わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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今回少し短めです


林間合宿-④

戦闘が終わると拳藤と鉄哲の足取りが急に乱れ、二人がふらつくのを見た瞬間、時崎は迷わなかった。

 

即座に【四の弾(ダレット)】を撃ち込み、淡い光で彼らの疲弊を癒やす。しかし完全には回復せず、筋肉の震えと荒い呼吸は残っていた。このまま戦わせるのは危険だと瞬時に判断する。

 

「……ここから先は分身たちに任せますわ。あなた方は避難を」

 

静かな声色ながらも有無を言わせぬ迫力で告げると、数体の分身が現れ、拳藤と鉄哲を支えながら退避ルートへと導いていく。

 

本体の時崎はただ一人走る。だがその途中、木々の間から獣のような唸り声と共に二体の脳無が飛び出し、行く手を塞いだ。

 

(……脳無。厄介ですわね)

 

即座に【時喰みの城】が展開され、周囲の空気が重く淀む。脳無たちの動きは急速に鈍り、その筋肉がまるで腐敗するように時間を奪われていく。時崎は古銃を構え、容赦なく引き金を引いた。乾いた銃声が二度響き、時間を削がれた脳無は抵抗もできずに地に崩れ落ちた。

 

「……想像以上に手間取りましたわね」

 

すると、ツギハギの顔をした男と制服姿の少女、ヤモリのような姿をした、どこかステインを思わせる男。そして女口調の大柄な男、さらに仮面をつけた影が時崎の前に現れる。

 

(わたくしも歓迎されていますわね、こんなにヴィランと出会うなんて)

 

自身に皮肉を飛ばす時崎

 

ヤモリ姿のヴィラン、スピナーが、背中に担いだ巨大な剣を振り下ろす。時崎は紙一重で回避し、威力を強めた銃弾を叩き込む。乾いた音とともに剣は粉砕。間髪入れず放ったヘッドショットで、スピナーの頭部が砕け、彼の体は泥のように溶けて消えていった。

 

(分身のようなモノですわね)

 

だが隙は許されない。ツギハギ顔の男、荼毘が青白い炎を放つ。轟の炎とは違う、皮膚を焼くような高温の火線。

 

「……ッ!」

 

時崎は【一の弾(アレフ)】を展開し、瞬間的に身を躱す。だが、その背後から制服姿の少女――トガヒミコがナイフを振りかざし迫る。

 

「――ッ」

 

銃弾が閃き、刃を粉砕。そのままもう一発を撃ち込み、彼女の腹を蹴り飛ばす。

 

次の瞬間、強烈な引力が時崎の体を捕らえる。 

 

(磁石でしょうか……)

 

冷静に考える。体が大柄な女口調の男マグネのもとへと引き寄せられる。至近距離。さらに追撃するように、仮面をつけたヴィランが手を伸ばしてきた。

 

「……」

 

触れられる、その刹那。乾いた銃声が響いた。仮面のヴィランの頭部が撃ち抜かれ、崩れ落ちる。

 

「……いいタイミングですわね、『わたくし』」

 

時崎が目を細める先、離れた場所にひとりの少女が長銃を構えていた。彼女もまた、時崎狂三。だが、それは【八の弾】によって生み出された分身のひとりだ。

 

時崎は訓練の際、分身たちに役割を与えていた。狙撃を得意とする者、近接戦闘を得意とする者、そして戦況に応じて動く万能型。それぞれの性格差を活かすことで、彼女たちは一つの部隊のように機能する。

 

青炎とナイフ、磁力、隙を突く攻撃。時崎は一瞬たりとも気を抜けぬ死地で戦っていた。

 

狙撃手の時崎が屋根上から援護射撃を重ね、近接型の時崎は前線で刃を振るう。分身たちはまるで歯車のように連動し、戦況を少しずつ押し返していく。

 

しかし、その均衡は長くは続かなかった。

 

「『わたくし』」

 

耳元で囁くように届いたのは、別の分身からの連絡。声は冷静だが、その内容は重すぎた。

 

「爆豪さんが……ヴィランに攫われましたわ」

 

「……ッ!」

 

時崎の瞳が大きく見開かれる。

 

「緑谷さんたちは『わたくし』と共に追跡中……ですが、ヴィランたちはすでに『回収地点』へ向かっています」

 

胸の奥に冷たいものが落ち、同時に血が沸騰するほどの焦燥が湧き上がった。爆豪が攫われた。それは雄英にとって致命的な意味を持つ。

 

荼毘の炎が再び襲い掛かる。しかし時崎の視線はすでに遠く、「回収地点」へ向けられていた。

 

(最悪の報せ……けれど、だからこそ動かなくては)

 

彼女は銃を構え直し、迫る炎を横へ跳ねて避けると、不敵に唇を吊り上げた。

 

【時喰みの城】が展開され、分身たちの時間を根こそぎ奪い取る。すると分身たちは泥になって消えた。

 

彼女は即座に駆け出した。胸を焼く焦燥を抱えながら。

 

これは「自分を足止めするための布陣」ヴィランは時崎が力尽きた時に攫うつもりだったが、失敗したら時崎の足止めしに変更し「彼女を爆豪奪還に参加させない」ことが目的だったのだ。

 

歯を噛みしめ、全力で森を駆け抜ける。枝を薙ぎ払い、燃え盛る火を潜り抜けたその瞬間、視界を切り裂く光が走った。

 

「ッ!」

 

レーザー。震える身体で個性を放ったのは青山優雅だった。その光線はヴィラン――Mr.コンプレスの仮面をかすめ、砕き散らす。

 

だが同時に、夜闇を裂く銃声が轟いた。

 

 

 

「はぁ、はぁ……みなさん。どうやら……間に合ったようですわね」

 

 

 

影の中から姿を現したのは、時崎狂三自身。彼女の放った弾丸は荼毘とコンプレスの一瞬の隙を撃ち抜き、圧縮されていた玉が弾けるように零れ落ちた。爆豪と常闇の姿が宙に投げ出される。

 

「爆豪!」

「常闇!」

 

轟と障子が同時に飛び出す。伸ばされた手は常闇の身体を辛うじて掴んだ。だが爆豪は――

 

「……!」

 

時崎は咄嗟に【七の弾(ザイン)】を撃ち放ち、ヴィランの動きを止めようとする。だがその弾丸は、灼熱の青炎に阻まれる。荼毘が時崎の前に立ち塞がり、猛火で時間の鎖を焼き払ったのだ。

 

爆豪へ伸ばした轟の手は、寸でのところで虚空を掴んでしまう。

 

「ったく……俺のショウを台無しにしてくれる!」

 

仮面を押さえたコンプレスが舌打ちする。障子の手に残っていた玉は常闇へと変わり、奪われた方は爆豪に変化していた。

 

「問題なし」

 

「哀しいなぁ、轟焦凍……やっぱりお前の捕獲は無理だったな。時崎狂三……お前も連れて行きたかったが、今回は無理だったな」

 

吐き捨てるように嘲ると、ヴィラン連合の姿は闇に溶けて消えていく。

 

 

「かっちゃん!!!」

 

 

緑谷の絶叫が森を揺らす。

 

 

「……来んな、デク」

 

 

爆豪の声が炎にかき消される。次の瞬間にはもう届かない。

 

光に照らされた夜の森に残されたのは、静まり返った空気と、誰もが噛み殺すしかない悔恨だけだった。

 

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