赤い星暦で半年もかからなかった。青い星政府は無条件降伏し、解体された。
太陽系惑星連合は新秩序によって再編制される。これまで乱立しすぎていた時間や度量衡の単位系が、ひとまず赤い星を基準として一元化される見込みだ。
基軸通貨も、公用語も、法や裁判の原則も、すべて赤い星の現行制度をベースに標準化されることとなる。
延々と続けられてきた人類の戦争史は終末を迎えた。世界平和の到来だ。
輝かしい新時代へ、ようこそ!
女神「ねえスドー。そのイクラ、私も食べてみていいかしら」
スドー「え!なんだ、興味あるのか。いいけど、君の口に合うかな」
女神「……ううん……これは……だめだわ。気持ち悪くて、吐きそう」
スドー「無理すんな。吐いてこい」
女神「はあ。不思議だわ。よくそんなもの毎日、涼しい顔して食べていられるわね」
スドー「赤い星語では、俺の星をイクラと呼ぶけれど、そもそも、こいつが由来なんだ。
赤い星では、魚の身だけ食べて、卵は廃棄する。俺たちにとっては御馳走だから、ただ同然で仕入れて輸送し、たらふく食うことができた。
魚以外の全員が、この交易で幸福になれてたのさ。だから友好でいられたんだよ」
女神「ごみを分解してくれるバクテリアのような存在ね。でも私はごめんだわ。生臭すぎて。とてもじゃないけど」
スドー「君はレーションだけで生きていけるように最適化されているんだ。無理することはない。
むしろ、会食の席で出されたときは俺が君の分も食べてやるから、心配事がひとつ減ると思っておけばいいんだ」
女神「たのもしいわね」
スドー「世界は平和になったが、まだまだ君には引退がゆるされない。反乱分子の地下活動も、今後数十年はくすぶり続けるだろう。
だから、いつまでも長生きしてもらって、睨みを利かせていてくれなくちゃ困るんだよ」
女神「これからは小さな魚卵をプチプチと潰していくような作業ばかりになるのよね。
青い星のような、わかりやすい悪の帝国がいてくれたままの方が、却って連合の結束を維持する上では好都合だったかしら」
スドー「いまさら言っても遅すぎるよ。ただ、そのアイデアは大いに検討の余地があると思う。
巨悪を倒しきってはよくない。監視下で適度に悪いことをさせ続けておいて、善良な市民に憎悪を向ける出口を残しておく戦略も、あって然るべきだったね。
イ・エス2号をつくる際には、そんなルーティーンも加えておこう」
女神「イ・エス2号か。ねえ、もうそろそろ、つくってもいいんじゃないかと思うんだけど」
スドー「え……なんだよ。そんな気分なのか?」
女神「だって女ですもの。
この先のライフプランも考えたら、今しかないかなあ、とも思っちゃうのよね」
スドー「なるほど。
すまない。男は普段そんな考え方をしないものだから。うっかりしてた。
そうか、君のコンディション的には、今なのか。
じゃあ、つくろうか」
女神「ねえスドー。私たちのなれそめを思い出して。
もしプロトワンが女じゃなくて男だったら、歴史はまったく違う道を描いていたわよね」
スドー「そりゃまあ、根底から一切が覆るよな。君と僕みたいな、こんな関係になんて、なりようがないわけだし」
女神「そこは、なってもいいと思うけど。
でもほら、プロトツーは男だったじゃない。
だから女男逆転は、じゅうぶんありえたIFなのよ」
スドー「プロトツー?ああ、あいつか。
情緒不安定で、出てきてすぐ死んだよな。なんとなく思い出したぞ」
女神「私の方が先に完成したのは、戦闘能力が高かったからなんだけど。
私ね、思うの。
男って根本的に、戦争に向いてないわ。あなたも含めて。
大昔の肉弾戦全盛期ならともかく、現代のテクノロジー戦術では、男ってどう足掻いても女に勝てないわよね。女はどこまでも無慈悲になれるのに、男はグジグジ言い訳ばっかり」
スドー「うん。ええと。ごめん、いったい何の話をしてる?」
女神「つくるべきは女の子だって話。ほら聞いてない。
いいわね?今、決めたから」
(おしまい)