お兄ちゃんの最初の印象は、コメツキバッタみたいな人である。
臆病で情けなくてよわっちぃ、いらんことしぃのお兄ちゃん。
でも、今思い出してみれば、お兄ちゃんが頭を下げるのは全部私のためだった。
キコルと戦って敗れてトドメを刺される時、お兄ちゃんは助けてくれた。
そして、キコルに土下座して、私達は防衛隊に降った。
人との融合体の怪獣8号の例があったから、懐疑的な目で見られつつも、私達は受け入れられた。というより、お兄ちゃんがあまりにも情けないから毒気を抜かれたのだと思う。
最初は監視体制が凄かったけど、食事が解禁され、お喋りするようになり、武術を学び、武器について学び、お兄ちゃんは漫画を執筆し、最終的には結構やりたい放題できたと思う。悪いこと以外はね。
お兄ちゃんは、パパの……9号のくれなかった愛をくれた。
お兄ちゃんは、転生者なのだという。
お兄ちゃんには妹がいて、だから同じ妹の私をほっとけなかったんだって。
お兄ちゃんが話してくれた呪術廻戦の世界に転生したって知った時はびっくりしたけど、ワクワクもした。
お兄ちゃんの妹の雛ちゃんは、五条と夏油が好きなんだって。
お兄ちゃんに絵を強請ったり、買い物に連れ歩かせたり、本当に大変だったって。
それに、五条と夏油は最強なんだって。
だから、私は呪術高専に行ってみる事にした。
ルールを破らず力を振るえる方法が他に思い浮かばなかったし、私は最強になりたかったし、雛ちゃんのいる所にお兄ちゃんがいるかもしれない。
雛ちゃんがいるなら会ってみたいし、ううん、何よりお兄ちゃんに会いたい。
私達は、七海君と灰原くんと同じ学年。五条先輩と夏油先輩は一個上。
そして、なんとお兄ちゃんは夏油先輩のお兄ちゃんだった。
それならば仕方がない。雛ちゃんが大好きで、お兄ちゃんの弟な夏油先輩は私が守ってあげましょう。ついでに五条先輩もね。
人間はクッソ弱いけど、私ももう怪獣ではないのでクッソ弱い。
でもまあ、人間2人くらいは守れるでしょう。
何せ私は大怪獣の転生体なのだから。
侵入者と戦っているときに乱入したのは、忘れもしないお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんは、今世でも怪獣だった。びっくりするほど変わってない。
見た瞬間わかった。私もいけるわこれ。変身できる。
ならば、尚更2人に負けない。負けてたまるもんですか。
五条先輩の無下限を突破するのはちょっと大変だけど……夏油先輩の物量突破もちょっと大変だけど……。ええい、大怪獣が弱気になっちゃだめ!
とはいえ、今はお兄ちゃんを逃さないと!
侵入者が逃げて、お兄ちゃんも逃げて。
私は五条先輩に首根っこ掴まれて夜蛾先生の所に連れて行かれた。
これから緊急会議で、私の知ってる事を全部話さないといけないらしい。
「あらでも、総監部にメロンパンいるんでしょ? 総監部に報告しても意味なくない?」
「だよね」
「それを判断するのは俺らじゃねーの。ほら、全部ゲロっちまえ」
とりあえず、五条先輩は敵側ではないはずだ。
その五条先輩が言うならいいのかな。
私と夏油先輩は、お互い忘れた話を補足し合いつつも、話していった。
「夏油先輩を悪堕ちさせる予定の任務ももう用意してあったはずよ。仕掛けるのは2年後で、それまでに幼女2人を拉致監禁暴行して夏油先輩が非術師を嫌いになるように仕向ける策があったはず」
「……それ、早く助けないと不味くないかい?」
「夏油先輩が助けるまでは生かされるわよ、多分」
「ヒントとか!」
「枷場美々子と菜々子だったはず。今助ければ親もまだ生きてるかもね」
「サラッと言うな! 悟、どうにかならないかい!?」
「珍しい苗字だから、探せばなんとかなるはず」
そこで天内 理子は立ち上がった。
「それは後でよかろう。それより、妾はどうすればいいのじゃ。日本の存亡が掛かっているとなれば、妾も腹を括ろう。宿儺か結界の維持か。どちらを優先するのじゃ」
ビシッと言う女の子に、議論は紛糾した。
「五条先輩が最大限成長したと仮定しても、宿儺に勝つのは無理だったはず。宿儺、世界斬を使えるから、無限突破できるわよ」
「宿儺、やはり侮れぬ……」
「詰みなのではないか?」
「少しても手数を増やすなら、真人って呪霊を捉えれば非術師を術師に変えられるし、術式持ちは六眼でわかるわ。最強コンビに軍団作らせたら?」
「それなら手は掛かるけど、態々天元様の結界を利用せずに済むね。私、頑張るよ。となると、やっぱり同化はした方がいいかな。やっぱり、天元様が操れちゃう状況はまずいよ」
「待て、貴様らの言う事が事実かどうかわからん。証拠は?」
「ないから黙ってて10年後に全部敵側確定してから総監部粛清でいいかなって」
「ふざけるなよ貴様」
話し合いの結果、同化はする事になった。
一泊して、そして天元様の所で同化である。
総監部と理子ちゃんは毒殺された。
全員が死んだわけではないが、被害者多数、重症者も多数でちょっとした混乱が起きた。そのどさくさに紛れて、虎杖悠仁は行方不明になっていた。ミミナナちゃんは保護できた。
内ゲバの始まりである。
五条先輩は当主として忙しくなってしまった。夏油先輩も監視付きで謹慎。
その分、私に仕事が割り振られた。
今のうちに修行するわよ!
そんなわけで、灰原くんと七海くんに襲いかかる死亡フラグを蹴り倒しつつ、日々を懸命に生きていると、あっという間に一年。
私は2年生になった。入ってきた一年生は2人。
伊地知くんと山野 風子ちゃんだ。
「ヒェッ 五条先生と夏油様! ハイパー尊い……それと。ゆ、夢女子!? それもツインテールのめちゃかわツンデレ系!!! ど、どうしよう。あっでも、未来は夢女子がなんとかしてくれるかも!?」
伊地知くんを盾にして、こちらを伺う姿にピンときてしまった。
「あっ 雛ちゃん?」
「えっ なんで私の前世の名前を?」
「2番目の妹の十六夜です」
「妹!?」
「一護お兄ちゃんにはお世話になりました」
「ええっ あっ もしかして、お兄ちゃんの今世の妹なの!?」
「それは夏油先輩です」
「私は妹じゃないよ!?」
しばらくわちゃわちゃと説明して、雛ちゃんは深く頷いた。
「わかった。つまり、一護お兄ちゃん、私、十六夜ちゃん、夏油先輩って事ね!」
「そう!」
「逆だろ!? なんでいきなり私が末弟になってるんだよ!?」
「だって実際4番目だし」
「違うよね!? 私が2番目に年上だよ!? 先輩!!」
「精神年齢は違うもん。夏油先輩の2倍は生きてるよ、私」
「享年いくつ?」
「高校2年生!」
「じゃあ精神年齢ギリギリ夏油の方が上じゃん」
「おばさんではねーよな。せいぜいダブった学生的な?」
「留年してないし!」
「してるじゃん」
家入先輩と五条先輩の言葉に、私は慎み深く口を閉じた。
言えないよ、言えないよ。
サラッと100年は生きてますなんて、とてもじゃないけど言えないよ。
怪獣にも乙女心はある。
幾つになっても乙女は乙女。おばさんと呼ばれたくはないのだ……。
私は慎み深く次女の地位をゲットした。
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