わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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雄英体育祭-⑦

爆豪と時崎の戦闘は、なおも続いていた。

二人の体操服はすでにボロボロで、肌には汗と煤がこびりついている。だが疲労の色は明らかに爆豪のほうが濃かった。

 

その理由はひとつ――時崎が空中戦の最中に放った【三の弾(ギメル)】。爆豪の身体の時間を加速させ、消耗を無理やり早めていたのだ。

 

「……ハア、ハア……!中々やるじゃねぇか...それでこそ、ぶっ倒しがいがある!」

 

荒い息を吐きながらも、爆豪は血走った目で笑う。

 

「これで俺が完膚なきまでの一位になる!」

 

「それは何よりですわ」

 

時崎もまた、銃口を静かに下げて微笑んだ。

 

「ですが――わたくしも負けるわけには参りませんの」

 

爆豪の瞳に火花が散った。

 

次の瞬間、彼は跳躍する。両腕を左右逆方向へと突き出し、爆破を連続発生させ、その反動で体を錐揉み回転させながら時崎へと突撃。まるで弾丸そのもののような質量を持って迫る。

 

一方の時崎はなんと爆豪に向かって走り出して呟いた。

 

「榴弾砲(ハウザー)....」

 

 

「刻々帝(ザフキエル)....」

 

 

 

轟音を伴い、爆豪の渾身の一撃が炸裂しようとした。対する時崎は《刻々帝》を顕現させ『Ⅶ』

の文字盤の影が銃に吸い込まれる。

 

そして、

 

「着弾(インパクト)!!!」

 

 

「【七の弾(ザイン)】」

 

 

 

二人の声が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間――爆豪の手から放たれた特大の爆破が床を抉り、会場全体を揺らす。轟音、閃光、そして吹き荒れる爆風。割れた床から黒煙が立ち昇り、観客席から悲鳴とどよめきが響いた。

 

しかし、

 

爆煙の中、爆豪の眼前に時崎の姿はなかった。

 

「……ッ!?」

 

背筋に冷たいものが走る。慌てて振り返ろうとした爆豪の耳に、甘美で残酷な声が囁かれる。

 

「派手な爆破でしたわ、爆豪さん」

 

黒煙を裂き、時崎が静かに立っていた。その手には古銃――そして銃口は、確かに爆豪の頭を捉えていた。

 

プレゼントマイクが絶叫する。

 

『ど、どうやって避けたッ!?時崎!!あの爆破をノーダメで突破したァァァッ!!!』

 

時崎は涼やかな微笑を崩さぬまま、答えを告げた。

 

「簡単ですわ。あなたの時間を止めたまでです」

 

その言葉が響いた瞬間、会場全体が大きなどよめきに包まれる。誰もが耳を疑い、瞠目した。

 

「ですが……これは燃費が悪いので、切り札としか使っていませんの」

 

そして、時崎は最後の忠告を口にした。

 

「爆豪さん。最後にもう一度伺いますわ――降参なさいますか?」

 

爆豪の肩が震えた。先ほどの大技で体力も気力も使い果たし、もはや反撃の術はない。だが――彼の牙は折れなかった。

 

「するわけ……ねぇだろ……!」

 

歯を食いしばり、血を吐くような声で叫ぶ。

 

「俺は降参なんざ……絶対にしねぇ!!次は絶対俺が勝つ!!」

 

狂三の笑みが深まる。

 

「ええ、頑張ってくださいまし、もっとも次もわたくしが勝ちますが」

 

「……クソがッ」

 

そして時崎は銃口を僅かに傾け、引き金を引き銃声が響き渡る。爆豪の体が揺れ、力なく床へと崩れ落ちた。

 

会場が静まり返る。次いで、ミッドナイトの判定が轟いた。

 

「爆豪君戦闘不能!!よってこの勝負、時崎さんの勝利!!!」

 

プレゼントマイクの声が会場を揺るがせる。

 

『き、き、決まったー!!!今年度雄英体育祭一年優勝は━━━━A組、時崎狂三だぁぁぁぁ!!』

 

割れんばかりの歓声が沸き起こる中、時崎は涼しげに銃を下ろし、一礼した。

 

「後ろから撃たれて負けても恨まないでくださいまし――最初に申し上げた通りですわね」

 

その声音は、勝者の余裕に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは!!これより表彰式に移ります!!」

 

ミッドナイトの張り上げた声と共に、観客席がどっと湧き上がる。壇上に立つのは、常闇、轟、爆豪、そして栄えある一位の時崎狂三。四人の姿に、歓声が一層大きく響き渡った。

 

「メダル授与よ!!今年のメダルを授与するのは勿論この人!!」

 

宣言の直後。

 

「HAーHAHAHAHA!!」

 

朗々と響くアメリカンな笑い声。誰もが聞き覚えのあるその声に、生徒たちは一斉に上を見上げた。屋根の上には見慣れたシルエット。

 

「オールマイトだ!」

 

巨大な人影は空へと跳躍し、鮮やかな回転を決めて壇上に降り立つ。

 

「私が!!メダルを持って来「我らがヒーロー!!オールマイトォ!!」

 

……しかし。ミッドナイトの紹介と完全に被ってしまった。

 

「……!」

 

「被っちゃった……」

 

(被りましたわね……)

 

壇上の空気が一瞬だけ妙な気まずさに包まれる。だが、そこはオールマイト。何事もなかったかのように白い歯を輝かせて親指を立てた。

 

気を取り直し、メダル授与が始まる。轟、常闇、爆豪と順に首へメダルがかけられ、彼らは力強く抱きしめられた。

 

そして最後に、時崎の番となる。

 

「さて、時崎少女!一位おめでとう!騎馬戦からガチンコバトルの策略まで、私も驚きの連続だったよ!」

 

眩しい笑顔と共に、金色のメダルが狂三の首に下げられる。

 

「光栄ですわ」

 

涼やかな微笑みを返す狂三。だが、当然のように抱擁が来るかと思いきや――寸前で止まった。代わりに差し出されたのは大きな手。

 

「……握手でよろしく!」

 

どうやらコンプラ的な判断が働いたらしい。彼女は内心苦笑しながらも、その手を受け取った。

 

「さァ!今回は彼ら彼女らだった!!しかし!!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通り!競い合い、高め合い、さらに先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」

 

観客を振り返り、オールマイトが力強く言葉を投げかける。その声はスタジアム全体を揺らした。

 

「てな感じで最後に一言!!皆さんご唱和ください!!せーの!!」

 

拳を掲げ、観客も声を合わせる――はずだった。

 

「「「プルス・ウルt――」」」

 

 

「お疲れ様でした!!!」

 

……しかし、場内には明らかに違う声が響き渡った。観客席からは一斉にツッコミが飛ぶ。

 

「そこはプルス・ウルトラでしょ!!」

 

壇上の空気が再びぐらりと揺れた。

 

(……本当に締まりませんわね)

 

狂三は、場違いな騒がしさを楽しむかのように小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育祭が終わったある夜。時崎は優雅に椅子へと腰をかけていた。白磁のカップに注がれた紅茶からは、ふわりと芳醇な香りが立ち昇る。

 

だが、部屋の空気は決して穏やかではなかった。

 

机の向こう側には――彼女自身の分身たちがずらりと整列し、全員が腕を組み、険しい顔で本体を睨みつけているのだ。

 

「わたくし達……もう我慢の限界ですわ」

「そうです! 踏み台扱いはもう嫌ですの!」

「銃のキャッチ係なんて危なすぎますわ!」

 

次々と浴びせられる抗議の声。体育祭での無茶な使われ方に、不満が鬱積していたのだ。

 

そして、一際目立つ存在が一歩前に出た。チアガール衣装に身を包み、ポンポンを抱えた“チアガール時崎”である。彼女は本体を睨みながらも毅然と告げた。

 

「『わたくし』! あの格好で観客の前に立たされた時の羞恥、どう責任を取るおつもりですの!?」

 

時崎(本体)は涼しい笑みを浮かべ、カップを持ち上げて優雅に口をつける。

 

「まぁまぁ、みなさん。わたくし達は結局ひとつ。役割分担は必要ですわ」

 

だが、分身たちは一斉に首を横に振った。

 

「いいえ! わたくし達はストライキします!」

 

「本体が反省しないなら、もう戦闘協力はいたしませんわ!」

 

「……ストライキ?」

 

紅茶を口に含んだまま、時崎が目を瞬かせる。

 

すると分身たちは一斉に背を向け、どこからともなく取り出したテーブルを床に広げ、当然のように腰を下ろした。

 

「さぁ、チアガールのわたくし、クッキーのご準備を」

 

「銃キャッチ係のわたくし、牛乳をお願いしますわ」

 

「踏み台係のわたくしは『わたくし』に嫌味を言う担当ですわ」

 

わいわいと賑やかに始まるお茶会。本体を除け者にした、“ストライキ茶会”の幕開けである。

 

「……なるほど。本体である『わたくし』に反旗を翻す、と」

 

時崎はゆるりと立ち上がり、腰に手を当てて目を細める。そして、にっこりと笑みを浮かべ、低く囁いた。

 

「ですが忘れていませんか? “わたくし達”を操る権限は……本体にしかないという事を」

 

次の瞬間、分身たちの動きがぴたりと止まった。

ざわ……ざわ……と先ほどまでの賑やかな空気が一気に凍りつく。

 

「……やはりストライキは中止で」

 

「そ、そうですわね! 仲良くやるのが一番ですわ!」

 

「流石わたくし……やり口が汚いですわ……」

 

分身たちは見事なまでの掌返しを見せ、テーブルを片付けて整列し直した。

 

満足げに紅茶を啜る時崎。本体の周囲に戻った分身たちを見渡しながら、静かに呟く。

 

「ふふ……やっぱり、わたくしが一番ですわね」

 

――と、その時。

 

テーブルの端に取り残されていたチアガール時崎が、ぽつりとつぶやいた。

 

「……でも、この衣装だけは本気で考え直してくださいまし」

 

一瞬の沈黙。次の瞬間、他の分身たちが吹き出し、部屋は再び笑いに包まれた。

 

本体の時崎は知らぬ顔で、優雅に紅茶を飲み干していた。

 

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