田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話   作:大豆島そうめん

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 救いを求める者は、少なくとも救いが足りない者だ。
 救いを求めない者は、救われずとも生きられる者だ。
 神は平等に全ての者を救う。
 結局のところ、救われているにも関わらず、救いを求める者は後ろで足掻き続けるのだ。



 足掻くよりも、全速力で走れば良いのに。
 神はきっとそういうのだろう。


先行者の最大のメリットは、後続者の先を防げる事

 真っ白な世界と黒い虫。

 何とも居心地の悪い世界だった。

 恐らく、この世界しか知らずに生命が完結するのなら、きっと色という概念さえ必要なかったのだろう。

 

 黒い虫は、カメムシかタガメか、そうでないとするのならセミだった。

 周りにはその様な昆虫ばかりが飛び交っているが、セミにしては鳴き声は聴こえない。

 羽音だけが世界に満ちる音だ。

 

 

 セミが草花を啜り、セミがセミを食う。

 恐らくだが、このセミ達も私やギンポ共と同じ(たぐい)だろう。

 多分、水面にいた昆虫もこのセミから派生したものだ。

 セミもタガメもアメンボも同じカメムシの仲間だからだ。

 下手をすれば一億年程経ったのだが、知識というものは薄れていない。

 頭脳というストレージに依存するものではないのだろう。

 もしそうだとすれば、ホウネンエビになった時点で知識など消えていた。

 

 

 この地上は、速やかに支配下に置かなければならない。

 鳥類や哺乳類が頂点捕食者として突如現れたらキンギンポの二の舞だ。

 元々頂点捕食者の地位を持っていて、数でも質でも繁栄していてああなったのだ。

 それを見過ごす理由は特にないだろう。

 

 とはいえ、肉食のセミを襲うにしても、セミは飛んで逃げる。

 そう、セミは飛ぶのだ。

 草食のセミを襲いながら、私は進化を続けた。

 何度も何度も産卵をして、寿命を迎え、時折セミに狩られ、そして己の卵から生まれたものに乗り代わる。

 地上に私の種族が増え始めていた。

 

 草食の飛ばない丸々とした大型セミの寄生虫となるもの、ムカデのように地上にいるセミを襲うもの、白くなってセミの餌である花に偽装して襲うもの、様々な分岐が出来た。

 その中で、私はムカデのような生態を経て、多数のヒレを使って滑空までは出来るようになった。

 

 

 薄い身体が幸いして、ヒレを伸ばす子孫を選んで移れば移るほど、飛行距離は伸びた。

 身は軽くないが、筋力による無理矢理な羽ばたきだ。

 記憶に残るカマキリの飛行能力程度でしかない。

 

 

 

 飛行速度でも加速度でも距離でもセミに劣る。

 元が甲殻類ということを考えれば十分かもしれないが、私は満足出来なかった。

 

 不本意ではあるが、身体を更に薄くしたり、小さくしたり、比較的使わない筋肉が少ない個体への死後の乗り移りを積極的に行った。

 

 それは、かつてキンギンポにしたように、セミに合わせた進化の在り方だった。

 

 しかし、セミという生き物に飛行能力で届く日は来なかった。

 

 

 故に私は、初速を高める事にした。

 ヘビが飛び掛かるように身体を曲げて、伸びる反動で飛び掛かりながら羽ばたく事で、瞬間的にはセミの対応を凌ぐ奇襲能力を手に入れた。

 

 この在り方でなら、再び大きく重くなる事も出来る。

 この世界の酸素濃度が許す限り。

 

 収納が可能な鋭いヒレをしまい、筋肉質だが平たい身体で地を這い、地上に獲物がいれば二十二対の脚で突き刺して喰らいつき、空に獲物がいればバネの如く飛び上がり、飛翔して巻き付いて落とす。

 

 これを確立した時、不意打ちや弱った時以外で私を襲えるのは、私の兄弟以外は居なくなった。

 共食い以外での外敵がいなくなったのだ。

 

 私達が増えていくと同時に、今度は植物たちの競争が始まった。

 セミたちに抑えられていた進化が始まったのだろう。

 もしセミの中から同族を食う肉食昆虫が派生しなければ、きっと白い植物は一度終わっていた。

 

 さて、この全体が白い植物が光合成をしていないのなら、海の中のサンゴや海藻以外には酸素が増える要素は殆ど無い。

 この白い植物達が間違っている訳では無い。

 植物は動物に酸素を供給する為に存在している訳では無いからだ。

 

 もし、植物が酸素を生み出さず、動物が絶滅するのを待っているとしたら、それはそれで正しい戦略ではある。

 しかし動物にとっては幸運なことに、恐らくこの星も海の方が大きく、海の中の海藻とサンゴが生み出す酸素量が辛うじて地上の酸素消費量を上回っている…ハズである。

 海の中で海藻やサンゴ食の生物が爆発的に増えたりしていなければそうなっていただろう。

 

 

 酸素が多くない事で、セミもまた大きさが限られる。

 脱皮の回数が多い私達程ではないが、酸素の供給量は大きさに影響が出て来る。

 このままでは、地上に生物が現れて大型化していった際には、それまでいた私達はセミと纏めて餌になってしまう。

 

 私はこれまで目を背けていた二つの事に、本気で取り込む事にした。

 一つは擬気管を使った呼吸方法からの脱却だった。

 エラ呼吸から擬似的な気管呼吸へと近付いた事で、地上適性を得た。

 何れは昆虫の気管や気門に近付くのかもしれない。

 そうなれば、現在のサイズにおいては効率的な呼吸は出来る。

 しかし、気管呼吸では脱皮の際に呼吸系諸共脱ぎ捨てる際に、脱皮の失敗に伴う死亡リスクが大きさを増す毎に高まる。

 だからこそ、まだ擬似肺でもあり擬似気管でもある構造の間に、大型化に適した呼吸系へと着陸する必要があった。

 

 これは非常に難しかった。

 ただ呼吸系が強くなれば正解という訳でもなく、変化の途中で一時的に非効率になる可能性もあったからだ。

 これに関しては、私は始めて進化の試行錯誤を手探りで行う事になった。

 

 肺が八個になった頃、問題は呼吸系ではなく脱皮の仕方である事だという結論になった。

 副産物で左右に二つずつある目の間に、更に目が出来たり、角に発光ガスを蓄えるようになったりした。

 思えば全身の脱皮を行う昆虫には大きさの制限はあったが、トカゲなどは部分毎に脱皮している。

 鳥の換羽と同じだ。

 外側については何枚も重なる殻毎に脱皮し、内側については更に細かく脱皮をしてそのまま吸収出来るプロセスが出来つつあった。

 

 

 

 後は、酸素濃度だった。

 私は私が生物として強大になる事だけに専念してきた。

 他の事、例えば環境保全などそういった無駄な事をしていたら、他の生物が進化で追い付き、食われる側になる。

 自分の成長を蔑ろにして、全体の幸福に時間と労力を使っても、全体は自分だけに寄与する事はなく、その間に自分の成長に専念したものに抜かれる。

 それはとても理解していた。

 

 だが、もはや地上に敵はいない。

 敵となるのは、何れ海から上がってくる怪物達だ。

 

 私は己の飛行能力をもって、川に生えている植物の種を他の大陸や離島にバラまく事にした。

 空から海を見下ろすと、時折キンギンポが元であったであろう巨大な生物が海面から見えた。

 全長は見えないが、長さはそれなりにありそうだった。

 低空を飛んでいた、地上から再び海に還る事を選んだ私の仲間が、水鉄砲で撃ち落とされて食われる様を見た。

 肺呼吸では無いのだろうから、適切な言葉ではないが、それにしても凄まじい肺活量だ。

 怪物の全身が筋肉である影響かもしれない。

 長く遠くまで飛ぶ水鉄砲に狙われない事を祈りながら空をなるべく高く飛んだ。

 この怪物が地上に進出して来たら、その時は私達は王座を奪われると理解した。

 

 何千年かかけて、私は世界の淡水に水中花の種を蒔いた。

 地上を蔑ろにする程の感覚だった。

 その過程で、飛翔能力が代を追う事に高まった。

 正しくは、そういった子供を選んで移り変わった。

 

 

 

 

 

 

 途中で驚くべきものを見た。

 とある離島に人間の集落があった。

 私はその様を観察していた。

 最初は怪物と恐れられたが、私が何もしないのを見ると、次第に護り神の様な扱いとなった。

 

 恐らく、いや間違いなくこの人間達の中には二人の私と同じ侵略的外来種(異世界転生者)がいた。

 男女二人の支配者であるペアが常に存在して、そのどちらかが死ぬと、新しい個体がそのペアに収まっており、それは片方が死ぬ時の遺言を、二人の子供かその親戚が言えるかどうかで決められていた。

 近親相姦が当たり前となっていたが、劣った個体はアルファ層(最上位)ペアとはならなかった。

 代わりに人間としては凄まじい数の子供を最上位ペアは産み続けていた。

 そして、その中で最も優れたものが次のペアに収まる形になっていた。

 それにより、近親相姦のデメリットは解消されていたのだろう。

 顕性と潜性のどちらにも、異常遺伝子が無い者同士を選択的に配合させれば、血が濃くても問題にはならない。

 所々黒ずんで汚れた紙をコピーする際に、印刷濃度を濃くして印刷を繰り返せば、その黒ずみがハッキリと濃くなる事は知っている。

 真っ白な紙をコピーする際に、幾ら印刷濃度を濃くしても染みや埃が挟まれない限りは、何度繰り返しても真っ白なままな事も知っている。

 印刷濃度を濃くしたコピーの繰り返しのたびに、黒ずみに修正液をかける事が出来るのなら、いつかは真白の紙を量産出来る。

 つまりは、そういう事だ。

 

 ある時、アルファの女が殺された。

 その瞬間をアルファの男は見ていなかった。

 そして、新たにアルファの女としての意識が転移した個体は監禁され、別の女の個体がアルファの男も知らない遺言を知っていると言って、取り入ろうとした事もあった。

 それは暫くしてバレた。

 偽りのアルファ女は処分された。

 

 数百年確認して、私は決断した。

 これは脅威となる。

 悪意とは賢さの証明でもある。

 生まれ変わるペアの二人こそ、どれだけ肉体が更新されようと優れた頭脳に置き換わってもそれを活かせてはいない。

 それでも恐らくは運が良かった。

 この辺りの海は遠浅で小さな生物しかおらず、淡水と人間が食べられる水草もある。

 そして、最初の二人だけでは未来の技術を形にする程の知識は無かったものの、少なくとも今の世界で生きていけるだけの能力があり、互いに性行為を許すだけの容姿ではあった。

 それだけだ。

 生き延びて子孫を紡げるというだけ。

 原子力や電子機器の再現が出来ないのは当然の事ながら、コンクリートや電気を発明したりも出来ない。

 彼ら自身は何も出来ないというままで止まっている。

 しかし、その子孫達は確実に優秀になっていっている。

 

 生物はより近しい種の中で優秀な者の外見的特徴を美しいと感じる。

 自分達の息子や娘の中で最も美しい者をペアとして選び続けた結果が、子孫達の方が思考スペックが高いという結果になった。

 最上位ペアは記憶の蓄積で何とかなっているだけで、最初の自分を越えられない。

 しかし、その子孫達は違う。

 より洗練されていく。

 

 つまり、いずれは元の人類の中でも上澄みであった者達に匹敵する遺伝子をもった集落が発展していくということ。

 それは、いつか世界の支配種族となるということ。

 私は支配に怯える側になるということ。

 

 私は戸惑う事なく人間達を滅ぼした。

 一人残らず、老人子供に至るまで、一切の乗り替わり先を潰すようにそれらを殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *現代の見識*

 

 嘗て我が国が王政であった時代において、時の王は移民問題が起きた時にこう言いました。「この国の国民として生まれたことが苦難であってはいけない。しかし、優秀でない者にとっては苦難でなくてはいけない」と。

 

 現代においては、結果として正しいとされるこの言葉ですが、当初は反乱を目論む他国と…一説には移民の最大の原産国であったスリーピーッグ共栄国群と連携した平等主義者が、扇動(アジテート)として悪しざまに民衆に広めたとされていますね。

 この際に移民と優秀ではないとされた自国民による反乱が起きて、それを貴族が討伐した事によって貴族が王に代わって実権を持ち、現在の貴族議会制に移行しました。

 

 この戦いで最も利益を得たのは、王でも民衆でも他国でもなければ貴族である事から、この革命の主導……、いえ、やめておきましょう。

 今のは忘れてもらって大丈夫です。ふふ。

 

 

 魔法技術革命がこの世界に巻き起こる前、我が国ではエルフと呼ばれる旧人類の集落遺跡を真似ることから、僅かな、しかし確実なアドバンテージを文明の基盤に持っていました。

 この技術アドバンテージによって、相対的に他国よりも魔法依存度が低かった事もあり、鎮圧には多大な犠牲が存在して、そしてその補填が十分でなかった事から、貴族達は王を隠居させて、象徴としてのみ飾る事となりました。

 

 旧人類の遺跡については研究が進んだ今でもよく分からない事が多く、何故この時代に人類の様な優れた生物が誕生していたのか、文字さえ開発されていたのに魔法を使った痕跡が無かったのか、『スマホホシイ』とは何なのか、何も分かっていません。

 前後の文脈からスマホが魔法の一種ではないか、という論を掲げる学者もいますけれど、それにしては魔力を使用した痕跡が無いのが不思議なところです。

 

 

 さて、文明と言えば魔力と石油ですね。

 石油については、爆弾を作るのに使用される事で、人類の発展に寄与した事は以前の講義でもやった事だと思います。

 結局は、莫大なエネルギーである代わりに小回りが悪い事で、魔法が発達した今ではあまり見ませんが、モンスター達を倒す際や、敵国を破壊する際にはよく使われています。

 

 さて、皆さんは石炭というものを知っているでしょうか。

 魔法よりも精密には使えず、石油よりもエネルギーとしては弱いものですが、一度火を付けると魔力を供給しなくてもその火を維持出来る可燃性の物質です。

 

 この世界で、もし菌類が繁栄する前に植物が繁栄していたとしたら。

 その植物が菌に分解されることなく重なり続けて土に埋まっていったら…。

 もしそうなっていたら、世界は石炭燃料による産業がそれなりに発展していたに違いありません。

 他にも多翅類の角に含まれていたキセノンガスについても発掘により…あら、また脱線してしまいました。

 

 

 

 

 

 さて、パーフェクトパラドックス(PP)としてはあまり知られていませんが、この頃海の中では現在の被子植物のウミショウブに似た海草が増えつつありました。

 ええ、海()ではなく海()です。

 この種類は、最初期は種子植物として海面に花を浮かべていましたが、現在にこの植物から派生した海草の殆どがまるで海藻の胞子のように、予め受粉済みの種子を海底に転がすようにばら撒きます。

 この事から、比較的早い段階で変化したものと見られていますが、変化して以降は爆発的に繁殖していき、それによって幾つかの海藻の種類が滅びました。

 また、同時期には同じくPPとして知名度の低い、梅花藻(バイカモ)に似た何らかの植物群が淡水と一部の汽水域で増えていました。

 この淡水植物群は完全な海水を越えられない事から、この頃には世界の大陸が一つであり、中央に巨大な湖があったと予測されています。

 厳密には、離島群にも存在していることから、飛行生物による拡散の可能性も捨てきれません。

 

 この大海草時代における地上への酸素供給とそれに付随する影響は凄まじく、地上外骨格生物の大型化が見られました。

 また、現代のバイカモはキンポウゲ属唯一の無毒草であるのと同様に、この時期に世界中に分散した淡水植物リヴァキュラスは無毒でした。

 捕食者が少なかった、またはいなかった事から、成長するのに無駄なエネルギーを使って毒を作る事よりも、ただ成長と繁殖にエネルギーを使った事が大きかったのでしょう。

 

 エルフ文明においては、このリヴァキュラスと海産物を主食としていた痕跡が残っています。

 ベイビーウマン博士によれば、エルフ文明は、一説にはハニーと呼ばれる正妻が死ぬたびに臣下の妻を奪い新たな己の正妻(ハニー)としたダーリン王への反乱によって滅びたとも、言われていますが、それについては今は置いておきましょう。

 

 

 

 エルフ文明が滅びた頃、このリヴァキュラスの光合成方式に革命的な変化が起きました。

 キノコやザットミア、又は乾藻が進出していない島などに於いて、リヴァキュラスが地上に進出したのです。

 流れに逆らって遡上する様に地下茎を伸ばす性質が、そのままハマヒルガオの様に海浜で繁栄する性質へと変化しました。

 この地上型リヴァキュラスはオリジャスキュラと呼ばれ、見た目こそハマヒルガオとバイカモの間のようですが、その光合成効率は現代の米やサトウキビに匹敵したか、それを超えていると言われています。

 勿論、当時と現代では大気の環境は異なるので、現代であれば米やサトウキビを超えている、ということはないでしょう。

 オリジャスキュラは滅びましたが、木となったアスキュラとして現在にも幾つかの離島で見られます。

 初期のオリジャスキュラはツタの様に絡み付く特性を持ちながら、他に木が存在しない事から地面を覆うだけでしたが、幾つかの株が次第に互いに絡み合って一つの木として支える形式になったと言われています。

 所謂木本となったアスキュラの仕組みから、酸素供給のバランスブレイカーの名残を見る事が出来ますよ。

 

 あら、そろそろ時間ですね。

 それでは次回は、聖樹ドリアスキュラと、ドリアスキュラを紋章にした貴族社会についてお話しましょう。

 

 

 ミニスカティック大学特別講師ワンコール・キットママン女史の講義:『文明と植物について、第十コマ目』から引用




結局本来のルートで人類誕生してる時点で…
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