「さあ、後は君だけだよ、後輩君!!」
通形の声は、いつもの明るさを帯びていた。しかし、その瞳の奥には闘志と集中の炎が宿っている。
「勝負はまだ終わってませんわ、通形さん?」
時崎は余裕を崩さぬ笑みを浮かべ、挑発するように言葉を返す。彼女の身体は舞うように動き、通形の拳や蹴りを紙一重で回避していく。
その動きに呼応するかのように、影から現れる分身たちが彼女を援護し、赤黒い弾丸で通形を牽制した。
通形の攻撃は鋭く正確だ。だが、その拳が時崎を捉えることはなかった。
遠目から見ていた天喰は、驚愕を隠せないでいた。
(どうしてだ、ミリオの攻撃が当たらない……?)
一方で、時崎の分身たちは確実に彼の身体に触れ、赤い線を刻んでいく。まるで時間の枷を打ち込むかのように。
通形ミリオの個性は確かに無敵に近い個性だ。しかし、それを最大限に活かすには、発動中の完全無感覚状態を乗り越えねばならない。音も、呼吸すらも失われる虚無の中で、彼は長年の鍛錬とインターンでの経験によって周囲を把握し、瞬時に最善の行動を選ぶ技術を身につけた。
未来を「予測」する力。それが通形をBIG3たらしめた要素のひとつだった。
だが――
時崎は異なる領域に立っていた。
未来を「予測」する通形ミリオ
未来を「観る」時崎狂三
両者の差は、一見すればわずかな反応速度や判断力の違いに過ぎないように見える。だが、実際には決して埋まらない差がある。
通形の戦闘は、常に経験と勘に裏打ちされた「予測」に依存している。相手の癖、筋肉の動き、呼吸のリズム――そうした要素を積み上げ、一瞬先を読む。
それは人間が到達できる極限の技術であり、だからこそ彼は「無敵」と呼ばれるまでに成長した。
だが時崎の力は、因果そのものを射抜き、時間の流れの先を直接覗き込むものだ。
「起こり得る可能性」ではなく、「これから必ず起こる事実」を目の前に提示する。
予測と確定、仮説と真実。
この二つの間には、いくら鍛錬を積んでも超えられない壁がある。通形がどれほど努力を重ねても、「未来を観る」力を得ることはできない。
「ふふ……どうなさいますの?通形さん」
時崎の微笑みが、じわりと通形の胸に重くのしかかっていった。
己の努力を否定されるわけではない。だが、その努力をも超えてなお届かない壁が、そこに在る。
「そろそろ決めるんだよね」
通形ミリオがにやりと笑い、地面に沈む。視界から姿を消し、再び死角を突く狩人のように動く。時崎はある策の為に分身達に戻れと命令させた。
(あの人は……ほぼ同じパターンで皆さんを倒した。なら)
時崎は呼吸を整え、背後に出現する気配を待った。次の瞬間、地面を抜け出した通形の影が背後に立つ。彼女は反射的に、緑谷が放ったのと同じ後ろ蹴りを繰り出した。
「それはもう知ってるんだよね!」
通形は余裕を崩さない。半ばおどけたように叫ぶと、
「必殺‼︎ブラインドタッチ目潰し‼︎」
と声を上げ、時崎の右脚をすり抜け、左腕を透過させる。視界に直接侵入する異様な感覚が、目潰しを受けたかのように狂三の視覚を奪う。
すかさず、彼は姿勢を変え、みぞおちめがけて鋭い右拳を叩き込む――はずだった。
しかし、その拳は時崎の腹に届かない。
「....!」
通形の目がわずかに揺れる。彼の拳を受け止めていたのは、時崎自身の左腕だった。骨は衝撃に耐えきれず、鈍い音と共にひび割れ、確実に折れた。だが彼女は顔色一つ変えない。
(……《トールギス》を扱いこなす際に、もう経験してますのよ。あのじゃじゃ馬には、慣れるために何度も骨を折らされましたわ)
皮肉にも、その経験が彼女を支えていた。
「ここですわね」
時崎の右手が閃く。そこには【
「くっ……!」
空中で態勢を整えようとする通形。だが、その眼前に赤黒い銃口が迫る。落下中の時崎が額を狙い、もう一発を撃ち込む。しかし弾丸は透過され、空を切った。通形は再び攻撃に移ろうと、前のめりに動く。
その一瞬、時崎の口元が歪む。笑みとも嘲りともつかぬ、不敵な表情。
「通形さん、あなたの敗因は......同じパターンで皆さんを倒したことですわ」
通形が気づいたときには遅かった。空中にいる自分の背後に、もう一人の時崎がいたのだ。分身。だが、決定的に違う点があった。
それは、
「ドーバーガン!!」
右脚の内部スプリングを解除し跳躍力が推進力に変換され、轟音が鳴り響く。高速で振り抜かれた
轟音と共に粉塵が舞い、体育館の床を揺るがした。
床を割るような轟音と共に、最初に地面へと叩きつけられたのは通形だった。コンマ秒遅れて、彼を追うように時崎の体も背中から床に落下する。
「ぐっ……!」
肺を突かれる痛みに呻きながらも、時崎はすぐさま立ち上がり、短銃を構えて自らの頭へ【
その様子に周囲の生徒たちは言葉を失った。観戦していた相澤先生も、目を細めながら微かに驚きの色を浮かべる。そして、最も目を見開いていたのは同じBIG3の二人だった。
「ねぇねぇ天喰‼︎ミリオがあんな派手に吹き飛ばされるなんて、本当に久しぶりだよね!!」
波動が興奮気味に声を上げる。
天喰は信じられないものを見るように呟いた。
「……あのミリオを……1年生の子が蹴り飛ばすなんて、個性は強いと聞いてはいたけど……」
吹き飛ばされていた通形も、ゆっくりと体を起こした。顔は汗に濡れ、荒く息を吐いている。
(やはり……BIG3は伊達ではありませんわね)
時崎の心中に、冷ややかな笑みと同時に、確かな畏敬が生まれていた。
「ゴホッ……ガハッ……」
通形は喉を焼くように咳き込みながらも、無理やり言葉を絞り出す。
「久しぶり……だよね……こんな鋭く、速く、重い蹴りを受けたのは……!!」
時崎も通形が再び立ち上がり、決着をつけようと構えたが、その瞬間。
「そこまでだ。これ以上は時間をかけてられん」
冷静な声とともに、相澤先生が割って入り、戦いは強制的に幕を下ろされた。
通形は乱れた服を整え、ズボンを履き直しながらも呼吸を整えると、気まずそうに笑いながら言った。
「ギリギリ見えないよう努めたけど!すみませんね、女性陣!」
ようやく服をきちんと着た姿で、彼は改めて場を仕切り直す。
「とまァ、こんな感じなんだよね!」
その明るい声の裏で、クラスのみんなは腹を押さえながら呻いた。
「わけもわからず腹パンされただけなんですが……」
ギリギリで直撃を避けたのは時崎一人。実際には骨折という重症だったが。しかし他のクラスメイトは、容赦ない拳を腹部に叩き込まれていた。
「俺の個性、強かった?」
通形が軽い調子で問いかけると、A組の面々から一斉に声が上がった。
「強すぎる!」
「ちょっとは私のこと考えてよ!」
「すり抜けとワープのハイブリッドか……!?」
苦情とも驚愕とも取れる言葉が矢継ぎ早に投げかけられる。だが、返ってきたのは予想外にあっけらかんとした答えだった。
「いや、一つ。“透過”なんだよね!君たちが“ワープ”だと思ったあの移動は、推察された通りその応用さ!」
そう言って彼は笑みを浮かべ、説明を続けた。
「インターンにおいて俺たちは“お客”じゃなくて、一人のサイドキック、つまりプロとして扱われるんだよね!それはとても恐ろしいことだよ。時には、人の死に立ち会うことだってある……!けれど、怖い思いも辛い思いも、全部が学校じゃ絶対に手に入らない、一線級の経験なんだ!」
真剣な眼差しで、彼は一年生を見渡した。
「俺はインターンで得た経験を力に変えて、トップを掴んだ! だからこそ……怖くても、やるべきだと思うよ。一年生!」
言いながらも、彼の足取りは分かりやすくふらついていた。
「ぶっちゃけ……立ってるのも、結構辛いんだよね……」
場は静寂に包まれた。通形の説明が、確かな重みを持って心に刻まれるようだった。
突然ではありますが、テストが近いので今日で更新を一旦終了します。1〜2週間後に再開しようと思っています。
くるみんの怪我の具合がOPのウイングガンダムに似てるなって書いて思いました。(本当に偶然)
左腕は骨折、顔はミリオのブラインド目潰しで見えない。最後は落下中に一発上に向けて撃つ。.....もっともミリオを倒したのはOPでウイングをボッコボコにした