わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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くるみんの身体能力は元から高いものとします。(そうしないとヒロアカの世界だと霞んでしまうので)


個性把握テスト

入試から一週間。時崎狂三は、結果を待つ日々においても特に焦ることなく、普段通りの生活を続けていた。

 

優雅な仕草で紅茶を淹れ、本を開き、穏やかに時を過ごす。合否がどうあろうと、自分がやれることはやった、その確信が、彼女を落ち着かせていた。

 

そんなある日の午後。玄関先で母が郵便を受け取ると、息を切らして部屋の方へと駆け込んで来た。

 

「狂三!来たわよ、雄英から!」

 

「ようやく、ですのね。……お待ちしておりましたわ」

 

母が差し出すのは、雄英の校章をあしらった封蝋付きの封筒。狂三は涼やかな表情を崩さぬまま、それを受け取った。

 

自室へと戻ると、扉を閉めて机の上に封筒を置く。手元に伝わる重みを一度だけ感じ取り、細い指で封蝋を剥がして中身を取り出した。数枚の書類と、小さな円盤状の機械が転がり出る。

 

「これは……?」

 

その瞬間、機械が起動音を立て、光を放った。

 

『私がぁぁぁぁッ!投影されたぁぁぁッ!!!』

 

「……オールマイト?」

 

壁に映し出されたのは、誰もが知るNo.1ヒーロー、オールマイトその人だった。彼の姿が自室に現れたことに、一瞬だけ狂三も目を見張る。だがすぐに、いつもの落ち着いた微笑を取り戻した。

 

『驚いたかな?なぜ私が合格通知に出てくるかというと……実は!この度オールマイトは雄英高校に教師として赴任することになったのだ!だからこうして、ご挨拶しているわけさ!』

 

「成程……そういうことでしたのね」

 

狂三は納得したように軽く頷いた。そして、映像の中のオールマイトは声を張り上げる。

 

『それでは、時崎少女!君の試験結果を発表しよう!』

 

静寂が部屋を包む。狂三の手先は震えず、深紅の瞳がまっすぐに映像を見据えていた。

 

『まず筆記試験!君の正答率は九割以上!余裕で合格ライン突破だ!』

 

「ふふ、当然のことですわ」

 

狂三は小さく微笑む。勉学に抜かりがないのは、彼女にとって誇りであり日常でもあった。

 

『そして実技試験!君が獲得した敵ポイントは53ポイント!この時点で十分に合格圏内だった!……だがしかし!それだけではない!』

 

オールマイトの表情が引き締まる。

 

『実技には審査制の人命救助ポイントもあったのさ!!人助けを、正しい事した人間を排斥しちまうヒーロー科などあってたまるかって話だよ!綺麗事?上等さ!!ヒーローってのは命懸けで綺麗事を実戦するお仕事だ!!』

 

狂三の胸に、あの日の情景が蘇る。崩れ落ちた瓦礫の中、必死に助けを求めていた少女。狂三は迷わず駆け寄り、その手を掴んで救い出した。それ以外にも狂三はロボを撃ちながら、出来る限り、窮地に陥っていた人を助けていた。

 

「人助けはヒーローの性分ですもの。困っている方がいれば……お助けいたしますわ」

 

彼女は独り言のように呟く。映像の中のオールマイトは、大きく頷いた。

 

『その行動は、素晴らしい!そして君は一切の迷いなく、0ポイントヴィランへと挑んだ!あの圧倒的脅威に立ち向かった勇気と決断、それこそが最もヒーローらしい資質だ!』

 

部屋に響く声は、まるで祝福の鐘のようだった。

 

『ということで、時崎狂三少女!君には救助ポイント60を加算!合計113ポイント!ぶっちぎりの首席合格だ!!!』

 

狂三の瞳が細められ、柔らかな笑みが唇に浮かんだ。

 

『さあ来い、少女よ!ここが君のヒーローアカデミアだ!!!』

 

映像が消えると、部屋は再び静けさを取り戻す。狂三は封筒の中身を丁寧に机に置き、椅子から立ち上がった。

 

リビングに戻ると、母が期待と不安の入り混じった顔で彼女を待っていた。狂三は凛とした姿勢のまま、穏やかに告げる。

 

「合格しましたわ。……首席で」

 

その言葉に、母は顔をくしゃくしゃに歪め、涙をこぼした。そして狂三を力いっぱい抱きしめる。

 

「おめでとう……狂三、本当に……!」

 

「ふふ……ありがとうございます、お母様」

 

狂三は母の肩に手を添え、優雅な笑みを浮かべながら、そっと目を閉じた。

 

その胸の内には、確かな誇りと、これから始まる日々への期待が芽生えていた。

 

 

 

ついに高校生となった時崎は、雄英高校の制服を身に纏っていた。深く胸を張り、鏡越しに自分の姿を一瞥する。整えられた黒髪、制服の襟元。すべてが彼女の気品を際立たせていた。

 

「忘れ物は無い?」

 

母の声が背後からかかる。

 

「ええ、確認しております」

 

狂三は涼やかに答えた。

 

「じゃあ、行ってらっしゃい」

 

「行ってまいります」

 

玄関を出て道を歩き目的地である、雄英高校の壮大な門が視界に入る。個性を有する者たちの学び舎にふさわしく、全体的にスケールの大きな造りだ。狂三は足早に門を潜り、まずは掲示板でクラス分けを確認する。1年A組、指定された教室へと向かって歩き出した。

 

扉の前に差し掛かると、緑髪の少年が立ちすくんでいる。

 

「あの、どうなさいました?」

 

狂三は柔らかく問いかける。

 

「あっ、えっと、ごめんなさい!教室に入るのが不安で……」

 

「そうですの。申し遅れました、わたくし、時崎狂三と申します。以後お見知り置きを」

 

「え、あ、僕は緑谷出久と言います!よろしくお願いします!」

 

緑谷は早口でまくし立てた。

 

「よろしくお願い致しますわ、緑谷さん。よろしければ、一緒に教室に入りましょうか?」

 

「えっ、いいんですか⁉︎」

 

出久の目が少し見開かれる。

 

狂三が扉を開けると、そこにはすでに騒がしい光景が広がっていた。1人の生徒が机に足をかけ、もう1人の生徒の注意も耳に入らず騒いでいる。

 

「机に足をかけるのはやめたまえ!先輩方や制作者の方々に失礼だとは思わないのか!」

 

男の声は鋭く響き、教室内に一瞬の静寂をもたらした。

 

「はあ!?んなこと思うわけねーよ!端役(モブ)がぁ!」

 

荒々しい声で反論したのは、ツンツン頭の少年だった。

 

「校風が自由なのが売りであって、生徒も自由ですわね。流石雄英高校と言ったところでしょうか?」

 

狂三は眉一つ動かさず、淡々と呟く。

 

「いや、多分違うと思うよ、時崎さん……」

 

緑谷曰く、ツンツン頭の男は爆豪勝己と言って幼馴染なのだが性格が見ての通り荒く、緑谷はイジメられてたらしい。

 

そう言いながら、端役と呼ばれた少年はきちんとした口調で話しかける。

 

「俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ!」

 

「聡明中学だぁ?名門校じゃねぇか、殺しがいがあるなぁ!」

 

乱暴な言葉が教室に飛び交う。その響きは、軽い挑発のつもりであったのかもしれないが、周囲の生徒たちの視線を一斉に集めていた。ざわつく空気、ちらりと窓の外を見やる生徒もいる。だが、狂三はまるで他人事のように、その声を聞き流すことはなかった。

 

その瞬間、狂三の瞳が鋭く光った。深紅の瞳は、獲物を捕える鷹の如き冷徹さを宿し、微動だにせず彼の前に立つ。

 

「あぁ?」

 

「ええ、あなた程の乱暴な方なら本当に、殺しがいがありそうですわ。本当に」

 

その声には優雅さが漂う一方、言葉の裏には底知れぬ鋭利さが隠されていた。

 

教室内の空気は瞬時に変わる。ざわめきは沈黙に変わり、他の生徒たちは息を飲んで狂三の言葉を聞いた。

 

爆豪の顔が一瞬こわばる。口を開こうとしたが、時崎の冷酷な目を見て言葉が出なかった。

 

狂三は軽く首を傾げ、微笑を浮かべる。

 

「ですが、どうかご安心くださいまし。わたくしの狙いは殺すことではございません。ただ、手強い方と向き合うのは、少々楽しみなだけですの」

 

その言葉の余韻に、教室内の緊張はさらに増す。

 

狂三が爆豪とのやり取りで強烈な印象を残した直後、飯田に向き直り、優雅に一礼した。

 

「初めまして、わたくし、来禅中学出身、時崎狂三と申します。以後お見知り置きを」

 

唐突な自己紹介に、さすがの飯田も言葉を失ったように一瞬固まる。だがすぐに背筋を伸ばし、真剣な表情で答えた。

 

「あ、あぁ、俺は飯田天哉。よろしく頼む」

 

そのやり取りの脇では、緑谷が飯田に改めて挨拶していたり、試験で助けてもらった麗日お茶子と談笑していたりと、教室はどこか和やかな雰囲気に包まれ始めていた。

 

しかしその空気を切り裂くように、低く不機嫌そうな声が響いた。

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここは雄英だぞ」

 

教室の視線が一斉に向かう。そこには寝袋に潜り込みながら、飲料ゼリーを一気飲みしている不審者のような男が寝そべっていた。

 

(まさか……この方が担任ですの?)

 

狂三の脳裏にそんな疑念が浮かぶ。

 

男は重いまぶたを持ち上げ、吐き出すように言葉を紡ぐ。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね」

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

「「「(担任!?)」」」

 

教室中が驚愕の声を上げた。

狂三は表情を崩さず、心の内で(中々、濃い先生ですわね)と呟く。

 

相澤は寝袋から半身を起こし、淡々と告げた。

 

「早速だが、体操服に着替えてグラウンドに出ろ」

 

それだけ言うと、またずるずると寝袋に潜り込んで姿を消す。だが、生徒たちにはもう逆らう余地もなかった。慌ただしく体操服に着替え、全員がグラウンドへと向かう。

 

そこに待ち受けていたのは、

 

 

 

 

 

『『『個性把握……テストォ!?』』』

 

 

 

 

生徒たちが声を揃えて驚愕する。

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「そんなのはどうでもいい。ヒーローになるなら、悠長な行事に出る時間なんてないよ」

 

「……本当に自由ですわね」

時崎がぽつりと呟く。

 

「雄英は”自由”な校風が売り文句。そしてそれは、先生側もまた然りだ」

 

相澤は続けた。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、五十メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈……中学の頃からやってきただろ?だがあれは”個性禁止”の体力テストだ」

 

言葉を切り、先生の目が生徒たちを鋭く見渡す。

 

「国は未だに画一的な記録を取って、ただ平均を作り続けている。合理的じゃない。……まぁ、文部科学省の怠慢だよ」

 

先生の愚痴は終わり、時崎に目を向ける。

 

「今年の首席はお前だな、時崎」

 

相澤の低い声に、グラウンドのあちこちから驚きの声が漏れた。

 

「はい」

 

狂三は小さく会釈をし、涼しい顔のまま答える。

 

「時崎、中学の時ソフトボール投げ、何メートルだった?」

 

「49メートルですわ」

 

「……個性無しだぞ?」

 

「はい。49メートルですわ」

 

ざわり、と周囲が騒めく。女子の平均がその半分にも届かないことを、雄英を目指す者なら誰もが知っている。つまり、この令嬢然とした少女は素の身体能力だけで既に“頭ひとつ抜けている”のだ。

 

「身体は……ある程度恵まれてるってことか」

 

相澤がぼそりと呟く。爆豪が鼻を鳴らし、緑谷は信じられないといった顔で隣の時崎を見る。

 

「……じゃあ、個性を使ってやってみろ」

 

相澤はソフトボールを片手で放り投げ、時崎に渡した。

 

「円から出なきゃ何してもいい」

 

狂三は静かに頷き、ボールを手に取る。

 

「承知いたしましたわ」

 

時崎は【一の弾(アレフ)】が込められた二挺の短銃を顕現し一つを自分に撃つ。

 

そして彼女はソフトボールを手に取り、軽やかに振りかぶった。

 

「参りますわ」

 

その投擲は常人の域を軽々と超え、空を裂くような速度で球体を弾き飛ばす。だが彼女は満足せず、もう一挺の銃口を高く掲げた。

 

「【一の弾(アレフ)】」

 

照準は飛翔するソフトボール。引き金が引かれ、再び加速が与えられる。

 

刹那、視界から完全に消失した。残されたのは、風を裂く轟音と、遠くで瞬いた閃光。

 

やがて彼女は銃を下ろし、無表情のまま相澤へと告げる。

 

「先生」

 

「なんだ。まだ記録は出てないぞ」

 

「いえ、ボールが燃え尽きました」

 

淡々と告げられた報告に、場が凍り付く。摩擦熱と空気抵抗が極端に高まり、物体としての限界を超えた。ソフトボールは、途中で灰と化したのだ。

 

「……え?」

 

最初に声を漏らしたのは緑谷だった。クラスメイト達が次々にざわめき、言葉を失う。

 

相澤はしばし黙した後、タブレットに無感情な指先を滑らせ、記録欄に一言を書き記す。

 

 

【測定不能】

 

 

「なんだこれ!? すげー面白そうじゃねぇか!!」

 

「測定不能ってマジかよ!?」

 

「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!!」

 

興奮した声が次々と飛び交う。未知の結果に笑う者、雄英の「自由さ」に胸を高鳴らせる者、反応はそれぞれだった。

 

だからこそ、生徒たちは気づかなかった。

相澤消太の瞳が一瞬、冷えた光を宿したことに。

 

「……面白そうか。ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

低く落ちた声は、風向きを変えるように場を支配する。次の瞬間、告げられた言葉に生徒たちは一様に凍り付いた。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

「「「はああああああ!?!?」」」

 

悲鳴にも似た驚愕が一斉に響き渡る。だが相澤は淡々と続けた。

 

「生徒の如何は、先生、つまり俺たちの“自由”。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

氷のように冷たい現実が突きつけられる。一瞬前まで和やかだった空気は、見る間に張り詰めた。

 

その中で、狂三だけが小さく吐息を洩らした。

 

「少々、厄介ですわね」

 

彼女の個性、《刻々帝》は間違いなく強力だ。寿命を代償とするとはいえ、時間を操るという力は、敵との戦闘においては計り知れないアドバンテージとなる。だが、今は戦場ではない。

 

「……体力テストとなると話は別、ですわね」

 

握力、持久走、反復横跳び。ただ純粋な身体能力を測る種目の数々は、《刻々帝》の真価を発揮しにくい。いくら加速や減速、時間停止を用いようとも、基礎的な持久力や筋力を誤魔化すことはできないのだ。

 

時崎は唇の端を上げた。挑発に近い笑みは、まるで試されることを楽しんでいるようでもあった。

 

「さて、どう立ち回りましょう?」

 

彼女にとって、この“試練”は決して相性の良いものではない。

 

 

 

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