わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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仮免試験-①

互いの成長を確かめ合っている最中、突然、訓練場に響き渡る大声が空気を揺らした。

 

「そこまでだA組!今日は午後から我々がここを使わせてもらう予定だ!!」

 

入ってきたのはB組の生徒たち。その先頭に立つのはブラドキングだった。

 

「B組だ!」

 

タイミングよく合いの手を入れる声が重なる。

 

「……タイミング!」

 

掛け合いのような騒がしさに、場が一瞬だけ和んだ。だが相澤先生は涼しい顔のまま。

 

「まだ十分弱ある。時間の使い方がなってないな」

 

「イレイザー、さっさと退くがいい」

 

教師同士のやり取りに、時崎は静かに目を細める。

 

(仲がいい……というわけではありませんわね)

 

さらにB組の物間が一歩前に出て、両手を広げて言い放った。

 

「ねぇ知ってる!?仮免試験って半数が落ちるんだって!キミら全員落ちてよ!!」

 

ストレートな罵声に、思わず時崎の口元が動く。

 

「……シンプルかつストレートな意見ですわね」

 

切島が気になったように、物間のコスチュームについて問いかける。

 

「つか物間のコスチュームあれなの?」

 

すかさず拳藤が答えた。

 

「個性がコピーだから、変に奇をてらう必要はないって」

 

そんなやり取りの合間、試験についての話題が出た。ヒーロー資格試験は毎年六月と九月、全国三か所で同日に実施されるという。

 

同じ学校の生徒同士が潰し合うことを避けるため、受験期や会場は必ず分けられる。それを聞いた物間は、肩を撫で下ろした。

 

だが次の瞬間、再び大仰に叫んだ。

 

「直接手を下せないのが残念だ!!」

 

その様子を眺めて、時崎は心中で呟く。

 

(……面白い方ですわね)

 

賑やかな空気の中、A組とB組の火花はますます強くなっていった。

 

 

 

 

 

 

仮免試験当日がやってきた。バスが停車し、相澤先生の低い声が響く。

 

「降りろ、到着だ」

 

指示に従って生徒たちはぞろぞろと車外へ出た。

 

「緊張してきたぁ……」

 

「多古場でやるんだ」

 

「試験ってなにやるんだろ。はー、仮免取れっかなあ……」

 

口々に不安や期待を漏らす生徒たち。そんな中、時崎は変わらず落ち着いていた。

 

「この試験に合格し仮免許を取得できれば、お前ら卵は晴れてヒヨッ子……セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」

 

相澤先生が淡々と告げるがどこか期待するような声音を感じた。

 

「っしゃあ!なってやろうぜ、ヒヨッ子によぉ!」

 

自然と雰囲気が高まり、掛け声を合わせようとする。

 

「いつもの一発決めて行こうぜ!せーのっ、プルス――」

 

その瞬間だった。

 

「ウルトラ!!」

 

クラス全員が言葉を飲む。声を張り上げたのは雄英の生徒ではない。見知らぬ男子生徒が、当然のように加わっていたのだ。

 

「どちら様ですの?」

 

時崎が静かに問いかける。周囲も同じ疑問を抱いていた。

 

だが注意の声が届くより早く、別の人物が指摘する。

 

「勝手に他所様の所へ加わるのは良くないぞ、イナサ」

 

「ああ、しまった!どうも大変失礼致しましたぁ!!」

 

彼は勢いよく頭を地面に打ち付けるようにして謝罪した。

 

(あの制服は確か...西の……)

 

時崎が目を細める。周囲のざわめきからもわかる。彼の所属は士傑高校、西で有名な名門校だった。

 

男は顔を上げると、満面の笑みで再び声を張り上げた。

 

「一度言ってみたかったっす!プルスウルトラ! 自分、雄英高校大好きっす!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっす!よろしくお願いします!」

 

あまりに高いテンションに、雄英1年A組の面々は思わず一歩退く。

 

 

「夜嵐イナサ」

 

その名を耳にした瞬間、空気がわずかにざわめいた。

 

「先生、知ってる人ですか?」

 

緑谷が前のめりに問いかける。相澤先生は無精ひげを撫でつつ、疲れたような声で答えた。

 

「すごい前のめりだな……。まあ、気のいいやつだ。ただ、あれは強いぞ。夜嵐は、昨年度……つまりお前らと同じ推薦入試をトップ成績で合格したにもかかわらず、なぜか入学を辞退した男だ」

 

「入学を辞退?」

 

ざわめきが広がる。

 

「雄英大好きとか言ってた割に入学を蹴るって、よくわかんねえな」 

 

「変なのー」

 

「変だが、マークはしとけ」

 

そこで、不意に声が飛んだ。

 

「イレイザー!?イレイザーじゃないか!」

 

振り返った相澤に向かって、派手に手を振りながら近づいてきたのは、明るい笑みを浮かべた女性ヒーロー。

 

「テレビや体育祭で姿は見てたけど、直で会うのは久しぶりだな!結婚しようぜ!」

 

「しない」

 

相澤先生は即答した。

 

「しないのかよ!うける!」

 

相澤は眉間に皺を寄せて小さくため息を吐いた。

 

「相変わらず絡み辛いな……ジョーク」

 

「他の学校の先生も負けず劣らず強烈ですわね」

 

「た、確かに……」

 

時崎の小声に緑谷も困惑しながら同意する。

 

目の前の女性はスマイルヒーロー、Ms.ジョーク。彼女の明るさに釣られるように、同伴していた生徒たちも次々と挨拶してきた。

 

「おお!本物じゃないか!!」

 

「すごいよすごいよ!!テレビで見た人ばっかり!!」

 

注目は体育祭でインパクトを残した轟、爆豪、緑谷、そして時崎に集まる。

 

中心にいた真堂という男子生徒が爽やかに笑みを浮かべ、次々と握手を求めてきた。爆豪はそっけなく、緑谷あわあわしている。

 

そして時崎の前に差し出された右手だが、時崎はわずかに微笑んだまま右手を引き、左手を差し出し、真堂も左手で握手を交わした。

 

「よろしくお願いしますわ」

 

真堂は一瞬だけ瞳を細めたが、すぐに爽やかな笑顔を取り戻す。

 

「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

 

相澤の声に全員が返事をし、それぞれ控え室へと向かった。

 

更衣室。女子たちがコスチュームに着替えている最中、蛙吹が首をかしげながら問いかけた。

 

「狂三ちゃん。さっき真堂ちゃんと握手したとき、どうして左手でしたの?」

 

問いを受けた時崎は、整えかけた髪を撫でつつ、楽しげに微笑んだ。

 

「あの方……言葉と顔が噛み合っていませんでしたわね。爽やかそうに笑っておきながら、目の奥が全然追いついていませんでしたもの。ですから左手で握手、つまり『あなたを疑ってる』という意味を込めて。……わたくし、無邪気に笑う方は好きですが、作り笑いはどうにも苦手でして」

 

一瞬、更衣室に冷たい沈黙が落ちた。蛙吹は目を丸くし、それから小さく頷く。

 

「……狂三ちゃんって、やっぱりちょっと怖いけど、すごいわね」

 

彼女は紅の瞳を細め、微笑を深めた。

 

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

 

その声音は穏やかで優雅。だが、彼女が見据える視線の奥には、疑念と警戒が決して消えることなく潜んでいた。

 

コスチュームに身を包んだ時崎たちが試験会場に足を踏み入れると、そこには各校から集まった受験者の群れであふれ返っていた。

 

壇上に上がったのは、眠たげな顔の男だった。

 

「えー……ではアレ……仮免のヤツをやります。あー……僕はヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠、よろしく」

 

(眠そうですわね……)

 

時崎が眉をひそめる間にも、試験官は自分の愚痴をこぼすように説明を続ける。

 

「仕事が忙しくてろくに寝れない……! 人手が足りてない……! 眠たい! ……そんな信条の下、ご説明させていただきます」

 

内容は要約すれば、1540人の受験者による一斉のサバイバル演習。そして、先着100名のみが合格。スピードと的確さがすべてだと強調された。

 

(1540人中100人……中々ハードですわね)

 

各自の体にターゲットマークを三つ装着し、攻撃用のボールを六つ配布。相手のターゲットを三つ撃ち抜けば撃破成立。二人撃破すれば晴れて突破、そういう仕組みらしい。

 

時崎もコスチュームの上に3つのターゲットマークをつける。

 

「えー……では展開後、ターゲットとボールを配ります。全員に行き渡ってから一分後にスタートとします」

 

(展開?)

 

そう首をかしげた次の瞬間、会場の壁と天井がスライドし、巨大なフィールドが眼前に広がった。都市の一角を模したかのような広大な舞台に、どよめきが走る。

 

「先着で合格なら……同校同士で潰し合う必要はない!むしろチームを組んだほうが勝ち筋だ! 皆、あまり離れず一塊で動こう!」

 

緑谷が声を張り上げる。

 

「フザけろ、遠足じゃねえんだよ」

 

爆豪が吐き捨てて勝手に走り出す。切島と上鳴が慌てて後を追った。

 

「俺もだ。大所帯じゃ却って力が発揮できねえ」

 

轟も別方向へ歩を進める。

 

散っていく仲間たちを目で追いながら、時崎は小さく肩をすくめた。

 

『第1次試験、開始!』

 

試験官の合図とともに、会場全体が一斉に動き出した。

 

「杭が出てればそりゃ打つさ!!!」

 

開幕の合図と同時に、最初に牙を剥いたのは傑物学園だった。雄英に狙いを定め、一斉にボールが雨のように飛んでくる。

 

体育祭で個性を世間に晒した雄英は、対策されやすい格好の的。特に上位に食い込んだ生徒たちは、真っ先に狙われる宿命にあった。

 

だが、時崎にとってそれは取るに足らないことだった。

 

銃口が閃き、飛来するボールを片端から撃ち落としていく。乾いた銃声が次々と響き、軌道を描いて迫る弾が無惨に弾け飛ぶ。

 

「ボールがっ!?」

 

狼狽する傑物学園の生徒たちを前に、狂三は口角を上げた。

 

「手の内を知られようが、対策を無力化してこそヒーローですわ」

 

後にわかることだが、この「雄英潰し」は仮免試験の恒例行事。雄英の名が大きいほど、潰し甲斐があると他校に狙われ続けてきたのである。

 

続々と迫る敵の波の中、真堂が行動を開始した。

 

「行くぞ、揺らす!!」

 

彼が掌を叩きつけた地面から衝撃が広がり、地表が大きく震えた。凄まじい振動が波のように伝播し、雄英の生徒たちの足元を揺さぶる。

 

「うわっ!」

 

「散れた!?」

 

地割れのような衝撃に押し流され、A組の面々はバラバラに弾き飛ばされる。その勢いに時崎もまた地面を離れた。

 

しかし、ただで終わる彼女ではない。姿勢を保つ事さえ困難な状態から銃口が真堂の頭部を正確に捉えていた。

 

「お返しですわ」

 

乾いた射撃音。数発の銃弾が正確に真堂を撃ち、衝撃で彼に負傷を与えた。

 

周囲に緊張が走った。

 

傑物学園の士気が一瞬にして揺らいだその中心で、時崎は冷ややかな笑みを浮かべていた。

 




くるみんの醍醐味はやはり頭脳戦、ということは.....

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