田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話   作:大豆島そうめん

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鬼滅の無惨様って生命体としてはどうしようもなく正しいムーブしてる。


余裕を持って弱者を襲う傲慢さと全てを捨てて強者から逃げる惨めさは全ての生命の根幹

 何回生まれ直しをしただろうか。

 数えるのも億劫になる。

 何度も卵を産み、多くは寿命を迎え、時には同種に殺された。

 同族に殺された時は、その同族の卵に生まれたり、元の自分の兄弟を乗っ取るように意識が回復したが、無関係な生物に食われた時は、決まって兄弟を乗っ取るパターンで転生している。

 

 さて、もしかすると他の兄弟にも私と同じ意識があるのではと思った事もあったが、知性的な動きを行えるのは現状では私だけのようだ。

 クローンが同じ思考と知識を持ちながら、互いに己がオリジナルと認識しているというパターンでも面白かったのだが、そうではないようだ。

 

 私の派生種も多く増えた。

 地面に尾を固定して、ウミシダのように擬態するもの。

 海藻を主食とする草食になったもの。

 見た目はアノマロカリスによく似たもの。

 カニのようになったもの。

 ひたすら大型化したもの。

 脚の長さと多さに特化したもの。

 まあ、様々な種類が増えた。

 

 どの種類であっても、この時代の他の生物群とは違って明らかに試行錯誤といった無駄な進化は見られない。

 濁った暗い海でも見えるような目と、俊敏な身体、硬い殻と強い顎と脚を手に入れた。

 

 この時代になるとアノマロカリスや魚と言えなくもないような細長いオタマジャクシのような生物が生まれてきた。

 アノマロカリスについてはまだ良い。

 遊泳速度と顎の構造については、私達が完全に上位互換だ。

 より速く、より小回りが利き、より正確に動けて、より大きく、より強い顎(鋭い刃)を持つ私達が、位置関係によっては獲物を先取りされる事はあったとしても、敵対して負ける事はない。

 ただ、魚に進化しそうなゼリー状の何かについては、早めに潰しておかないと、いずれ自分達の脅威になると感じて、いくつかの種は積極的に絶滅させた。

 絶滅するように卵を近隣に産んだ。

 

 それでも、私一匹の意思では無力なものだった。

 私以外のホウネンエビ派生の生物(面倒なのでホネセーと仮称する事とする)にとっては、魚に進化しそうな何かは多くある餌の一種であっても、滅ぼさねばならない何かではなかったからだ。

 

 結局はゼリー状の何かはだんだんと魚に近付いたものへと変化していった。

 真っ当な魚に近付いたものもあったが、私が真っ当な魚が増える事を邪魔をしたせいか身体の両脇にいくつもの目が並ぶものも発生していた。

 他にも遊泳する貝類も早めに滅ぼそうとしたが駄目だった。

 何れはオウムガイのようになっていくのだろう。

 私ができた事は、初期の進化を邪魔する事だけだった。

 結果として、遊泳をやめて貝殻で挟んで獲物を食う貝類が増えたりはしたが、結局徐々に遊泳する貝類は確認されつつあった。

 

 そんな私にとって、驚く程の脅威があった。

 それは、ゼリー状の魚もどきに似ていて、ウナギやナメクジウオにも似ていた。

 それは、明確に他の生物よりも完成された設計であった。

 その生物は、恐らくギンポだった。

 

 

 力強い脊椎を持つ生物特有の瞬発的な動きと、上下に開く顎によって、私は食われた。

 死の間際に、それが複数存在する事が確認出来た。

 私はこれまで多くの進化を体感していた。

 緩やかに、緩やかに、あまりにも遅い歩みではあったが、長い時間と短い寿命が幸いした。

 身体は大きくなり、筋肉量も密度も増えたし、視界も遠近感が確認出来るようになった。

 代謝が高くなり、消耗は激しくなり、視野はかつてよりは狭くなった。

 それでも肉食の生物としては優位に進化を続けて来た。

 だが、これ以降の時代ではこれは通じなくなるだろう。

 

 このギンポが生む次の世代の卵を食い尽くして、そこで終わらさなければ、何れはこのギンポが世界の海に満ちてしまえば、私は頂点捕食者に襲われる生物の一つに成り果てて、戻れなくなる。

 

 それは駄目だ。

 私は頂点捕食者という安全を担保に生き続けたい。

 弱者の園の中で優位を貪りたい。

 そんな侵略的外来生物(異世界転生者)に普遍的な主張を続けながら死んだ。

 

 私は直ぐにでも生まれ直して、ギンポ達の卵を食べ尽くさなければ。

 そんな意識だけをリスタートから持ち続けていたが、少し遅かったようだ。

 ギンポ達の稚魚が既にいた。

 

 私は嘗ての頂点捕食者であったプライドなどは瞬く間に捨て去り、自分より明確に弱い小さな稚魚を狙っては成長して、卵を産み、成魚に狙われて命を落とすということを繰り返した。

 

 私の進化の方向性は、とにかく『大きく』だけだった。

 大きさによる圧倒的なアドバンテージでしか、硬骨魚類にまで進化したものに勝てるビジョンが見えなかった。

 

 ギンポももしかしたら転生者かどうかなどはどうでも良い。

 それは私が滅びる事には何の影響もないからだ。

 

 私が選ぶ個体は順当に巨大化したが、皮肉な事に私が繰り返したサイクルによって、より早期に産卵が可能になったり、卵を小さく大量に産むなどといった、弱者としての路を進む子供達も増えた。

 深海へと逃げる子供達も増えた。

 

 それでも私は一度、ギンポを上回る捕食者へと返り咲いた。

 その後も油断なく進化を続けて来た。

 より優秀な子孫へと移り続けて来た。

 そこに停滞は無かった、はずだった。

 だから私は勝者のままでいられた…はず、だった。

 

 それは、数千年しか持たなかった。

 

 

 私が停滞を始めたのでは無かった。

 あのギンポ共が、硬骨魚類とは別の種へと変化していった。

 全身を強力な筋肉のみで構成して、骨の代わりに硬い筋肉を持つようになった。

 運動量と柔軟性が大きく変化した。

 泳ぐ巨大なミミズとでも言えばよいのか、まさしくそういった存在となった。

 彼らが失ったものも多くある。

 カルシウムと硬い筋肉では硬さそのものはやはりカルシウムが強い。

 だが、骨程でないものの硬い芯筋を持つ。

 それは、明確に締め上げる事に特化した強さを持っていた。

 

 私は身体を薄く刃の様に、脚を針の様に、硬く鋭く進化を続けていく事にした。

 脚の数も増やして、ヒレの数も増やした。

 

 だが、次第に追い込まれていった。

 しまいには、ゼリー状の魚もどきの中からも、変化した元ギンポに似てきたものもいた。

 大きさこそ違うが、硬めの筋肉の芯と柔らかめの筋肉の芯を持っていた。

 何よりも、目を獲得した事で知能を獲得しつつあった。

 視界の処理能力と知能は比例する事は私はよく知っていた。

 それは、ホネセー達が大きさと視力の増大と共に僅かずつながら、しかし確実に知能を持ちつつあることを見てきたからだ。

 骨の芯を持つ魚と、様々な経緯で筋の芯を持つ魚が僅かに、しかし確実に増え続けていた。

 

 私はより大きくなる事を望み、より鋭くより硬く、より食べられにくい進化を続けていった。

 しかし、それはギンポに食べられない為の進化でしかなかった。

 私はそれ以外の進化を見失っていった。

 

 

 

 

 

 

 筋肉質な元ギンポ(仮称キンギンポ)が繁栄していく中、余裕がない私はかなりの時間、そればかりに気を取られていたが、結局のところある程度のバランスが保たれていくことを理解し始めていた。

 

 キンギンポが繁栄しても、ホネセーは絶滅しない。

 だが、それはキンギンポという頂点捕食者に怯え続けるという前提のものだった。

 

 

 

 私は、より浅瀬に進むことにした。

 

 

 

 

 世界には、川があった。

 当たり前かも知れないが、それは私にとって新しい再発見であった。

 知っていたのに、知らなかった。

 少しずつ少しずつ産卵と羽化を繰り返した私は、遂に淡水に適応した。

 深い淡水には茎の短いロン毛のパ◯クンフラワーの様な、柄の短いオトヒメノハナガサの様な巨大生物がいたが、私はそれ以上の巨大生物であった。

 そして私は少しずつ遡上していった。

 浅川というのは、お腹がでっぷりとしたあのギンポ共には辿り着けない場所であった。

 私にも浅過ぎる場所であったため、より小さく進化をしていった。

 より小さく(弱く)なることで、弱者しかいない場所へと押しかける事が出来るようになった。

 

 淡水に適応したアメフラシを食らう私に、嘗ての大きさはない。

 他の強者(キンギンポ)に食べられないためだけに手に入れた大きさ(強さ)は、弱者の園へは持ち込めなかった。

 

 

 私は地上に生命があることを知っていた。

 そして、それをこの世界でも確認している。

 細長いヤジリのような形をした虫が、アメフラシに口吻を刺して吸っているのをよく見ていたからだ。

 彼らは普段は葉の様に水面に浮かんでおり、獲物を見付けると突き刺すように沈み込む。

 基本的に私の殻で弾ける硬さではあったが、隙間に入られると殺された事もあった。

 

 私はキンギンポでない方の魚が淡水に入って来て数百年経ってから、何時の日かキンギンポが来るのではないかという被害妄想により、地上に上がることを選んだ。

 そこが新たな弱者の楽園であり、侵略的外来種(チート無双)の場所だと思ったからだ。

 

 

 

 潤いの外の世界は、鳴かないセミと白く半透明な草花で溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *現代の見識*

 

 薄殻類が地上に上がった頃、地上では菌が支配した時代は完全に終わり、菌からの栄養で成長する葉緑素を持たない植物が地を覆っていました。

 このザットミアと呼ばれる植物群は、現代のヒナノシャクジョウに酷似しており、被子植物が別のプロセスで二度誕生した事を示しています。

 菌と一体化した根は、空へと伸びていく樹木とは違い、より深くより広くと地下へと伸びていきます。

 地上が葉緑素を持つ菌類から、葉緑素を持たない植物で覆われるようになってから、この星の酸素濃度は以前よりも低下しつつあり、淡水アルテマリア種が小型化していなければ、地上進出が難しかったという説もあります。

 

 乾藻類が地上に進出するまでの間、地上はこのザットミアと初期の薄殻類、そして現在のセミに酷似した何かから派生した推翅類や舌虫類が栄える時代となりました。

 また、推翅類の一部は細長くなって海へと進出してアルテマリアと同じニッチ帯を占める事となりました。

 推翅類や舌虫類の祖先となるセミに似た生物ウルサナイヤは、外敵がいないことから音を生み出す機能が存在しなかったか、したとしても急速に失われて消滅していた事が知られています。

 ウルサナイヤはザットミアと共にPPの一種とされています。

 

 ウルサナイヤから進化したとされる生物は肉食と草食の半々でしたが、その内草食が大半を占める舌虫類はザットミアの蜜を舐め尽くすものや、ザットミアの地表面部分を舐め削った後、根の内側を食べ尽くすものなどがいました。

 遅れて海から上がってきた乾藻類が地上でザットミアの隙間を埋める事が出来たのは、乾藻類には初期の推翅類や舌虫類に対する酩酊を伴う虫除け成分が多分に含まれていた事が分かっており、その成分が変化したマジカロイドは、哺乳類の持つ酵素に反応して魔力を高める事が判明しております。

 

 グリンマスク大学教授キャメロン・スタッグ女史著:『ザットミアの蜜と乾藻類のマジカロイドリジンの再現性』から引用

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