わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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今回、諸事情により早めに投稿します。


雄英体育祭-④

騎馬戦が終わり、プレゼントマイクと相澤のやり取りが騒がしく響く中、時崎は静かに別の場所にいた。彼女の注意は、昼食前に見かけた二人の影、緑谷と轟に向けられていた。

 

(やはり、あの二人、何かあるでしょうか)

 

背後からこっそりと二人を追う。視界の端で、微かに耳に入る轟の声。

 

 

 

 

 

「『お前の左側が醜い』と母は俺に煮え湯を浴びせた」

 

 

 

 

 

その言葉は、轟家の歪んだ家庭事情を淡々と語る序章だった。轟の父、No.2ヒーロー・エンデヴァーは、自分ではオールマイトを超えられないと悟り、次世代である息子にその役割を託そうとしていた。

 

幼少期からのスパルタ教育は轟の母を精神的に追い詰め、家族の歪みを作り出していた。

 

「ざっと話したが、俺がお前につっかかんのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや、使わず“一番になる”ことで奴を完全否定する。本当なら時崎も呼ぼうと思っていたんだが……ちょうどいなかったからな」

 

時崎は理解する。轟は父への反発から、炎の個性を封じ、母の力だけで証明しようとしているのだと。

 

「それで、2人の会話を盗み聞きしている爆豪さん」

 

小声で爆豪に話し爆豪が律儀に小声で近づき、怒りを滲ませる。

 

「誰が盗み聞きだ!それならテメーもしてんじゃねぇか!!」

 

時崎は静かに答えた。

 

「わたくしは、二人が偶然話しているのを見てしまっただけですわ」

 

その言葉に、爆豪はさらに眉をひそめる。だが時崎の瞳は冷静で、周囲の喧騒に惑わされることなく、二人の本音と意図を正確に読み取った。爆豪も態度は悪いが轟の複雑な事情を察していた。

 

 

 

 

時崎と爆豪は静かに此処を離れた。

 

 

 

 

昼休憩が終わりそうな頃、観客の熱気が冷めやらぬまま、プレゼントマイクの声が場内に響き渡る。

 

『さぁ!最終種目発表の前にィ!予選落ちした諸君に朗報だ!あくまで体育祭、全員参加が基本ッ!ちゃーんとレクリエーション種目も用意してんのさ!さらに本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ――ん?アリャ?』

 

実況のプレゼントマイクが、不自然に言葉を止めた。場内の空気が一瞬ざわめく。

 

『……なーにやってんだ、あいつら』

 

相澤先生が呆れ顔でモニターを見やる。

 

観客の目に飛び込んできたのは――チアリーダー衣装に身を包んだA組の女子たちだった。

そして、なぜかその列の中には時崎の姿まである。だが、笑顔を浮かべるどころか真顔。

 

むしろ不機嫌そうにピクリとも笑わず整列しているため、華やかさよりも場違いな異様さが際立っていた。

 

『どーしたA組!!?おいおいチアリーダーが全員真顔ってどういう状況だァァァ!?』

プレゼントマイクの声が裏返る。

 

事の発端は昼休憩に遡る。峰田と上鳴が、女子たちを「ルールだから」「参加必須だよ」と見事に騙し、衣装を八百屋に造らせ女子達に着せたのだ。

 

策略が成功した二人はガッツポーズで大喜び。男子の中には「見ちゃいけない」と言いつつも、チラチラ視線を向けてしまう者もいた。

 

「峰田さん、上鳴さん!!騙しましたわね!?」

 

八百万が怒りを隠さず叫ぶ。

 

「ま、本選まで時間空くしさ!張りつめててもシンドイし、いいじゃない!!?やったろやったろ!!」

 

葉隠はむしろ楽しげにスカートをひらひらさせる。

 

「透ちゃん好きね……」

 

蛙吹は肩をすくめ、苦笑を漏らした。

 

そんな中、時崎――いや、時崎狂三の分身がぽつりと口を開いた。

 

 

「上鳴さん、峰田さん……夜道には気をつけてくださいまし。最近は....何かと物騒ですので

 

 

不機嫌の理由は単純だった。本体から「重要だから」と代理を頼まれた結果、やらされているのがチアガール。納得できるはずもない。

 

「え、ちょっと待って、分身なの!?本体はどこいったの!?」

 

「さあ……」

 

落ち込む者、呆れる者、無理やり楽しむ者、何故か夜道を警告する者。A組女子は三者三様の反応を見せていた。

 

そして――肝心の本体の時崎はどこにも見当たらない。

 

峰田と上鳴は、真顔で衣装を着こなす女子たちを眺めながら、ぽつりと嘆いた。

 

 

「……峰田、夜道に気をつけようぜ」

「ああ、不思議とオイラもそう思った...」

 

 

二人の肩がガクガクと震える中、会場のざわめきは次なる種目へと移ろうとしていった。

 

 

――その頃。

 

 

体育祭会場の喧騒から少し離れた食堂。

本体の時崎は、トレイの上のサンドイッチを優雅に手に取り、何事もなかったかのように少し遅れた昼食を楽しんでいた。

 

卵、ハム、レタスを挟んだサンドイッチ。紅茶を片手に、実に穏やかな昼休み。食堂のモニターには、自分の分身がチアリーダー衣装で並んでいるのがちらりと見える。

 

だが、時崎本人は気にせず紅茶を飲む。

 

「代理には少々酷な役をお願いしましたけれど……まあ、あの子にもいい経験になりましたでしょう」

 

そう呟きながら、サンドイッチを一口。喧騒の渦中にありながらも、彼女の昼食時間は揺らぐことなく流れていた。

 

 

 

 

 

場内の笑いとざわめきが収まらぬ中、突如としてモニターが切り替わり、校内放送が再び響き渡る。

 

『――さて!お待たせしました!!』

 

プレゼントマイクの甲高い声が一気に場の空気を引き締めた。

 

『ここからはッ!いよいよ決勝戦に突入だァァ!!ここまで勝ち上がった勇者たちよ、準備はいいか!?』

 

会場から大歓声が湧き起こる。観客席の興奮に押されるように、生徒たちも思わず息を呑んだ。

 

『今回の決勝種目は――トーナメント形式の!ガチンコ一騎打ちバトルだァァ!!』

 

すると、青山は胸を張りながらも、かすかに弱々しい笑みを浮かべていた。個性の反動で腹の調子が悪いのだろう。もう1人尾白は真っ直ぐに立ち、拳を握りしめる。

 

「俺は、皆が必死で戦って勝ち上がってきたのを見てきた。そんな中で何もできないまま立ってるなんて、俺にはできない」

 

その潔い言葉に会場は一瞬静まり返り、やがて拍手が湧き起こった。

 

二人の辞退は、ミッドナイトの「粋じゃない?」という好みで認められ、繰り上がりで鉄哲と塩崎が決勝進出を決める。

 

かくして十六名が揃い、くじ引きが開始された。

 

モニターに表示された対戦カードに、会場の熱気は一気に爆発する。

 

第一試合 緑谷出久 対 心操人使

第二試合 轟焦凍 対 瀬呂範太

第三試合 塩崎茨 対 上鳴電気

第四試合 時崎狂三 対 芦戸三奈

 

第五試合 発目明 対 飯田天哉

第六試合 常闇踏陰 対 八百万百

第七試合 鉄哲徹鐵 対 切島鋭児郎

第八試合 麗日お茶子 対 爆豪勝己

 

「わたくしは……芦戸さんとですか」

 

時崎は小さく呟き、口元に笑みを浮かべる。その笑みは、不敵でありながらも楽しげであった。

 

その間にもセメントスの巨体が黙々とフィールドを整え、やがて広大な決戦の舞台が完成する。

 

『ヘイガイズ!!アァユゥレディ!?』

 

プレゼントマイクの絶叫が観客席を震わせた。

 

『色々やってきたが、結局はここだァ!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくとも、そんな場面は山ほどある!!心!技!体!知識!全部総動員して駆け上がれぇぇ!!』

 

地鳴りのような歓声。会場のボルテージは最高潮に達していた。

 

そして――。

 

「両者、前へ!」

 

ミッドナイトの声が響く。

 

第一試合、緑谷出久と心操人使が静かにフィールド中央へと歩み出た。

二人の視線が交差する。

 

『一回戦!!成績の割になんだその顔!!ヒーロー科緑谷出久!!バーサス!!ごめん!まだ目立った活躍なし!普通科心操人使!!』

 

 

セメントスが作り上げた広大なバトルフィールド。観客たちの視線が一点に注がれる中、決勝トーナメントのルールが再確認される。

 

それは単純明快――。

相手を場外に落とすか、行動不能に追い込むか、あるいは「まいった」と言わせること。勝敗はただそれだけで決まる。

 

『さァァァ!!聞いて驚け見て叫べ!!ルールはシンプルだ!!』

 

プレゼントマイクの絶叫が会場の隅々まで響き渡る。

 

『この開けたフィールドで、相手を叩き落とすか潰すか!!言わせるか!!お手上げ宣言「まいった」だァ!!』

 

観客席から「おおーっ!」と歓声が巻き起こる。だがプレゼントマイクはさらに声を張り上げた。

 

『怪我上等!!我らがリカバリーガールが控えてんだから心配ご無用だ!!道徳倫理は今だけ捨てちまえ!!』

 

一拍置いて、声を低くして付け加える。

 

『……だが!命に関わるようなのはクソだぜ!それは即刻アウトだ!!忘れんなよ!!』

 

彼の瞳は鋭く光り、観客席の生徒たちすら息を呑んだ。

 

『ヒーローはヴィランを捕まえる為に拳を振るう!!それを実感できるのが――この舞台だァァァ!!!!』

 

地鳴りのような歓声が再び巻き起こり、バトルフィールドの熱気は一層高まる。選手たちもまた、己の拳を握りしめ、それぞれの決意を胸に試合へと臨もうとしていた。

 

 

 

 

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