わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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競技は次回からになります。


雄英体育祭に向けて

オールマイトが脳無を撃破した直後、USJの空気は一変した。煙を切り裂くように教師陣と援軍が到着し、その中心には飯田の姿もあった。スナイプの銃弾が黒霧を牽制し、エクトプラズムやセメントスが死柄木の逃げ道を狭めていく。

 

「……彼を除いて、ほぼ全員無事か」

 

駆けつけた警察の塚内警部が、厳しい目で生徒たちの安否を確認していく。負傷した相澤と13号を除き、ほとんどの生徒が集結していた。

 

「そうか、やはり皆の所もチンピラ同然だったか」

 

「ガキだとナメられてたんだ」

 

常闇と切島が肩を並べて語る。どうやら各所に現れたヴィランは、脅威には至らなかったようだ。

 

(……通りで、“オールマイトを殺す”と大口を叩いていた割には力不足でしたわね)

 

狂三もまた、心の中で納得していた。

 

「とりあえず生徒らは教室に戻ってもらおう。事情聴取はすぐにはできんだろう」

 

塚内警部が声をかけると、蛙吹が一歩前に出た。

 

「刑事さん……相澤先生は?」

 

警部は短く息をつき、淡々と答える。 

 

『時崎という生徒がある程度治してくれたから、身体に異常はないらしいが入院は確定コース』

 

「だ、そうだ」

 

蛙吹は小さく「ケロ……」と唇を震わせた。

13号もまた重傷を負っていたが、命に別状はなく、オールマイトはリカバリーガールの治療で処置可能だと伝えられた。

 

「デクくん……」

「緑谷くんは……!?」

 

麗日と飯田が声を上げる。

 

「緑谷君は保健室で手当てが間に合うと言っていたよ」

 

塚内警部が優しく答えると、二人の肩から緊張が解けた。

 

(……全員が生きている。それだけで、今回は“勝ち”と受け取るべきなのでしょう)

 

狂三は静かにそう思う。かくしてUSJ襲撃事件は終息した。ヴィランは撤退し、雄英に爪痕を残したまま姿を消した。死柄木達は隙をついて逃げたそうだ。その影響のせいか翌日、翌々日は臨時休校となった。

 

家に戻った狂三は、母に強く抱きしめられる。だが彼女は、いつもの柔らかな口調で「大丈夫ですわ」と報告し、不安を拭ったのだった。

 

 

臨時休校が終わり、再び雄英の門をくぐる日が来た。教室に入った狂三は、近くの生徒に挨拶を済ませ、いつもの席に腰を下ろす。

 

やがてチャイムが鳴ると――

 

「皆ー!!朝のHRが始まる!!席につけー!!!」

 

またもや飯田が声を張り上げる。

 

「ついてるよ、ついてねーのおめーだけだ」

 

瀬呂が即座にツッコミを入れ、飯田は悔しげに眉をひそめて席についた。

 

その瞬間。

 

「おはよう」

 

聞き慣れた低い声が教室に響く。全員の視線が入口に向いた。

 

『『『相澤先生復活早えええええ!!!』』』

 

 

生徒たちの叫びが揃う。全身を包帯で覆った相澤が、ゆっくりと教壇へ歩を進めていた。

 

 

「先生!!無事だったんですね!!」

 

「無事言うんかなアレ……」

 

(無事とは到底言えませんわ……足取りがあまりに危ういですもの....)

 

狂三も心の中で呟く。

 

それでも彼はプロヒーローだった。ヨロヨロと立ちながらも、教壇の上からクラスを見据える。

 

「俺の安否はどうでもいい」

 

「いや良くないでしょ……」

 

「何よりまだ、戦いは終わってねえ」

 

全員が息を呑む。

相澤はそこで静かに告げた。

 

「雄英体育祭が迫っている」

 

 

 

 

『『『クソ学校っぽいの来たぁぁぁぁぁ!!!』』』

 

 

 

 

雄英体育祭。ヒーロー科にとって最大の晴れ舞台。その幕が、静かに上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の授業が終わり、教室の空気は一気に緩んだ。時崎も静かに鞄をまとめ、帰路に就こうと扉へ歩み寄る。だが、その先に広がっていた光景に、思わず足を止めた。

 

「うおおおお……何事だぁ!!?」

 

教室前の廊下には、人の壁。声とざわめきが渦を巻き、一歩たりとも身動きが取れぬほどの人だかりができていた。

 

(……まぁ、なんの騒ぎでしょう?)

 

狂三は内心で呟き、隙間の無さに眉を寄せる。

 

「出れねーじゃん!!何しに来たんだよ!!」

 

「敵情視察だろ、ザコ」

 

峰田の不用意な一言に、即座に爆豪が噛みついた。

 

「ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭前に見ときてぇんだろ。意味ねぇからどけ、モブ共」

 

「知らない人のことを取り敢えずモブって言うのやめなよ!!」

 

飯田が慌ててツッコミを入れる。緑谷曰く、これが爆豪の“通常運転”らしい。

 

そんなやり取りの中、人混みをかき分けて一人の男子生徒が前に出てきた。紫色の長髪を無造作に垂らし、眠たげな瞳でこちらを見据えている。

 

「……ずいぶん偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴は皆こうなのかい?」

 

挑発的な言葉に、爆豪の眉が跳ね上がる。

 

「あぁ!?」

 

「こういうのを見ると幻滅しちゃうなぁ。普通科とか他の科って、ヒーロー科に落ちた連中が結構いるんだよ。知ってた?」

 

(そうでしたわね……)

 

狂三は静かに心の中で応じる。

 

紫髪の生徒は小さく肩を竦め、口元に皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだってさ。もちろん逆もまた然り……。敵情視察? いや、少なくとも調子に乗ってる奴がいたら、足元ごっそり掬ってやるって、宣戦布告しに来たつもりなんだ」

 

廊下に一瞬、冷たい緊張が走る。

 

さらに別の方向から、豪快な声が響いた。

 

「おうおう!!俺は隣のB組のもんだがよぉ!! ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思って来たんだが……エラく調子づいちゃってんな!! 本番で恥ずかしい真似すんなよォ!!」

 

(あらあら....そんな風に思われていたのですか)

 

あの死地で、調子など乗れるはずがない。一歩間違えれば誰かが死んでいた。クラスメイト全員が全力で戦った。自分自身も命を賭して戦ったのだ。

 

 

廊下に張りつめた緊張の中、時崎はゆっくりと前へ歩みを進めた。靴の音が乾いた廊下に響くたび、人混みのざわめきが少しずつ静まっていく。

 

目の前に立ちはだかるB組の生徒を真っ直ぐに見据え、彼女は微笑みを浮かべぬまま言葉を落とした。

 

「宣戦布告するつもりなら勝手ですわ。ですが……調子に乗っていると思われていたなんて、心外ですわね

 

冷ややかな声音が、周囲を一瞬で凍り付かせる。笑い声も囁き声も、すべてが掻き消える。

 

「ヴィランに襲われ、戦闘になり、少しでも油断すれば命の保証はない。そんな状況に置かれた、わたくしたちを、調子に乗っていると?」

 

言葉は刃のように鋭く、廊下に集まった全員の胸を突き刺した。紫髪の生徒は返す言葉を失い、僅かに視線を逸らす。周囲のB組の者も、息を呑むしかなかった。

 

時崎は軽く裾を翻し、背筋を伸ばしたまま続けた。

 

「こんなことしているお暇があるなら、鍛錬にお使いくださいまし。それでは、ごきげんよう」

 

自然に道が開いた。誰も彼女の前に立ちはだかる者はいない。冷気の残る廊下を一人、悠然と歩き去るその姿に、ヒーロー科の生徒も普通科の生徒もただ黙って視線を送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

二週間という短い時間は、瞬く間に過ぎ去った。個々人の準備、己の個性を伸ばすための特訓――その全てを経て、ついに迎えた雄英体育祭当日。

 

1年A組の控え室は、出番を前にした熱気で満ちていた。

 

「皆!!準備は出来てるか!? もうじき入場だ!!」

 

飯田の大声が響き渡る。

 

「コスチューム着たかったなー」

 

「公平を期す為、着用不可なんだよ」

 

緊張と高揚が入り混じる空気に、自然と笑いも漏れた。

 

しかし、その中でひときわ重い雰囲気を纏う二人がいた。

 

「緑谷」

 

「轟くん……な、なに?」

 

学年屈指の実力者の1人である轟が、緑谷に声をかけたのだ。控え室に漂う空気が一瞬で張り詰める。

 

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」

 

「へ……!?う、うん……」

 

「……お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな」

 

「!!」

 

緑谷の瞳が大きく揺れる。轟は深く追及することなく、淡々と続けた。

 

「別に詮索するつもりはねえが……お前には勝つぞ」

 

その言葉は、宣戦布告に等しかった。普段は冷静沈着な轟が、感情を滲ませるほどに。

 

(なにか……あったのでしょうか?)

 

そのやり取りを見ていた時崎は、心の中で小さく呟く。だが次の瞬間、轟の鋭い視線が彼女へと向けられた。

 

「時崎」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「……お前は俺より強い。そう思ってる」

 

「ありがとうございます」

 

狂三は優雅に微笑みながらも、静かに受け止める。轟はさらに言葉を重ねた。

 

「あの時、俺はお前の策に嵌められた。だが……お前にも勝つぞ」

 

「ええ。頑張ってくださいまし」

 

軽やかな声音で返す狂三。挑発にも似た彼の言葉を、余裕の態度で受け流した。轟はそれ以上語らず、黙して目を閉じる。

 

やがて、入場を告げる合図が鳴った。

 

「……そろそろ入場の時間だ。行こう。飯田、先導頼ぜ」

 

「う、うむ!!それでは整列して入場だ!! 行こう皆!!」

 

息を合わせるように、一年A組の生徒たちが立ち上がり、控え室を後にする。

 

━━そして。

 

『一年ステージ!!生徒の入場だァァァ!!』

 

プレゼントマイクのアナウンスが場内を揺るがし、観客席から大歓声が巻き起こる。

 

無数の視線と熱気に包まれながら、時崎たちは入場門をくぐった。日本中が注目する大舞台、雄英体育祭が、今ここに開幕した。

 

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