わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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雄英体育祭-①

場内は熱気に包まれていた。

プレゼントマイクのアナウンスが高らかに響き渡り、観客席からの声援が地響きのように会場全体を揺らす。

 

『雄英体育祭!!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』

 

その言葉と共に、観客たちの熱狂はさらに膨れ上がった。

 

『どうせてめーらアレだろ!?ヴィランの襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!ヒーロー科!!一年A組だろぉぉ!!?』

 

会場の視線が一斉に、入場してきた時崎たちに向けられる。

 

無数の視線、期待、歓声。それは圧倒的な圧力となって、否応なしに一年A組の生徒たちへとのしかかる。

 

「わぁぁ……人がすんごい……」

 

お茶子が思わず呟き、緑谷は硬直したようにぎこちなく笑う。

 

「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか……これもまた、ヒーローとしての素養を身につけるための一環なんだな……」

 

飯田は相変わらず理屈で自分を鼓舞し、切島は落ち着かない様子で腕を回す。

 

一方で、爆豪と時崎はいつも通りの冷静さを崩さなかった。

 

(……ふふ、楽しみですわ)

 

狂三は胸の内で静かに微笑みながら、観客の熱狂を浴び止めていた。

 

B組、そして普通科やサポート科、経営科といった他のクラスの入場も続き、会場はついに全学年一年生を飲み込んだ。その時、ステージ中央に現れたのは、際どいコスチュームを纏った女性ヒーローだった。

 

「選手宣誓!!」

 

ピシャンッ、とムチを打ち鳴らし、鋭い声が会場を切り裂く。18禁ヒーロー・ミッドナイト。その姿に男子生徒たちの何人かは思わず目を奪われ、常闇がぼそりと呟く。

 

「18禁なのに高校に居ても良いものか……」

 

「いい!!」

 

峰田が即答し、周囲の何人かが呆れ顔をする。

 

「そこ!静かにしなさい!!選手代表!!1年A組――時崎狂三!!」

 

名を呼ばれた瞬間、場内の視線が再び集中する。時崎は一歩、また一歩と壇上へと上がっていく。その姿勢は優雅であり、同時に凛とした気配を纏っていた。

 

観客のざわめきがすっと静まる。ステージの中央に立った彼女は、もはや舞台の主役そのものであった。

 

 

壇上に立つ時崎は、会場の視線を一身に浴びながら、ゆったりと呼吸を整え、澄んだ声で口を開いた。

 

その声音は冷静でありながらも芯の通った力強さを帯び、凛とした気迫が言葉に込められていた。一瞬の静寂の後、観客席からは大きな拍手と歓声が巻き起こる。

 

一年A組の生徒たちは胸を撫で下ろした。宣誓を務めるのが時崎で良かった、と心から思う。もしこれが爆豪だったなら、確実に会場中のヘイトを集めていただろう。

 

また、時崎が時折垣間見せる狂気的な一面が表に出ないかと心配していた者もいたが、それも杞憂に終わりそうだった。

 

時崎は優雅に一礼し、壇上を降りようとしたその時、ふと視線を観客席の一角に向ける。そこには、体育祭前にわざわざ宣戦布告をしてきた他クラスの生徒たちの姿があった。

 

「……ああ、そういえば」

 

紅い唇が小さく動き、彼女は再びマイクを取り上げた。

 

「わたくし、記憶力には自信がありますの。二週間前、わたくし達に『宣戦布告』をしてきた方々……確かに覚えておりますわ」

 

会場がざわつく。宣戦布告という言葉に、他クラスの生徒たちもわずかに表情を引き締めた。

 

「もし――あの時の方々と、この場で対戦する機会が巡ってきたのなら」

 

狂三の瞳が一瞬、冷たい光を帯びた。

 

「その時は……もちろん、全力で戦わせていただきますわ」

 

優雅に浮かべた微笑みは美しくも冷酷で、挑発ではなく宣告として響き渡る。

 

((やっぱり根に持ってた!!!))

 

一年A組の心の声が、見事にひとつに重なった。

 

観客をも巻き込む緊張感を残し、時崎は優雅に壇上を後にした。

 

 

 

 

「さーて!それじゃあ早速第一種目行きましょう!!」

 

ミッドナイトが高らかに宣言する。

 

「雄英ってなんでも早速だね」

 

緊張気味の麗日が呟く。確かに、雄英は何事もスピード勝負だ。

 

「所謂予選よ!!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!さて!!運命の第一種目!!今年は……コレ!!」

 

モニターに映し出された回転する文字。それが止まった瞬間、会場がざわめきに包まれる。

 

「障害物競走!」

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周約四キロ!!」

 

その声と共に背後の壁が展開し、巨大なゲートが姿を現す。そこがスタート地点だった。

 

「我が校は自由さが売り文句!!ウフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!!」

 

(……何をしても?)

 

時崎の目がわずかに細められる。

 

「さぁさぁ位置に着きなさい!!」

 

ゴングが鳴り響いた瞬間――

 

「スタァァアアアトォォオオッッッ!!!!」

 

一斉に生徒たちが飛び出す。だが、スタートは押し合い圧し合いの満員電車状態。出口のゲートに辿り着ける者はいない。さらに、

 

「な、なんだこれ氷ぃ!?」

「う、動けなっ……!!」

「A組、あいつかぁ……!!」

 

足元を凍らされ、生徒たちが次々と転倒する。その中心に立つのは、轟焦凍。冷気を操り、広範囲を氷結させる事で他者をまとめて足止めしたのだ。

 

「やっぱり一番乗りは轟かぁ!!」

 

観客が沸く中、轟は悠然と氷原を駆け抜け、ゲートを先頭で突破する。

 

だが、そこに続いたのは――

 

『《刻々帝》――【四の弾(ダレット)】【一の弾(アレフ)】』

 

時崎だった。氷の足場に向けて銃口を向け、放った弾丸が白銀の氷を一瞬にして水へと変える。

 

そして次の瞬間、自らの足元に加速の弾を撃ち込み、爆発的な推進力でゲートを飛び出した。

 

「なっ……速い!!」

 

凍られている選手達がどよめく。轟に続き、時崎が先頭集団へ躍り出た。

 

もちろん、A組の他の生徒たちも轟の個性を知り尽くしている。氷の範囲を予測して素早く飛び越える者、爆発で砕きながら突っ切る者、それぞれが独自の手段で氷を突破し、次々とスタジアム外へ飛び出していった。

 

『さあ!A組が猛追を開始ぃ!!轟を追いかけるが、此処で主席の時崎も出撃だ!!ってか時崎、速くね!?おい解説のイレイザーヘッド、説明プリーズ!!』

 

プレゼントマイクが興奮気味に叫ぶ。

 

『……あいつの個性は時間操作だ。なら加速もできるんだろ』

 

相澤が淡々と答える。ほぼ無理矢理マイクを握らされた彼の声音は冷めきっていたが、それが逆に説得力を増していた。

 

観客の視線は既に轟と時崎二人の個性の頂点に釘付けになっていた。

 

 

『さぁ、そんな事をしてたら先頭の轟が早くもお待ちかねの障害物走の第一関門に突入だ!! 名付けて“ロボ・インフェルノ”!! 仮想敵ロボがお出迎えだっぜ!!ご存知ッ、雄英受験実技試験で出てきたヤツらだ!!』

 

プレゼントマイクのアナウンスと同時に、観客の視線が一斉にスタジアムの先へと注がれる。そこに待ち構えていたのは、鉄の巨人たち。三十メートル級のロボットが無数に立ち並び、選手たちの進路を完全に塞いでいた。

 

「多いですわね」

 

時崎狂三は、息を呑む観客とは対照的に、ただ率直な感想を漏らす。だが、その瞳に浮かぶのは怯えでも驚きでもなく、冷ややかな光。

 

轟は氷壁を生み出して巨体の足を封じ、真っ直ぐ突き進んでいく。爆豪は爆風で距離を稼ぎ、ロボの肩口を飛び越えようとする。生徒たちがそれぞれの力で道を切り拓く中――

 

時崎は走りながら迷いなく右手で長銃を構えた。

 

「《刻々帝》――【三の弾(ギメル)】」

 

乾いた銃声が響く。その瞬間、弾丸を受けたロボの装甲がみるみるうちに錆びつき、関節が軋む音を立てて崩れ落ちた。わずか数秒のうちに、兵器がただの鉄屑へと変貌する。

 

観客席がどよめきに包まれる。

 

『おおっとぉ!! 見たか今の!? 時崎が撃った弾丸に当たったロボが簡単に壊れたぁ!!マジかよ!!あの子の銃、ヤベーぞ!!』

 

プレゼントマイクの興奮した叫びが会場に響き渡る。

 

観客は熱狂し、生徒たちは一瞬足を止めた。彼女の個性を知らない者にとって、今の光景はただの「異常現象」にしか見えなかったからだ。だが、時崎自身は周囲の反応など気にも留めていない。

 

艶やかな微笑を浮かべ、彼女は次々と銃口を向ける。そのたびに鉄の巨人は加速度的に“老い”を迎え、ガラガラと瓦解していった。

 

 

 

『オイオイ第一関門チョロいってよ!! んじゃ第二はどうさ!? 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!!』

 

『ザ・フォール!!!』

 

次なる関門に到達した生徒たちの眼前に広がっていたのは、深く口を開けた巨大な峡谷だった。足場となるのは鋼鉄のワイヤーで繋がれた細いロープのみ。眼下に広がる奈落は、見下ろしても底が霞んで見えないほどだ。

 

(これは……落ちたらどうなるのでしょう?……考えない方がよさそうですわね)

 

時崎は僅かに首を傾げながらも、迷うことなく足を踏み出す。

 

『轟はロープを凍らせてその上を滑る!!そんで時崎は……って、オイ!!そのままロープの上を走ってるぞ!!』

 

観客席がどよめきに包まれる。常人なら数秒で転げ落ちるであろう細いロープを、彼女はバランスを崩すことなく走り抜けていた。

 

『さあ!先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!!』

 

だが後方では、落下を恐れる生徒たちがもつれ合い、足を踏み外しそうになりながら必死に這い進んでいた。そこから一気に先頭が引き離されていく。

 

――そして、最終関門。

 

「……これは」

 

時崎の視界に広がったのは、平坦に見える土の道。しかし色が不自然にまだらで、均一ではない。そう思った矢先、プレゼントマイクの高らかな声が響く。

 

『一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と足、酷使しろ!!ちなみに地雷は威力は大した事ねえが!!音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!!』

 

『……人によるだろ』

 

冷めた相澤の声が解説席から割り込む。

 

時崎は走りながら思考を巡らせる。

 

(この数の地雷を【一の弾】だけで駆け抜けるのは……無理ですわね)

 

そう考えていた時、背後から荒々しい声が飛ぶ。

 

「待てやコラァ!!」

 

「あらあら……もう追いつきましたの?」

 

爆豪が、爆風を背にしながら時崎と轟に並び立つ。容赦なく爆破の衝撃を叩きつけようと腕を伸ばすが――

 

「《刻々帝》――【五の弾(ヘー)】」

 

狂三の銃口が閃き、未来を見て回避し爆豪の直撃をかわす。流れるように轟に攻撃の向きを変え、

 

「テメェ!!宣戦布告する相手を間違えてんじゃねぇぞ!!」

 

爆豪が吠える。

 

轟もまた氷壁を生み出し、進路を確保しながら爆豪を睨み返した。三人の攻防が続く中――

 

突如として、背後から轟音が轟いた。

 

ドォンッ!!!!

 

「……っ!?」

 

爆豪と轟は思わず振り返る。その瞳に映ったのは、競技用の地雷では到底あり得ないほどの大爆発。煙が吹き上がり、観客席から悲鳴にも似た歓声が湧き上がる。

 

『後方で大爆発!!?なんだあの威力!!偶然か故意か!!A組、緑谷!!爆風を利用して猛追ぃぃ――!?』

 

土煙の向こうから飛び出したのは、緑谷。爆風を背に受け、勢いそのままに宙を舞い、凄まじいスピードで先頭集団へと食らいついてきた。

 

(予想外の伏兵、ですわね)

 

彼女は唇に笑みを浮かべる。

 

 

地雷原を抜け、スタジアムの出口へと迫る一団。そして緑谷は轟と爆豪の肩に両足を乗せて、持っていた鉄板を叩きつけ、地雷を一斉起爆させた瞬間、轟と爆豪は爆風に煽られ、少し後方に吹き飛ばされる。

 

時崎は冷静に回避し、その場をうまくやり過ごしたが、結果として先頭を譲る格好となった。

 

「マジか、緑谷…!」

 

轟は驚きの声を漏らす。あまりの鮮やかな展開に、爆豪も思わず目を見開いた。

 

『緑谷!!間髪入れず後続妨害!!なんと地雷原即クリア!!イレイザーヘッド!!お前のクラスすげぇな!!どういう教育してんだ!!』

 

『俺は何もしてねぇよ、奴らが勝手に火ぃ付け合ってんだろう』

 

『さァさァ!序盤の展開から誰が予想できた!?』

 

『無視か…』

 

観客席からは歓声が鳴り止まず、スタジアム全体が熱気に包まれる。中でも、最も早くゴールを駆け抜けた緑谷の姿に注目が集まった。

 

『今一番にスタジアムに還ってきたその男……!』

 

 

 

『緑谷出久の存在を!!』

 

 

 

万雷の喝采と歓声が会場を揺らし、1位を祝福するかのように鳴り響く。

 

その直後、2位でゴールした時崎は、いつもと変わらぬ優雅な姿勢で立っていた。表情に焦りや悔しさは微塵もなく、むしろ次の種目を見据える冷静さと計算高さが漂っていた。

 

観客の視線を浴びながらも、彼女の立ち姿は静かに、しかし確固たる存在感を放っていた。

 

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