わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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今回、くるみんの分身について独自解釈が含まれます。ご了承ください。

小説のストックがなくなりそう....






期末試験-①

時崎の対決は最後に組まれていた。時間に余裕ができた彼女は、モニターで仲間たちの戦いを見学することにした。視線を巡らせると、同じく観戦していた緑谷と麗日の姿が目に入る。

 

「時崎さんも見学?」

 

緑谷が声をかける。

 

「ええ、そうですわ」

 

時崎は柔らかく微笑み、緑谷の問いに答えた。

 

「けど……なんで時崎さんだけ、ピンポイントで相澤先生と戦うのかな?」

 

麗日が首をかしげる。

 

その疑問に、狂三は答えを悟っていた。

 

「おそらく、個性の相性、ですわね」

 

緑谷の目がわずかに見開かれ、やがて納得するように頷いた。

 

時崎の“銃”は、時を操る能力を媒介にして撃ち出すものであり、個性を消されると銃そのものも消えてしまう。必然的に、彼女の強みは大きく制限されてしまう。だからこそ、彼女の相手に相澤先生が選ばれたのだ。

 

そうしているうちに、一回目の試験が開始された。切島と砂糖のペアが、セメントス先生の前に立つ。

 

 

セメントス先生が地面を操り、瞬く間にコンクリートの壁が伸び上がる。それを切島の硬化と砂糖の怪力で砕き進む二人。しかし、持久力には限界があった。やがて硬化が鈍り、砂糖の動きも甘くなっていく。

 

『戦闘ってのは、いかに自分の得意を押し付けるかだよ?』

 

容赦なく押し寄せるセメントの波が、二人を完全に覆い尽くした。試合終了の合図が響く。

 

観戦していた狂三は、静かに目を細めた。

 

(やはり……個性の相性を重視して、先生方が割り振られているようですわね)

 

彼女の視線は次の戦いへと向けられた。だが、その心のどこかで、最後に待ち受ける自身の一戦を思わずにはいられなかった。

 

 

 

切島・砂糖の敗北から間を置かず、次々と試合が進んでいった。

 

二回戦は蛙吹梅雨と常闇踏陰のペア。相手は分身を自在に操るエクトプラズムだ。数の優位に押されそうになる二人だったが――。

 

「今よ、常闇ちゃん!」

「ダークシャドウ!」

 

蛙吹の冷静な機転が勝敗を分けた。暗闇を利用した常闇の攻撃が本体を直撃し、勝利を収める。

 

三回戦は飯田と尾白のペア。相手はパワーローダー。落とし穴があちこちに開かれ、勝ち目が薄いと思われたが――。

 

「行くぞ、尾白君!」

 

「了解!」

 

飯田の新技レシプロバーストエクステンドで高速で尾白を出口に投げ逃げ切る。制限時間ぎりぎりで勝利を掴み取った。

 

「見事ですわね」

 

モニターから見守っていた時崎は、静かに称賛の言葉を漏らした。個性だけでなく頭脳を駆使するその戦いぶりに、雄英の教えの本質を感じ取っていた。

 

その直後、上鳴電気と芦戸三奈のペアが校長・根津との試合に臨む。

 

「よーし!頭脳戦なら任せろ!」

「カレー!花火!肝試しだー!」

 

明るい声が響いたのも束の間だった。次の瞬間には、二人の動きが完全に封じられていた。

根津校長が描いた周到な罠に絡め取られ、あっけなく行動不能にされたのだ。

 

「いやぁ、実に効率的だね……ヒヒヒヒッ!」

 

そのとき、校長が放った笑い声に、観戦していた何人かの背筋がぞくりと凍りついた。狂気を孕んだような、愉快そうな、それでいて妙に人間離れした笑い。

 

「……きっと気のせい、ですわよね」 

 

時崎はそう呟いたが、どこか不穏な空気を拭い去ることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次々と試合が終わり、ついにクライマックスを迎える。

 

モニター越しに注目を集めているのは、A組担任、相澤消太と、同じくA組の生徒、時崎狂三の対決だった。

 

フィールドは廃れた住宅街。倒壊しかけた建物や狭い路地が入り組み、まるでヴィラン掃討戦を想定したような舞台が広がる。

 

時崎は静かな微笑みを浮かべた。

 

「では、頼みましたわ――「わたくし達」」

 

「ええ、承りましたわ、『わたくし』」

 

路地の影から姿を現したのは、彼女と瓜二つの分身たち。服装も武器も、声色すらも本物と区別がつかない。ひとりが銃を構え、もうひとりは建物の屋上に跳び上がり、さらにもう一人は背後の影へと溶けていく。

 

それはただの幻影ではない。本物の時崎と同じだけの意志と狡猾さを持った“時崎達”だった。

 

 

 

 

 

 

 

相澤先生はすでにゴーグルを下ろし、捕縛布を構えている。

 

相手の個性を封じなければ、戦況は圧倒的不利になることは分かり切っていた。だが問題は、その“本体”がどこに潜んでいるのか、見極めることだった。

 

 

相澤先生は体育祭で気づいていた、時崎の分身達は個性を使うことができない事を、だが個性が使えなくなると余計に探すのか手間になる。

 

 

「……やはり面倒だな」

 

 

 

クラスの中でもトップクラスの戦闘センス。相手の思考を読み切り、罠を仕掛け、時には自らを囮にしてでも勝機を掴もうとする策略家。

 

そして何より、己の個性に絶対的な自信を持ちながら、それを封じられた状況でもなお“勝つ”と信じて疑わない胆力。

 

時崎狂三は、相澤消太にどう立ち向かうのか。

 

戦闘開始の合図と同時に、住宅街に銃声と捕縛布の風切り音が交錯する。 

 

 

 

 

 

 

 

時崎は警戒しながら脱出ゲートへ向かっていた。勝機は僅か、だが逃げ切れば試験は勝利となる。そのとき、背筋を凍らせるような気配が迫る。嫌な寒気が首筋をなぞり、思わず振り返ると、そこに相澤先生が立っていた。

 

(想定より早く接触してしまいましたわね...)

 

「《刻々帝》....」

 

即座に個性を発動しようとした狂三だったが、背後に現れるはずの巨大な文字盤は浮かび上がらず、手に銃も現れない。

 

(やはり、銃も使えませんか)

 

個性が封じられている、そう理解するより早く、捕縛布が彼女を絡め取ろうと迫る。

 

だが時崎は怯まなかった。むしろ愉快そうに唇を吊り上げ、左手を高く掲げた。

 

「何のつもりだ……」

 

警戒心を隠さず呟く相澤。

 

その瞬間、本体の背後、建物の陰から姿を現した分身の一人が、長銃を放り投げた。時崎はそれを迷いなく掴み取り、狙いを定める。

標的は相澤先生のゴーグル。

 

「――っ!」

 

ためらいもなく引き金が引かれ、弾丸は一直線にゴーグルへと突き刺さった。左目を覆うゴーグルに衝撃が走り、一瞬だけ相澤の視界が閉ざされる。そして右手を斜め下に構えて分身から銃を受け取る。

 

人間は『恐怖』を感じるとき、その『恐怖』を遮るために、反射的に瞼を閉じる。人間の本能的動き、その刹那、時崎の個性が解放される。

 

「【七の弾(ザイン)】」

 

重苦しい時間の圧が放たれ、相澤の動きを縛り上げようとする。だが流石はプロヒーロー。捕縛布が素早くしなり、時崎の腕を絡め取り銃口を逸らし、個性を抹消する。

 

「……やはり、そう簡単にはいきませんわね」

 

攻撃を阻まれた時崎は、すぐに後退。近くの建物の影へと飛び込み、再び姿を隠した。

 

相澤はわずかに眉をひそめる。時崎の目、そこには一片の躊躇もなく、プロを真正面から狙撃する冷徹な光が宿っていた。

 

生徒とは思えぬ胆力に一瞬面を喰らいながらも、すぐに分析を進める。

 

先ほど、彼女の手から銃が淡い光に揺らめき、霧散していった光景を思い返す。

 

「……やはり、武器も“個性由来”か」

 

だが、不可解な点がある。分身の一人が投げた銃は、彼の抹消の影響を受けることなく、そのまま世界に残っていたのだ。さらに分身も消えてない。

 

本体の銃は消える。だが、分身と分身の銃は消えない。

 

相澤はすぐに答えを導き出す。

 

「本体が個性で“創った”ものは俺に消せる。だが……“創られてから独立した存在”とその持ち物までは消せない。時崎の分身は……一体ごとに“本物”だってことか」

 

言葉を呟きながら、捕縛布を手に再び構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時崎は、崩れかけたビルの影に身を潜めていた。分身体を7体出現してはいたが、分身の銃で事前に弾を込められたのは5人分だけ。

 

本来なら全員の銃に能力を宿らせ、万全の状態で奇襲を仕掛けたかったが、相澤先生と想定より早く接触したことによってその策は打ち砕かれていた。

 

彼女は冷静に、自らの状況を整理する。

 

(あらかじめ込めていた弾は、一から四までの弾、そして【七の弾(ザイン)】。……あの時に【七の弾】を撃ち損ねたのは痛いですわね。出来れば【五の弾(へー)】や【八の弾(ヘット)】も込めたかったのですが...)

 

分身からの報告で、相澤がこちらに接近していることが告げられる。時崎は妖しく微笑み、スカートを揺らして立ち上がった。

 

「では、参りましょう」

 

本体は正面に姿を現し、分身たちは背後から回り込んで一斉に銃撃を浴びせる。時崎自身は右手を掲げ、長銃を受け取ると、左手を斜め上に伸ばして別の銃を分身から受け取った。前後からの連続射撃が、雨のように相澤へと降り注ぐ。

 

しかし、相澤は冷静に布を操り、器用に射線を防ぎ切った。だが、その直後、時崎の銃口が閃光を走らせる。

 

「【二の弾(ベート)】」

 

時間を縛る一弾が相澤の身体に命中し、その動きを鈍らせた。待ち構えていた分身が一気に背後から捕縛に移ろうとした、その時だった。

 

周囲のビルから、突如として物資や瓦礫がガラガラと落下し始めた。工具や看板、鉄パイプが分身たちの進路を塞ぐ。

 

(あら……?)

 

彼女の瞳がわずかに細められる。

 

実は【二の弾】に撃たれる直前、相澤は既に周囲の建材を落とそうと布を仕込んでいたのだ。動きが鈍ったせいでタイミングはずれたが、妨害には十分だった。

 

その隙に相澤は地を蹴り、時崎の眼前へ肉薄する。捕縛布が蛇のように唸りを上げ、彼女の体を絡め取ろうと迫った。

 

だが時崎は微動だにせず、左腕を真横に伸ばして銃を受け取る。

 

「【三の弾(ギメル)】」

 

放たれた弾丸が布を撃ち抜き、その瞬間、布は繊維ごとボロボロに崩れ落ちた。相澤の目がわずかに見開かれる。

 

時崎はその一瞬の動揺を見逃さなかった。銃を振り捨てて懐に踏み込み、近接戦闘を仕掛ける。分身の動きと合わせ、彼女は相澤を一気に拘束しようとする、だが、相澤は強引に体を捻り、ビルの陰へと飛び退いた。

 

布を失ってなお、その回避は冷静沈着だった。

 

 

((……自分は近接が不得手と言っていたが、随分と鍛え込んできたな。時崎の奴))

 

 

呼吸を整えつつ、相澤は冷静に心中で評した。時崎は愉快そうに口元を歪め、長銃を構え直す。

 

「ふふ……さすがですわね、相澤先生」

 

戦いの幕は、まだ降りそうにない。

 

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