田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話   作:大豆島そうめん

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格差というのは存在する事ではなく、表層に可視化して証明される事で苦しみの始まりとなる。

 大陸が急に変動を始めた。

 大地の高低差が著しくなり、それでいて海面は上昇した。

 つまり、大陸と海洋の比が大きく後者に傾いた訳だ。

 急な変動といっても、一億年をかけての話だが、それでも無視出来る規模ではない。

 

 少し離れた島においては、三つ存在した高山だけが海面に残り、三つの小島となってしまった程だ。

 

 大陸を基準として見れば高地以外は崖の下となり、海洋を基準として見れば大陸棚は深い海の底へと沈んだ。

 海藻やサンゴなどは大きく数を減らしただろう。

 そして、それを餌や住処にしていた小魚や、小魚を捕食していた魚類達も。

 

 元高山植物は普通の植物となり、一時は大きく植物が減って生態系が壊れかけたが、それでも植物が適応してきたのか再び緑に覆われる頃には、再び生態系も新たな安定を見せてくれた。

 

 イーリスの数も大きく減ったが、再び安定して来たのだから問題はない。

 地上の生物全体が減ったにも関わらず、イーリスだけ減らない方が問題だ。

 残念な事は、大気中や土中の魔素がやや薄まった事だ。

 未だにそれを直接感じ取る事は出来ないが、他のイーリスの生育や、角からの電波による極めて簡易な意思疎通の感度によってそれを理解出来た。

 恐らく、この角からの電波はイルカやクジラの使うソナーみたいな役割をしている。

 『危険』、『餌』、『求愛』の様な極めてシンプルな意思疎通を発光と電波により行っている。

 尤も、大型のイーリスが『危険』の信号を発する事は殆どない。

 

 だからこそ、複数の大型イーリスから『危険』の信号を受けた時には私は驚愕した。

 …驚愕してはいたのだが、その答えは一つしかないと思っていた。

 キンギンポ。

 私を苛み続けた捕食者。

 

 そうであって欲しくは無かったが、そうでなければ困る。

 アレ以外の私にとっての脅威が他に存在するなんて、許容し得ない。

 

 

 

 

 その予想は、当たっていた。

 恐らく海中における最強種となっていた、巨大なキンギンポの子孫。

 その内一匹が、地上に進出しようとしていた。

 

 嘗て空から見た、その巨体の全貌が明かされる。

 色は透き通る様な純白。

 グラデーションのある多様な白色ではなく、只々白一色。

 そして余りにも豪奢なフリルのヒレを幾つも重ねる様に纏っている。

 もはや、魚というよりは龍に近い姿だ。

 それは美しい姫君の纏うドレスの様ではなく、私には恐ろしい甲冑を重ね着込みした武者に見えた。

 いや、その様にしか映らなかった。

 

 私もまた、『危険』の信号を周囲にバラ撒く。

 それだけでなく、『敵』と『排除』の信号も振り撒いた。

 

 

 オニヤンマとヘビの様な体格差だが、それは私が諦める理由にはならない。

 他の個体を潰してでも、此処で殺さなくてはならない。

 この様な存在が地上で一般化しては、私の安寧は地上からも失われる。

 

 イーリスの最大の攻撃である突進は、流石にダメージとはなっているが、相手が即死するという程でもない。

 

 相手もそれが分かって来たのか、余りにも巨体なキンギンポの子孫は、大気中ごと周囲の魔素を吸い込んだ。

 幾匹かの子供達が、それによって地面や海に落ちてしまい、それらは当然の様に捕食される。

 そして、更に海水を吸い込んだ後に、膨大な魔力と海水を圧縮して、薙ぐように吐き出した。

 出た直後こそ透明であった“それ”は、吐き出されて少しの距離を過ぎると漆黒へと染まると同時に爆発的に拡散した。

 触れたイーリスの悉くは溶かされ砕けていき、地形も同様に崩壊させられている。

 

 良くない。

 実に良くない。

 

 だが、イーリスをぶつけ続ければ勝てるのなら問題はない。

 少数で奇策を使い敵を倒すというのは、天才軍師でも何でもなく、少数しか使えない時の非常手段だ。

 最も効果的で効率的で確実なのは、大軍による正面突破だと道理は決まっている。

 

 私は信号を送り続け、そして黒く染まった海水を受けて絶命した。

 

 

 

 私が新たな肉体に意識を乗り替えると、そこにはあの海龍の死骸があった。

 私は他の姉妹達と同様に有り難くそれを捕食して育った。

 離れた場所には他にももう一つ海龍の死骸があった。

 そちらも他のイーリスにより倒されたのだろう。

 

 二匹いたという事は、他にもいそうではある。

 だが、もしそうであればやはりやれる事は同じだ。

 若しくは、深い深い穴の中に卵を隠して────何時の日にか孵化する事を待つか。

 

 結局のところ、それらの心配は杞憂で卵を乾眠させて、何時かの未来を悲願するという事はしなくて良かった。

 

 だが、この経験は私に二つのことを思い出させてくれた。

 乾眠により、脅威が回復されるまで耐えるという弱者の戦略と、キンギンポへの恐怖と憎悪だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *現代の見識*

 

 

 

 

 多様性ある種と不変の畑は共に並ぶ必要はありません。片方があればそれで十分です。

 魔力ストレージと舗装された道があるのなら、魔導二輪は馬よりも優れた乗り物です。

 馬が魔導二輪に優れたる一点は、文明がない荒れ地に於いて尚、有益である事にあります。

 環境を変えることが出来る人類は、環境を維持する事も出来ますね。

 環境が自在変ならば、汎ゆる手段を手元に残す事が最良なのです。

 皆様もそう思うでしょう?

 ですが、人によって同じ環境が維持され続けるのであれば、最良の選択肢はより良い魔導二輪を一台持つことです。

 文明を究極的に単純化するならば、即ち完成された環境を変化させて望む形で固定する力ということは分かりますね。

 だからこそ多様性は文明の敵であり、文明は多様性の敵となるのです。

 正解(行き先)が狭くなればなるほど、そこへ真っ直ぐ走る速さこそが絶対の基準へと近付きます。

 

 弱者の戦略なんて必要ありません。

 極彩色の死翼(アルテマモンスター)と、純白の奢装龍(レヴィーアタン)は教えてくれるのです。

 人々にとっての最良の道筋を。

 

 人類も究極へと至るべきなのです。

 その為に開発されたステータス開示魔法。

 その為に制定された遺伝子提供義務制度。

 その為に制作された人工子宮。

 そしてそれらを使って、優秀とされる大学や機関に所在する人間のステータスを確認して、精・卵子を提供させて、受精卵を人工子宮で孵化させる選抜人類増殖計画と、そのサブプランである人類再選別魔法。

 人類再選別魔法、通称General Transcend Ascending(ガチャ)は亜両生類の遺伝子個体差が通常の人類より大きい事に着目して生まれた魔法で、原材料となる十名程を生贄にして、その中で幾つかの能力を原材料の数名を基準として、それ以外の能力を生贄全員の最大値の能力範囲内において、ランダムに振り直して、一人を基本として作り直す仕組みです。

 一つだけ問題があって、ガチャ魔法は記憶がグチャグチャになるので、基本的には廃人になります。

 何処かの貴族の家が理性の保持の実験に成功したという話もありましたが、結局証拠もなく誤りでした。

 グチャグチャになるのは記憶野だけなので、生殖機能を含めてその他は安心です。

 ですので、廃人となった男女同士を交配させて、廃人ではない子供を確保する訳ですね。

 しかし、メインプランの方が普通に優秀なので見送られてしまいました。

 要らない人間を十人生贄にしても、必要な人間一人を完成させられる訳では無いのですから当たり前ですね。

 生物が脳に記憶を依存する以上、ガチャ魔法の様に記憶野もグチャグチャにしてしまう魔法のメリットは、死刑の代替くらいにしか使えないんですよ。

 ────だから計画は凍結されたのです。

 

 ミニスカティック大学特別講師ワンコール・キットママン女史の講義:『(FIUO(限定受講用))高級政府関係者用二種禁忌魔法講義、第二コマ』から引用

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