わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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インターンに向けて

仮免試験を終え、1年A組の面々はそれぞれの疲れを癒やしていた。時崎狂三もまた汗を流し、パジャマへ着替えると、久方ぶりに自室でくつろいでいた。

 

もっとも、彼女にとって“日常”とは奇妙なものである。普段なら決してやらぬことだが、この夜ばかりは分身達の労をねぎらうため、【時喰みの城】の中でささやかなお茶会を開いたのだった。

 

 

 

 

新学期一日目。

制服に袖を通し、身だしなみを整えた時崎は軽やかに階段を降りていった。だが、一階に足を踏み入れた途端、耳に飛び込んできたのは喧噪だった。

 

(なんでしょう……?)

 

視線を向けると、共同スペースの中央で雑巾とバケツを手にした緑谷と爆豪が、全身ボロボロの状態で床を磨いている。

 

「喧嘩して謹慎~!?」

 

思わず声を漏らした時崎の前で、クラスメイトたちが口々に彼らを責め立てる。

 

「馬鹿じゃん!」

「ナンセンス!」

「馬鹿かよ!」

「骨頂!」

 

「ぐぬぬ……」

 

爆豪は歯噛みしながらも珍しく言い返してこなかった。どうやら今回はさすがに自分の非を理解しているらしい。

 

「よく謹慎で済んだものだ!これからの始業式は君ら欠席だな!」

 

飯田は委員長らしく憤慨している。

 

「爆豪、仮免補習どうすんだ」

 

「うるせぇ……テメーには関係ねぇだろ」

 

「じゃー掃除よろしくなー」

 

仲間たちにそう言い残し、時崎は他のクラスメイトと共に学校へと向かった。

 

 

「皆いいか!列は乱さず、それでいて迅速に!グラウンドへ向かうんだ!」

 

始業式のために整列して移動する中、飯田の大声が響く。だがその足取りは明らかに急ぎすぎて乱れていた。

 

「いや、おめーが乱れてるよ」

「委員長のジレンマ!」

 

和やかな笑いが広がる。

 

「入学式のときみたいに、また相澤先生が何かするんかと思った」

 

「でも四月とは事情が違うしね」

 

そんな会話を遮るように、甲高い声が響いた。

 

「聞いたよ、A組ィィ!」

 

(B組の……物間さん)

 

わざとらしく煽るその態度に、クラス全員が顔をしかめる。

 

「二名!そちらから仮免落ちが二名も出たんだって!?」

 

「B組物間!相変わらず気が触れてやがる!」

 

苛立つ空気の中、時崎が一歩前に出る。

 

「あらあら、物間さん。そうやって人の失敗を嘲笑うことでしか自分の優位性を保てませんの?もっと賢い方法があると思いますけど」

 

「ぐふっ!」

 

心臓を撃ち抜かれたように物間は胸を押さえた。

 

「さてはオメーだけ落ちたな」

 

切島が追い討ちをかけるように言うが、物間は高らかに笑うだけ。

 

「ハッハッハッハッ!」

 

「いやどっちだよ」

 

その答えを告げたのは拳藤だった。

 

「こっちは全員合格。水があいたね、A組」

 

「……悪ィ……皆……」

 

肩を落とす轟に、切島が笑いながら背中を叩く。

 

「向こうが勝手に競ってるだけなんだから、気にすんなって」

 

「そうですわね。いちいち相手にしてはキリがありませんわ」

 

時崎の冷ややかな一言が、物間の笑いをさらに乾かした。

 

 

「オーイ、後ろ詰まってんだけど」

 

後方から声が飛ぶ。振り返ると、心操が後ろにいた。

 

「すみません!さぁさぁ皆、私語は慎むんだ!迷惑がかかっているぞ!」

 

飯田が慌てて謝罪する。

 

「かっこ悪ィとこ見せてくれるなよ」

 

「……心操」

 

誰かがつぶやく。

 

「体育祭で緑谷と戦った人」

 

「あれ……なんかあいつ……なんとなく……ゴツくなった気が……」

 

新学期の始業式は、こうして波乱の幕開けを迎えたのだった。

 

 

新学期の始業式は、校長の長い訓話から始まった。時崎はその中で耳慣れない言葉に引っかかった。

 

(ヒーローインターン……?)

 

小さく呟いたその言葉の意味は、彼女にとってまだ曖昧なままだった。

 

式の後半では、生活指導担当のハウンドドッグが壇上で吠え立てるように怒鳴り散らした。誰も理解できない。だが、その横でブラドキングが冷静に翻訳を務める。

 

「昨晩、ケンカをした生徒がいました。慣れない生活ではありますが、節度をもって生活しましょう」

 

時崎は内心で肩をすくめた。

 

(緑谷さんと爆豪さん、ですわね)

 

始業式が終わり、生徒たちが教室に戻ると、今度は相澤が前に立ち、淡々とした口調で話を始めた。そのとき、蛙吹が手を挙げる。

 

「ごめんなさい、いいかしら先生。さっき始業式でお話に出てた“ヒーローインターン”ってどういうものか、聞かせてもらえないかしら」

 

その問いに続いて、クラスの何人かも声を上げた。

 

「そういえば校長が何か言ってたな」

 

「俺も気になっていた」

 

「先輩方の多くが取り組んでらっしゃるとか……」

 

相澤はしばし逡巡したが、やがて小さく溜め息をついて答えた。

 

「後日やるつもりだったが……先に言っておく方が合理的か。インターンは職場体験の本格版だ。体育祭での指名をきっかけに、各々が任意でプロの下に赴き、活動に参加する。実地で学ぶ、そういう制度だ」

 

説明を終えた相澤が廊下に声をかける。

 

「じゃ……待たせて悪かった、マイク」

 

プレゼントマイクが入ってきて授業が始まった。

 

 

 

新学期初日から三日が経ち、緑谷が復帰した。この三日間の遅れを挽回しようという気持ちが溢れ出ていた。

 

「じゃ緑谷も戻ったところで、本格的にインターンの話をしていこう。入っておいで」

 

扉が開き、3人の上級生が姿を現した。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか、直に体験している人間から話してもらう。多忙な中都合を合わせてくれたんだ、心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する三名――通称“BIG3”だ。直に体験している人間から話してもらう。心して聞け」

 

最初に口を開いたのは、やや青白い顔色の男子だった。

 

「……駄目だ……ミリオ、波動さん……。ジャガイモだと思って臨んでも……頭部以外が人間のままで依然人間にしか見えない……。どうしたらいい、言葉が……出てこない。頭が真っ白だ……辛い……帰りたい……!」

 

彼の独白めいた発言に、時崎は眉をひそめる。

 

(人前が苦手なのでしょうか……?)

 

八百万が思わず呟いた。

 

「雄英……ヒーロー科のトップ……ですよね……」

 

すると、隣に立つ女子がにっこりと笑って答えた。

 

「彼はノミの天喰環! で、私が波動ねじれ。今日はインターンについて皆にお話しに来ました。けどさぁ、ねぇねぇ君、そのマスクはどうして?風邪?それともオシャレ?」

 

「これは昔に……」

 

彼が言いかけたところで、波動はすぐさま次の的を見つける。

 

「あら、あなた轟くんでしょ!?ね!?その火傷、どうしてそんなところに!?」

 

「これは……」

 

質問攻めにあう轟。教室の空気が一気に賑やかになる一方で、峰田だけが別の意味で盛り上がっているのが分かる。

 

「合理性に欠くね……」

 

相澤が頭を押さえるが、最後の一人が勢いよく手を挙げた。

 

「イレイザーヘッド、安心してくれ!大トリは俺なんだよね!前途!?」

 

(この人も……クセが強そうですわ)

 

時崎は冷静に観察していた。

 

「多難――っつってね!よぉし、掴みは大失敗だ!」

 

教室に困惑の声が広がる中、その男はにやりと笑って続けた。

 

「そうだねぇ……スベリ倒しちまったし……じゃあ、君たちまとめて俺と戦ってみようよ!」

 

突拍子もない挑発に、教室の空気が一変した。

時崎はただ静かに息を吐き、これからの展開を見据えていた。

 

 

体育着に着替えたA組の面々は、ぞろぞろと体育館γへ移動した。そこに立つのは通形ミリオ。先輩であり、ビッグ3の一人である。

 

「あの……マジすか」

「マジだよね!」

 

クラスのざわめきをよそに、遠くから天喰先輩の声が響いた。

 

「……ミリオ、やめた方がいい。形式的に『こういう具合でとても有意義です』と語るだけで充分だ。皆が皆、上昇志向に満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

続けて、波動ねじれが明るい声で重ねる。

 

「あ、聞いて!知ってる? 昔、挫折しちゃってヒーロー諦めて問題起こしちゃった子がいたんだよ!大変だよねぇ!通形、ちゃんと考えないと辛いよ!これは辛いよー!」

 

時崎はその様子を見て、冷ややかに思う。 

 

(舐められていますわね……)

 

そんな中、切島が拳を握って声を張った。

 

「そんな心配されるほど、俺らザコに見えますか……?」

 

その言葉に呼応するように、A組の視線が鋭さを帯びる。曲がりなりにも数々の修羅場を乗り越えてきた自負は、彼らに確かな自信を与えていた。

 

「うん、いいね!いつどっからでも来ていいよ!一番手は誰だ!?」

 

「僕……行きます!」

 

声を上げたのは緑谷。

 

「意外な緑谷!」

 

「問題児!いいね君、やっぱり元気あるなあ!」

 

そして次の瞬間、通形の服がすっと脱げ落ちた。思わず女子から叫び声に悲鳴が木霊する

 

「失礼!!?調整が難しくてね……!!」

 

(透過する“個性”……?)

 

大慌てでジャージのズボンを履き直している通形。時崎は一瞬の違和感に眉を寄せた。その隙を突くように緑谷が蹴りを繰り出す。しかし、確かな手応えはなく、攻撃は通形の身体をすり抜けた。

 

(遠距離なら……)

 

時崎は銃を構え、引き金を引いた。他の遠距離向きのクラスメイトが攻撃する。だが銃弾も他の個性も、また煙と共に虚しくすり抜け、視界から通形の姿が掻き消える。

 

(このパターンは大抵……)

 

「まずは遠距離持ちだよね!」

 

その声が背後から聞こえた。振り返るより早く、地面から通形が躍り出る。

 

「やはり、そうきますわね!」

 

時崎は即座にノールックで引き金を引いたが、やはり空を撃つだけだった。背後から迫る気配。とっさに彼女はバク宙で距離を稼ぎ、反転しながら銃弾を撃ち込む。

 

しかし、通形の身体は揺らぎ、攻撃はまたも虚空を貫く。

 

通形がすかさず追撃に動く。だが――

 

「【一の弾(アレフ)】!」

 

時崎は自らの頭に弾丸を撃ち込んだ。瞬間、身体が爆発的な加速を得て、通形の一撃を紙一重で回避する。

 

風を切るように舞い退いた時崎。その鋭い眼差しは、すり抜ける相手を捉え続けていた。

 

 

「やっぱり、君はそう簡単に倒せる相手じゃないね」

 

 

そんな中、相澤先生がいった。

 

「お前ら良い機会だ、しっかり揉んでもらえ、その人...通形ミリオは俺の知る限り、プロも含めて最もNo. 1に近い男だぞ」

 

 

通形はそう言うと、標的を変えた。瞬間、彼の姿が沈み込み、すぐに遠距離の個性使いの背後に現れる。気づいた時には、鋼のような拳が腹にめり込んでいた。衝撃音と同時に、その生徒は崩れ落ちる。

 

 

「POWERRRRRRRR!!」

 

残された面々が愕然とする中、通形は楽しげに言った。

 

「あとは、あの子と近接主体ばかりだよね」

 

「何したのかさっぱりわかんねえ!」

 

切島が叫んだ。

 

「すり抜けるだけでも強ぇのに、ワープとか……それってもう……無敵じゃないすか!」

 

「よせやい!」

 

通形はそう言って緑谷達に近づく。

 

緑谷だけが冷静に声を上げる。

 

「必ずからくりがあるはず!あれだけの移動をしてるなら……カウンターを狙うしかない!」

 

その直後、通形の身体が再び沈み、気づけば緑谷の背後に回り込み、強烈な拳を繰り出していた。だが緑谷はそれを察知し後ろ蹴りで迎撃を試みる。

 

「っ……!」

 

しかし、通形の指先が眼球に触れる錯覚を与える。

 

「必死!ブラインドタッチ目潰し!」

 

緑谷の視界は真っ白にかき乱され、その隙にみぞおちへと鋭い拳が突き刺さった。緑谷は呻き声を上げて崩れる。

 

(……やはり攻撃する瞬間、必ず個性を一度解消していますわね。つまり、個性そのものには攻撃力が無い……)

 

時崎は鋭く観察し、攻撃をよけながら弾を選ぶ。周囲では、次々に仲間が倒されていく音が響いていた。

 

「《刻々帝》——【五の弾(へー)】」

 

銃口を自らに向けて引き金を引く。淡い光が彼の身体を包み、通形の拳が迫る直前、その軌跡からわずかに身をずらす。

 

(ここからが本番ですわね)

 

時崎の目に、僅かな闘志が宿る。

 

 

 

 

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