わたくしのヒーローアカデミアですわ   作:レゾリューション

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今回少し短めです


USJ襲撃-③

上鳴、耳郎、八百万は息を呑んでいた。

 

時間を操る。

 

時崎が自ら告げたその“個性”の正体に、三人は恐怖と同時に深い納得を覚えていた。

 

雄英入学時、首席合格を果たした彼女。だが個性把握テストでの順位は9位と意外に低かった。今なら分かる、彼女の個性は、筋力や瞬発力を直接的に増すものではなく、戦略の幅を極限まで広げるものだったのだと。

 

「《刻々帝》」

 

静かに名を口にしたその瞬間、彼女の背後に影が揺らめき、闇を裂いて巨大な時計が顕現した。

 

視覚的演出などではない。見る者の心臓を鷲掴みにするほどの迫力と、抗えぬ力の象徴だった。

 

「これが……時崎さんの個性……!」

 

八百万の声は震えを隠せなかった。

 

狂三は微笑みながら短銃を掲げた。その銃口に、時計の『Ⅳ』の文字盤から黒き影が吸い込まれていく。

 

「【四の弾(ダレット)】」

 

淡々と告げると、彼女はためらいなく自らの顎下に銃口を当て引き金を引いた。

 

「なっ……!」

 

ヴィラン達が凍り付く。

 

銃声が響く。普通なら即死行為。しかし時崎が頭から血を流すことはなく、むしろ地面に落ちていたはずの右腕の一部が素早く彼女の腕に戻っていく。

 

「……ありえねぇ……腕が……治ってやがる!」

 

ヴィランの一人が悲鳴を上げた。

 

「どういうことだ!」

 

時崎は優雅に微笑み、淡々と告げる。

 

「ふふ、大したことではございませんわ。ただ時間を少し、戻しただけですの」

 

その声音は、まるでティーカップを手にした淑女が雑談でもするかのように穏やかだった。だがその光景は、彼女の存在が超常社会の中でも枠を超えていることを示していた。

 

 

影が晴れ復活した右腕を軽く振り、時崎は再び戦場を駆けた。その姿はまさに縦横無尽。

 

「《刻々帝》ーー【一の弾(アレフ)】」

 

銃口から放たれた黒き弾丸が彼女の身体を加速させる。次の瞬間、視認すら困難な速さで敵の背後に回り込み、躊躇なく引き金を引いた。

 

乾いた銃声と共にヴィランが一人、また一人と崩れ落ちていく。

 

時崎の跳躍はしなやかで、まるで舞う蝶のようだった。空中で身体をくるりと上下反転させ、その優雅な動きのまま精密な射撃を重ねる。

 

放たれた弾丸は寸分の狂いもなく急所を撃ち抜き、敵を次々と沈黙させていき時崎は軽やかに地へと着地した。

 

やがて、ヴィランの一人が高速で駆け出した。残像を残すほどの速度。常人なら追い切ることもできないだろう。

 

しかし、狂三の唇が愉悦に歪む。

 

「《刻々帝》――【五の弾(ヘー)】」

 

時計の『Ⅴ』の文字盤から吸い込まれる闇が銃弾へと宿り、放たれた。その瞬間、彼女が見たのは“未来”。逃げ道も、動きも、すべてが読み切られていた。

 

「そこですわ」

 

狂三はゆっくりと身体を回転させ、何事もなかったかのように敵の進路の“後ろ”に銃口を向ける。次の刹那、銃声が響き、疾走していたヴィランの額に弾丸が突き刺さった。

 

「な、何故....」

 

速度の余韻だけを残して敵の身体が前のめりに倒れる。

 

赤と黒いドレスの裾を優雅に整えた。

 

「ふふ……あなたの未来を見せていただきましたわ。残念ながら、その未来は敗北でしたけれど」

 

 

 

ヴィランたちの顔に走ったのは困惑と恐怖だった。倒したはずの腕を持つ少女が、まるで舞踏会の主役のように優雅な仕草で銃を撃っている。

 

「馬鹿な……ただの小娘だと思ってたのに……!」

 

彼らのざわめきが広がるのをよそに、狂三はゆっくりと一歩前へ踏み出した。その足取りは軽やかで、戦場にいるとは思えないほどに静謐だった。

 

「どうなさいました?先ほどまでの威勢はどこへ行かれたのでしょう?」

 

冷ややかな微笑みと共に投げかけられた言葉は、鋭い刃となってヴィランたちの心を斬りつける。

 

銃口が再び持ち上がる。彼女が告げるのは次なる“刻”。

 

「【八の弾(ヘット)】」

 

時計の『Ⅷ』の文字盤から黒き影が弾丸に吸い込まれた。引き金を引き、こめかみに当てる。

 

「う、動けねぇ!?」

 

「な、なんだこれ、あのガキが……身体を縛って……!」

 

「わたくしの分身ですわ」

 

時崎の分身により後ろから取り押さえられ彼らの動きは封じられていった。そして分身達は迷わず相手の頭をに短銃を押し付ける。

 

時崎はその光景を前に、悠然と歩いていく。一人、また一人とヴィランの額に弾丸が分身によって撃ち込まれ、次々と気絶して倒れていく。

 

 

「先ほども申しましたでしょう?」

 

 

その声は甘く、しかし冷酷に響いた。

 

「人を殺すと口にするのは簡単ですわ、でも」

 

銃口が最後の一人へと向けられる。恐怖に駆られたそのヴィランは腰を抜かし、動けずに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に人を屠る覚悟がある者は、こうして最後まで舞台に立ち続けるものですの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声が鳴り響き、そのヴィランもまた、意識を闇に沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時崎は銃を消し去り、ゆったりとした所作で仲間たちに向き直った。その声音は、先ほどまで死線を踊っていた人物とは思えぬほど穏やかだった。

 

「みなさん、お怪我はございませんか?」

 

優雅な問いかけに、しかし返ってきたのは呆れ混じりの声だった。

 

「いやいやいや!それはこっちのセリフだっての!?」

 

「本当に大丈夫なの!?」

 

上鳴と耳郎が同時にツッコミを入れる。彼らの視線は、つい先ほど斬り落とされた筈なのに“戻ってきた”時崎の右腕に釘付けだった。

 

「心配には及びませんわ。完璧に動いておりますので」

 

狂三はにっこりと微笑み、実際に右腕を軽やかに回して見せた。筋肉の動きも関節の滑らかさも、まるで最初から傷一つ負っていなかったかのように自然だ。

 

だが、その様子を凝視していた八百万は、耐えきれず声を震わせた。

 

「あの、時崎さん……」

 

「八百万さん、いかがなさいましたの?」

 

狂三が振り返る。八百万の表情は強い後悔に曇っていた。

 

「わたし……あの時、油断してしまって……あなたの腕を……!」

 

八百万の声には罪悪感がにじんでいた。たとえ腕が治っていると分かっても、あの一瞬、自分の油断で仲間が傷を負ってしまったという事実が彼女を苛んでいた。

 

だが狂三は、まるでその心を優しく包むように微笑んだ。

 

「気にする必要はございませんわ。わたくしが説明をしておりませんでしたし……それに、ヒーローというものは、仲間のために傷を負う覚悟があってこそですわ」

 

淡々と、しかしその言葉には揺るぎない信念があった。八百万は一瞬言葉を失い、そして小さく唇を噛み締めた。

 

「ありがとうございます....」

 

 

 

一つの山場をこえて耳朗が地面にプラグを入れて確認する。彼女がプラグを地面から引き抜いた瞬間、安堵の息がもれた。

 

「……うん、大丈夫っぽい。地面からも心音とか聞こえてこなかった」

 

耳郎の言葉に、上鳴は肩の力を抜き、大きくため息をついた。

 

「はぁ~……取り敢えず、何とかなって良かったぜぇ」

 

戦闘が終わった後特有の緊張感が一気に解ける。しかしその横で、時崎狂三は一歩も気を緩めてはいなかった。彼女は【八の弾】から生み出した分身を操りながら自身も倒れたヴィランたちを一か所に纏めていく。

 

その姿はまるで舞台で指揮を執る指揮者のように淀みなく、整然としていた。

 

「これで全員ですわ」

 

そう告げてから、時崎は八百万に視線を向けた。

 

「八百万さん、ワイヤーをお作りにする事は可能でしょうか?」

 

問われた八百万は小さく頷く。彼女の個性は《創造》。分子構造を理解さえしていれば、生物以外であればこの世に存在するあらゆるものを生み出すことができる。

 

「ええ、可能ですわ」

 

八百万は深く息を整え、掌から次々とワイヤーを創り出す。瞬く間に無数の縄が編まれ、それらはヴィランたちを絡め取っていった。動けぬよう厳重に拘束されるその様子に、上鳴が感嘆交じりに呟く。

 

「とりあえず全員縛り終わったか?」

 

「はい、抜かりなく」

 

八百万が答えると、時崎は軽やかに一礼し、言葉を続けた。

 

「こちらの方々はここに放置しておきましょう。その上で広場へ向かいますわ。クラスの皆さんも心配ですし、それに……相澤先生も」

 

一瞬、時崎の声音が硬くなる。先生が大勢を相手に戦っていた姿が脳裏を過った。

 

「……そうだな」

 

上鳴は拳を握りしめた。

 

「広場に急ごう。先生が一人で戦ってるんなら、少しでも早く合流しねぇと」

 

耳郎も頷き、八百万は作り出したワイヤーの端を確かめると、決意を宿した目で時崎に視線を送った。

 

こうして四人は、再び戦場へと歩みを進める。

瓦礫に囲まれた静寂の中、その足音だけが響いていた。

 

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