予選を突破した42名が体育祭会場の一角に揃うと、ミッドナイトが前に立ち、参加者たちに向けて次の種目の説明を始めた。
『早速だけど、次の種目に行くわよ』
会場の大型モニターに映し出された文字は「騎馬戦」とだけ書かれていた。42人で騎馬戦――まさか、これはチーム戦なのかと生徒たちは互いに視線を交わす。
『参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つだけ違うのは、先程の結果にしたがい各自にPポイントが振り分けられていること』
爆豪が鼻で笑いながら言った。
「入試みてえなポイント稼ぎか。分かりやすいな」
隣で切島がうなずく。
「お互いの個性を知ってる同士の方が連携取りやすいな」
ミッドナイトが続ける。
『与えられるPポイントは下から5Pずつ!42位が5P、41位が10P、という具合よ』
時崎は小さく計算する。
『2位のわたくしは205P……』
そして会場がざわめく。爆豪や轟も緑谷の方に目を向ける。だか、ミッドナイトはここでさらに会場を驚かせる。
『そして1位に与えられるポイントは1000万!』
『…………は?』
誰もが思わず声を漏らし、自然と緑谷を見た。時崎はそれを面白そうに眺め、軽く口角を上げる。
「あらあら、大変ですわね、緑谷さん」
ミッドナイトは笑みを浮かべながら締めくくった。
『そう、上位の奴ほど狙われちゃう下剋上サバイバルよ!上にいる者には更なる受難を!それが雄英高校よ!』
説明は続く
「騎手はそのポイント数が表示されたハチマキを装着!!終了までにハチマキを奪い合い、保持ポイントを競うのよ!取ったハチマキは首から上に巻く事!取りまくれば取りまくる程管理が大変になるわよ!!」
そしてさらに重要なのが...
「ハチマキを取られても、また騎馬が崩れてもアウトにはならないって事!!」
「個性発動アリの残虐ファイト!でも...あくまで騎馬戦!悪質な崩し目的での攻撃などはレッドカード!一発退場とします!!それじゃこれより15分のチーム決めの交渉タイム、スタートよ!!」
ミッドナイトの説明を終え、生徒たちは互いの視線を交わし、騎馬戦への緊張感と戦略を巡らせながら、自分のチーム編成を考え始める。
時崎は静かに考え込んでいた。騎馬戦のチームをどう組むか――誰と組めば最も効率よく戦えるのか。
(出来れば同じクラスメイトの方が協力しやすいですわね……)
前回、一緒に戦った上鳴と八百万はすでに轟とチームを組んでいる。耳朗も既に他と騎馬を組んでいた。そうなると自ずと候補は限られていた。
「あの、時崎さん.....」
不意に声がかかる。振り返ると、そこには緑谷が立っていた。しかしその顔は、祈るような切実な表情をしている。
「どういたしましたの、緑谷さん?」
「じ、実はまだメンバーが決まってなくて、僕と騎馬組んでください!」
緑谷は懇願するように頭を下げた。1000万ポイントという巨大な数字のせいか、周囲から避けられ、声をかけやすい相手は限られている。そんな中、チームを決めようとしていた時崎に自然と目が向いたのだった。
時崎は一瞬考える。相手の誠意を、状況を、そして自身の戦略を天秤にかける。
「そうですわね……いいですわ。組みましょう、緑谷さん」
その言葉に、緑谷の顔がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
感謝の声が会場の空気を通して響いた。時崎は静かに微笑み、二人は肩を並べて前方を見据えた。
緑谷と時崎は、既に二人でチームを組むことを決めたあと、メンバー選びに頭を悩ませていた。そこへ、勢いよく手を挙げて入ってきたのが麗日お茶子だった。
「デクくん、時崎さん!私も入っていい!?」
必死な声色に、緑谷はすぐに頷く。
「もちろんだよ、麗日さん!」
「ええ、歓迎しますわ」
時崎も優雅に微笑む。
こうして三人目のメンバーが決まった。だが、あと一人が必要だ。
緑谷は、真っ先に浮かんだ候補を口にする。
「やっぱり、足の速い飯田くんが適任だと思うんだ」
そう言って飯田のところに向かう。だが、その考えはすぐに覆された。
「すまない、緑谷君……!俺は今回、轟君の騎馬に入る」
飯田は真剣な眼差しでそう告げた。
「君をライバルとして見えるのは轟君だけではない。俺は君をライバルとして正面から超える。それが俺の選んだ道だ!」
その瞬間、緑谷と麗日は同じように肩を落とし、同じ仕草でため息をついた。
(……お二人、まるでシンクロしているようですわね)
時崎は小さく笑みを漏らす。
そんな時だった。
「あなたの立場、利用させてください!」
元気いっぱいの声と共に姿を現したのは、サポート科の発明少女・発目明。両腕にはごてごてした機械装置が取り付けられており、背中には奇妙な機械が収まっている。
「サポート科はアイテムの持ち込みオッケー!つまり結果を残せば大企業にオファーが来るって事です!私の“ベイビー”たちで、絶対に役立てるはず!」
瞳を輝かせ、胸を張って宣言する発目。そう言って見せたのはバックパックだった。そのテンションの高さに一瞬気圧されつつも、緑谷は目を輝かせた。
時崎的にはあまりごつごつしたものは好みではないが騎馬戦はチーム戦であり、個人の主張を押し付けるわけにはいかない。
「すごい……!これなら、僕らの弱点を補えるかもしれない!」
「ええ、面白そうですわね。では……ようこそ、わたくし達の騎馬へ」
時崎は優雅に頷き、手を差し伸べた。
こうして、緑谷・時崎・麗日・発目の奇妙な組み合わせの騎馬が誕生する。
周囲からは「大丈夫か……?」と不安の声も上がったが、当の四人はそれぞれに期待を胸に、次の戦いに臨む。
緑谷チームは、残り時間で役割を話し合っていた。それぞれが自分の個性を説明し、どう戦うかを整理する。
「時崎さんには……騎手をやって欲しいんだ」
緑谷が切り出すと、全員の視線が時崎に集まった。
「それは構いませんが、緑谷さんはよろしいのですの?」
彼女は優雅に問い返す。
「僕の個性は、まだ制御が不安定で……正直、安定して戦力になるかどうか分からない。でも、時崎さんの“刻々帝”なら有利に試合を運べるはずなんだ」
真剣な眼差しに、時崎はしばし考え、やがてゆっくりと頷いた。
「……分かりました。では、わたくしが騎手を務めさせていただきますわ」
麗日と発目も異論はなく、チームは役割を決定。直後、ミッドナイトの声が会場に響き渡った。
「15分経ったわ、それじゃあ――そろそろ始めるわよ!」
アナウンスと同時に、騎馬戦のステージに十二組のチームがずらりと並び立つ。その中で一際視線を集めていたのは、やはり「1000万ポイント」を抱える緑谷のチームだった。
『さぁ起きろイレイザー! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が揃ったぁぁ!』
スタジアム全体を揺らすようなプレゼントマイクの叫び。実況席の相澤は、腕を組んだまま目を細める。
『……なかなか面白ぇ組が揃ったな』
その言葉通り、フィールドには個性豊かな騎馬が出揃っていた。轟率いる強力布陣、爆豪の荒々しいチーム、そして他クラスの精鋭達。
『さあいよいよ始まっぞぉ! 血で血を洗う仁義も情けもねぇ雄英大合戦、大戦国時代! 残虐ファイトの幕が、今――上がるぜぇぇぇ!!』
『……やかましい』
ぼそりと相澤が呟く中、狼煙のように高鳴る歓声が会場を包み込む。
「では、基本逃げつつ保険として幾つかのハチマキを取るという方針でお願いしますわ」
騎手を務める時崎の指示が、緑谷たち三人の耳に明確に届く。彼女の落ち着いた声音は、不安と緊張に満ちた仲間達の心を奇妙に落ち着かせる力があった。
『了解!!』
緑谷、麗日、発目が声を揃える。
始まりの合図と同時に、ほとんどの騎馬が一斉に動いた。狙いはただ一つ、1000万ポイントを抱える時崎チーム。
観客席から見れば、まるで獲物を追う獣の群れのように映っただろう。
「まあ、当然そうなりますわね」
狂三はにぃと口角を上げると同時に銃を顕現させる。銃口から次々と放たれる弾丸が騎手たちに命中し、その動きを鈍らせた。
「うわっ!」
「体が……よろける!?」
喰らった生徒達は多少ふらついたが、致命的な影響はない。あくまで“よろめかせる”程度に調整された、時崎なりの配慮ある射撃だった。
「ここで、距離をとりましょうか」
彼女が冷静に促すと、発目が待ってましたとばかりに叫んだ。
「ではその右手のボタンを押してください!」
時崎は言われた通りスイッチを押す。瞬間、時崎の背中に背負われていた発目特製バックパックが作動し、四人の騎馬は一気に宙へと浮かび上がった。地面から離れたその光景に、周囲のチームがどよめく。
『なんと!!時崎チームが飛んだ!!』
「なんだアイツら、空を飛んでやがる!」
「卑怯だろ!!」
だが、上昇の隙を突こうとする者もいた。
「逃がさない……!」
耳朗がイヤホンジャックを振りかざし、伸ばしたコードでハチマキを絡め取ろうと狙いを定める。
しかし――。
『《刻々帝》ーー【
狂三の銃口から放たれた弾丸が耳朗を撃ち抜いた。次の瞬間、彼女の動きは明らかに鈍り、掠め取る事は出来なくなった。
「か、体の反応が遅い……!」
耳朗は悔しげに歯を食いしばる。思うように体が動かない苛立ちに声を荒げた。
上空へと舞い上がる緑谷チーム。その姿は、まるで群がる敵陣を嘲笑うかのように優雅で、そして狡猾だった。
しかし、その僅かな安堵を引き裂くように、爆音とともに紅蓮の光が迫る。
「調子乗ってんじゃねぇぞォ!!時崎ィィ!!」
爆風を纏い、爆豪が空中を跳躍するように追いすがってきた。観客席からも驚愕の声が上がる。
『ここで爆豪が時崎チームを狙うゥゥ!!』
「あらあら、すごい執念ですわ」
優雅に微笑む時崎に、緑谷が慌てて声を荒げる。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよ!?」
背後から伸びる爆豪の腕。掴まれるかと思われたその瞬間、時崎は意外な行動を取った。彼女は顕現していた二挺の古銃を、後ろから、ためらいもなく爆豪の顔面めがけて投げ捨てたのだ。
「ッ!?」
爆豪は反射的に弾き飛ばすが――その一瞬が致命的な隙だった。
「《刻々帝》ーー【
時崎が騎馬から高速で真上にジャンプし、くるりと空中で後ろに一回転し頭を下にして爆豪の真上を取った彼女は、落下の勢いを利用しながら銃を顕現し、容赦なく連射を浴びせた。
「クソッ!」
爆豪は腕でガードし、爆発で牽制するが、太陽の逆光が視界を妨げる。回避は遅れ、弾の一発が頭を正確に撃ち抜いた。
「が……ッ!」
彼の体はバランスを崩し、下へと墜ちていく。だが間一髪、同じチームの瀬呂がテープを飛ばし、仲間を回収した。地面に叩きつけられる事態は避けられたものの、爆豪の表情には抑えきれない悔しさが滲んでいた。
「クソがッ!!」
その姿を見届けながら、実況席は大盛り上がりだ。
『おいおい、すげぇな!!あの二人、空中戦までやりやがった!!爆豪はともかく時崎!お前、空中戦も出来んのかよ!!』
プレゼントマイクの興奮は止まらない。
時崎は余裕の微笑みを浮かべ、ふたたび緑谷たちのもとへ戻る。
麗日のゼログラビティ、そして発目のバーニアが見事に働き、四人の騎馬は衝撃を抑えて着地した。
そしてそのまま、近くで油断していた二人組の騎馬へと駆け寄りハチマキを鮮やかに奪い取る。
「さて……これで少しは余裕ができましたわね」
彼女の声音には、まだどこか余裕すら漂っていた。