わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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今回少し短めです。

アンケート協力ありがとうございました


職場体験に向けて

体育祭の振替休日も終わり、雄英高校に再び日常が戻ってきた。時崎もまた、いつものように登校していた――が、その途中で声がかかった。

 

「あっ……あの!!」

 

振り返ると、自分より少し背の低い他校の男子生徒が、顔を赤くしながら立っていた。

 

「……はい?」

 

恐る恐る応じると、生徒は深呼吸をして叫んだ。

 

「体育祭見ました!!ファンです!!サインください!!」

 

そう言って彼女の手に渡されたのは、マッキーペンと色紙。

 

「ええ、かまいませんわ」

 

狂三は流れるような手付きで名前を書き入れ、にっこりと微笑んで色紙を返した。

 

「はいどうぞ。大事にしてくださいまし」

 

「ありがとうございます!!」

 

……その直後。

 

「あのっ、私も!」

「俺も!」

 

雪崩のように生徒が押し寄せ、サインを求められる。狂三は微笑みを崩さぬまま対応したが、さすがに5分もかかってしまった。

 

ようやく人波から解放され、校門をくぐる。教室に辿り着くと自席に腰掛け、静かに相澤先生を待つことにした。

 

やがて続々とクラスメイトたちが入ってきて、教室は一気に賑やかさを取り戻す。

 

「やっぱりテレビで中継されると違うねぇ! 来る途中、めっちゃ声かけられたよ!」

 

「俺も!」

 

「私なんかジロジロ見られて恥ずかしかった!」

 

「……葉隠さんは、いつも見られてないんじゃ」

 

芦戸のツッコミに笑いが弾けた、その時だった。

 

「おはよう」

 

低い声と共に、相澤消太が教室に入ってきた。途端に、さっきまでの喧噪はぴたりと止む。

 

「相澤先生、包帯取れたんですね。良かった」

 

相澤は肩を竦める。

 

「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。……んなことより、今日のヒーロー情報学は特別だぞ」

 

特別――?

クラスに緊張が走る。時崎も目を細め、興味深げに相澤を見つめた。

 

そして次の瞬間。

 

「……コードネーム。ヒーロー名の考案だ」

 

「「「「胸膨らむやつ来たぁぁぁ!!!」」」」

 

一斉に爆発する歓声。教室中がまるで花火大会のように騒がしくなる。

 

「……というのも、体育祭前に話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる」

 

一拍で静かになったのを見て、相澤は続ける。

 

どうやら先日の体育祭を見たプロヒーローから、すでに指名が多数届いているらしい。

 

「指名が本格化するのは実戦経験を積み、即戦力となる二、三年からだ。つまり今回一年のお前らに来た指名は、将来性に対する興味に過ぎない。……卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてこともよくある」

 

その現実的すぎる言葉に、教室がざわめく。

 

「大人は勝手だ」

 

誰にともなく、峰田が小さく呟いた。

 

時崎はその言葉に、わずかに唇を弧にして微笑む。大人の都合に振り回される――それはこの世界に限った話ではないのだ。

 

 

 

 

「……で、その集計結果がコレだ」

 

相澤が端末を操作すると、黒板に投影されたリストが一斉に映し出される。体育祭を観戦していたプロヒーローからのドラフト指名数。その集計結果は一目でわかるほど偏っていた。

 

「例年ならもっとばらけるんだがな。今年は三人に集中した」

 

黒板に並ぶ名前の中で、ひときわ数字が大きいのは――時崎、轟、爆豪。その三人で他を圧倒していた。

 

 

時崎が約5200、轟が約4100、爆豪が約3500だった

 

 

(爆豪さんが轟さんより少ない……少し意外ですわね)

 

狂三は心中で小さく驚きを漏らした。

 

「だーー白黒ついた!」

 

「見る目ないよね、プロ!」

 

「爆豪と轟の順番おかしくね?二位の爆豪が三番目じゃん」

 

「爆豪は凶悪なツラが嫌われたんじゃね?」

 

「プロなら避けんなや!」

 

次々と飛び交う声に、爆豪は立ち上がって吠えるが相澤先生は目つきを鋭くしクラスを静かにさせ、淡々と次の説明へと移る。

 

「……これを踏まえてだ。指名の有無に関係なく、全員に“職場体験”へ行ってもらう。プロの活動を実際に経験し、より実りある訓練をするためだ。まぁ、おまえらはすでにUSJで先に経験してしまったようなもんだがな」

 

その言葉に教室内が静まる。緊張と期待が入り混じる沈黙の中、相澤は淡々と告げた。

 

 

その言葉に、生徒たちの表情が引き締まる。

 

(なるほど……だからこそ“ヒーロー名”という事ですの...)

 

時崎は静かに納得した。

 

「まあ仮ではあるが、適当なもんは……」と相澤が口にしかけたその時。

 

ガラリ、と勢いよく扉が開く。

 

「付けたら地獄を見るわよ!」

 

 

『『『ミッドナイト先生!!』』』

 

 

艶やかな声と共に入ってきたのは、相変わらず際どい衣装を身を包んだミッドナイトだった。

 

 

「この時に決めた名がそのままプロ名になることだって多いんだから! 心して決めなさい!」

 

生徒たちの緊張感が一気に跳ね上がる。相澤先生ではネーミングセンスの査定は無理――だからこそ、ヒーロー名の審査官として呼ばれたのだ。

 

 

ヒーロー名の考案を始めてから十五分ほどが経った頃。教室の空気には少しずつ緊張と期待が入り混じり、紙にペンを走らせる音が静かに響いていた。ちらほらと書き終えた者が出てきて、ミッドナイトが楽しげに手を叩く。

 

「じゃあそろそろ、出来た人から発表していってね!」

 

最初に立ち上がったのは青山だった。彼は教壇の前に進み、派手な決めポーズと共に宣言する。

 

「行くよ……輝きヒーロー! I can not stop twinkling!!」

 

教室に微妙な沈黙が流れる。出てきた名前はまさかの英文。

 

「ここは Iを取って、 can’t に省略した方が呼びやすいね」

 

ミッドナイトが軽やかに指摘を入れる。

 

「それね、マドモアゼル」

 

青山は満足げに頷いた。

 

(……ミッドナイト先生、指摘が少しずれている気がしますわ)

 

時崎は心の中でそう思った。

 

次に前へ出たのは芦戸三奈。元気よく手を挙げて名乗りを上げる。

 

「次、私ね!!エイリアンクイーン!!」

 

一瞬、教室がざわつく。

 

「2!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」

 

ミッドナイトが思わずツッコミを入れた。

 

「ちぇー」

 

芦戸は肩を落とし、がっかりという雰囲気を出していた。

 

そこに、クラス全体の心の声が重なった。

 

((馬鹿野郎!!最初に変なのが来たせいで大喜利っぽい空気になったじゃねぇか!!))

 

このままでは空気が崩壊するかと思われたその時。

 

「ケロ。じゃあ次、私良いかしら」

 

控えめながらも手を挙げたのは蛙吹梅雨だった。

 

「はい、梅雨ちゃん!」

 

彼女は教壇の前に立ち、小さく咳払いをしてから言った。

 

「小学生の時から決めてたの。梅雨入りヒーロー……FROPPY」

 

「カワイイ!!親しみやすくて良いわ!! 

皆から愛されるお手本のようなネーミングね!!」

 

ミッドナイトが満面の笑みで褒め称える。

 

教室は和やかな拍手に包まれ、大喜利じみた空気から一気に正常へと戻った。

 

(蛙吹さん、さすがですわね)

 

時崎は静かに微笑んだ。

 

 

それぞれが順にヒーロー名を発表していく中、ついに爆豪の番が巡ってきた。クラスの空気が一瞬、ぴんと張り詰める。

 

(爆豪さんのヒーロー名……)

 

時崎も、その様子に少なからず興味を向けた。爆豪は堂々と立ち上がり、教壇の前に進み出ると、口を開いた。

 

 

 

「爆殺王」

 

 

 

短く、強く。彼らしい自信に満ちた名乗りだった。

 

だが――

 

「そういうのはやめた方が良いわね」

 

「なんでだよ!?」

 

ミッドナイトが即座に却下した。あまりにもノータイムな対応に、クラスの空気が少し和らぎ、苦笑が広がる。

 

その光景を見届けると、時崎はペンを机に静かに置いた。ゆったりと立ち上がり、視線を前へ向けて歩み出る。

 

靴の音を響かせ、教壇に立つ。背筋をすっと伸ばし、教室を見据えた。

 

 

「わたくしのヒーロー名は――」

 

 

一拍の間を置き、声を高らかに響かせる。

 

 

 

 

 

 

「ナイトメア」

 

 

 

 

 

 

「ナイトメア……悪夢、だよな?」

 

誰かが呟いた瞬間、教室にざわめきが広がった。

 

 

『ナイトメア』

 

 

日本語にして『悪夢』を意味する単語。ヒーロー名にまず使われることはない不吉な言葉。それをあえて名乗った時崎に、生徒たちの視線が集まる。

 

ミッドナイトが興味深げに問いかけた。

 

「ナイトメア……どうしてその名を?」

 

狂三は微笑を浮かべ、静かに答える。

 

「わたくしの個性、《刻々帝》は派手な破壊力はありません。ですが、時を操り戦況をねじ曲げるその姿は、敵から見ればまさしく“悪夢”そのもの。例え力が強大であろうと、知らぬ間に時間を奪われ、勝機を失う……それがわたくしの戦い方ですわ」

 

「おお……」

 

感嘆の声が、自然と漏れる。だが時崎はさらに言葉を重ねた。

 

「ですが“悪夢”とは恐怖だけではございません。人は悪夢を見て、そこから覚めることで安堵し、より強く目覚める。わたくしは、誰かにとっての試練であり、その後押しとなる存在でありたい。そう思い、この名を選びましたの」

 

しんと静まり返る教室。その余韻を破ったのは、ミッドナイトの手を叩く音だった。

 

「……なるほどね! ただ怖がらせるだけじゃなく、意味を重ねるところがいいわ! 《ナイトメア》――立派なヒーロー名よ!」

 

狂三は優雅に一礼した。

 

「ありがとうございます」

 

その姿に、クラスメイトたちは自然と頷き合う。

 

「ナイトメア……似合ってるな」

 

「ヴィランからしたらマジで悪夢そのものだよな、時崎の個性って」

 

「オシャレでカッコイイ!」

 

囁き合う声の中で、時崎の口元には満足げな笑みが浮かんでいた。

 

 

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