田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話   作:大豆島そうめん

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クリプトビオシスという状態になれる生物がいる。
休眠中や卵の状態では、高温や低温、乾燥や圧力に対して高い耐性を持つ事が出来る。

代表的な生き物は、クマムシ、ネムリユスリカ、そしてホウネンエビだ。


ザ ポイント オブ ノーリターン(ここからでも入れる保険はありまーす)

 食べられる限りの人間を食い尽くし、食わずとも生きた人間は殺し尽くした後、私は新たな島へと飛翔していた。

 地上へと進出した水草を脚に挟み込みながら。

 

 飛行中に草の一部を食べたりしながら島に着いた私は、そこで土を耕して草を蒔いた。

 周囲の海産物を殺して食って、食べきれなかったものを肥料にした。

 そういった活動を続けて行くと、また人間がいた。

 

「ステータスオープン!!ステータスオープン!!これしか出来ない!? 意味分かんない!! ああ、クソ魔法だこれ!!あ”あ”ぁぁあ──────」

 

 普通にセミに食われていた。

 何か叫んでいたが、もうどうにもならないだろう。

 どうにかする能力がなくやって来た時点で詰みなのだ。

 少なくとも現代人が古代に一人で異世界転生したとして、文明まで作れるかと言えば間違いなく違う。

 例え魔法があったとしても、元の世界に魔法がないのに基礎理論すら確立出来ない。

 もし、異世界転生した途端にその世界にある魔法の基礎理論を感覚でマスター出来る程の人間なら、元の世界でも何でも感覚でマスター出来ていただろうし、何の苦労もしない転生前を送っていた事は間違いない。

 少なくとも、セミに食われている者はそうではなかった。

 私はそのセミごと人間を捕食した。

 

 実は地上には以前から人間の異世界転生者はいたのかもしれない。

 思い直せば、海の中にも一瞬だけ人間みたいな何かがいたかもしれない記憶もある。

 あの時は思い込みや勘違いや妄想だと切り捨てていたが、深海や土中やマグマの上などにランダムでポップアップしていたとすれば、適応もしていない水の中に枯れ木のように痩せ細った子供が現れた途端に沈んでいくということもあるだろう。

 そういう意味では、環境と生態に大きな離隔がなく、無性生殖が可能で、生命のサイクルが短く、大量の卵を産める私はとても恵まれていた。

 もし有性生殖のみの生物なら一匹の時点で詰んでいた。

 先程食べた人間も最初から一人だったのかは分からないが、それはもう関係のない話だ。

 人間として見るのなら、美しさとはかけ離れた容姿であったはずなので、最初から一人だったのかもしれないし、一人でなくても子孫を残せていなかったのかもしれない。

 

 私は記憶として人間の美醜を判別出来るが、本能として人間の美醜はもはや判断出来ない。

 これはきっとホウネンエビに生まれた時からそうだったのだろう。

 逆にエビやムカデの美醜は、本能的にある程度分かってしまえそうだ。

 

 

 私が最初に上陸していた大陸に戻ろうとしていた時だ。

 何か巨大な空気の震えがあった後に、大陸の火山が大きく噴火した。

 飛んできた噴石にぶつかり、焼けながら死んだ。

 

 

 前の島に残してきた卵から孵った子孫となって、再び大陸へ向けて飛んでいった私だが、またしても噴石に撃ち落とされて海へと墜落して死んだ。

 

 

 

 それを八回ほど繰り返して、私は元の大陸への復帰を諦めた。

 気が付けば海からも火山が噴火していた。

 

 

 

 

 

 私は暫く近くの離島から動かず生活する事にした。

 大きな川を遡上して逃げて来る生物を喰らいながら、地上の進出を妨害していた。

 この魚達が川から逃げるのには、川の環境が過酷になって来たことが理由だろう。

 

 魚達は草食のようで、魚達よりも先に地上に進出した藻を食べていた。

 今の私に草食の適性はない。

 以前に草を食べた時にしっかりと理解した。

 草だけを食べていたら餓死したからだ。

 

 しかし、地上に上がった魚が消化中の藻に関しては、私が消化することが出来た。

 完全肉食動物であるネコが、ネズミの胃の残留物を介して植物由来のビタミンなどを補給するのに似ているのかもしれない。

 

 

 私はひたすらに、川から地上に上がってきた生き物達を食べ続けるようになった。

 タニシみたいなものがいたので、掴んで上から落として割っていたが、次第に地面に吸着して抵抗を始めたので、普通に取り付いて齧った。

 

 硬く顎が欠ける事もあったが、そうなれば顎が再生出来ないまで壊れていれば食えずに死ぬので、その次にはより顎が硬い子供に乗り代われば良かった。

 

 その様に川から陸上に上がっては、私の餌となる生き物達が増えて来た。

 

 私が海のキンギンポから弱者として逃げたように、川の環境も弱者が逃げたくなる状況となっているに違いない。

 私はこの島でこそ、それを妨害しているが、この島以外でも同じ様な事が起きていても何の不思議でもない。

 そしてそこには生命の地上進出を憎む様に止める私はいないのだ。

 

 

 それでも私がこの島においては生命の地上への躍進を止めようとして川辺に近付くと、長く滑るものに巻き付かれて水に沈められて、挟む様に身体を圧し折られて死んだ。

 

 

 

 

 

 子供に乗り代わって私は状況を理解した。

 既にキンギンポは淡水に適応した種にも拡散している。

 

 元のキンギンポよりも薄っぺらくウエハースかバナナの皮のような平べったさではあったが、間違いはない。

 アレは私を追ってきた訳でもないだろうが、私を殺せる存在であった。

 水面に浮かぶ反物のような姿は、私にとっての新たな死の(カタチ)であった。

 

 

 

 

 幸いであったのは、とめどない大噴火により二酸化炭素経由での酸素が増え続けた事だった。

 大気の密度が明確に濃くなった。

 それまでは植物による光合成があっても、そもそもの世界に満ちる酸素そのものの量が少なかった。

 厳密には空気の量が軽かった。

 しかし、今は違う。

 明確に大気が濃い。

 他にも理由があるのかは分からないが、代を重ね時代を過ごすと共に飛翔能力が高まっていった。

 

 ここで私は己の身体を更に巨大化させていく方向で進化を続けた。

 翅と化したヒレの隙間から呼吸する、気管でも口呼吸でもないシステムにより、元々酸素が増えた世界を目指して当時は環境にそぐわない進化をしてきた私の方向性が、現在の環境に驚く程に一致した。

 これが環境が再び激変してしまえば後戻りが出来ない進化の袋小路に突入した事を示している事は理解していた。

 

 しかし、私にとっては進化の袋小路とは頂点捕食者でなくなる事に他ならない。

 私は絶滅に近付く事で私を生かす道を選んだ。

 

 

 

 

 

 …だが私には最後の切り札がある。

 私の卵は、孵化に不適切な環境の場合、休眠状態のままとてもとても長く生きられるということだ。

 滅ぼし尽くした人間とは違い、卵の一つでも残っていれば、その間に環境が揺り戻されれば…そんな希望があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *現代の見識*

 

 現代で最も多くの人を苦しめ、そして社会を発展させた魔法は『ステータス開示』だ。

 これが無ければ、学力さえあれば拾い上げて貰える学歴主義や、魔力さえあれば認められる魔力偏重主義などが生まれただろう。

 しかしこの魔法によって、生物として総合的に優秀かどうかが明確に測られる事となった。

 そうなってしまった。

 きっと学歴主義や魔力偏重主義の社会であったならば、その社会において拾い上げられない人々にも不満はあったのだろう。

 しかし彼等には、人間に必要なのはそれだけでないという言い訳が許された。

 ステータス開示社会においては、そんな事は許されない。

 

 生命はより優れた相手を求める。

 それは異性であれ集団であれそうだ。

 より美しい相手を、より強い相手を異性として選びたがるし、より優れた組織の一員に選ばれようとする。

 それは生命としての本能によるものだ。

 

 何故低待遇の職場を改善する者が現れにくいのか。

 それに残酷な事実を提供するとすれば、環境を改善出来る程の能力がある者は、最初から高待遇のところを選べるからに他ならない。

 やれる余裕があればやっている事をやれる者は、余裕がない場所を選ばない。

 

 そして能力が低い者を育ててやれば良いという意見もあるだろうが、同じコストを掛けて育てるのなら、より可能性が期待出来る方を育てる事を選ぶ。

 全ての才能に満ち溢れた者こそ、育て方次第で何にでもなれる種と言えるからだ。

 

 では、全員を育てれば良い。

 そのような結論を出すものもいるだろう。

 しかし資源は有限だ。

 国債を刷れば刷るほど通貨が市場に流れ、通貨一単位当たりの価値は薄まるのに似ている。

 株式を無限に発行すれば億万長者になれる訳でもない。

 それはただの紙切れだ。

 逆に市場の株式を回収すれば、株価そのものは上がる自社株買いというものもある。

 つまり、内側だけで完結するならば国内の幸せは有限だ。

 外から持ってくる事が出来なければ内側において完結する。

 

 では、どうすれば良いか?

 外から持ってくれば良い。

 外国を侵略して賠償金も貰うという方法もあれば、輸出で貿易黒字を生み出して、他国の資産の総量を薄め、その分自国の資産の総量を濃くする方法もある。

 

 

 そうすれば国内は誰も困らない。

 …古代にはこれと同じ事が起きた。

 今から二億年以上も前、凍った水と莫大な固体酸素で出来た惑星が衝突した。

 この星の引力が相手の星を取り込んだのだ。

 一つだけではない。

 まるで星が小さな星を喰らって成長するかのように、少しずつこの星は成長したともいえたのだ。

 

 勿論、その影響は凄まじく、大陸の形は変わり、自転は反転した上に以前よりも高速化して、多くの生き物が絶滅した。

 折角大地の変動により現れた大地の20%が海へと沈み、更には衝撃により大量の火山噴火を幾度となく誘発した。

 

 気温も一時的には30度、落ち着いてからも12〜15度は上昇した。

 この隕石群ザーコザーコに準えて、ここからの時代をザーコザーコビアンと呼ぶが、ザーコザーコビアンに於いては、タニシに酷似したPPが登場する。

 ウルサナイヤからひっくり返されたり、殻に穴を開けられて中身を溶かされたり削られて食われる事を避けるように、このタニシに似たPPタシシカクホーは巨大化と重甲化を進めていく。

 一部は殻を透明にする事でレンズとして目を進化させ、それにより高い知能を持ち森の賢者とも呼ばれるモリコロン族の先祖となった。

 頭索動物から進化した海底の高度知的生命体ナメーンと並ぶ非人類の知能とも称される高度生命体は、昆虫或いはそれに似た節足動物に強い忌避感を覚える性質を持っている。

 特にトンボの様な細長い飛行生物に対しては病的な恐怖を示して、レンズの色を黒くする事で身を隠そうとしたり、大きな目玉を投影して威嚇しようとする。

 これは古代において、モリコロンの先祖を多翅類が襲っていた記憶がそうさせるのかもしれない。

 

 

 

 

 現在の星は最も広大な大陸であるアトランティス大陸、そこに隣接するレムリア大陸が、現在の人類が住まう離島群とは対極の位置にあるのだが、様々な事情により人類は離島群に監禁された状態にある。

 外海には外海の危険があり、そしてその先の大陸には人類が知る由もない、もしかすれば離島群においては絶滅したとされる生命達が更なる進化をもってそこにいるのかもしれない。

 

 人類は離島群という殻の中で己達を守り続けて来た。

 いずれはその限界が来るのかも知らない。

 来ないのかも知れない。

 それは未来の歴史学者以外は分からない。

 

 一つ言える事があるとすれば、円の内側の有限を超えて新たなる円の際まで無限を探す時、我々は常に己に問い続けなければならない。

 己は喰らう大星なのか、それとも喰われる小星なのかを。

 

 ユニバーサル士官大学教授リュック・ジャンクロード博士著:『有限経済基礎理論と競争社会』から引用




聖歴1919年11月4日5時14分 ユニバーサル士官学校中央校

「緊急放送、緊急放送。これは訓練ではない。
戦闘可能な教授、特A以上の院生及び封印魔法使用資格を保持する全ての者は速やかにアイビー棟地下三階の古技兵研C室に急行せよ。尚、この放送を含み以降全ての関係事項は特別軍事秘密とする。対象外の者は可能な限り遠くへ避難せよ。繰り返す──────
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