田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話   作:大豆島そうめん

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11月のラプラス。或いは45の威容。

 最強の(イーリス)。最速の(アイエール)。最異の(アステリ)。最奥の南中(イリオス)。最悪の日没(デューオ)

 私は多くの可能性を保険として生きて来た。

 生き物は通常、汎ゆる物事には対応出来ない。

 しかし私は、幅広い可能性として存在出来る。

 今の自分が対応されれば、別の自分として侵略を続ける。

 相手がそれに追い付く事はなく、そしてもし仮に全てに対して応じようとすれば、何もかも中途半端な生物となって自滅する。

 私はそれを見てきた。

 

 私は汎ゆる者であり、全てを翻弄する側だと思っていた。

 …それは、間違いだった。

 

 私は様々な可能性を持っているつもりであった。

 しかし、どの私も結局は同じ種だったのだ。

 例えばカブトムシになったりチョウになったりカマキリになったりと自在に昆虫の範囲内で姿を変えられるとする。

 しかし、どの姿になったとしても殺虫剤で終わってしまう。

 

 これは最早例えですらない。

 殆ど事実に近い内容だった。

 

 

 この星とガス星が衝突した。

 日に日に空に輝きを増して近付いてくるそれは、気体で出来た星であった。

 理解した時には遅かった。

 私達、飛行するホウネンエビの子孫(ホネセー)にとって、そのガスは余りにも有毒だった。

 

 死んだ私が再び意識を取り戻したのが水中であったという事は、地上の子孫達が絶滅したという事だ。

 卵や最初の二回程の脱皮までは行える乾眠で耐えたものもいるのかも知れないが、少なくとも活動可能な個体はいない。

 いたら、私の意識はその個体に移っているハズだからだ。

 

 

 水中でも無敵──という時代はとっくに終わっていた。

 クラゲや三葉虫やアノマロカリスと競っていた時代ではないのだ。

 海には平たいモササウルスや巨大なヒラメもいる。

 棒ドリルの様な謎の生き物もいる。

 ……棒ドリルの何かは恐らく硬質化したキンギンポの一種だろう。

 先行者の最大の利点である、後続者への進路妨害はとっくに意味を無くしていた。

 自分よりも前を進む相手に進路妨害を可能な理屈なんて無いのだから。

 

 私はそれでも必死に足掻いた。

 足掻いて足掻いて足掻いて足掻いて足掻いた。

 だが、勝てない。

 当たり前だ。

 

 これまで私に他の生物が勝てなかった理由が、まさに今の私が他の生物に勝てない理由なのだから。

 

 

 長き時代によって、彼等の進化が追い付いた。

 或いは私を超える他の世界からの流入者がいた。

 今や私の前に先行者がおり、そしてその先行者に妨害される。

 

 

 水中のホウネンエビとて、原種からは大きく別の種類へと進化した。

 最早、(もう)から異なる程にだ。

 鰓脚綱とは別種の何かへと成り果てた。

 魚類が両生類になる程に進化したにも関わらず、嘗て遥か過去の海を支配したにも関わらず、今や王座は遠い。

 

 私の、私の王座が。

 見えない。

 見えない。

 私の、私の座るべき座が。

 今は何処にあるのかも分からない。

 

 私はこの後、何かに食われ続ける生き物の意識として存在し続けるのか。

 狂えず壊れられず、無になる事も出来ず、何かに食われ続けるだけの営みを記憶し続けるのか。

 

 否。

 断じて否。

 

 しかし、その意思にどれだけの意味があるというのだ。

 意思は意味を作る道具であり、成果(答え)そのものにはなり得ない。

 

 私は諦めない。

 だが、その願いが成し得ぬと理解する事は両立される。

 されて、しまう。

 

 

 私はある時敵から逃げる為、深き海の底を目指した。

 そんなニッチな場所でなら、きっと井戸底の王になれると思った。

 深い深い海の外れにて、私は弱者の園で王を自称する蛙にでもなろうとしてしまった。

 

 私はそこで見た。

 深い深い海の底。

 潜るに連れて広がっていく昏き液体の王国に、あの海龍が生き残っていたのを。

 

 知覚したのは一瞬だった。

 何故なら私は喰われ、そこで終わったからだ。

 そして新しい私へと移り変わっていた。

 

 

 生きていた生きていた生きていた生きていた生きていた。

 地上の私は滅んだのに。

 少なくとも、今は目覚める事が出来ないのに。

 あの龍は、あの魚は生きていた。

 冥海の王として、確かに生きていた。

 

 

 憎い。

 憎い。

 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。

 

 

 ただ最強をシミュレートしていく私の生において、唯一それを擲ってでも許せない存在。

 あの魚の子孫。

 ただただ最強へのシミュレーションだけが私の全てだったのに。

 全て程度(・・・・)など、どうでも良くなる程に奴等は私を変えてしまった。

 

 

 

 私が怒ったところで、私が憎んだところで、意思だけで姿形や膂力や魔力が増えたり生まれたりする訳では無い。

 何よりずっと昔から私は怒り憎んでいる。

 精神だけで何とかなるというのなら、私はとうに私達以外の全てを滅ぼしている。

 私の子孫が捕食者であり、私の子孫がその捕食対象であるような、私達だけで完結する世界を作っていたに決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *現代…?の見識*

 

 僕がアルテマモンスターを最初に知った時に思った。

 僕も、こうなりたい。

 アローアルテマの琥珀を見付けた時、僕が最初に行った事はガチャ魔法の応用で、琥珀の中の遺伝子を己に取り込んだ。

 しかし、()には何も起こらなかった。

 

 

 

 *現代の見識…?*

 

 彼の意識はある時、一瞬で消し飛んだ。

 彼が講義を終えて、準備室でアッサムを嗜んでいると、何の前触れもなく意識は消滅して書き換えられた。

 

 彼は世界を旅しながら、海に塩爆弾を落としたり、柄にもなく女を買ったり、財力を駆使して様々な発掘を行った。

 そして七種類の卵を見付けて来た。

 それを愛おしむ様に水分を吹き掛けて、卵に潤いを塗り込む様に撫でた。

 

 七種類の卵は同時に羽化して、直ぐ様彼を喰らい産声をあげた。

 彼の血は、水よりも遥かに幼子達に潤いを与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *現代の見識*

 

 聖歴1921年9月1日

 ユニバーサル士官大学は地獄と化した。

 怪物達が突如目覚めた。

 その下手人とされる男は死亡しており、その家は取り潰された。

 幸いな事に怪物達は共食いを始めたので、全ての怪物が脅威となった訳では無い。

 だが、それは救いにはならなかった。

 僅か三匹、それも内二匹は重傷であったにも関わらず、この世と地獄を地続きにさせるのには十分だった。

 

 故に訂正しよう。

 ユニバーサル士官学校が地獄と化した訳では無い。

 人類社会そのものが地獄と化したのだ。

 

 これまで築いて来た文明と見知った人々の生命が終わる瞬間を、私達は眺める事しか出来なかったのだ。

 

 妻を子を友を終わらせた(照らした)極彩色に輝く闇が、私も終わらせる(照らす)その日まで。

 

 

 新聖暦810年に発見された石板に記された記述。

 (恐らく1430年程前に記されたもの)

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