総人口の八割が、何らかの特異体質を持つ超人社会。人々はその力を“個性”と呼び、誰もが当然のように受け入れて生きていた。
炎を吐く者。鋼の肉体を持つ者。空を駆ける者。あるいは、一見して役に立たないような奇妙な能力を抱える者も。その姿はまさしく、かつて人類が漫画や映画で夢見た“ヒーロー”そのものが、現実となった社会だった。
しかし同時に、その現実は光だけでなく影も孕んでいる。力は人を助けるが、また同じだけ、人を傷つけるためにも使われる。生まれ持った“個性”を悪用し、人々を脅かす存在、
そして、そんな敵から人々を守る存在がいる。それが“ヒーロー”と呼ばれる者たちだ。誰もが憧れ、夢見る存在。その背中は人々に希望を与え、子供たちにとっては未来を照らす光となった。
だが、ヒーローを志すことは容易ではない。英雄と呼ばれるに足る力。人を救う覚悟。己を削ってなお進み続ける精神。そのすべてを備えなければ、人は“ヒーロー”にはなれないのだ。
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時崎狂三もそのうちの一人だった。
漆黒の長髪に深紅の瞳を持つ少女。その立ち振る舞いはまるで旧家の令嬢のように優雅で、言葉遣いもまた気品に満ちていた。見すれば、華やかな世界に身を置く高嶺の花。だがその実、彼女の過去は決して穏やかなものではなかった。
中学時代、狂三は幾度となく誘拐や襲撃の標的となった。容姿や言動から“お嬢様”として目を付けられただけでなく、時折見せる異能の片鱗を嗅ぎ取った者たちに狙われたこともあった。
それは数にして、片手では収まらぬほど。
だがそのたびに、彼女は己の“個性”を用いて危機を脱してきた。
彼女が授かった個性、その名は《
だが、力には代償が伴う。弾丸を撃ち出すためには、彼女自身の寿命という“時間”を消費しなければならない。若き少女にとって、それは重すぎる代価であったはずだ。
それでも狂三は、その力を使うことを躊躇わなかった。
「……わたくし、人を殺すつもりはございませんの。けれど、罪を犯す方々の時間を、少しばかり拝借するくらいなら……構いませんでしょう?」
誘拐犯を傷つけることなく無力化し、優雅な笑みを浮かべながら警察に引き渡す。その姿は令嬢然とした気品を備えながらも、冷徹な決断力を秘めた“異質”の少女のものだった。
だが狂三自身は、自らを特別な存在だと思ったことは一度もない。ただの少女として、ただ“助けを求める声”に応えてきただけ。彼女にとってそれは、他の誰かが手を差し伸べるのと同じ、当たり前の行為に過ぎなかった。
けれど、助けられた人々が浮かべる安堵の笑顔に触れるたび、胸の奥に熱い感情が芽生えていく。いつか、堂々と“救う者”として立ちたい。誰かにとっての“ヒーロー”になりたい。
その思いは、やがて揺るぎない決意へと変わっていった。そして季節は巡り、雄英高校入学試験の日がやってくる。人類最高峰のヒーロー養成機関。幾千幾万の受験者が、一握りの座を求めて集う場所。
そこでは数多の才能と出会い、戦い、そして絆を結んでいく。
それが、
「わたくしのヒーローアカデミアですわ」
くるみんの性格は原作より柔らかくなっています。