田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話   作:大豆島そうめん

8 / 12
栄養素の面から見る最も効率的な食材

 イザナギとイザナミの在り方は理想と言える。

 彼等は進化の在るべきを示している。

 千人が死に、千五百人が生まれる。

 今を生きていく事が出来ない千人を捨てて、明日も生きていける千五百組の夫婦を賛美する。

 今から殺される弱者を守るのではなく、それを見捨てて強者の血縁である生命を生み出すとは実に合理的だ。 

 

 

 

 

 私に欠けているものがある。

 私はそれを理解している。

 そして私にはもう理解出来ない。

 

 それは、『退屈』だった。

 楽しみはある。

 喜びはある。

 探究心や好奇心もあった。

 しかし退屈の感情だけは欠けていた。

 これ程にまで長い意識を保ちながら、それそのものを苦痛に感じる事がない。

 それはただの呪いではなく祝福でもあった。

 私の恐怖は頂点捕食者の座から追い落とされる事だけだ。

 死ぬ事すら恐怖ではない。

 それも当然だ。

 例え死のうと連続的に意識は続いている。

 

 人間からすれば永遠に近い時を生きたとしても、私は退屈によって壊されないし、退屈によって壊れる事は出来ない。

 

 恐らくその最大の理由は、私の意識が脳に依存しない事にある。

 長く生きる事に苦しむ為には、肉体に意識が合致している必要がある。

 私はこのイーリスという私ではなく、ホウネンエビから長く子孫に宿り続ける『私』なのだ。

 

 もし不老不死に苦しめる者がいたら、きっと私は少しだけ羨ましく思うに違いない。

 

 

 

 

 この世界の恐竜も随分と大型化してきた。

 そのメリットは明確だ。

 一つは大きければイーリスの顎や脚、そして尾を刺されても、即死となる事は無い。

 身体が大きいというのは、それだけで小さなものからの攻撃に長く耐えられる。

 そして次に踏み潰しや長い首による重さを持った殴打は、イーリスを捻じ曲げて殺す事が出来る。

 

 イーリスの殻を破壊する事は難しいが、その中身を圧し折る事は超重量の生物なら難しくはないのだ。

 イーリスは強力な生物だ。

 だが、決して完全無敵の怪獣ではない。

 完全無敵の怪獣なんて存在は、空想の中にさえいないのだ。

 

 

 

 

 

 とても巨大な樹が幾つもある。

 この樹は私達にとっても重要だ。

 私が地上に上がった頃には地面に潜ることを無駄として捨て去っていたセミ達の一部が、再び潜っては根に齧り付くようになった樹だ。

 再び潜るようになった理由は、私達から逃れるという意味も大きく、地上に出る事なく一生を終えるセミも多いが、それはそれだ。

 地上に上がらなくなったセミの種類というのは、特に興味もない。

 幼虫として巨大な樹の根に吸い付き、成虫になっては樹の幹に吸い付くその様こそが、セミがセミらしく、そしてやはりセミがアブラムシの仲間である事を感じさせてくれる。

 

 私達はこのとても背が高い樹を重要だと考える様になった。

 かつての水草がよくもここまで大きく成長したといえるが、別にそういう程の感慨はない。

 

 単純な事だ。

 超巨大な爬虫類の腹を満たせる大きさの植物として、最適なものがコレだからだ。

 この巨大な樹を餌とするものが、私達の餌の餌(・・・)となる。

 

 

 

 

 ここ最近、恐らく千万年以上は恐竜を主な食事として来た。

 そして、私の種族(イーリス)も増えて来た。

 だが、その増殖も頭打ちになりつつある。

 その原因も、これだけの時間をかければ理解出来ている。

 必要な栄養素が足りないのだ。

 イーリスを構成する為に、必要な栄養素が足りていない。

 特に最近はイーリスも分化して、今の私のような大型のイーリスが増えて来た。

 大きくなればその分だけ、必要な栄養素は多くなる。

 特殊な栄養素が必要な肉体にとっては尚の事だ。

 クチクラでもタンパクでもない肉体を構成する貴重な資源は中々確保出来ない。

 その確保に時間をかける事も、少なくとも短期的には非効率的だ。

 

 私の様な大型のイーリスにとって、イーリスを構成する為に必要な全ての栄養素を十分に持った餌の確保は、そろそろ絶対に必要な命題となった。

 

 私は私の血族を愛している。

 しかしそれは、血族の各個体に対しての愛ではなく、これまでの血族全てに対する愛だ。

 だから、私にとっての優先順位は何時だって“より可能性の高い私達”だ。

 

 前世においてもそうだった。

 オニヤンマの主食は小型のトンボ。

 チンパンジーの主食は小型のサル。

 スズメバチの主食はミツバチだ。

 

 私は、小型のイーリスを餌にすることにした。

 未だ、他の大型イーリスにおいても、優先的に小型イーリスを食らう事は本能となってはいない。

 この瞬間においては、私は最も栄養状態に富んだ大型イーリスとなった。

 

 巨大な樹に寄ってくる恐竜を小型イーリスが喰らい、私がそれを喰らう。

 素晴らしい流れであった。

 

 大型イーリスの中でも特に大型となった私は、多くの卵を産む事が出来た。

 そして、成虫になったばかりの我が子達が仕留めた小型イーリスの半分程を奪って生きる事にした。

 我が子達でそれに逆らうものはそういなかった。

 

 心配な事はある。

 それは今更ではあるが、私の餌もイーリスである事だ。

 小型イーリスを介して大型イーリスが存在するということは、小型イーリスが大型イーリスの生態系ボトルネックになるということでもある。

 つまり、小型イーリスが滅びた時点で、小型イーリスも大型イーリスもいなくなるのだ。

 それと、小型イーリスの抑制により、小型イーリスの餌である恐竜達の数が抑制されにくくなる事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 思えば、恐竜達はこの時を待っていたのかもしれない。

 いや、私と違って恐竜という存在には、種族単位での意思はない。

 だが、結果として見るのならばそれに近い現象が起きていた。

 

 驚いた。

 本当に驚いた。

 肉食竜や草食竜など様々な恐竜が存在する中に、幾つかの種族を連帯させる薄っすらとした社会が存在しつつある。

 その理由はたった一つしかない。

 私達だ。

 

 私達イーリスに唯一対抗する為に、超重量の大型草食竜を育てる事は一部の恐竜達の共通目的になっており、その草食竜も草食竜としては不必要な攻撃性を有している。

 大型イーリスも小型イーリスも恐竜を食べる。

 恐竜はイーリスに対抗する為だけに、ある種の連帯を作り始めていた。

 

 

 

 まさかだった。

 どちらかといえば、ラプトルや翼竜、そしてティラノサウルスから派生しつつある“知性ある竜”に警戒をしていたのだが、まさか雑多の草食恐竜がグループとして私達を敵とするとは思わなかった。

 

 海からあの魚の成れの果てが上陸する事、人類が文明を築く事、酸素濃度が減少すること、魔力の素となる濃度が減少すること、肉体を構成する資源が枯渇すること。

 私の脅威になるのはそれくらいだと思っていた。

 特に酸素や魔素とでもいうべきものの濃度は、進化の袋小路に自ら駆け込んだ私の子孫には苦しいものだ。

 

 氷河期が到来して植物が減少したら、きっと休眠か死しかなくなる。

 魔法による生体改造によって、原種よりも卵の数も減って成長も遅くなってしまったイーリスには、星の変化による仕方ない終わりしかないかと思っていた。

 そう思っていたのだが…。

 何だろう、本当に不思議だ。

 不思議な感覚だ。

 

 勝てないキンギンポに立ち向かう時はあれ程までに苦しかったのに、勝てる恐竜達が立ち向かってくる事には少しの楽しさを覚えている。

 

 それは、こちらの安全がそれなりに担保されているからだ。

 何より勝てない相手であり、倒さなければならない相手という苦手意識が無い。

 それに関しては寧ろ相手の側にあるのだろう。

 

 虐げられたものは優しくなるなんて言葉があるがとんでもない。

 虐げられたものは、虐げるメリットと虐げられるデメリットを眼前に知ったのだ。

 虐げる機会があれば、それを喜ぶのは極めて合理的といえる。

 

 

 他のイーリス達は巨竜に纏わりつく様に群れで襲い掛かっている。

 まるで戦艦に突撃する特攻機のようだ。

 …これはこれで望ましい在り方だ。

 巨竜を倒す為に群れという在り方を手にする基盤となり得る。

 一匹では勝てないというのは、それはそれで発展を生み出してくれる。

 そんな考え方は嘗ては持つ事は無かった。

 キンギンポの時は焦りと恐怖とばかりが埋め尽くしていた。

 我々が何かの餌になるのではなく、我々にとって全てのものが餌になるのでなければならないと。

 我々が餌ではなく、脅威として排除されようとしているというのは、嘗ての焦りとはうってかわって、余裕を与えてくれていた。

 

 

 では、私は私の仕事をしなければならない。

 私は私の知る物理法則において不可思議でないものを集中して殺した。

 食べる為ではなく、殺さないものを残す為に殺した。

 私達の強さに追い付いて来れる生き物を、強さを魔法に依存する生き物に絞って行く。

 それ以外の選択肢を作らせないように誘導する。

 

 そうすれば、この世界から魔素が薄くなる時に強さを失うのは私達だけではなくなる。

 だが私一匹がやったところで、私より最適化されている私の子供であるイーリスが行う生命活動と比べれば大した事はない。

 

 

 

 これらを更に効果的にする方法は二つ。

 一つは知性がある生命集団に魔法を持たせてそれに依存させた文明を作らせて、私達の敵となる者達を排斥させること。

 つまりは、魔法に特化した生物が勝利して、単純なフィジカルが強い生物が滅びた世界を目指すこと。

 もう一つは、再び離島群へと帰り、小さな環境を都合良く搔き回すことだ。

 

 後者においては、身体の燃費が悪くなった事でそもそも辿り着けるのかという問題や、魔法によって改変する前に産んだ子供達(イーリスの前の子供達)が維持し続けた支配環境を、魔法による改変後の子供達(イーリス)が奪い取る事になる懸念がある。

 

 別にかなり前に産んだ子供達が最近産んだ子供達に頂点捕食者としての座を追いやられる事を不憫に思った訳では無い。

 それは今更だ。

 どちらも私の器候補であるが、逆に言えば器候補でしかない。

 必要なのは保険としての実効性の担保だ。

 

 例えば、この星の魔素が薄くなったら、酸素が薄くなったら、代謝の高さが不利となったら…。

 現在のイーリスがどうしようもなくなったら、その一つ前の子供達から生まれた子孫達は、十分な保険になり得る。

 せっかく離島群から遠く遠く離れた場所へ来た。

 イーリスでは戻るのが難しい場所へ来た。

 少なくとも離島群では原種がイーリスに滅ぼされる事は無くなった。

 こちらの大陸でも原種は生きてはいるが、既に頂点捕食者としての繁栄は出来なくなってしまった。

 原種の上に小型イーリスがいて、その上には更に大型イーリスがいる。

 イーリスが在る限り、原種さえイーリスの餌となる。

 それを離島では防ぐ事も出来る。

 その保険を捨てる必要もない。

 ただそれだけだ。

 種族の発展に対する感情は、己のスペアとしてのものしかない。

 

 となれば、後者については離島群とは反対側の海に丁度よい場所を探すのも良い、というのも簡単には言えない所だ。

 離島群から西へ西へと飛んでこの大陸へと帰ってきた。

 もしこの大陸から西へ飛んで、そこは同時に大陸からも離島群からも遠く離れてイーリスでは辿り着けない場所がある…可能性はとても低い。

 それは、イーリスが辿り着けない場所という括りを前提に考えた場合は当然の事だ。

 生命は自然に拡散する。

 より広くより多く満ちようとするのは、生命として当たり前であり、西回りであっても東回りであっても、大陸から離島群にイーリスが征く経路があるのであれば、それは自然に行われる。

 長い歴史の中で一匹も島の外に飛び出そうとする異常個体が発生しないハズもないのだ。

 そして無性生殖が可能なイーリスは、一匹でも辿り着ければその土地の支配種族となり得る。

 

 届くのならばイーリスは何れ離島群にも巣食う事になるだろう。

 そして届かないのなら、ずっと届かない。

 生命とはそういうものだ。

 

 小型イーリス(嘗ての我が血を引くもの)を貪りながら、私は己の過去と自分達の未来に思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *現代の見識*

 

 極彩色の悪夢とされるアルテマモンスターの一部が巨大化した時期と、竜人族の基礎が生まれた時代は概ね重なっている。

 そしてそれから遅れて、アルテマモンスターのハチに似た社会性群生化が起こった。

 これは偶然ではなく、竜人族の先祖である恐竜に何らかの淘汰圧の変化が生まれた可能性が極めて高い。

 恐竜が恐竜を襲う事が少なくなり、知能が高い肉食恐竜の小型化と、体格と戦闘力に優れた草食恐竜の増加。

 小型化した肉食恐竜は、草食恐竜以外を狙う様になった。

 例えば原始的な哺乳類や、両生類とは別の進化を魚から果たした亜両生類などだ。

 アルテマモンスターの巨大化と恐竜達の変化のどちらが先かは分からないが、何らかの因果関係がある事だけは確かと言える。

 

 亜両生類から進化した尾膜人(ウチラー)は、哺乳類から進化した人間と恐竜から進化した竜人の両方から差別されてきた歴史を持つ。

 確かに哺乳類や恐竜が追い込まれた原因はアルテマモンスターであろう。

 彼等が地上に進出したばかりの我々の先祖を食べて来た。

 今でさえ、亜両生類は中央国では一般的な食事として振る舞われる。

 

 しかし、大きな脅威が元凶であったとしても、その元凶を理由に差別や搾取が正当化される訳では無いのだ。

 彼等は我々に配慮して、亜両生類食を食文化として放棄するべきだ。

 古代超大陸が分裂して出来たリウキーウィ大陸において、亜両生類は現在の尾膜人となったが、中央国(ヤツラー)は我々を対等の知的生命体としては見なかった。

 まるで積み木かサラダかスパゲッティが喋っているとしか思っていなかったようだ。

 

 見た目の相違ではない。

 その時には既に、中央国には様々な人種が存在した。

 彼等は、自分達が知らなかった未開の地から来た人種ということで、我々を差別して搾取の対象としたのだ。

 

 特に中央国で被差別対象となっていた存在からの迫害は酷かった。

 彼等は多くの税金を課せられており、それを達成する為に自分達でさえ耐えられない税金を我々に課したのだ。

 我々の家宝であった光る石も奪われた。

 それはアルテマモンスターの角の化石である可能性も判明して、近年では凄まじい価値となっているが、今でさえ博物館や研究所の連中は我々に返納しようとはしなかった。

 

 

 故に二百年前に我々の先祖は蜂起した。

 結果としては二年で鎮圧されたが、鎮圧されるまで戦い抜いた御先祖の方々により、尾膜人の強さは証明されて、他種族に恐れられる事で認められた。

 我々の先祖は、あのアルテマモンスターが跋扈する大陸において生き延びていた。

 例えアルテマモンスターからの主な捕食対象ではなかったという近年の研究結果が出たとしても、それは変わらない。

 中央国とは真反対にある、あの大陸の中に我々のルーツがある事は事実なのだから。

 

 

 亜両生類が他の生物と違って優れている点は、自身の中にある魔力を隠匿したまま肉体強化に使えるという事だ。

 これは我々尾膜人にも引き継がれている。

 この様な能力が何故存在するのかは分からない。

 しかし、この能力を持つ亜両生類の系譜しか存在しなかったという事は、この能力を持たなかった亜両生類が全て滅びた事を示す。

 また、亜両生類の姿が様々であり、尾膜人も姿形が様々である事から、見た目の関連性が分かりにくい事も同様の理由であろう。

 

 嘗て存在した古代において、確実にそれが必要な何かが存在した。

 そしてそれに対する策を持ったものだけが生き延びたのだ。

 

 

 ザワンズ大学特別講師ゲット・リーの講義:『亜両生類と尾膜人の歴史と超大陸』から引用




人間とチンパンジーに1%しか差がないのなら、人間同士の遺伝子の差(個体差)が0.1%というのは、実はかなり大きな差ではないのでしょうか?
0.1%しか差がないと見るか、0.1%も遺伝子に差があると見るか。


尾膜人は個体差が2%もあるのに、別個体と繁殖可能(そして別個体に発情可能)という人間から見れば謎生物です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。