田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話   作:大豆島そうめん

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恐れる事を恐がるな。
勇者とは何時だって、怪物を恐れながらも挑むものだ。
怪物を恐れさせようとしてしまえばそれは────怪物を超えた怪物だ。


怪物を恐れさせるものは怪物でなければならない

 私が最初の大陸に戻った時、地形は余りにも大きく変化していた。

 それは星規模であれだけの地震が何度も起こればそうなるだろうという結果だった。

 最初の大陸に戻る前に一度世界を一周した。

 途中で何度か死んだものの、途中途中で子孫を残しながらの旅だから問題は無かった。

 

 私の記憶にある島国を幾つか足しては細切れにして、その周りを途切れ途切れの円で囲んだ様な離島群。

 幾つも丘が海に乱立した様にも見える。

 

 

 そこからは更に飛んだ先には、あまりの高低差に幾つもの塔が海に乱立した様な大陸が続き、また離島を含む海を越えて、───そして当初の大陸に着いた。

 

 

 

 久し振りの大陸はモノクロームではなく、モノクロームとフルカラーが歪に混じった様な場所だった。

 青い草、赤い草、緑の草、黒い草が増えて、白い草木は相変わらず生えている。

 

 この大陸に来る前にいた別の大陸は上から格子を押し付けて切られたゼリーか、ペンシルタワーの群雄割拠といった様相だったが、ここは見渡す限りの平地。

 それは高々度の上空から見ても同じだった。

 この身体はまだやり直してからそこまで大きくなっていなかったが、私は取り敢えず卵を産んでから散策飛行をする事にした。

 

 

 湖や湿地も多く、植物も多い。

 白と緑の巨大な森もある。

 象のようなセミや、小さな哺乳類といった餌も豊富にある。

 湖には、これまた私やキンギンポのような侵略的外来種(異世界転生者)なのだろうイルカも跳ねていた。

 この時代に淡水イルカがいてたまるかといった文句は、少なくとも数億年前からそれを体現している私には言えないのだろう。

 

 岩を動かせば脚元にはオンブバッタの様に重なったまま動く翅だけが大きなスズムシの様な昆虫が蠢いている。

 これが同じバッタ目のイナゴやサバクトビバッタだったら、千年と経たずに草木は失われていただろう。

 鳥も見ない時代でそれは、余りにもオーバースペック過ぎる。

 

 

 私は的としてはあまりにも大きなスズムシ(仮)翅に脚を突き刺して、腹を満たした。

 ──そこで視界が反転した。

 私の身体を、絹のように平たいあの怪物が圧し折っていた。

 淡水に適応したあの化け物は、この時代にも生き残っていた。

 

 私の意識は、この大陸に帰って最初に卵を産んだ場所からやり直しになった。

 

 

 

 状況から考えを纏める。

 食べるのには丁度よいサイズであるイルカが絶滅していないのは、この世界に現れたばかりかそれともイルカはそれなりに例の一反木綿に対抗出来ているのかということだ。

 後者であるとすれば、私に足りなかったのは速さと重さ。

 この大陸に来る少し前に死んだ事で、サイズが大きくなりきる前に来た事が敗因である可能性を否定出来ない。

 

 私は、あの一反木綿であれば、現状の成長限界までいけば勝てる見込みを持っていた。

 始めてあの化け物に遭った時とは違い、私の顎は更に変化して、砕くというよりは引き裂くのに適した形状となっている。

 それもあの淡水キンギンポに対抗する為。

 

 身を隠して他の獲物を襲い、脱皮を繰り返し成長した。

 そして、ある程度の大きさになってから──少なくとも前回殺された時よりは二倍以上の大きさになってから、私は反撃に出ることにした。

 

 飛翔して宿敵を探す。

 泥地にその姿を見つけた。

 つい一ヶ月程前に私の産んだ卵から孵ったであろう個体を襲っている。

 

 別に私には子孫を守るような愛情はない。

 ただ、こう思っただけだ。

 

 

 ────隙だらけだ、と。

 

 

 

 

 

 布を裂くように顎を振り回し、私は体液を浴びながら歓喜した。

 この戦いにおいては、勝利したと。

 

 

 事実として、その平たいキンギンポは動かなくなった。

 

 

 だが、未だ駄目なのだ。

 五十程の脱皮までようやく生き残った個体でなければ倒せないというのでは、実効性は低い。

 戦闘生命体として、まだ私は高みにいない。

 

 殺していけばいつか分かる。

 殺されるまで殺して、殺されてやり直して殺して、そうやっていけばいつか分かると思いたかった。

 ここでチャンスを確かなものに出来なければ、また逃げるしか無くなる。

 

 海を追われ、この大陸を追われたら、次はいったい何処へ逃げれば良い。

 その答えは追われ続けるうちに、何れ無くなって消え果てる。

 

 襲って殺して食い荒らしているうちに、私がこの大陸に来て最初の方に遭った平らな怪物は、大きい方であった為に、種の平均としてはそれよりも小さかった事は分かった。

 だが、二十回程の脱皮を終えていなければ、成長した化け物を殺すには届かない。

 せっかく脱皮(成長)した回数を保存する方法があれば良かったのだが、それは中々見つからない。

 

 私は再び試行錯誤を続けた。

 神ならぬ身では、正解など分からない。

 どうやって行き着いたのか分からない程にぐちゃぐちゃに進んで、後戻りも出来なくなって、それで生き残れれば正解だと言えるし、そうでないなら滅ぶだけだ。

 

 

 

 体液の改良、筋肉の改良、クチクラの改良。

 成分に重点をおいて乗り代わる子供を選ぶ。

 

 今回はとても長生きをしたので、何度も産卵しており選ぶ子孫も多い。

 死生のサイクルは長かったが、それでも産卵のサイクルを長くはしなかった。

 大型化するにつれて、産卵のサイクルが長引く様になってきたり、産む卵の数が減って来たりはしている事は自覚しているが、その中でも少しでもそうなっていない個体へと乗り替わりを繰り返している。

 

 

 そうやって二千年程繰り返し、私は遂に以前よりも高い戦闘性能を得た。

 その代償は高くなった代謝だ。

 食べる量を二千年前よりも遥かに多く必要とした。

 

 数回までの脱皮の間、具体的には単為生殖可能になるまでの間では、卵の様に休眠出来るようにもなった。

 こちらに関しては、あって助かるものだが、無いといけない程のものでもない。

 

 

 こうなると、あの離島群に行くことも難しくなる。

 途中途中で休憩を挟めば行けなくはないとは思うが、途中で餌を食べないと餓死する可能性が高いのだ。

 死んだ所で生まれ直せば良いのだが、それはそれだ。

 

 つまり、私はこの大陸から出る事が難しくなってしまった。

 この大陸の頂点捕食者でなければ、存在意義を失ってしまう。

 

 

 

 三メートル程度の極細のイトトンボを口に食みながら、狂った様に平たい化け物を探す。

 いや、もう私はあの化け物達に狂っていたのだ。

 ずっと前から、ずっとずーっと前から。

 

 そうやって怯える己を支える為に、恐れる己に怒るように、これまでずっと生きて来た。

 ある意味ではもうとっくに負けていたのだ。

 これ程までに執着しなければならない時点で、私はとっくに壊されていた。

 

 

 あの化け物だって、私に食われるのが当たり前。

 そうならなければならない。

 全ての生命は私に怯え、私は誰にも怯えない。

 そうならなければならない。

 それでは────まるで怪物ではないか。

 

 

 

 ああ、そうだ。

 そうだった。

 数億年前、私がホウネンエビとしてこの世界に生命を授かり、悪を知らない澄んだ海に弱肉強食の墨汁を垂らした時から、私はとっくに────怪物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖歴1919年11月4日5時14分 ユニバーサル士官学校中央校

 

「どうしたっ!? ケービィンの実験室の生体兵器でも暴れているのか? いったいどいつだ。アグロスティクティスか、それともギガンツェラか!?」

 

 白衣──の下に魔力アンプルと分解魔法炸裂球をぶら下げ、旋錐魔力発射具(軍隊用の魔法の杖)HAchiQアサルトライフルを背負った無精髭の男が走りながら友人に問い掛けた。

 

「それならまだ良かったよゴールドローン。

良いニュースはそいつらじゃないって事だ」

 

 ゴールドローン博士に奪われそうになる煙草を死守しつつタイルを叩くような音で走る男アーマルド博士、彼もまた武装しており、白衣ではなく軍服を着ていた。

 表彰バッジの代わりに魔力アンプルやその他の武装が着けてある。

 中には引火性のものもあるが、口元の煙草に近付けたライターをしまう様子もない。

 

「へえ、じゃあ悪いニュースは何だ? 遂にキャメロンに三下り半を叩きつけられたのか?

それだったらワインを奢ってやるよ」

 

「それでワイン一本貰えるのなら、ダースでくれ。──────復活したのはディアボロキアンの頂点捕食者だ」

 

 ようやくタバコに火を着けたアーマルドに、ゴールドローンは「おいおいウソだろ。確かそれって────」と呆れた様に大袈裟に空を仰ぐ。

 

 突如、彼らの通り過ぎた通路の側面が吹き飛んだ。

 砂煙の向こうに確実に何かがいる。

 細長く、鋭く、そして何より恐ろしいそれは、確認するまでも無い。

 

 

 二人は振り返って同時に叫んだ。

 

「「怪物にとっての怪物(アルテマリス モンストルム モンストルム)」」

 

 予め閃光と轟音を発する術式を刻まれた教授用のボールペンを背後に投げながら、二人は突き当たりで直角になった通路へと飛び込んだ。




 単為生殖で卵を産む一歩前の脱皮までは、丸めた体の周りに固まる粘液をかけて疑似卵として休眠可能。
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