わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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職場体験-③

二日目の朝、時崎と轟は再び事務所に集まり、パトロールの準備を整えていた。まだ陽が昇りきらぬうちから出発し、午前は人通りの多い商業区を、午後は住宅街を中心に回る。

 

「歩くときは視線を絶やすな。周囲を“見張る”意識を持て」

 

先頭を行くエンデヴァーの声は低くも鋭い。

 

時崎はすぐさま視線を巡らせ、人々の表情や動きに意識を傾けた。普段なら気に留めないような仕草も、注意して観察すれば怪しさが浮かび上がる。

 

「……なるほど、こういうことですのね」

 

独りごちる彼女に、バーニンが小声で「気付けたら上出来」と笑みを見せる。

 

午後、商店街で小規模なヴィランが暴れ出す事件が発生した。即座にエンデヴァーが制圧へと飛び込み、轟と狂三には周囲の安全確保が任された。エンデヴァーによって個性使用許可は出されている為、二人は個性を発動させる。

 

「こっちに下がってくださいまし!」

 

狂三は群衆を導きながら銃口をヴィランへと向ける。無闇に撃つことは許されないが、牽制と間合い取りだけでも十分に役立った。

 

一方の轟は壁に氷を張り巡らせ、逃げ遅れた人々の盾を作る。炎で隙を突こうとするが、加減が難しく、結果的に氷に偏った。

 

「……まだ甘いな」

 

エンデヴァーが一言吐き捨てる。だが、その口調に冷たさはなく、修正点を即座に叩き込むような厳しさだった。

 

夜――。

 

再び事務所の訓練場。日中の疲労を抱えたまま、二人は個性訓練に身を投じる。

 

「焦凍! 炎を恐れるな、しかし暴れさせるな! “燃やす”のではなく“灯す”んだ!」

 

「ちっ!」

 

轟は必死に炎を絞り出し、制御の糸を掴もうともがく。

 

「時崎、個性を封じられた時を想定しろ! それでも戦えるかどうかが真のヒーローだ!」

 

「……承知しましたわ!」

 

狂三は汗で滑る掌を握り直し、素手で立ち向かう。エンデヴァーの繰り出す模擬攻撃を必死に捌き、何度も床に叩きつけられながらも立ち上がる。

 

スケジュールは苛烈そのもの。だが、二人にとっては何よりも実りある時間だった。

轟は力の加減を、狂三は力を持たぬ戦い方を――。

互いに違う課題を抱えながら同じ空間で汗を流していた。

 

 

職場体験三日目。

 

午前のパトロールを終えた時崎たちは、新幹線に揺られ、夕暮れ迫る頃に保須市へと到着していた。街は一見穏やかに見えたが、エンデヴァーの表情は常に険しい。

 

「ヒーロー殺しステイン――奴の出没はこの街が中心だ。油断はするな」

 

彼の低い声に、時崎は内心苦笑する。

 

(……職場体験というよりインターンですわね。本当に容赦がありませんわ)

 

そう思っていた、その矢先だった。

 

――ドォンッ!

 

突如として爆発音が街を揺るがし、赤黒い炎がビルの間から立ち昇った。

群衆が悲鳴を上げ、混乱の波が一気に押し寄せる。

 

「焦凍、時崎!事件だ、ついてこい」

 

エンデヴァーが振り返りざまに吠える。

 

「ヒーローというものを見せてやる!」

 

即座に二人はその背中を追った。

 

火柱の先――そこにいたのは異形の存在だった。

巨大な人影。その背からは無数の翼が伸び、羽ばたくたびに轟音を立てる。筋肉は異常に膨張し、剥き出しの脳が脈打ちながらむき出しで露出していた。

 

「……脳無」

 

時崎の瞳が細まる。

 

(何故こんなところに……?)

 

脳無の群れが羽音を響かせ、一斉に襲いかかってくる。

 

「来ますわよ!」

 

狂三は即座に銃を構え、引き金を引く。乾いた銃声が夜気を裂き、銃弾は鋭く飛び、脳無の注意をこちらへ引きつけた。

 

「今だ!」

 

轟が地面へ手を突き、瞬時に氷結を広げる。

氷は翼の付け根から脚部へと絡みつき、動きを奪った。

 

その刹那――

 

「燃え尽きろォォ!」

 

エンデヴァーの炎が唸りを上げ、剥き出しの脳に直撃する。

轟の氷と時崎の銃撃で動きを止められた脳無は、悲鳴のような咆哮を上げながら、豪炎に呑み込まれていった。

 

炎の照り返しに、時崎の顔が赤く染まる。

 

(……これが、ナンバー2の実力……)

 

ただ圧倒するだけではない。自らの力を最大限に発揮するために、仲間の動きを瞬時に利用し、連携に変える。その姿を見て、時崎は改めて「エンデヴァーの下を選んだ意味」を実感していた。

 

 

 

戦闘が一通り収束したその直後、時崎のポケットで携帯が震えた。

画面を覗くと――送信者は緑谷出久。

 

(緑谷さんから……?)

 

本文はなく、ただ一つ「位置情報」のピンが表示されているだけだった。場所はここ保須市内。しかも現在地からそう遠くない。

 

隣で携帯を確認していた轟も眉をひそめる。

 

(まさか……ヒーロー殺し)

 

その時。

 

「お前たち!何をしている!携帯じゃない、俺を見ろ!」

 

エンデヴァーが怒鳴る。

 

だが轟は返事をせず、進路を変えて走り出した。その背を見たエンデヴァーの声がさらに荒ぶ。

 

「どこへ行く気だ、焦凍!!」

 

轟は振り返りもせずに叫んだ。

 

「江向通り4-2-10の細道!そっちが済むか、手の空いたプロがいたら応援を頼む!お前ならすぐ解決できるだろ。……友達がピンチかもしれねえ!」

 

そう言い残し、氷を撒き散らす勢いで駆け去っていった。

 

「エンデヴァーさん」

 

時崎が一歩前に出て、真剣な眼差しを向ける。

 

「クラスメイトから保須市内の位置情報が送られてきましたの。この状況ですから……事件に巻き込まれている可能性が高い。どうか、行かせてくださいまし」

 

エンデヴァーは一瞬戸惑いの色を浮かべる。

だがその逡巡を断ち切るように、ヒーローの声が響いた。

 

「エンデヴァー!後ろだッ!」

 

振り返るより早く、背後から巨大な脳無が跳びかかってくる――。

 

「……させませんわ」

 

時崎の声が低く響き、影が地面を這う。

次の瞬間、漆黒の空間が現実を侵食し、禍々しい影が開かれた。

 

【時喰みの城】

 

飛びかかった脳無の巨体は、その門に飲み込まれるように吸い込まれていく。近くにいた数体も同様に、抗う間もなく影に囚われ、沈んでいった。

 

「なっ……!」

 

サイドキックたちは目を見張る。

 

時崎の左目の時計の針が、カチリと音を立てて逆回転を始めた。激しい速度で、狂おしいほどに。

 

(体育祭で消費した分……これでようやく取り戻せますわね)

 

彼女の唇に冷ややかな微笑が浮かぶ。

紅の瞳に、夜の街灯がちらりと映えた。

 

 

漆黒の影が収まり、辺りに静寂が戻る。

時間を吸い込まれた脳無は最終的に分身の時崎達によって頭を撃ち抜かれた。

 

「……っ、なんて力だ」

 

サイドキックの一人が息を呑む。

 

エンデヴァーは一歩前へ出て、腕を組みながら時崎を睨み据えた。

 

「……余計な真似をするな」

 

だがその言葉を、時崎は涼やかな微笑で遮った。

 

「エンデヴァーさん。これで“貸し”一つですわ」

 

「……何?」

 

「わたくしが後ろの脳無を封じなければ、背を取られていたでしょう?No.2のヒーローとはいえ、致命傷を受ける可能性もありましたわ」

 

紅茶を飲むかのように軽い口調。それでいて瞳には一切の揺らぎがない。その挑発的な眼差しに、エンデヴァーの顔が僅かに歪む。

 

「フン……生意気な小娘だ」

 

「貸し一つ。……ですから、行かせていただけませんか?友の危機を黙って見ているほど、わたくしは冷淡ではありませんの」

 

言外に「借りを返せ」と告げる声色。事実を突きつけられたエンデヴァーは、不本意ながらも言葉を返すしかなかった。

 

「……好きにしろ。ただし死ぬな。死んだら借りを返す相手もいなくなる」

 

その言葉に、時崎は小さく会釈し、スカートを翻した。

 

「ええ、ありがとうございます」

 

月明かりに照らされ、彼女の影が伸びる。

次の瞬間、轟の後を追うように夜の街へと駆け出していった。

 

エンデヴァーはその背中を見送りながら、低く唸る。

 

 

ひと気のない路地に、金属音と怒号が響いていた。緑谷、飯田、そして轟。しかし緑谷と飯田は地面に倒れていた。その前にいるのは血に塗れた狂信者――ヒーロー殺しステイン。

 

(やはり……あれはヒーロー殺し)

 

建物の影から様子を窺った時崎の目に、その異様な光景が映る。彼女はすぐに判断を下した。

 

「――行きますわよ、わたくしたち」

 

漆黒の影が広がり、数体の“時崎”が具現化する。彼女たちは一斉に路地を駆け抜け、戦場を挟み込むように展開した。

 

次の瞬間、夜を裂く銃声が轟く。本体と分身が放つ無数の弾丸が、雨あられのようにステインへと迫った。

 

「チッ……!」

 

舌打ちをしながらも、ステインは紙一重で弾丸を躱す。しかし背後から襲いかかる弾幕までは避けきれず、肩口と太腿に命中した。

 

さらに追い打ちとばかりに、背後の分身がステインの刀へ弾丸を撃ち込む。金属音とともに刃が軋み、刀身が亀裂を走らせて破損した。

 

「ぐ……っ!」

 

武器を失ったステインが一瞬動きを止める。その隙を逃さず、轟が氷を放った。白い壁が一気に路地を覆い、敵の動きを封じ込める。

 

「遅れて申し訳ございません、皆さん」

 

氷の壁の向こうから歩み出た時崎が、銃口を下げながら静かに告げた。

 

「時崎!」

「時崎さん!」

「時崎君!」

 

緑谷と飯田が同時に声を上げる。その表情には、安堵と驚きが混ざっていた。

 

 

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