部屋に閉じ込められた中、時崎と八百万は印照の真意に気づいた。
「八百万さん、印照さんはやはり……」
時崎が切り出す。
「ええ、相手は私の個性を使い切らせようとしています」
八百万は冷静に答えた。最も不確定な要素、八百万の創造と時崎の刻々帝。当初は蛙吹の個性を封じるための空調だと思われていたが、本当の狙いは八百万に個性を使わせること。つまり、彼女に使わざるを得ない状況を作ることだった。
時崎自身についても、個性の性質上、銃で撃たざるを得ないため、発砲音が生じる。それによって何かあれば即座に対応され、必然的に封じられてしまう。
「成る程……時崎、八百万を無力化した上で、悠然と乗り込もうというわけか」
障子が分析する。
「えぇ……ですから今、私は個性を使えません……いざという時のために残しておかなくては……」
「けど……このままここに籠ってたら仮免試験に落ちちゃうよ!なら一か八か強行突破で……」
耳朗が焦り混じりに言った。
「当然相手もそうすると予想しているだろうな……」
障子が冷静に返す。
「ならどうしろって……!」
耳朗が苛立ちをにじませた。眠った蛙吹と時崎を除いた三人は不安に顔を曇らせる。しかし時崎は、普段通りの落ち着いた口調で話した。
「落ち着いてくださいまし、みなさん」
「落ち着けって、そんな悠長な!」
「時崎、お前は何故、そこまで冷静にいられるんだ?」
障子の問いかけに時崎は微笑を浮かべ、静かに答えた。
「何故?それは『わたくし』を信じてているからですわ」
その言葉はあまりにも自信に満ち溢れていた。時崎は静かに微笑む。その意味がわかるのは、今はまだ八百万だけだった。
(そろそろですわね)
時崎は内心で呟き、八百万に耳打ちした。
「八百万さん、ここは攻めに転じましょう。あるものを作ってください。そして「わたくし」のタイミングに合わせくださいまし」
八百万は軽く頷いた。
確認する時崎の瞳は、冷静ながらも決意に満ちていた。
「……さて、中はどうなっているかしら」
その視線の先にいたのは、優雅にティーカップを傾ける少女。聖愛学院二年生印照才子。
彼女の個性は《IQ》。紅茶を口にし、瞼を閉じることで脳を異常なまでに活性化させ、状況把握から未来予測に至るまで精密に計算し尽くす頭脳を発揮する。
その才子が導き出した答えは完璧だった。耳朗、障子、蛙吹の個性を封じ、さらに八百万という不確定要素まで潰す布陣。そして何より、時崎狂三の個性も封殺する作戦。
分身は個性を使えない。銃で撃つことでしか個性を発動できない。ならば銃を撃たせなければいい。体育祭の映像で得た情報を基に緻密に組み立てられた計画。才子は信じて疑わなかった。
(これで一年前の屈辱を晴らせる。あの時、わたくしは読みを外した。けど今は違う。勝つのはわたくし)
「さぁ、個性を使いなさい。その瞬間があなた達の最後でしてよ」
優雅に笑みを浮かべる才子。その耳に、カチリと機械の作動音が届いた。エレベーターの駆動音。
計画通り、別働隊が到着したのだ。
才子は瞳を輝かせた。扉が開き、部下たちが突入する。彼女は即座に指示を出すべく息を吸い込んだ、その瞬間。
「ごきげんよう」
絶対にあり得ないはずの声が、背後から響いた。
「一人だけでお茶会だなんて寂しいですわね。わたくしも混ぜてくれませんか?」
ぞくり、と才子の背筋を悪寒が走る。反射的に振り返ったその視界に、銃口が冷たく光った。
「《刻々帝》——【
乾いた発砲音。放たれた弾丸が次々と標的へ突き刺さり、部下たちの動きは異様に鈍化。瓦解する隊形。そして混乱。命令が届く前に、組み立てられた陣形は無惨に崩れ去る。
「今ですわ、八百万さん!」
部屋の中から響く時崎の声。その合図に、八百万は巨大なスピーカーを瞬時に創造した。耳朗がコードを差し込み、全身を震わせるような高周波を叩き込む。時崎は【時喰みの城】に沈み込んで音を回避。
展望室は轟音に支配され、才子を含めた仲間たちは次々と倒れてしまう。そして、時崎は影から不敵な笑みを浮かべながら現れた。
「ときさき……くるみ……!何故……!分身による個性使用は不可能なはず……!」
驚愕に目を見開く才子。その震える声に、銃を構える時崎は小さく微笑む。
「あらあら、わたくしがいつから“分身”だと錯覚していましたの?」
そして扉が開いた。八百万たちを伴って現れたもう一人の時崎。
「やった!大成功……って、あれ?狂三が二人?」
耳朗の素直な疑問が空気を裂き、八百万が問いかけた。
「やはりそういうことでしたの?」
「八百万さんは理解したようですが...話すには長くなりそうですわね」
その瞳は落ち着きに満ち、どこか誇らしげである。時崎は静かに説明を始めた。
あの時、隣のビルに潜んでいた狙撃手を倒す為に、ビルの屋上にトールギスで飛び移る最中に時崎は彼女の時間を止めた。ビルに飛び移り、止まった時間の中で彼女は【
「わたくしがビルに戻ったら、『第二段階終了』と通信で言ってくださいまし。言わなかったら.....鉛玉分体重が増えますわね」
それは命令というより、脅迫に近い甘美な囁きだった。
そして
八百万は思わず声を漏らした。
「やはり......私達と一緒にいたのは......」
「ええ、そうですわ。『わたくし』の分身ですの」
返答したのは「もう一人の時崎」だった。
本体と分身は瓜二つどころか同じ時崎狂三であるため、見た目による見分けはつかない。
本体の時崎は微笑みを崩さぬまま、さらに事の次第を語る。分身を本体と誤認させることで、印照たちを欺き、その裏で本体は【時喰みの城】を用いて移動し、彼女らの死角から八百万がいたビルへと潜入していた。
さらに印照の別働隊については、分身達と共に影のように各個撃破。敵が気づいた時には既に戦力は奪われ、状況は完全に傾いていた。
そして最後の仕上げとして、何食わぬ顔でエレベーターに乗り込み、八百万たちに合わせる形で「本体」が姿を現し、【二の弾】で動きを遅くさせ、
部屋の中の時崎の指示に従い、八百万は巨大なスピーカーを展開していた。タイミングを合わせ、耳朗がそこに高周波を叩き込み敵を戦闘不能にする。その一部始終を聞いた印照は言葉を失う。ただ、余裕の笑みを浮かべる時崎を見つめるしかなかった。
「わたくしだからこそ、なせる技ですわね」
そう締めくくる時崎の声には、確かな自信と誇りが滲んでいた。
展望室の緊張が一瞬だけ緩んだ瞬間、印照は八百万を連れ去り、扉に鍵をかけてしまった。彼女は冷徹に、八百万だけでも脱落させるべく、ボールを構えて放とうとする。
しかしその直後、印照の後頭部に鋭い衝撃が走った。
「まさか、わたくしが編み出した技を最初に受ける方が、あなたとは....」
扉を貫通する銃声とともに扉が開く。現れたのは、時崎達だった。
彼女の銃口から放たれた弾丸は、弾速を極限まで上げ、貫通力に特化させた新たな撃ち方、名を
印照は混乱し、考える間もなく、現状の不利さを直感する。彼女は仲間よりも自分の優位を優先していたが、目に映る雄英生徒は八百万の所に向かっていた。特に時崎に関しては別動隊を制圧し、合格出来るにも関わらず八百万達との合流を優先した。目の前の状況で自分の考えが通用しないことを思い知らされた。
「あなたの作戦は見事でしたが、もう少し仲間を信じた方が良いと思いますわね」
無念を抱えながらも、印照は敗北を認め、手にしたボールをゆっくりと手放した。展望室に静寂が戻る。時崎は冷ややかな微笑を浮かべ、勝利を確信したまま、仲間たちの元へ視線を戻した。
くるみんの銃の必殺技の元ネタはガンダムF91の『ヴェスバー』です
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