わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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期末試験に向けて

雄英高校1年A組のホームルームが始まった。

 

「えー……そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが一ヶ月休める道理は無い」

 

開口一番、相澤先生の言葉に教室内へ緊張が走る。嫌な予感を覚えた生徒たちは息を呑んだ。

 

「まさか……」

 

呟きが漏れる中、相澤は淡々と告げる。

 

「夏休み、林間合宿やるぞ」

 

その瞬間、教室は爆発した。

 

『『『知ってたよ!!やったーーー!!!!』』』

 

雄叫びのような歓声が響き渡る。

 

一方、時崎は口元に指を添え、静かに微笑んでいた。

 

(林間合宿……すっかり忘れていましたわ)

 

林間合宿。それは1年A組の生徒たちが待ち望んでいた一大イベントの一つだ。

 

「肝ためそー!!」

「風呂!」

「花火!」

「カレーだな!」

「行水!」

 

それぞれが思い描く楽しみを口にし、教室は一気にお祭り騒ぎとなった。

 

(みなさん、楽しそうですわね……)

 

時崎は穏やかな表情を浮かべる。

 

「いかなる環境でも正しい選択を……か、面白い」

 

常闇が低く呟き、

 

「寝食みんなと!ワクワクしてきたぁ!」

 

上鳴は拳を突き上げる。

 

だが――。

 

「ただし」

 

相澤先生の一睨みで、教室の熱気は一瞬で鎮火した。生徒たちが静まり返る中、彼は無慈悲に続ける。

 

「その前の期末テストで合格点に満たなかったやつは……学校で補修地獄だ」

 

「皆ー!!がんばろーぜ!!!」

 

峰田が声を張り上げるも、爆豪は机を蹴飛ばす勢いで吐き捨てた。

 

「クソくだらねぇ」

 

そんな中、時崎にとって期末試験は何の脅威にもならなかった。中間テストではトップの成績を収め、普段からも勉学を怠らない彼女に焦りなど微塵もない。

 

時崎はクラスメイトたちの浮き沈みに満ちた反応を楽しむように眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六月最終週。期末テストが目前に迫る中、1年A組の教室はどこか落ち着かない空気に包まれていた。

 

「全っ然勉強してねー!!!」

 

「してねー!!!」

 

上鳴と芦戸が同時に叫び声を上げる。二人は中間テストでそれぞれ21位と20位という低迷組。このままでは赤点の危機に瀕するのは明らかだった。

 

「体育祭やら職場体験やらで、全く時間がねぇ〜!」

 

上鳴が机に突っ伏せば、芦戸も両手を振りながら大きく頷く。

 

「確かに行事続きではあったが……」

 

15位の常闇が淡々と指摘する。

 

中間テストは範囲も狭く、勢いで乗り切った者も多かった。しかし、期末は筆記試験だけでなく――。

 

「演習試験もあるのが辛ぇとこだよなぁ〜」

 

そう口を挟んだのは、中間で10位に食い込んだ峰田。

 

(……よく考えたら、クラスの半数以上は峰田さんに学力で負けていることになりますわね)

 

時崎は静かに気づいたが、その事実を口にするのは得策ではないと判断し、黙した。

 

「……同族だと思ってた!!」

 

「てめぇみたいなやつはバカで初めて愛嬌が出るんだろが!どこに需要あんだよ!!」

 

芦田と上鳴が同時に峰田へ噛みつく。しかし当の本人は胸を張ってこう答えた。

 

「世界……かな」

 

あまりにも堂々とした物言いに、二人は思わず頭を抱える。

 

「芦戸さん、上鳴くん!が、頑張ろうよ!」

 

緑谷が慌てて声を上げる。

 

「やっぱり全員で林間合宿に行きたいもん! ね!」

 

「うむ!」と飯田が真面目に頷き、轟は短く「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」と告げる。

 

「ぐはっ!!」

 

「言葉は刃物だって学校で習わなかったのか、おめーら!」

 

その無自覚に鋭利な一言が、芦田と上鳴の心に深々と突き刺さった。

 

ちなみに成績は、緑谷が5位、飯田が3位、轟が6位。上位陣は軒並み安定している。

 

「お二人とも。座学であれば、ワタクシがお力添えできるかもしれませんわ」

 

凛とした声で手を差し伸べたのは、A組1位の八百万。

 

「ヤオモモ〜〜!!!」

 

芦戸と上鳴は涙を流さんばかりの勢いで八百万に飛びつく。確かに彼女に教えを乞うなら、点数の底上げは期待できるだろう。

 

そんな中、そっと時崎の隣にやって来た影があった。

 

「……あのー時崎さん」

 

「はい、なんでしょう?」

 

おずおずと声をかけてきたのは14位の麗日だった。頬を赤くしながら、言葉を絞り出す。

 

「わ、私に……勉強を教えてください!」

 

最後は早口になり、即答に近い勢いで頭を下げる。

 

時崎の学力順位は八百万と同じく堂々の1位。教わるにはこれ以上ない人材であることは、麗日自身がよく分かっていた。

 

狂三は静かに唇を緩め、優雅に微笑んだ。

 

「ふふ……よろしいですわ。ご一緒に、頑張りましょう」

 

 

 

休み時間のざわめきの中で、八百万の周りにはいつの間にか人だかりができていた。

 

周囲の生徒たちが次々と声をかけ、ちょっとした相談や雑談を持ちかけるたびに、八百万はどこか誇らしげに、そして楽しそうに受け答えをしている。

 

その表情には、頼られている喜びが隠しきれなかった。

 

会話の端々に飛び出す話題は、講堂の使用許可や紅茶の銘柄といった、いかにも育ちの良い者らしい内容で、聞いている者に「さすがお嬢様」と思わせる気品が漂っていた。

 

少し離れた場所からその様子を眺めていた麗日がおもむろに口を開いた。

 

「嬉しそうだね、八百万さん」

 

隣にいた時崎が小さく頷き、柔らかな声で応じる。

 

「ええ、そうですわね」

 

二人の視線の先では、八百万が笑顔で人々と語らい、まるで場を華やかに照らす灯火のように中心に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を終え、午後の授業が終わった放課後。教室は試験を控えた焦りと、林間合宿を夢見る浮ついた雰囲気で満ちていた。

 

「んだよ、ロボならラクチンだぜ!!」

 

上鳴と芦戸が声を揃え、満面の笑みを浮かべる。どうやらB組の生徒から「期末は入試と同じロボ試験になる」という噂を耳にしたらしい。

 

「やったぁー!楽勝じゃん!」

 

「これで林間合宿もバッチリだ!!」

 

二人の能天気な様子に、教室は一瞬和やかな笑いに包まれる。しかし――。

 

(……雄英の校風は自由。土壇場で試験内容を変えることくらい、容易くやりかねませんわね)

 

時崎は胸中で冷ややかに呟いた。楽観に酔う二人の背中を見つめながら、嫌な予感がじわりと広がっていく。

 

「お前らは対人だと個性の調整が大変そうだからな」

 

常闇が低く呟くと、芦戸と上鳴は勢いよく頷いた。

 

「あぁ!ロボならブッパで楽勝だ!!」

 

「後はヤオモモに勉強教えてもらえば――!」

 

だが、その会話を荒々しく断ち切ったのは爆豪だった。

 

「人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ。何がラクチンだ、アホが」

 

刺すような声に、二人はむっと振り向く。

 

「アホとは何だ、アホとは!!」

 

「うるせぇ!調整なんざ勝手にできるもんだろ!……なぁ、デク!」

 

不意に話を振られた緑谷は肩を跳ねさせた。爆豪の声音には、いつもの苛立ち以上のものが滲んでいた。

 

(いつにも増して不機嫌ですわね……爆豪さん)

 

時崎が目を細める。彼女の予想通り、爆豪の視線は鋭さを増して緑谷に突き刺さった。

 

「個性の使い方、ちょっとわかってきたか知らねぇけどよ……てめぇはつくづく俺の神経逆撫でするんだなぁ!」

 

(……やはり、この前ヒーロー基礎学で行った救助レースのことですわね)

 

狂三の脳裏に、緑谷が爆豪のような動きを見せた瞬間がよみがえる。

 

「体育祭みてぇなハンパな結果はいらねぇ……!次の期末なら、個人成績で否が応でも優劣がはっきりする……!」

 

爆豪の表情は憤怒を越え、狂気すら漂わせていた。

 

「完膚なきまでに差ァつけて、てめぇをぶち殺してやる!!轟ィ……時崎ィ……てめェらもなァ!!」

 

轟は無言で受け流す。しかし、時崎だけは違った。

 

「ええ。殺せるものなら、殺してみてくださいまし」

 

その声音は涼やかで、挑発の色を隠そうともしない。

 

「もっとも、わたくしも一度勝った相手に負けるなんて、そんな恥をかくような真似はしませんわ

 

にっこりと、艶やかに微笑む時崎。その一言は、爆豪の心臓を真っ向から撃ち抜くものだった。

 

入学試験で時崎は爆豪を上回った。体力測定こそ爆豪が勝ったものの、体育祭決勝という大舞台では時崎が爆豪を下している。覆しようのない絶対的事実。それを踏まえた上での挑発だった。

 

爆豪の口が開く、しかし言葉は出ない。ただ歯を噛みしめ、憤怒に顔を歪め、時崎を睨みつける。

 

やがて耐え切れなくなったかのように、爆豪は荒々しく教室の扉を蹴り開け、足音高く出て行った。

 

残された教室には、張り詰めた空気と、狂三の微笑だけが静かに漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

期末試験を目前に控え、1年A組の教室にはそれぞれの勉強風景が広がっていた。

 

八百万に頼りきりで勉強を見てもらう者、一人で黙々と机に向かう者、爆豪に教科書で叩かれながら半ば強引に覚えさせられる者……その様子は千差万別だ。

 

時崎はと言えば、優雅にノートを広げ、麗日の質問に丁寧に答えていた。彼女の落ち着いた物腰は、彼女に奇妙な安心感を与えていた。

 

やがて筆記試験は終わり、手応えを感じた上鳴らは八百万へ感謝を口にする。麗日もこれまで以上に自信を持ったようで、顔を輝かせていた。

 

そして迎えた演習試験当日。

ヒーローコスチュームに身を包んだ生徒たちは、指定されたバス停へと集められる。

 

「これより演習試験を始める。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿に行きたいなら、みっともねぇヘマはするな」

 

相澤消太の言葉に、生徒たちは背筋を伸ばした。だが彼の背後には、スナイプやセメントス、エクトプラズムをはじめとする教師たちの姿が並んでいる。

 

(先生方がこれほど……いやな予感がいたしますわね)

 

時崎は心の内で呟いた。

 

「諸君なら、もう察しているだろう。これから行うのは――」

 

「入試みてぇなロボ無双だろ!」

「花火!カレー!肝試しー!」

 

はしゃぐ上鳴と芦戸。しかし、次に現れたのは捕縛布の隙間からひょっこり顔を出した校長・根津だった。

 

「残念!今回は諸事情によって内容を変更しちゃうのさ!」

 

上鳴と芦戸の笑顔が凍り付く。時崎はただ一人、やはりと微笑を浮かべた。

 

校長は淡々と説明を続ける。ヴィランの動向は活発化の兆しを見せており、対抗策としてより実戦に即した訓練が必要だというのだ。ロボットとの戦闘は実用性に乏しい。ならば――。

 

「これからは対人戦闘を見据えた試験とする! 諸君らは二人一組となり、教師の一人と戦ってもらう!」

 

驚きと緊張の空気が広がる。ペアと対戦相手が発表されていった。

 

切島・砂糖ペア、セメントス

上鳴・芦戸ペア、校長先生

常闇・蛙吹ペア、エクトプラズム

飯田・尾白ペア、パワーローダー

麗日・青山ペア、13号

轟・八百万ペア、相澤先生

障子・葉隠ペア、スナイプ

瀬呂・峰田ペア、ミッドナイト

耳郎・口田ペア、プレゼントマイク

緑谷・爆豪ペア、オールマイト

 

 

次々と名前が読み上げられる中、ふと違和感が生まれる。

 

(……わたくしの名がありませんわね)

 

確かに、1年A組は21人。二人組を作れば必ず一人余る。そして、その「余り」は時崎に割り当てられていた。

 

「そんで、時崎は俺と一対一だ」

 

相澤が短く告げた。驚く生徒たちをよそに、彼は続ける。

 

「お前には俺が適任だと判断した。……手加減はしないぞ」

 

ざわつくクラスメイトたち。だが、時崎は唇に微笑を浮かべ、静かに一礼した。

 

「ええ、光栄ですわ。相澤先生――お手柔らかに」

 

「――で、時崎にはハンデがある」

 

その一言に、時崎は小さく首をかしげる。彼女の深紅の瞳が興味深そうに細められた。

 

「ハンデ……ですの?」

 

相澤先生の淡々とした説明が続けられる。

 

「お前の“分身”は強力すぎる。ゆえに今回の試験では、分身によって逃げ切ることは禁止とする。さらに……俺が“本体”と“分身一人”を捕まえた時点で、お前の試験は失敗とみなす」

 

「まあ……」

 

狂三の口元に微笑が浮かぶ。まるで愉快な遊戯を前にした貴婦人のように。

 

「つまり、「わたくし」が逃げ回るだけでは合格できない。しかも分身を一人でも捕まえられればアウト。……ふふ、随分と縛りが多いのですわね」

 

彼女の笑みの奥に、冷ややかな計算の色が宿る。

 

普通なら圧倒的に有利な能力が、条件一つで逆に足枷へと変わる。だが――それを「面白い」と感じるのが時崎狂三という少女だった。

 

「結構ですわ。ならば、その制約さえも楽しませてもらいましょう」

 

優雅にスカートの裾をつまみ、一礼する狂三。

その瞳には、すでに勝利の策を編む者特有の自信が漂っていた。

 

 

 

その説明をした後、思い出したかのように、相澤先生が一つの説明を加えた。

 

「……言い忘れていたが、教師側にもハンデが課されている。

 

「全員、自分の体重の半分に相当する錘を装着している」

 

「えぇ!? そ、そんな大変な……!」

 

麗日が驚きの声をあげる。

 

その直後だった。

 

「そんなわけで、サポート科にこんなの作って貰いました、超圧縮お”も”り”ー

 

オールマイトが片手に腕輪型を提げる。オールマイトの半分の体重なら並の生徒は一つ持ち上げるのも困難な重量だ。

 

彼は豪快に胸を張って宣言した――その口調が、どこかで聞いたことのある未来の猫型……いや、タヌキ型の子守ロボットを思わせる妙な響きを帯びていた。

 

「……」

 

その場にいた何人かは顔を見合わせ、必死に笑いを堪える。

 

(き、気のせい……ですわよね?)

 

オールマイトの台詞回しとタイミングがあまりに絶妙で、一瞬場の空気がコメディに変わってしまったのは否定できなかった。

 

 

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