わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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今回戦闘シーンのみ、なので短めです。


期末試験-②

時崎に残された弾は、【一の弾(アレフ)】と【四の弾(ダレット)】のみ。

 

息を整えながらも、彼女の顔には優雅な微笑が張り付いていた。彼女の周囲には幾体もの分身が影のように浮かび、そのすべてが銃口を相澤へと向けている。

 

光景は、まるで一人の少女が指揮する小規模な部隊。圧力は数倍に膨れ上がり、静かな威圧感となって試験場を支配していた。

 

相澤先生は冷静さを崩さぬまま、無駄のない足取りで踏み込む。鋭い眼差しが獲物を射抜き、布がいつでも唸りを上げる準備を整えている。

 

しかしその一歩ごとに、背後から乾いた銃声が割り込む。

 

分身の一人が隙を逃さず引き金を引き、弾丸は彼の進路を塞ぐように飛ぶ。

 

「……くっ」

 

眉間に皺を寄せた相澤先生は、即座に跳び退いた。銃弾は紙一重で頬をかすめ、壁を抉る。ほんの一瞬の遅れが、命取りになる。緊張が空気を硬直させ、汗がじわりと額に滲む。

 

時崎の影は霧のように散り、気配を読ませない。だが、虚空のどこからか甘やかな声が響く。

 

「油断は禁物ですわ、相澤先生。わたくしの影は、常に貴方の死角に潜んでおりますのよ」

 

挑発めいた声音と同時に、銃声が木霊する。だが、時崎自身も理解していた。能力が込められた弾丸の残りはわずか。持久戦に持ち込まれれば、先に限界を迎えるのは自分だと。

 

「そろそろ……決着をつけましょうか」

 

艶やかに笑みを浮かべ、時崎は正面と背後から相澤を挟み込む。

 

しかし次の瞬間。

 

「捕まえたぞ」

 

布が閃き、正面にいた時崎の両腕を絡め取る。背へとねじられた銃口、硬く縛られる関節。迷いのない一連の動作は、熟練の捕縛者そのもの。背後にいた時崎も狙われ、やむなく撤退する。

 

「いい作戦だったと思うぞ、時崎」

 

相澤は捕縛布を締め上げながら淡々と告げる。

 

「個性が制限される中、唯一使える分身を活かし、俺の死角を突く……合理的だ」

 

そして瞳を細める。

 

「それに、自身の腕を時計の針に見立てる、あの癖だ。普段からやってなければ、俺も気づかなかっただろうな」

 

捕らえられた少女は、ふっと微笑んだ。

 

「ええ、その通りですわ。ですが……相澤先生。致命的なミスを犯していらっしゃいますの」

 

「……致命的なミス?」

 

「わたくしが最初から【四の弾(ダレット)】を込められた銃を持ってたことに、気づかなかったことですわ!」

 

叫ぶと同時に、時崎は手中の銃を落とし、踵で後方へと蹴り飛ばす。相澤の瞳孔がわずかに収縮する。

 

 

四の弾(ダレット)

 

 

撃たれた対象の時間を巻き戻し、負傷や疲労を癒す、唯一無二の回復の弾丸。

 

彼の思考が一瞬止まる。癒やしの弾丸をなぜ、わざわざ他者に託すのか。自らに撃てば形勢逆転の糸口になるはずだ。

 

脳裏に悪寒が走る。

 

「……まさか」

 

「ええ、そのまさかですわ」

 

捕らえられているのは――分身。

 

 

蹴り飛ばされた銃は、もう一人の分身の手に収まり、元から持っていた【一の弾】と合わせて二挺の銃口が迷いなく火を噴く。

 

狙うのは相澤ではない。その背後。

 

撤退したと思われた、分身……いや、時崎狂三(本体)

 

弾丸が彼女の胸を撃ち抜き、煌めきと共に疲弊した身体が癒えていく。赤黒いドレスが光に揺れ、次の瞬間、凛とした声が空気を震わせた。

 

 

「《刻々帝》ーー【七の弾(ザイン)】」

 

 

銃口が相澤へと向けられる。視線を返そうとするも、【一の弾】による加速を纏った狂三に追いつけなかった。

 

相澤先生は即座に悟った。ここまでの戦いはすべて、【七の弾】を撃つための布石だったと。

 

今まで相澤先生の正面で個性を使う時の癖を、わざと繰り返して見せつけ、正面こそが本体だと思い込ませる。

 

そのための演技だったのだ。布を振るわせ、警戒を正面に集中させたうえで……最後に背後を衝いた。

 

放たれた【七の弾】が相澤先生を撃ち抜いた。

 

その瞬間、世界が凍りつく。抹消の個性も布の操作も意味を失い、音も風も止む。時間そのものが、彼を縛り上げていた。

 

静寂の空間を狂三が優雅に歩み寄る。先ほど【四の弾】を放った分身が銃を消し去り、本体は手に捕縛手錠を持つ。

 

「これで、終わりですわね」

 

紅の瞳が妖しく輝き、相澤の両手首に冷たい鉄がかけられる。

 

カチリ。

 

その音と同時に、世界が再び動き出す。

 

「……っ!」

 

意識が戻った相澤は、自らの手首にかかった手錠を見下ろし、僅かに息を呑んだ。

 

「……まさか、捕らえたのが分身だったとはな」

 

低く吐き出す声には、驚きとわずかな感嘆が混じっていた。油断はしていなかった。だが最後の一手、決定的に出し抜かれた。

 

背後に立つ時崎は、愉悦に満ちた笑みを浮かべる。

 

「ええ、とても大変でしたわ。ですが、これで試験クリア、ですわね」

 

分身たちが霧散し、試験場は静寂を取り戻す。その中心で、赤黒いドレスの裾だけが余韻のように揺れていた。

 

相澤はわずかに息を吐き、天を仰ぐ。

 

「……生徒相手に、ここまで読み合いを強いられるとはな」

 

その声は敗北の言葉であると同時に、彼女の成長を確かに認めた教師の声でもあった。

 

狂三は恭しく一礼し、唇に小さく笑みを浮かべる。

 

「相澤先生、油断なさらないでくださいませ。次はもっと華麗に、欺いてご覧に入れますわ」

 

紅の瞳が爛と輝き、時崎は試験会場を後にする。

 

相澤は、静まり返った試験場を一瞥し、口の端をほんの僅かに持ち上げる。

 

「……あの癖を、あそこまで武器にするとはな」

 

深く息を吐き、肩を落とす。その姿は敗北者のそれでありながら、どこか満足げにも見えた。

 

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