田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話 作:大豆島そうめん
凡そ一億年はそれなりに長かった。
ダイヤモンドに似た虹色、それでいてマグマの熱に対しても耐えられる程の耐性を持つ輝く殻、捕食した生物のATPエネルギーを直接取り込む仕組み、重厚な身体を飛翔させる為の、脳を介さず翅に直結した魔力補助器官。
魔法のある世界でしか許されない生物へと成り果てる事が出来た。
最大の欠点として、一定以上の魔力を溜め込まないと、孵化も成長も産卵も出来ないということだ。
魔力の流れとやらは私には分からないので、これは結果的にそうであろうという経験則だが、恐らくは間違いない。
私が元々魔法使いであれば、最初に目指す完成図があって、それを目指して作れたのかもしれない。
しかし、私は元々魔法使いではなかった。
だからこそ、完成図など分からなかった。
だがそれも、一億年間という時間によって、最高とは言えなくても、嘗ての私が満足出来る性能には辿り着けた。
いや、辿り着いたところで満足したというのが正しい。
魔力が世界から無くなってしまえば、若しくは極めて薄くなってしまえば、そこでこの種族は終わってしまう。
ただ、私達の種にはとても強力な休眠状態があるので、その間に溜め込めば良いし、そもそも、魔法が前提の種が滅びたら分岐前の種まで戻って乗り代われば良い。
それ程まで大きく遡って分かれた子孫に乗り代わった事が無いが、何とかなるのではないかと思う。
これは、私という固有の精神が分岐した一つの種が滅びても、他の分岐でも存続出来るからこその在り方でもある。
そうでなければ余りにも袋小路な進化であった。
ただ、そんな袋小路への進み方も楽では無かった。
私という精神には魔力の概念がなく、それを体感で理解する事は出来ず、魔力を保有する肉体を動かす事が出来るだけだった。
私という精神の本質が魔力についての認識を拒む以上、魔法により強化した
カレーという食べ物を知らぬ者が、カレーという言葉だけを聞いて料理を作り続けるようなものだった。
毎回毎回作り直しと試行錯誤の繰り返し。
作る最中にはそれが上手くいっているかどうかは分からない。
子供の動きを見て、それが出来ているかどうかを確認するだけだ。
子供がそれを出来るようになっていれば、その器に乗り替われば私も出来るようになる。
銃の仕組みや作り方が分からなくても、引き金を引けば弾が撃たれる事を知っているのに近いだろう。
何なら私が産卵まで行き着くよりも、姉妹達の産卵の方が早い事も多く、姉妹達が産んだ卵から次の乗り替わり先を選ぶ事だってそれなりにあった。
私は魔力を理解しない私の主観で生きていたが、姉妹達は魔力を前提とした世界に本能を持って生きていたのだから、魔力の集め方については私よりも効率が良いのは当然かも知れなかった。
嘗て人間の集落を滅ぼしていた時、本来備わっている地頭的な部分は統率しているペアを超えていたのを思い出す。
人間達の場合は、統率者達はあくまで膨大な経験でカバー出来ていただけで、不出来な
私は種を統率などしていないが同じ事だった。
私達の場合は頭脳の性能ではなく、本能の洗練度であったが大した差はない。
既にこの世界で生きていくにあたっての最適解については、私の意識よりも種族としての本能が近付いた。
私は進化の選択者として主導的に生きて行く事は難しくなってしまった。
私が乗り代わる前よりも後の方が、生命としての優秀さは遠ざかってしまう。
つまり知能が必要な状況を除けば、私が乗り変わらない個体の方が次の子孫を残すのに向いていた。
毎回毎回、子孫の中で最高の個体を乗り替わり先として与えられては、魔力を本能的に理解しない意識故に、器を与えられた途端にトップから転落して他の個体に負けてしまうのだ。
何なら種族が頭脳ではなく本能で行動してくれている事に助けられている。
私では子供達に魔力が何たるかを教える事も出来ない。
勿論、これは魔力という観点に絞っての話なので、知能がアドバンテージに働く機会というのは十分にある。
これまでだって、私の意識によるマニュアル操作よりも、本能による兄弟姉妹達のオートマティック操作の方が効率的に身体を動かせていたにも関わらず、その中で最も生存率が高かったのは基本的に私だったのだから。
千五百グラム近い
…少なくとも現時点では。
遂に恐竜が巨大化していく時代となった。
それは世界全体において、ある種の生物の理想形というか進むべき方向性が見えて来たという事なのだろう。
膨大な
そう、そしてその生命たちは、私に怯え、私を恐れ、私に苦しみ、私から逃げて、私に食われる為に存在している。
私の脚に貫かれて痙攣しているのは、丸々と太ったカラフルなスズメ。
しかし、これはあのティラノサウルスの子孫だ。
ティラノサウルスを餌の一つとして、ずっと狩り続けて来た私は見ていたから、自信を持って言える。
ティラノサウルスは多くの派生を得た。
本来は頂点捕食者としての方向性への派生に集中していたハズだとは思う。
それは、私がいなかった場合の話だ。
私達という種族がいなかった場合の話だ。
私達という種族という言い方も億劫になって来た。
ホウネンエビ派生の生物としてホネセーと自称して来たが、もはやホウネンエビから程遠いところまで来てしまった頃から、ホネセーというのも不適当かと思い始めてきた。
意識的にはホウネンエビの一種なのだが、より適切な名前が必要だ。
幸い名前は付けやすい。
強い虹色を放つダイヤの様な殻。
マグマに沈めば熱や呼吸系に詰まったりで中身は駄目になるが、殻自体は無事という圧倒的な耐性は生物として完全なオーバースペック。
これ程までに分かりやすい特徴もなかった。
虹色から名前をとって、
仮に私が後に発生する人間の祖先を討ち漏らしてしまった際に、彼等にどう名前を付けられるかは分からない。
しかしそれはどうでも良い。
同じ言葉が誕生するとは限らないし、発声器官も異なる。
そもそもコミュニケーションを取る必要がないからだ。
何せ理想は私達に成り代わって頂点捕食者たろうとする種族など、ただの一種も生かしておく気は無いからだ。
「蝟ー縺※?雰騾?※£繧(敵 喰う 逃げる)」
「騾?£繧(逃げる)」
だから、取り敢えずティラノサウルス派生で前屈二足歩行をしている小型生物の群れがこちらを見て鳴き合っている状況は無視する事なく、既に満腹ではあったが無意味に襲った。
何らかの知性をもった生命が現れつつある以上、その全てを絶滅させる事で防ぐというのは難しい。
何れは生き延びたもの達が何らかの文明を築く日もあるだろう。
だが私にはそれを少しでも先に遠ざける義務がある。
その義務を果たす事で、仲間の繁栄を延長して、それによって打開出来る進化を得られる可能性もあるからだ。
魔力が当たり前の世界における優等生として進んで行く子供達の為に私が出来ること、それはこの世界の他の競争相手の進みを徹底的に邪魔する事だけなのだから。
これが、私の──────
*現代の見識*
自然発生式魔法生物(変生E型)
これが何だか当然分かるよね。
そうだ、これまでの授業を聞いてきた諸君なら、これが何か直ぐに分かるハズだ。
その代表例は、このカテゴリーにおける最古の存在であるアルテマモンスターに他ならない。
近年では、存在しない生命を作り出す人造創生式魔法生物という新技術に各国の軍は力を入れているが、やはりこれまでの星の長い歴史が作り出した生命を作り変えるというのは失敗は少ない。
変生A(既存の存在に能力を付与する)
変生B(既存の物質を置換する)
変生C(既存の構造を変質する)
変生D(既存の構築を変形する)
変生E(変生A〜Dの複合、又はその何れにも含まれないもの。例:融合、非物質化など)
幾つかの分類の自然発生式魔法生物がいるが、僕の傑作である『
僕の、この僕の手で国に最高の生物兵器を納める。
何よりもそんな愛国心から国立の士官学校で勤務することになったんだ。
一人の研究者としては、当然万全の状態で動くアルテマモンスターを知りたいという探究心はある。
だが、制御出来ない怪物を解放してしまうというのは、この国に甚大な影響を及ぼす事が容易に想像できてしまう。
故にそれは出来ない。
そうだろう? 諸君。
アルテマモンスターの化石は深い地層から極稀に見付かるが、とても価値の高いものだ。内側に魔力を乱反射する立方晶ジルコニアの殻は、マグマの二倍以上の温度に耐えられる。
これも覚えているね。
交差するように上下にそれぞれの四翼を持つエクスワイバーンは、嘗ては漆黒の国では上級騎士が騎乗する為に飼育していたが、まあうちの国が向こうの国と戦争して滅ぼしてからは、完全に野生化して最近は増え過ぎて来た。
前提としてウチの国以外が魔法生物を軍用に使うってのは、ウチの国では違法だからね。
そもそもウチの国以外が武力を持つ事も違法だからねぇ。
ああそうだ、アルテマモンスターの話だったねぇ。
一度ギガミミキュア(細胞の一部に擬態して寄生する即席回復薬の代わりに使える人造創生式魔法生物ミミキュアの亜種で、触れた相手そのものに擬態する)でアルテマモンスターの卵を擬態させたら、比較的安全に生態を確認出来るのではという意見もあったが、魔力を遮断することで休眠しているアルテマモンスターの卵に魔法生物を近付けるとはあり得ないという意見が多数派で、結局は無くなった。
僕がどちらの意見だったかについては、黙秘とさせて頂こう。
ただ、僕の立案としてトゥーホッグ方面がきな臭い事もあり、破壊されたアルテマモンスターの卵と大量のギガミミキュアを敵地に空爆する計画は、有事の際の最終攻撃計画の一つとして認められた。
あー、これは特別軍事秘密だよ。
ギガミミキュアは参考元と材料さえあれば、それに近しい外見の生物になる事は出来る。
材料が無ければ無いで、それなりの間に合わせも作る事も出来る。
勿論、再現度はなんちゃっての域を超えないが、なんちゃってアルテマモンスターというのでも、それなりにはなると思っている。
…勿論、現在はその研究も凍結中だ。
倫理を投げ捨てて魔科学を追求するなんて、そんな非人道的な事はやらないさ。
ん? どうしたんだいトレマーくん。
半分が欠けたアルテマモンスターの卵に、普通のミミキュアを使ったらどうなるかだって?
つまり、魔法生物の魔力で目覚めるべきオリジナルのアルテマモンスターの卵の欠けた部分をミミキュアで補えばどうかという質問だね?
実に良い質問だ。
君にはマッドサイエンティストになれる資格があるよ。
だが、“僕が考えた最強生物大作戦”なんてものは、往々にして既に何処かで誰かがやろうとして、失敗したものなんだ。
完全なアルテマモンスターはもっと強く、もっと美しく、そして何よりも極上の知性を持っている可能性がある。
遥か古代に明確な知性を持って行動したとしか考えられないアルテマモンスターの痕跡がある訳だ。
無論、それは偶然かもしれないが!! 僕はそうではないと考えている!!
明確な意図の元に、アルテマリアがアルテマモンスターに至るまで、アルテマモンスターになってからも、障害となる存在を排除して来た形跡がある!!
もはや強さなど些事だ。
その知性にこそ僕は惹かれた。
極一部の個体に限られた話だったかも知れない。
だが、僕はその個体がいたとすれば隅々まで知り尽くしたい。
ただのアルテマモンスターではない!!
究極に特別なアルテマモンスターを、僕は知りたい!!
ああ、熱くなり過ぎた。
アルテマモンスターの卵をミミキュアで補えば、という話だったね。
そんな事をしたところで、
近年キャメロン博士によって開発された超高圧爆炎魔法については知っているかな?
爆炎反射結界で内側を覆って、中で爆発させる魔法だよ。
単純な魔法反射結界であったら、そもそも外側から魔法を投射出来ないが、ガラスと鏡の様に透過と反射を一方向に制御して、対象を爆炎に限定する事で、肉体の半分もミミキュアに依存したアルテマモンスターなら倒せるハズだよ。
もしそれが真の卵でなく成長後の疑似卵であっても同じ事さ。
実績は…………うん、存在しないから何とも言えないね。
どうしたんだいトレマーくん。
次の質問かい?
君の質問は面白い。
実に良い着眼だ。
卒業後は私の助手になり給え。
で、質問は何かな?
それはもしかして僕がそれを試したかだって?
…………ははははは、面白い冗談だ。
僕は何時だってこの国の魔科学の発展を願う平和主義者さ。
そう。
僕は愛国心溢れる善良な科学者だからね。
ユニバーサル士官大学教授ケービィン・ハムタロッサ博士の講義『古代生物と軍用魔法生物の研究』から引用
(注釈:ケービィン博士はハムタロッサ公爵家の嫡男であり、本来なら公爵子と呼ぶべきであるが、本人の強い強い希望で博士と記載させて頂く)
前話の後半パートで地下の高圧爆発で死亡する直前に産卵を選択していたアルテマモンスターの卵は、爆発をクリプトビオシス休眠で耐え切り、孵った幼体達は魔力の発電所に惹かれて集まろうと蠢き始めた所で爆破処理されました。
生まれたばかりだったので、何とかなりました。
割と大問題になりましたが、責任者がとーってもとーっても偉い貴族だったので不問となりました。
仕方ないね。
主人公:汎用OS
賢い。
その他のイーリス:専用OS
動作が早い。専用機能を使える。