辺境の、名も無き惑星。
俺はそこから、この、赤い星へと送りこまれた。
これでも学校出だ。実家は裕福だったんだ。
バカなことをしちまった。
親の反対を押しきって、アニメ会社へ就職したのさ。
タンクって言葉を知ってるか。水や油を詰める容器のほか、兵器の一品種も意味する。あれは昔、秘匿名称として世間を誤魔化すために使われていた名前が定着したんだ。
アニメも、いずれ、そうなる。
良い子は近寄っちゃいけないぜ。
赤い星は何百年も戦争に明け暮れている。
青い星を中心とした連合が、しょっちゅうイザコザを仕掛けてくるせいだ。堂々と殴りかかってきたりはしない。ぜんぶ手下にやらせるのさ。薄汚い遣り口だが、効果は覿面だ。
赤い星政府は慢性化した戒厳令を解くことができず、民衆も戦時体制に慣れすぎてしまっている。
陸上全域に鉄道が敷設され、各地方の工場からは兵士と弾薬が送り出され、帰りは死体と負傷者で満載だ。
赤も青も、もはや産業の大部分がこの状態に依存しているため、終わらせることを考えもしない。
クソッタレだよ、どいつもこいつも。
アニメーションといったら青い星の一大産業だが、俺の故郷でも独自にそこそこ面白いものをつくっている。
赤い星では大衆の娯楽に思いきった予算を注げない。けれども、その必要性は理解している。青色に染まった文化がとにかく嫌いなので、辺境勢のオリジナルアニメを積極的に応援して買ってくれる。俺たちは、そこにオマケを付けて輸出するわけだ。
オマケの方が重要であることは言うまでもない。
しかも、いちばん過酷で無慈悲な前線へ遣られる。
騙されたよ。縮尻った。
良い子は真似しちゃいけないぜ。
初ミッションは、味方の部隊を襲い、積荷を奪う仕事だった。
このノリに、早く慣れてくれ。
どうせ前線。ばれない。
生き残った者、逃げおおせた者勝ちだ。
敵軍より自軍の方が、装備や戦術のクセもわかってて手間がかからない。自分たちが狙われた場合の想定訓練にもなる。ガチだ。
返り討ちに遭えば悔しがれ。この場合、慣れるチャンスは無くなるが。
「隊長!我々は味方を攻撃しています!間違いです!」
「キリコ、持ち場を離れるな!黙って命令に従え」
「しかし隊長!軍規違反です!理由を、せめて理由を教えてください!」
「うるさいぞ!カネコフ、黙らせろ」
「ま、待ってくれ!うわああああ」
キリコとかいう、俺よりも勘の鈍い新米が始末された。やれやれだぜ。
このミッションは、適性検査も兼ねているのだなと了解する。
郷に入っては郷に従えだ。
先輩たちはキビキビと役目を果たしている。
俺も、早く、追いつかねば。
輸送機の貨物室で、等身大のカプセルみたいな物体を発見。
棺のようでもある。
俺はアニメから降りて、蓋を開けてみた。
まばゆい、エメラルドグリーンの光。目がくらむ。
腕で影をつくりながら凝視する。
それはタンクだった。円筒形で、液体が満たしてある。
中に人間がひとり横たわっていた。
女だ。全裸の。
肌は真っ白。胸も尻もでかい。
頭から股の間まで毛が一本も無い。
そそる。
貴婦人の遺体か?
墳墓に収容するつもりだったのだとすると、そこには財宝もたんまり納められていることだろう。期待以上の収穫だ。
俺は、咄嗟に背後のハッチを閉めに行った。
アニメの腕でしっかりと塞いでおく。
こんなお宝、先輩たちにとられてたまるか。
あらためてタンクへ近付く。まじまじと女の体を見つめる。
故郷の星でも、これほどの上玉は抱いたことがない。
生きてさえいればなあ、たっぷりかわいがってやったのに。
突然、鳥肌が立った。何かが動いた気がしたのだ。
背後、左右、天板から床まで確認する。
俺しかいない。
気のせいか?
そろそろ戻らねば。
タンクの蓋を閉めようと、手をかけた。
そこでやっと気付く。
遺体が俺を睨みつけていた。
う、うわああああ。
蓋を閉め、暗がりの中を駆け、俺はアニメへ乗りこむ。
無線機をオン。電波不良と報告しつつ、ハッチを開けて外へ出る。
一目散に、ベースキャンプへと向かった。