲れていた。無下にするのも悪いし休憩がてら、やっぱりホヨの話に付き合うことにした。

 

「……やっぱ大丈夫。何の話だ?」

 

 俺がそう言葉を翻すと、ホヨの顔がぱあっと明るくなった。あれに弱かったんだよな……今もあいつのお願いをつい聞いちゃうのはこういうところから始まってるのかもな。

 

「えっとね……シュタ兄ぃは、なんでそんなに強くなりたいの?」

 

 その質問を聞いて俺はムッとした。からかわれているような気がしたからだ。

 

「そりゃもちろん、立派な戦士になって親父たちに認められたいからだよ。お前だって同じだろ?」

 

 そう言うと、ホヨは目を逸らす。

 そのまま俯きながら言葉を返してきた。

 

「さっき父さんに言われた。『母さんは立派に戦って死んだのにお前はその才能も性格も受け継がない臆病者だ』って。死なないと認められないなら、鍛えるのなんて無駄なんじゃないかなって」

 

 急な思ってもみない話に、俺は言葉が出てこなくなって、しばらく立ち尽くしてしまった。

 俺にとって立派な戦士って言うのは兄貴のことで、兄貴はいつも無傷でかっこよかったから。

 ……ホヨも、誰かに話さなきゃ耐えられなかったんだろうな。家族も頼れないから、落ちこぼれの俺なんかにしか話せなかったんだろうけど。

 

「……最強の兄貴の外套(マント)について知らないのかよ。村の誇りだぞ」

 

 俺がなんとか絞り出した答えは、そんな慰めともつかない突き放したものだった。

 

「私は弱いし、臆病だから。傷つかないなんて無理だよ。だから戦場になんていけないんだ」

 

 いろんな考えが頭の中をぐるぐるして、ふと口から飛び出したのは、何とも突拍子も無いことだった。

 

「じゃあさ、俺が強くなって、見返してやるよ。俺が誰よりも凄いんだって。そうしたらどんなにみっともなくたって大丈夫だ」

 

 俺は落ち込み続けるホヨのことが見てられなくなって、つい強がりを言ってしまった。俺だって落ちこぼれで、もうみんな魔物と戦ってるような年でも前線に出れてないくせに。

 ホヨは弾かれたように俺のことを見る。

 

「なんてったって、俺はホヨより臆病だし鈍くさいからな!」

 

 まだ不安そうにしていたため、追い打ちとばかりにそう付け足すと、ホヨはようやく笑った。

 

「ふふっ……何それ、カッコ悪いよ」

 

 俺はそう言われて照れくさくなって、誤魔化すように頭をかいた。

 でも嬉しかった。安心したように笑ってくれたから。

 

「……でも、いいな。そしたら私も、臆病なまま戦場に出ても認められるかな」

 

 頼られるって言うのに耐性が無かった俺は、乗せられて調子いい返事をした。

 

「そうとも。もし、逃げたくなったらそんときは俺が守ってやる!」

 

 胸を叩きながらそんなことを言った。

 恥ずかしいけど、あの時は本気だったよ。……いや、別に今も思ってる。けど、もうあっちが守られるほど弱くないだろ。

 

「……えへへ……やっぱりシュタ兄ぃは優しいね。私も強くなって、逆にシュタ兄ぃが逃げても村のみんなが安心できるようにならなくちゃ」

 

 ホヨの返事も気前良くて、俺たちはすっかり気分が良くなった。

 その勢いのまま鍛錬を再開すると、ホヨも調子づいたみたいにチラチラ見ながら俺の隣で剣を振ってた。今思えば俺の見様見真似をしてたんだろうな。健気なやつなんだ、本当に。

 

 そして夜になって、親父たちが帰ってきて……魔族が来て……。

 その後のことは、そんなに詳しくは覚えてない。ごめん。

 ……あぁ、そうだよ。ずっとホヨと一緒だった。多分、俺が村を見捨てて逃げたのに釣られたんだと思う。情けねぇよ。守るって言っておきながら、ホヨを生かすための時間稼ぎからも逃げたんだ……。

 

 いや、大丈夫。俺が話そうと思ったことなんだからさ。気にしないでくれ。

 

 けど、これで分かっただろ?ホヨはいいやつだよ。

 魔法も独学だからちょっと変になってるだけで、そんな厳しく当たる必要はないって。

 

 修行のためにフリーレンを取られたからって拗ねるのは……やめて!叩かないで!

 

 

 

 ◆

 

 

 

 戦士アイゼンは、森の中を疾走していた。

 自身も出身者と親交のある戦士の村が、魔族の将軍の襲撃を受けたという知らせを受けたからだ。

 

 比較的近場にいるということもあり、斧を担いで飛び出した。

 久しぶりに握った斧が重い。まともに戦ったのは何十年も前のことだ。自分にやれるのか?怖くてたまらない。

 

 だが、見過ごすという選択肢は無いだろう。そう、きっとヒンメルなら。

 

 

 

 ──しかし、その覚悟も虚しくアイゼンがたどり着いたのは、全てが終わった後であった。

 

 人の気配はどこにもない。襲撃したという魔族も去り、焼け焦げた村の廃墟だけがそこに残されていた。

 

「……誰かいないか!?誰か……!」

 

 アイゼンは剛腕を使って瓦礫をどかし、柄にもない大声を出して生存者を探すが、返事は来ない。あるのは物言わぬ死体ばかりであった。

 

「クソ……俺は……」

 

 アイゼンが絶望しながらそれでも村を駆けまわっていると、小さな子供の泣き声が、隣接した森の離れた所から聞こえた。

 

 アイゼンの優れた聴覚でも僅かにしか聞こえない声。それも離れていっているのか弱っているのか、徐々に小さくなっている。すぐさまそちらに向かうことに躊躇は無かった。

 

 

 

 しばらく走った先で、一人の少年が意識の無い少女を抱きかかえながら歩いているのが見えた。

 急いで近づいて保護しようとすると、警戒したように少年が声を上げる。

 

「俺が……守らないといけないんだ……」

 

 添えた手に感じる力は、想像よりはるかに強いものだった。

 子どもだけで死の危険からの逃避行を行うことは、いったいどれほどの恐怖だったのか。

 

「もう、大丈夫だ」

 

 アイゼンがそう言って抱きしめると、しばらくして少年──シュタルクは、糸が切れたように眠る。

 二人の目にはどちらにも泣きはらしたような跡が残されていた。

 

(せめてこの二人だけは、俺の命に代えても……)

 

 アイゼンは深い後悔の中、確かに自分の手の中に確かにいる二つの命を、しかと感じていた。

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